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2018.10.25

衣料品ECモール各社 EC支援事業で独自色、モールに次ぐ収益の柱に

 ファッションECモール運営各社は、アパレルブランドなどの自社通販サイトを構築したり、販促や物流面をフォローするEC支援事業に本腰を入れている。ファッションECの取扱高では「ゾゾタウン」が他のモールを大きく引き離しているが、第2ラウンドの舞台となるEC支援事業で大きくリードする企業はない。各社とも自社の強みを生かした独自路線を打ち出しており、今後、どのモールが主導権を握るかに注目が集まる。当該サービスの事業環境や各社の戦略を見ていく。

 モール運営各社がEC支援事業に力を注ぐのには、いくつかの理由がある。まず、主力のモール事業で取り引きがあるブランドの自社ECを運営代行し、在庫も預かることで、モール事業で競合に比べ優位に在庫が持てることが挙げられる。

 また、長年のモール運営で培ったファッション商材のECノウハウをブランドの自社ECに注入することでマネタイズ化でき、そのサイトが成長すれば継続的な利益貢献も見込める。

 ブランド側にとっても、自社ECを開設する際にモールと組み、在庫管理を任せることで、例えば1点しかない在庫を自社ECと当該モールで同時販売できるほか、取扱高の大きいモールであれば、配送運賃や倉庫内の人件費などで価格変動の影響を受けにくいといった利点もあるようだ。

 また、自社ECを開設して一定期間が経過した企業が多く、システムや物流インフラなどの課題が表面化して自社ECのあり方を根本的に見直す必要に迫られている企業もあり、モール運営企業によるEC支援の事例が増えていると見られる。

データと物流でアパレルを支援

 一時はEC支援事業を縮小していたゾゾだが、子会社のアラタナを通じて同事業の再強化に乗り出す。ただ、再強化に当たっては、通販サイトの構築には手を出さず、アパレルブランドがすでに運営している自社ECに対し、グループの物流機能とマーケティングデータを提供することでブランドの成長をサポートしていく。

 アパレル企業の多くはすでに自社ECを持っており、需要予測や物流面に課題を抱えていると判断。データと物流機能を提供することでそれらの解決を図る。「ゾゾタウン」にはいま何が売れているかという大量の情報があるほか、消費者が買い物をする前に閲覧したコーディネート情報も「ウェア」に蓄積されているため、グループ全体のデータを活用することで無駄の少ない生産体制につなげたり、適切な値下げ時期を判断して消化率を高めることができるという。

 物流面では、従来はブランドの自社ECを受託していない企業に物流機能は提供していなかったが、今後、取引先ブランドは既存の自社ECを運営しながら、ゾゾの物流APIにつなぐことで物流サービスを受けられるようになる。拡張を続けるゾゾの大型物流センターでEC在庫を一元管理するため、自社ECの売上が大きく伸びても、ボトルネックを心配する必要はなくなる。

 加えて、今後は「ゾゾタウン」だけでなく、ブランドの自社ECおよび実店舗を含めすべてのチャネルの売り上げを伸ばす取り組みを重視。ブランドの実店舗で在庫の補充が必要な場合はゾゾの物流拠点から届ける。

 今年9月にはレディース衣料を手がけるマークスタイラーとEC支援事業の戦略的パートナーシップを結ぶことで基本合意。来年4月以降、同社自社EC「ランウェイチャンネル」に対して物流機能とマーケティングデータを提供して同サイトの成長を後押しする。

 アラタナはマークスタイラーとの取り組みを皮切りにアパレルの自社EC支援を本格化し、18年3月期の当該事業の商品取扱高約75億円に対し、19年3月期は同100億円、20年3月期は同200億円、21年3月期は同300億円を目指す。

 

サテライト戦略で消化率高める


 マガシークは、取扱高が100億円規模となった自社運営の「マガシーク」および「dファッション」の両サイトと、EC構築を受託するブランドの自社ECに加え、大手百貨店のECや「ロハコ」などの外部ECモールとも在庫連携して複数サイトで販売し、消化率を高める"サテライト戦略"が強みだ。

 在庫連携先が多く、異なるタイプの層にアプローチできるのが競合モールのEC支援にはない特徴で、取引先ブランドからはこうした点も評価されているようで、今後もAPIで他社モールと在庫連携するほか、9月下旬にはロコンドと結んだ相互出店契約の第1弾として、「マガシーク」と「dファッション」で扱う商品を「ロコンド」でも販売できるようになった。

 マガシークが自社EC構築を受託する企業は、50億~100億円規模の売上高のアパレル企業が多く、とくに百貨店に店を構える婦人服ブランドや中高価格帯のブランドなどで、ECチャネルではゾゾ依存度の低い企業が中心という。

 取引先ブランドは自社EC強化に合わせてオムニチャネル対応を進めたいニーズが強く、例えば、婦人アパレルのレリアンに対してはリアル店舗と自社ECの顧客情報を一元管理できるようにしたり、自社ECに店頭在庫表示機能を実装しているほか、EC在庫を実店舗に発送する客注システムの仕組みも提供。客注システムに関しては売り上げは店頭に計上し、マガシークはシステムの利用料を得ている。

 今期は「ランバン オン ブルー」や「ラピーヌオンラインストア」などアパレル5サイトを構築したのに加え、10月中に2サイトが始動するほか、さらに複数サイトを受託する見込みだ。

 今後は、オムニサービスのメニューを拡充するのに加え、決済手段もアマゾンペイやペイディーなどを利用できるようにする。足もとでは米社が開発した、商品画像を360度どの角度からも閲覧できるサービスをテストしており、インタラクティブ動画を含め、取引先ブランドのニーズに応じて新しい機能を導入できるようにする。

 マガシークがEC運営を受託するブランドの自社EC売上高合計は、レリアンなど既存サイトの成長と新規サイトの開設もあって好調に推移。18年3月期の約14億円に対し、19年3月期は23億円、20年3月期は30億円を計画する。

 

靴業界の課題を在庫共有で解消

 

靴に強いロコンドは、同社の倉庫を基点に、取引先から預かったEC在庫をブランド自社ECと、同社運営の「ロコンド」および「ロコモール」(ロコンド楽天店、ヤフー店)で同時販売できるのに加え、百貨店を含む全国の実店舗にも配送可能なほか、店舗欠品時のフォロー在庫として倉庫から店頭購入者の自宅にも届けるなど、販売チャネルをまたいだ"在庫シェアリング"が特徴で、靴業界の課題である在庫回転率の向上に貢献している。

 また、「ロコンド」は靴からスタートしたモールだけに、靴幅やヒールの高さと型といった商品絞り込みのナビゲーションや、写真の見せ方など、アパレルECとは異なるニーズに対応できるのに加え、「ロコンド」で提供する返品・交換対応の仕組みをブランド自社ECにも移植できる点が靴ブランドから支持されているようだ。今後はさらに、「ロコンド」に実装済みの簡易チャットや内製化したメルマガ配信システム、コンテンツ管理システム(CMS)も提供していく。

 現状、自社EC支援の受託企業は「チャールズ&キース」や「ルコライン」「モード・エ・ジャコモ」など靴ブランドが多い。今後も靴のEC支援は伸びしろがあるため引き続き新規開拓するが、「マンゴ」や「デシグアル」など海外ファッションブランドの自社EC支援でも成果が出ており、アパレルの取り込みにも力を注ぐ考えで、EC支援事業は18年2月期の10億円に対し、19年2月期は16億円、20年2月期は25億円、21年2月期は40億円を計画。3年連続で60%成長を目指す。

 また、同社は在庫シェアリングの仕組みだけでなく、POSレジシステムやQRコード決済といった店頭支援にも注力しるが、来春には基幹システムの提供を開始し、ブランド自社ECや店舗欠品フォローシステム、POSレジシステムなどから得られるデータをクラウドで一元管理できる体制を構築。日本のどこで靴が売れていて、在庫がどこにあるのかを把握し、在庫配分の最適化などにつなげたい意向で、データの量を得るためにも基幹システムは無償で提供するという。

 

内製化で磨いた"プロ"の開発力


 クルーズグループのCROOZ EC Partnersではサイト構築からプロモーション支援、物流までを一貫して提供している。開発やデザインなどはすべて自社社員で内製化しており、専門性の高いスタッフによる提案力が武器だ。

 同グループではファッションECモール「ショップリスト」だけでなく、ゲームやメディア制作、コスメECなどこれまで様々な事業を経験していたことから、幅広い分野でのシステム開発やデザインのノウハウを自社で蓄積している。

 サイト構築において、同社が意識するのはクライアントのブランドの特徴・特色を出していくこと。近年はブランドサイトと通販サイトを統合する企業も多く、通販サイト上でもブランドの世界観を大事にしている。

 これまでの取り組み事例の1つとしては、お笑いタレントの渡辺直美さんがプロデュースするアパレルブランド「プニュズ」の通販サイトリプレイスがある。ここではフロントのデザインについて一から同社で作成したほか、6Lの大型サイズまでのバリエーションを展開する同ブランドの特性に合わせて、ボタンサイズやヘッダーの厚みなどを通常よりも大きくして太めの指でも押しやすくするなど、顧客属性を考慮したユーザビリティを採用した。

 また、ログイン手段と決済手段についても顧客層との相性を考えて必要な範囲で拡充し、その利用特典キャンペーンも並行して行うことで、カート落ちや途中離脱の発生を抑制。ショップリストが7のログイン手段と11の決済手段をすでに持っていることもあり、新たな開発コストなどをかけずに早期の導入ができたという。結果的に同サイトの刷新後1年間は、刷新前の1年間の実績を大きく上回ったという。

 そのほか、大型ECモールを約3カ月間で構築したこともあり、スピード性にも自信がある。同社の場合、顧客との基本的な窓口はプランナーとエンジニアが担当していることから互いの認識の齟齬が生まれにくく、イメージに対しての提案がすぐ形になりやすいことも背景にあるようだ。

 また、6年間で200億円以上の規模に成長したショップリストのシステムや物流の仕組み、販促手段などもそのまま応用できることから、クライアントの成長段階に合わせた機能追加など、拡張性で柔軟な対応ができることも利点だ。

 今後はファッション以外の企業もターゲットとし、すでに家具や美容品などの分野で開拓が進行。中長期的には100億円の売り上げを目指す。

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