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2019.03.20

「藤井大丸」――自社ECを活用した店頭活性化策 O2Oの先駆けとも言える「FUJII DAIMARU ONLINE SHOP」

 アリババグループが提唱している“ニュー・リテイル”という概念。きちんと明文化されたものはないというが、一般的には、EC関連技術を活用した実店舗(店頭)との連動により、顧客に付加価値を提供し、満足度を高めようとする取り組みのようだ。この言葉をヒントに、今回からは、こうしたECなど新しい要素を活用して、顧客に新しい価値や体験を提供している小売店の実例をご紹介していこうと思う。最初は、京都の老舗百貨店、藤井大丸の事例である。

いち早く、“自前”のECサイトを立ち上げ

 藤井大丸は京都の老舗で、感度の高いファッション系テナントを集積している個性派百貨店である。京都の老舗で、感度の高いファッション系テナントを集積している個性派百貨店である。ちょうど10年前の3月に、“自前”のECサイト「UROKO」(ウロコ)を立ち上げた。当時は、業界ではまだまだ珍しかったEコマース事業である。しかも自社で運営し、在庫も店頭と共有するという、今では特に目新しくないが、かなり先進的な取り組みだった。少し古くなった感のある言葉だが、「O2O」(ONLINE to OFFLINE)の嚆矢(こうし)と言えるだろう(「クリック&モルタル」でもいいし、呼び方は何でもいい。いかにオンラインを活用するかが要で、個人的には、名称はあまり重要ではないと考えている)。

 

 立ち上げのきっかけは、「中期的に売り上げが伸び悩んでいくのでは?」という危機感を持ったためだった。10年前と言えば2009年3月。リーマンショックの影響が消費マインドを冷やしていた頃だった。店頭売りだけに頼っていてはこの先、継続的な収益確保が難しくなる、という思いから、ECサイト「UROKO」を立ち上げた。当初から、ECと店頭の在庫を共有した運営で、商品の撮影も自社スタッフが行っていた。全売上の数%を担い、店頭売上の減収分をカバーするという発想だった。

 

 同店の商圏は、個性派テナントを集積していることもあり比較的、来館客の範囲は広い。関西一円がメーンであるが、新業態や西日本初出店のテナントも少なくないため、商圏はもう少し広くなる。こうした背景も、EC事業を立ち上げる遠因になった。

 

 しかし、立ち上げ当初は様々な苦労があったという。店頭とECの在庫を共有するには当然、出店するテナントの協力が不可欠だ。どういった目的でECを始めるのか、テナントにどのようなメリットがあるのか、「理解を得るのに時間がかかった」(玉川直樹・営業四部付課長)。ECの売り上げを店頭の売上げに含める、またEC限定の商材を扱うことで、売上増を後押しするなど、様々な取り組みを重ねた結果、時間はかかったが、テナントの同意を得られるようになっていった。余談だが現在では、ECの売り上げが店頭売りに加算されるため、販売スタッフのモチベーションアップにも一役買っているようだ。

館の認知が広まるという相乗効果も

「FUJI DAIMARU ONLINE SHOP」のホームページ

 今年10周年を迎えた自前のECサイトの名称は、実店舗の藤井大丸との連動性が分かりやすいよう、現在は「UROKO」から「FUJII DAIMARU ONLINE SHOP」(フジイダイマル・オンライン・ショップ)に変更されている。またホームページでは、店頭向けのサイトとリンクしているほか、モバイル版も展開している。

 

 商品撮影は週に2回。専属スタッフが各テナントからピックアップした商材を随時、撮影しアップしている。テナント間で差はあるが、よく売れているショップでは売り上げの20-30%を占めているケースもあるという。ECの活用方法は、目的が来店の促進と売上増のため、シーズンの一押し品や限定品を扱うことが多いようだ。オンラインの売り上げ動向をリアル店舗へフィードバックできるというメリットもある。「ECはリアル店舗との連動を大事にしている」(玉川課長)。また、基幹限定のポップアップショップをEC限定で展開し、効率的に売り上げを確保している事例もある。

 

 ECも売り場の一部なので、実店舗同様、主要顧客が多い地元の京都の小売店として完結するのが原則だというが、実際は、距離や時間を超越できるのがECのメリット――広域からの利用客も少なくないようだ。「実は、東京方面の利用客が一番多い」と玉川課長。ファッション系テナントの集積が充実していること、東京方面の市場規模が大きいことが要因のようだ。特に人気が高いのが、マッシュホールディングス系のブランドや、「ザ・ノース・フェイス」の「パープルレーベル」など。取り扱う時期が早かったため、ウェブで検索し、アクセスする人が多くなったらしい。比較的、希少性の高い商材の人気が高い。

 

 欲しいブランドを検索したところ、藤井大丸のオンラインショップにたどり着いたというケースも多く、遠方のエンドユーザーにも店舗を認知してもらえるという相乗効果も見られるようになった。前述の通り、京都の個店として完結するのが基本だが、関東など広域の顧客の間でも知名度が高まっているようだ。

軸足はリアル店舗にあり

ECをリアル店舗をサポートする存在に位置付ける(1階入り口) 

 個人的に思うことだが、昨今ECビジネスを強化すると表明している小売店やアパレルメーカーは多いが、リアル店舗を強化することに軸足を置くと明確に標榜している企業が少ないように感じる(そんなことはない、という反論もございましょうが・・)。ECをやることが目的になってしまっている印象が強い、という意味である。

 

 翻って藤井大丸の場合はどうか。初めに「リアル店舗ありき」、である。話を聞いていると、店頭売りのサポートとして、また販促ツールとしてECを活用するという意識が強い印象を受ける。リアルで強い小売店・テナントでなければ、ECでも強みを発揮することは難しいと考える(その逆パターンも徐々に増えてはいるが)私には、とても納得できる考え方だ。

 

 課題は、ボリュームゾーンを取り込んでいくこと。希少性の高い商材に売れ筋が集中する傾向が強いためだ。藤井大丸には「ユナイテッドアローズ」や「ビームス」など著名なテナントも出店しているが、やはりそうしたブランドのEC売り上げは増えにくい傾向にある。やはりボリュームゾーンの商材は、ゾゾタウンなど大手ECサイトの方が優勢のようである。

 

藤井大丸 公式サイト


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

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