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2017.01.20

日本ブランドも続々出展 4万2,000人が集うメンズ見本市・第91回「ピッティ・イマージネ・ウォモ」

多くの聴衆が集まった広場でローンチイベントを開催した「ワイ・アンド・サンズ(Y & SONS)」

 2017-18年秋冬メンズを見せる第91回「ピッティ・イマージネ・ウォモ(PITTI IMMAGINE UOMO)」が1月10~13日、イタリア・フィレンツェのフォルテッツァ・ダ・バッソ(FORTEZZA DA BASSO)で開かれた。1,220ブランドのうち海外からは540ブランドが出展。日本からもコンテンポラリーゾーンとトラディショナルゾーンに多くの出展があった。関連イベントでも一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構の協力のもと「サルバム(sulvam)」がショーを行い、着物のやまとが「ワイ・アンド・サンズ(Y & SONS)」で、「ノルウェージャン・レイン(Norwegian Rain)」のティー・マイケル(T-MICHAEL)とのコラボ着物を紹介するイベントを広場で開催した。

 

 いくつかの日本ブランドの事例を紹介する。

 17回目の出展となる「ティーエスエス(TS((S)))」は、9年目というベテランだ。「国の幅広さという点では、全世界を網羅している」とピッティの国際性を評価している。イタリア以外にもデンマーク、エストニア、オランダ、上海、台湾など20件程と取引先を維持している。ミニマムを設定していないため、ピンポイントで深いオーダーも入り、様々なテーストの店に対応できると考えている。注目を浴びたのがワッフルの生地感が独特なシリーズで、ジャケットは小売価格3万6,000円。ストレッチの入った細コーデュロイのジャケットは4万9,000円。全体的に大きめサイズのドロップショルダーやキルト、パッテッドなボリューム感のある素材が受けているという。

 「ナナミカ(nanamica)」も出展10回目を数える常連組だ。今回はイタリアの取引先が伸び悩んだが、英国が多く、香港、台湾、韓国、米国など30件を確保している。堅調なのはゴアテックスのアイテムとダウンで、色目はネイビーが好評だった。主要アイテムのコートは小売価格で7万~8万円。他に人気なのがバッグで、サイクリングパック(バッグ写真右)やサイクリングパック風のブリーフケース(同左)、いずれも2万8,000円。パリとNYで開かれるトレードショー「MAN(マン)」の出展を経て、今季の受注を取りまとめていくという。

 3回目の出展となる山形のニットメーカー、佐藤繊維の「キュウキュウイチ(991)」は、「ショールーム、エージェントの必要性を感じている」という。「展示会でオーダーを入れる形式でなく、出展者の半分は広告宣伝みたいなもの」という印象だそうだ。イタリアを中心にフランス、オーストリア、ノルウェー、デンマーク、ロシアなどとコンタクトが取れたという。商品的にはヘリンボーン、千鳥格子のウールやカシミヤ・ニットのジャケットが評判良く、縫い代のないTPSミシンによる縫製テクニックや袖口、襟立、ポケットが伸びないような機能性を持たせた仕様に注目が集まったそうだ。小売価格はカシミヤで16万円、ウールで7万2,000円。

 同じく3回目となるジャパンブルーは、「ソーライブ(SOULIVE)」と「セット(SETTO)」を出展。継続のイタリア5件と新規でパリ、英国、台湾、上海から受注、NYやオハイオなどとのコンタクトも広がった。比較的手の込んだ物は反応が良く、パッチワーク、刺繍、ハンドワーク商品の受注が好調だった。オリーブドライカラーでMA-1の生地で作った半纏(小売価格4万8,000円)が人気だったほか、パッチワークの半纏(6万円)、スカジャン風半纏(7万4,000円)も好評を博した。

 重ならないアイテムで複数の企業が共同出展するブースもある。

 

 5回目の出展となる「イキジ(IKIJI)」は、毎回知名度が上がり、イタリア、フランス、米国、カナダ、シンガポールなど10件程の取引先を開拓してきた。東京都・墨田区の物づくり企業の精巧、テルタ、二宮五郎商店、ウィンスロップの4社がカッソー、ニット、革小物、布帛で共同ブランドプロジェクトとして立ち上げ、すでにパリなどでも海外販路開拓を進めてきており、中でも「ピッティはコンタクトが多い」と評価している。「まずは欧米から進めて、今後アジアにも展開したい」と意気込みを語った。人気だったのは和柄モチーフのプリントニットで小売価格4万9,000円。

6社による共同出展

 メンズファッション協会(MFU)内の永島服飾「ナガシマフクショク(NAGASHIMA FUKUSHOKU)」(ネクタイ、マフラー)、モルフォ「キプリス(CYPRIS)」(バッグ、革小物)、ラグラックス信和「ルッソ・ビアンコ(LUSSO BIANCO)」(ジャケット)、エミネント「越前屋(ECHIZENYA)」(パンツ)、フレックスジャパン「ハイブリッド・センサー(HYBRID SENSOR)」(シャツ)、ジム「ジム(gim)」(ニット)の6社による共同出展は、6回目となる。「気心が知れてきた」こともあり、他社の生地を使ってコーディネートアイテムを作り、セットアップ提案も行った。フランス・パリのプランタン百貨店をはじめ、ロシア、ウクライナ、イタリア、カナダ、シンガポール、香港、韓国など6社トータルの卸先は50件に上る。ビジュアルプレゼンテーションも4体に各社のアイテムをミックスコーディネートさせてアピールしていた。

デートル(D’etre)

 初出展のブランドも手応えを掴んでいる。

 

 「デートル(D’etre)」は3シーズン目で、「ベスト・オブ・ベスト」を掲げたジレのみのブランドだ。もともとハイブランドの買い付けの仕事をしていたが、「自分のブランドでハイブランドと肩を並べて置きたい」という思いが募ったそうだ。「他のアイテムを否定するのではなく、盛り立てるアイテム」と位置付け、1700年代イタリア軍のビンテージ生地なども使い、パッチワークや切り替えによる武骨で主張の強いジレを並べていた。平均小売価格は、3万2、000円。名古屋の直営店と卸で半々の売上げで、今回はドバイ、イタリアとの商談が進んでいる。

 エキゾチックレザーメインのバッグを出展した「ボーグラン(BEAUGRAND)」は、今までミぺル(MIPEL)に出展していたが、今回からピッティに切り替えた。クロコダイル、トカゲ、オーストリッチなどで柔らかく遊びのあるデザインのバッグを揃えた。「マットでもなく、シャイニングでもない適度なツヤ感」を意識し、汎用性のあるカジュアルなデザインに仕上げているのが特徴。小売価格は、デニムとクロコのコンビ・ボストンで64万円、白のクロコのトートで69万円。ミラノやロシアの個店から引き合いがあったという。

 「アミアカルバ(amiacalva)」は、デイリーユースな機能性のリュックやシンプルで綺麗な生成りのキャンバストートバッグなどを並べた。既にパリでは、ショールーム「ジャパニーズ・イン・パリス(Japanese In Paris)」で数年に渡って見せているが、「合同展での圧倒的な来場者の多さは、また違った意味で刺激と新しい発見があった」という。イタリア、シンガポール、ボストンやその他の欧州各国からも引き合いがあった。セルビッチ使いのキャンバストートは小売価格1万2,000円~1万5,000円。

 サックス奏者をフィーチャーし、多くの聴衆が集まった広場でのローンチイベントを開催したワイ・アンド・サンズ(Y & SONS)は、ノルウェージャン・レインのティー・マイケルとコラボした男の着物「ティー・キモノ(T-KIMONO)」を出展。「マイケルの生地でシンプルな形の着物を作り、スプリングコートのように取り入れてほしい」と提案した。同社としては、「100年企業として次の100年を考えて日本の中で着物を再認識してもらえるような取り組みにしたい」と抱負を語っていた。価格は未定で年内中の販売開始を予定している。

 

 全体としては、アバンギャルドなブランドの出展がパリに比して、少なく感じるのは確かだ。だがメンズ分野だけで3万6,000人の来場者に出展者を加えると4万2,000人が集う規模のイベントは、BBB(ブレッド・アンド・バター・ベルリン)がなくなって以降、世界的に見ても例がない。それにBBBはカジュアル主体だった点を考慮するとトラッドからカジュアル、スポーツまでカバーしている点では一強かもしれない。

 

 昨今はショーやインスタレーション、ローンチパーティーなどを市内各所で開催し、回る側からするとやや詰め込み感が強過ぎる嫌いもあるが、ユナイテッドアローズ上級顧問の栗野宏文氏によれば、「フィレンツェでのショーが充実してきたこともあり、ミラノより力を持ち始めているのではないか。これだけの幅広さと奥深さで一堂に見られる機会があるのは、ここピッティだけ」と賞賛する。物づくりの産地を後背に控え、行政とのスクラムも強いだけに、今後も牽引車の役割を果たしていくことになるだろう。


 

 

久保 雅裕(くぼ・まさひろ)
アナログフィルター『ジュルナル・クボッチ』編集長

 

ファッションジャーナリスト・ファッションビジネスコンサルタント。繊研新聞社に22年間在籍。『senken h』を立ち上げ、アッシュ編集室長・パリ支局長を務めるとともに、子供服団体の事務局長、IFF・プラグインなど展示会事業も担当し、2012年に退社。

大手セレクトショップのマーケティングディレクターを経て、2013年からウェブメディア『Journal Cubocci』を運営。複数のメディアに執筆・寄稿している。杉野服飾大学特任准教授の傍ら、コンサルティングや講演活動を行っている。また別会社で、パリに出展するブランドのサポートや日本ブランドの合同ポップアップストア、国内合同展の企画なども行い、日本のクリエーター支援をライフワークとして活動している。

 

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