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2020.06.25

様々な形で実現されていた世界のクリック&コレクト事情

アパレルウェブ「AIR VOL.31」(2020年1月発刊)より

 ECサイトで注文した商品をリアル店舗や宅配ボックス、コンビニエンスストアなど自宅以外で受け取る行動や概念を指す“クリック&コレクト”。皆さんも利用したことがあるのではないでしょうか。ユーザーがオンラインとオフラインを行き来することが当たり前となっているからこそ生まれたクリック&コレクトですが、グローバルに目を向けると、さらにユーザーの利便性を高める形で進化を遂げています。今回のグローバル特集では、中国、米国、欧州におけるクリック&コレクトの最新事例や状況を紹介します。

中国では社会インフラとして成り立っている

JD.COMの配送マップでは学校、役所などでも受け取りできる

 中国では2016年にユニクロが店舗受け取りサービスについてアンケートを実施しました。80%以上の人がサービスを導入して欲しいと返答しました。この結果を踏まえて、ユニクロは同年の「独身の日」にEC(Tモール)で注文した商品を全店舗(2016年当時約400店舗)で受け取れる様にしまた。その結果、Tモールのユニクロ商品は10時間で完売し、店舗では長蛇の列ができたことで、当時話題になりました。

 

 もう1つの事例はJD.comを運営する京東集団の取り組みです。JD.comでは注文した商品を京東集団が運営するスーパーや無人ロッカーで受け取ることができます。ここまでは他のサービスと大きく変わりませんが、ECで店舗受け取りを選択する場合、登録されている会員情報を参照して、利用者の自宅から距離が近い受け取り場所をECが教えてくれます。購入者は受け取り場所を探す必要がないのです。ま た、JD.comでは注文した商品を学校、公民館、図書館、役所などの場所でも受け取ることが可能です。つまり行政機関や地方自治体など、国と提携して、サービスを充実させているのです。このように中国ではクリック&コレクトが一般的な文化となっており、そのニーズに応える形で技術やサービスが発展しています。そして最後には国も参加する形で取り組みが進んでいます。中国でのクリック&コレクトは社会のインフラとしても成り立っているのです。

オムニチャネル戦略の重要な柱それが“クリック&コレクト”

クリック&コレクトの拠点リスト
出所:ウォルマート techcrunch (2019年4月9日)アマゾンウェブサイト
メーシーズ HFNdigital(2018年4月5日)他はアニュアルレポート

 続いて、米国の状況を見てみましょう。米国ではBOPIS(ボピス、Buy Online Pick-up In Store)とも呼ばれているクリック&コレクトですが、チェーンストアが店舗資産を活用しながらECと店舗の両方の売上を上げていくオムニチャネル戦略の重要な柱として、普及しています。返品率が比較的高い米国では、返品を受け付ける場としても店舗を活用、これにより商品回収日数が短くなり、在庫回転率があがる、というメリットも生まれています。

 

 また、モバイルアプリを活用して、クリック&コレクトをはじめとしたオムニチャネル戦略を推進する流れもあります。たとえば、メーシーズではモバイルでバーコードを読み取れば、商品情報や在庫情報が確認できます。この機能は今や多くの大手チェーンストアが提供しています。手持ちの品と似たような商品が欲しい、というニーズには、ビジュアル検索ができ、似た商品を推奨するアプリもあります。さらに、コールズやメーシーズではモバイルウォレットを提供しており、ストアクレジットカード、ロイヤリティプログラムの情報を一元管理できます。その結果、レジで自分が獲得したクーポンやポイントを簡単に使うことができます。ナイキのアプリにはマンハッタン五番街店だけで使える機能があり、入店と同時に試着の予約やセルフチェックアウトができます。一時期 流行ったショールーミングですが、現在でも店舗に商品を確かめに行って、オンラインで購入する傾向は変わりません。ただし、ここをアマゾンなどの競合他社に取られないためには、価格だけでなく、店内で使うモバイルアプリが重要になってくるのです。店頭に在庫が無くてもモバイル購入できればその場で購入してもらえます。ロイヤリティプログラム会員だと、この傾向はさらに高まるでしょう。

米国では電子ロッカーなど様々な形でサービスを展開中

ノードストローム・ニューヨーク旗艦店地下1階にある「エクスプレス・サービス」カウンター

 米国ではクリック&コレクトで商品を引き渡すピックアップカウンターは、多くの場所で客の利便性向上のため1階メイン出入口近くに設置していますが、店舗を回遊してもらうために上層階や店舗奥に設置するケースもあります。ユーザーはオンラインオーダーのピックアップ準備ができたというテキストメッセージやメールの通知をモバイルで見せて受けとっていきます。ノードストロームでは、ピックアップカウンターに試着室を設け、衣料品の場合、その場での試着を促します。

 

 返品の場合の回収スピードを上げ、返品送料を最小化するためです。またアマゾンロッカーに学び、メーシーズでは人件費が節約できる電子ロッカーをテスト中です。ナイキはロサンゼルスとニューヨーク旗艦店でナイキプラス会員を対象に、電子ロッカーピックアップと店内試着予約を提供しています。アマゾンはホールフーズマーケット買 収後、アマゾンゴー、アマゾン4スターなど実店舗開発に力を入れる一方で、昨年夏からファーマシーチェーン、ライトエイドと提携し、同社 1,500 店舗でのクリック&コレクト「カウンター」サービスを導入し、実店舗での接点を増やしています。今後アマゾンゴーを 3,000 店舗に拡大する計画もあり、自営・提携に関わらず店舗ピックアップを拡充すると見られています。

経営改善のカギとしてクリック&コレクトを推進する米国企業

[図表1]主要小売企業の当期利益率と売上高既存比の推移

 アメリカの小売業界ではクリック&コレクト導入を経営改善のカギとして推進していますが、投資の結果はどうなのでしょうか?[図表1]はオムニチャネル戦略の優等生として名を連ねる代表的企業の過去5年間の当期利益率と売上高既存比の推移を示しています。これによると、ウォルマートは既存比が改善しているのに当期利益率が下がっています。残り3社は両指標がいったん下がってまた上昇、という傾向を基本的には見せています。もちろん、売上や当期利益はクリック&コレクトやオムニチャネル施策以外の様々な要因で上下しますが、大局的にはアパレル販売大手では、一時期の店舗削減の嵐が落ち着き、売上・利益共に改善する傾向が見られる、と言えるのではないでしょうか。

 

 

 また、クリック&コレクトなどのオムニチャネル施策を推し進めることはEC、店舗問わず企業全体の売上を増加させます。たとえば、モバイルと店舗でお客様を囲い込んだ結果、店舗とモバイル両方で購入する客はメーシーズの場合、1販路のみの顧客の累積購入金額より約5倍大きくなると言われています。ノードストロームでは1販路でしか買物しない顧客(Single)の来店回数と購入金額を基準とした場合、百貨店とオンライン、もしくは百貨店とアウトレットなどのようにマルチチャネルで購入する人は来店回数3倍、購入金額4倍になる、販路が増えるたびさら に増加するという結果が出ています。

 

 ちなみにウォルマートはクリック&コレクト以外にもアマゾンゴー的なAI店舗や無人自動車配送など膨大なAI投資の影響で増収減益傾向が続き株主からの批判の対象ともなっていますが、衣料品販売を主とする百貨店や専門店のオムニチャネル投資はITシステムと店舗サービスカウンター整備に限定されますので、インフラ整備をし、ECと店舗売上の両方を伸ばせば増収増益につながりやすいと言えるでしょう。その重要な戦略の1つがクリック&コレクトなのです。

欧州では配達版Airbnbが試験運用利用者からは高評価

自宅にて荷物の受け渡しや預かりの窓口を引き受ける家庭の様子

 最後に欧州の“クリック&コレクト”事情をご紹介します。AIR29号でも少し取り上げましたが、英国では年間約2億2,800万ポンドが受け取りされずにキャンセルとなっていると言われています。一方でECを利用する人の70%以上が月に2回以上店舗受け取りを利用しているというデータもあります。つまり需要としては確実にあるのですが、直前でサービスをキャンセルする人が多いという問題を抱えています。この問題に対して、ファッションECサイトを運営するザランド(Zalando)は 試験的にではありますが、新しい取り組みとして「プライベートデリバリーパイロット」をスタートさせました。返品商品の場所や窓口を一般家庭の家も含めるというものです。自宅にて荷物の受け渡しや預かりの窓口を引き受ける家庭には、取り扱い個数によってインセンティブが支払われる仕組みです。

 

 デンマークのオーフスとコペンハーゲンで行ったところ、利用者からは高評価を得ました。具体的には利用者の95%が「優れたサービス」であると評価しており、72%が「また使 いたい」と回答しています。実際に試験運用をしていくと「田舎のお店は営業時間が短いため、時間内に間に合わない場合も多い。一般家庭での引き取りの方が時間の優遇が効くので助かる。」など当初想定していなかった新しい発見もありました。こうした評価や発見を受けて、今後ザランドは「プライベートデリバリーパイロット」を正式にローンチする可能性が高いとも言われています。最近は日本でもAirbnbやUber Eatsなどのシェアリングサービスが台頭していますが、英国をはじめとした欧州ではクリック&コレクトにもシェアリングの概念や仕組みを取り込むことで、お客様によりよいサービスを提供しようという動きがみられます。

日本でもクリック&コレクトの体制は整いつつある

ecboの店舗受け取りサービス「ecbo pickup

 ここまでは、中国、米国、欧州におけるクリック&コレクトの状況を見てきました。では日本はどうなのでしょうか。利用者目線で考えると、細かな時間帯の指定や迅速な再配達をサービスとして標準装備している日本では、わざわざ自宅以外の場所まで商品を取りに行く、クリック&コレクトの文化はこれまで求められていなかったかもしれません。しかし、ECでの購買が急激に増加している今、物流量がすでに、物流業界の処理能力を上回っている事態となっています。特に「届先の不在による再配達問題」や「ドライバーを始めとした人手不足」は日本の物流業界において深刻な問題となっています。こうした物流問題はECを運営する各社も無視できないのではないでしょうか。

 

 

 今回特集した“クリック&コレクト”は「受け取り手が高い確率で存在するため、再配達の量が減少する」といったメリットもあるため、物流問題解決の手助けにもなります。日本でも 「シェアリング」という概念に注目して、クリック&コレクトを促進させようという動きが出てきています。例えば、ecbo株式会社のサービスである「ecbo pickup」。EC注文ユーザーが同サービスに加盟している美容室やカフェで荷物の受け取りができるサービスです。現在同社はアマゾンジャパンと提携しており、アマゾンで購買した商品を「ecbo pickup」の加盟店に設置されている「アマゾン ハブ」カウンターで商品を受け取ることが可能です。また、Packcity Japan株式会社は宅配便ロッカーを駅やスーパー、コンビニ、ドラッグストア、駐車場、公共施設などに設置しています。様々な場所に設置しているので、誰でも24時間都合のよいタイミ ングで商品を受け取ることができ、さらには商品を送ることができるサービスです。この「ecbo」「Packcity Japan」はユーザーにとって便利なサービスになっているだけではなく、物流負荷を軽減する役割もはたしています。

 

 今回は各国のクリック&コレクト事情を紹介しましたが、クリック&コレクトを促進させることは、ユーザーの利便性向上はもちろん、手法次第では物流問題解決の糸口にもなります。ユーザーと社会に好影響を与えるクリック&コレクト、2020年以降ますます注目して、取り入れていくべき考え方ではないでしょうか。

このコンテンツは弊社の会員誌「アパレルウェブイノベーションレポート」の31号から転載しております。

 

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