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2019.05.13
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.57】2019-20年秋冬パリ&ミラノコレクション
宮田理江のランウェイ解読 Vol.57
2019-20年秋冬シーズンのパリ、ミラノコレクションでは、上流階級のムードや正統派の古典的エレガンスを押し出す傾向が強まった。かつての「BCBG(パリの上流階級風)」を大人っぽく読み替えたような提案が目立つ。テーラードを重んじる流れが続き、ジャケットやセットアップの選択肢が広がった。ストリート気分が後退する一方、ブルジョワデコラティブやダークロマンティックのテイストが勢いづき、全体に華やぎやレディー感が高まっている。
パリコレクション
◆セリーヌ(CELINE)
気品とゴージャス感を兼ね備えたブルジョワテイストをリードしたのは、「セリーヌ(CELINE)」。良家育ちのグッドガール風に、適度なロックテイストをミックスしている。たとえば、ボウタイ・ブラウスの上からはグリッタージャケットをオン。クラシックなキュロットも復活させた。デニムはサイハイブーツにイン。次のトレンドピースになりそうなマント風の羽織り物でボディをくるんだ。ビクトリアンなフリルブラウスや、スカーフ、ロングブーツなどで、レディー感を演出。古風な正統派の着姿にまとめすぎないで、マニッシュ、テーラード、ボヘミアンなどとのミックスで、装いのムードを深くしていた。
◆ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)
ダークロマンティックのムードが濃くなった。ガーリー風味とクチュール仕立てを交差。渋めの色で甘さを封じ込め、大人グラマラスのたたずまいに。「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」はラッフルをたくさんあしらって、フェミニン感を高めた。肩周りを目立たせるアレンジが広がったのも、来季の傾向。ウエストシェイプを施したジャケットで肩を強調する工夫が増えた。アイキャッチーな柄を組み合わせて、黒系の装いに華やぎや勢いを乗せているのも、程よく主張を強める来季の傾向を示す。ミニ丈ボトムスが元気でアクティブな気分を引き出す。太いベルトでのウエストマークもめりはりを印象づけている。
◆ディオール(Dior)
クラシックな着姿をモダンにリバイバルする動きが盛り上がった。ウエストをぎゅっと絞るコルセットは、シルエットの起伏を強調するキーピースとして提案が相次いだ。「ディオール(Dior)」はざっくりニットトップスの上からコルセット風の極太ベルトでウエストマーク。きれいなくびれシェイプを描き出した。コルセットやビスチェはあえて最も外側から巻くのが今の流儀だ。チェック柄に代表される、伝統的なモチーフで、品格やオーソドックス感を醸し出しつつ、プリーツやシフォン素材、フリンジなどでグランジやボヘミアンを薫らせている。アニマル柄もスパイスに使って、レディーライクなウエアを若々しくリフレッシュさせた。
◆ジバンシィ(GIVENCHY)
肩とウエストにインパクトを与えるのは、シルエットの面で19-20年秋冬の際立った特徴だ。ショルダーラインが湾曲していて、袖山が盛り上がった「コンケープドショルダー」も復活している。1980~90年代を思わせるパワーショルダーは、「強い女性」のイメージを漂わせる。「ジバンシィ(GIVENCHY)」はスーツにもコートにもコンケープドショルダーを生かして、フォルムの立体感を強めた。ジャケットの上から、細いベルトでウエストをギュッと締めるアレンジも、シルエットにリズムを呼び込んだ。テーラード重視の流れを追い風に、スーツ(セットアップ)が見直される中、マスキュリンで端正な装いでクチュール感を盛り上げている。
ミラノコレクション
◆プラダ(PRADA)
ロマンチックな雰囲気や、丁寧なテーラーリングと、別のムードを引き合わせるアプローチが装いの奥行きを深くした。たとえば、ミリタリー、ゴシック、ダークファンタジーとのクロスオーバーだ。「プラダ(PRADA)」は黒を使ったミステリアスなウエアの足元に、兵士が履くコンバットブーツを迎え、不穏な気配を呼び込んだ。たおやかなドレスには、不気味なフランケンシュタインを、ファニーな絵柄であしらい、ロマンチック服をエスプリで彩っている。花柄、レースなどのフェミニン演出と、ボマージャケット、サファリルックといったマニッシュアイテムを融け合わせ、一筋縄ではいかない女性像を立ちのぼらせていた。
◆フェンディ(FENDI)
職人技の仕立てが大きなムーブメントに育ってきた。英国紳士服風のテーラードを打ち出すブランドが相次ぐ中、「フェンディ(FENDI)」はイタリアの伝統的な服飾文化を証明してみせた。ファーストルックからダブルブレストの本格ジャケットを披露。特大のボウタイ(蝶ネクタイ)を添えて、朗らかな風情に。ミニスカートで合わせて、ブルジョワガールの気分をまとわせている。お得意のレザーはしなやかなコートに仕立てて、リュクスを薫らせた。ほんのりシアーなシャツとスカートで女っぽさを演出。装いのアクセントとしてポケットを打ち出す試みが相次ぐ中、ジャケットのポケット周りだけを切り出したかのようなデザインを施したベルトも目を惹いた。
◆グッチ(GUCCI)
ジェンダーレスの流れが衰えを見せない。メンズとウィメンズ両方のモデルが登場する「グッチ(GUCCI)」のショーでは、どれがウィメンズか、即座には見分けがつかないほどだ。ショルダーライン強調、テーラーリング重視などのトレンドがメンズとの境目をますますあいまいにしている。パンツの裾をハーレムパンツ風に絞ったり、逆に肩周りにオーバーサイズを仕掛けたりするアレンジも冴える。パープルに代表される、グラムな色使いや、きらめきマテリアルを生かしたメタリックな演出が妖しいムードを帯びさせた。ヘッドアクセサリーをはじめ、顔や首に強めの主張を添える新顔ピースも打ち出している。
◆ジル・サンダー(JIL SANDER)
イブニングドレスやセットアップが盛り上がったのも、19-20年秋冬の顕著な変化だった。クラシックや上流階級を象徴するようなウエアだが、堅苦しさは遠ざけて、自在の着こなしに誘った。「ジル・サンダー(JIL SANDER」)は遊牧民を思わせる、エフォートレスなフォルムを、ドレッシーな装いに落とし込んだ。クチュール感をまとわせながらも、オーバーサイズやキルティングを生かして、のどかで伸びやかな着姿に整えている。少し前のストリート風オーバーサイズとは違って、アッパーでフェミニンな風情で着こなす点が新しい。素材の上質さがノーブルさを引き立てていた。
パリとミラノで軸になっていたのは、クラス感と装飾性を高いレベルで両立させる試みだ。伝統的なコード(約束事)を重んじながら、ディテールや色・素材でオーソドックスを踏み越えていくアプローチが秋冬ルックに品格とゴージャス感をもたらしている。タイムレスな雰囲気やシーンを選ばない自在性が備わったおかげで、着こなしの自由度が一段と高まって見えた。
宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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