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2020.07.09

米国の洋服レンタルサービス レント・ザ・ランウェイを大解剖

アパレルウェブ「AIR VOL.33」(2020年3月発刊)より

Written by RINA

 今年で109回目を迎える全米小売業大会が開催するカンファレンス&エキスポ「リテールズ・ザ・ビッグショー(Retail’s Big Show)」が、マンハッタンのジャビッツコンベンションセンターにて開催されました。今年は4万人以上が来場し、200以上もあるキーノートやセッションが開催され、会場も熱気で溢れかえっていました。
 

 今回はその中でも、多くの来場者が注目したレント・ザ・ランウェイ(Rent the Runway)をご紹介します。月額費用を払えば、洋服が借り放題になるサービスを米国で展開しているレント・ザ・ランウェイ。その創設者兼CEOであるジェニファー・ハイマン氏(Jennifer Hyman)はレント・ザ・ランウェイの今後についてNRFで語りました。また、記事の後半では注目を集めるレント・ザ・ランウェイが2020年1月から期間限定でスタートさせた、ノードストロームラック(Nordstrom Rack)との取り組みを体験してきたのでレポートします。

常に顧客のために正しいことをしていく姿勢を伝える

レント・ザ・ランウェイの創設者でCEOのジェニファー・ハイマン氏
photo: National Retail Federation

 ハイマン氏のNRFの話では、企業が顧客と築く関係について“新たな考え方”を持たなければならないと話していたことが印象に残っています。「イノベーションをし続ける企業として完璧なサービスを約束しない。なぜなら顧客のためにイノベーションを続ける中には失敗も当然発生してくるから。そうした環境下において重要なのは、常に顧客に対して透明性を高める事で、顧客のために正しいことをしていく姿勢を伝えていくことだ。」と言います。例えば2019年9月にブランドがバックエンドの改善作業を行った際にトラブルが発生し、顧客に迷惑をかけてしまう状況に陥りました。その際もにトラブルの状況を随時、真摯に伝えていくことで、ブランドへのエンゲージメントが逆に高まった顧客もいると話しました。

 

 また、近年ではレント・ザ・ランウェイの顧客層に変化が表れているとも話していました。ブランドの創設当初は特別なオケージョン用のドレスをメインにレンタルを行っていたこともあり、パーティーや結婚式といったイベントが多い年代である22~35歳の年代が多かったといいます。しかし、オケージョンウェアの他にも、日常的なウェア、仕事着、など取り扱う洋服の種類を増やしていった事により、現在の顧客層は約15~65歳と幅広くなっているそうです。

より特別な体験を提供するため様々な企業とパートナーシップを

レント・ザ・ランウェイとWホテルは旅行という特別な体験を更に特別にする取り組みを開始

 レント・ザ・ランウェイがオケージョン用のドレス以外の洋服の取り扱いを始めたきっかけとしてハイマン氏は「幅広い年齢の方にサービスを提供する際、特殊な職業の人に対する対応は欠かせないと思ったから」と話しました。例えば、顧客の中には、弁護士やコンサルタントの方などもいます。そのような分野は、カジュアル寄りの服装で仕事をする“ビジネスカジュアル”という概念が浸透していない分野でもあります。そうした人たちはスーツもしくは、スーツに見える格好をしなければなりません。顧客のターゲット層を広げる際、こうした顧客の事情や心理をキャッチすることができたので、より幅広い層の人達にサービスを使ってもらえているとのことでした。

 

 最後にハイマン氏は他ブランドや業種とのパートナーシップを強化していく旨の発言をしています。実際に2019年12月からWホテルと独占パートナーシップを組み、滞在者向けのサービスを一部のWホテルで開始しました。サービスとしては、ホテル滞在者は、料金の69ドルを支払う事でレント・ザ・ランウェイのアンリミテッドクローゼットの中から、ホテルに宿泊する前に4着セレクトする事が可能になり、それらのウェアは滞在者がチェックインする際に用意されています。また、返却の際もチェックアウトの時、コンシェルジュに渡すだけというサービスです。旅行やホテルの宿泊という顧客にとって特別な日常をさらに特別な体験にするべく、Wホテルとレント・ザ・ランウェイは新たな取り組みを始めました。
 

  レント・ザ・ランウェイはこの他にも、他の企業とタッグを組むことで新たな取り組みをスタートさせています。例えば、米国の百貨店であるノードストローム(Nordstrom)との取り組みでは、一部のノードストロームの店舗で顧客がレンタルしたウェアの返却を受け付けるサービスを行い、その数は現在約30箇所と言われています。さらに、2020年1月からはノードストロームのアウトレットストアである“ノードストロームラック(Nordstrom Rack)”の一部の店舗にてレント・ザ・ランウェイが扱うウェアの販売を期間限定で開始しています。実際にレント・ザ・ランウェイのウェアを取り扱う、マンハッタンのユニオンスクエア店へ足を運んでみました。ユニオンスクエア店ではエスカレーターを降りた正面のスペースに売り場が設置されていました。私が訪れた時には3つのラックが用意され、一人、二人と真剣に何か掘り出し物はないかと探す女性を見かけました。

2次流通企業とリテーラーの取り組みは今後も加速する

マンハッタンのユニオンスクエアにあるノードストロームラック

レント・ザ・ランウェイの商品も販売されている

 私が試着をしてみたのはタンヤテイラー(Tanya Taylor)のブラウスと、レベッカミンコフ(REBECCA MINKOFF)のヴィンテージ風スウェット。どちらもサイズ的にも問題なく好みのスタイルであれば購入の検討の余地ありというのが感想でした。こうした、リセールやレンタルをサービスとする企業とリテーラーのパートナーシップは、ノードストロームとレント・ザ・ランウェイだけではありません。2019年の8月にはメイシーズ(Macy’s)が世界最大のリセールブランドのスレッドアップ(ThredUP)とパートナーを組み、一部店舗で商品を販売しています。(販売される商品はメイシーズで取り扱いのないブランドに限定されています)

 

 この様に今までは中々実現しなかったパートナーシップや、垣根を超えたサービスが今、米国では行われています。また、NRFでハイマン氏が「パートナーシップを強化していく」と語っていたように、この流れは加速していくと感じています。特にユーザーの中でも利用することが当たり前になっている2次流通をサービスとして提供する企業と百貨店などのリテーラ―のパートナーシップは、ファッション業界を牽引する一つのトレンドになる予感がします。

このコンテンツは弊社の会員誌「アパレルウェブイノベーションレポート」の33号から転載しております。

 

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