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2018.04.05

広がるアマゾン「包囲網」 「割引補填」疑い濃厚か、”安さのカラクリ”、公取委がメス

 「地球上で最も豊富な品揃え」と「最安値」をめざし、国内の年間流通総額が2兆円を超える通販業界の巨人に成長したアマゾンジャパン。だが、その"安さのカラクリ"は、納入業者に対する「割引補填」によって実現されていた疑いが濃厚だ。今年3月、公正取引委員会は立ち入り検査に踏み切り、実態解明を進めている。成長を可能にした「アマゾン商法」の実態はどのようなものか。
 
チラつくアメリカ大使館の影
 
 「立ち入り検査は独占禁止法の調査権限を行使するという意味で『正式事件』になる。過去、『優越的地位の濫用』の疑いで審査に入りながら、警告以上の措置を取らなかったケースは知る限りない」(公取関係者)。「排除措置命令(違反認定)」が通例、最低でも「警告」(違反のおそれ)。立ち入り検査も「ほかの納入業者にヒアリングするなど1社の特殊な事例でないことを確認した上で『正式事件』として扱うのが基本」(同)と、違反の蓋然性の高い中で行う。今後の行方を見極める上で重要な示唆だが、コトはそう簡単ではない。米国に本社を置く外資系企業関係者が見解を口にする。
 
 「海外では『優越的―』に調査対象企業が改善策を提示し、これを認定することで競争環境の正常化を図る『コミットメント(確約)手続き』を使うことが多い。被害を訴えた企業の協力に依存せずに解決できる点で『優越的―』に有効とされる。日本の独禁法に規定はないものの、TPP協定の発効に合わせて導入が決まっている。アマゾンがアメリカ大使館に助けを求めないとも限らない」。
 
 アメリカ大使館の動向は後述するが、行政当局には苦い経験もある。2009年、東京国税局がアマゾンに140億円前後の追徴課税処分を行ったことが明らかになった。国内であげた収益に対して法人税を払うことを求めたものだ。だが、これを不服としたアマゾンは、日米間の「二国間協議」を申請。その結果、日本側の主張が引けられた過去がある。
 
 事案は異なるものの、通販業界の巨人の向こうを張った公取委の命がけの攻防はすでに始まっている。公取委は問題視するのは何か。
 
安売り後に補填求める
 

 「楽天やヨドバシカメラなどウェブの競争相手に対抗して価格を安くしたら赤字が出た。もしくは粗利が低くなったと。それを事後的に"補填して"と納入業者に要請していたら問題だと。当然、納入業者とは売買契約を結んでいるわけだから、本来それでおしまい。それ以上責任を負わないのが普通。地位の優越性を背景にそれ(=割引補填)を押し付けていたとすれば濫用になる」。ある行政関係者は今回、アマゾンへの立ち入り検査を行った背景をこう見る。
 
 「割引補填」は、独占禁止法の「優越的地位の濫用」として規制される行為のうち、形を変えた「減額」といえる。
 
 「減額」で最も多いのは、大規模小売事業者が値引販売を理由に対価の減額を迫ること。過去には、玩具販売店が玩具メーカーに対して売れ行きが悪く在庫となった商品の割引販売にあたり、割引額をあらかじめ定めた納入価格から減額し、違反となった例がある。「利益を納入業者から吸い上げるという意味で後からもらうか相殺するかの違いで変わりはない。(アマゾンが)仕入れて安く売った後でケツを拭かせるということであればあまりにひどい」(元公取執行担当官)と話す。
 
苦しむ事業者弱肉強食の掟
 
 「割引補填」は数%~数十%の範囲で要請されていたという。実際、ある家電卸は「数%の割引補填を口頭で提示された」と話す。「出せないものは出せないと言ったが、了解してくれたか分からない。(要請を)呑まないと切られる場合もあるのでは。メーカーはまだ良いが、どこでも仕入れることができる商品を扱う商社はきつい」と、アマゾンからの要請に逡巡する深刻な状況を明かす。ほかにもセール時や定期購入の「割引補填」を依頼された事業者は、確認できただけで複数社に上る。なぜこうした状況が生まれたか。前出の公取関係者が見解を述べる。
 
 「アマゾンが対抗意識を燃やしているのはヨドバシカメラと言われている。例えばビッグカメラは、ある家電でウェブと店頭の価格が違っていたりする。けれどヨドバシは店頭でもネット価格を意識している。ヨドバシが下げればアマゾンも追随する。価格競争でどんどん下がる」。こうして削られた利益のツケを納入業者が払わされているとすれば正当な商習慣に照らして問題だろう。
 
 昨年9月、米国では玩具業界の巨人とされたトイザらスが破綻した。一部報道によると、2000年、アマゾンの通販サイトでトイザらスが唯一の玩具販売事業者となる10年契約(のち撤回)を結んだものの十分な商品を確保できず、徐々にほかの玩具メーカーとの取引が増加。トイザらスは、アマゾンで玩具の売り上げが四半期あたり40億ドル(16年、日本円で約4200億円)にまで膨らんだ一方、13年以降、利益を生み出せなくなっていたという。そのトイザらスの店舗の閉鎖発表を受けてアマゾンが購入しようと検討しているとの報道もあるから驚きだ。
 
 日本でもアマゾンによる納入業者らへの要請は強まるばかり。米国と同じ状況がいずれ起きかねない。今回の審査対象ではないものの、アマゾンはサービス機能拡充を名目に2~5%ほどの協力金を要請したり、ヤマトと配送料を4割程度引き上げることで合意したことを受けて、配送代行手数料の引き上げも発表した。アマゾンの経営状態を受けて、その都度、納入業者との取引関係は代わり、事業者はこれに振り回される。
 
世界中から四面楚歌
 
 だが、今回、公取委のメスが入った。ここにきてアマゾンを取り巻く環境も変わりつつある。これまで幾度となく指摘されてきたタックス・ヘイブンを活用した税金逃れ問題も、各国で監視強化が進んでいる。さらに米本国でもトランプ大統領がツイッター攻撃の矛先をアマゾンに向け、「商品を低価格で配送するため米郵政公社が存在を被っている」「多くの小売業者を廃業に追い込んだ」「税金を十分支払っていない」などと批判を続けている。
 
 こうした中、アマゾンにとって頼みの綱のアメリカ大使館も「今は日本政府と協調しつつ提案型に変化した。かつてはオレンジや牛肉の自由化、(貿易不均衡の是正を目的にした)MOSS協議(日米構造協議)の時は強面で鳴らしたが、個別企業の問題で動くことはない」(在日米国商工会議所関係者)とそっぽを向く。公取関係者もアメリカ大使館の存在に「動いても関係ない」と一歩も引く気配はない。
 
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 アマゾンは今回の立ち入り検査に「審査には全面的に協力させていただいております」と話すのみ。だが、投資先行で規模拡大を果たしたビジネスモデルには歪みが生じ始めている。"アマゾン包囲網"が全世界に広がる中、「アマゾン商法」の正当性が問われている。
 
 
 
「最安値条件」より悪質
 
 
優越地位乱用、漏れなく違法認定
 
 
【違法認定の可能性は?】
 
 「アマゾン商法」に対する包囲網が広がっている。15年、EUは納入業者に最安値から同等の販売価格を課すいわゆる「最恵国待遇条項」をめぐり調査。昨年5月、アマゾンの改善策を受け入れ調査を終了した。日本もこれに続き、昨年6月、公正取引委員会の審査を受け、アマゾンジャパンが「マーケットプレイス」の出品者に課していた「最恵国待遇条項」を撤廃。同年8月には、公取委が米国法人のアマゾン・サービシズ・インターナショナル・インクが日本で行っていた電子書籍の配信サービスについても「最恵国待遇条項」を撤廃するという報告を受けた。
 
 この条項をめぐり、アマゾンは自ら撤廃を申し出たことで違法認定に至らなかった。だが今回、審査を受けているのは独占禁止法に基づく「優越的地位の濫用」。撤廃条項とは「状況が異なっている」(公取関係者)という。
 
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 「最恵国待遇条項」は独禁法上の「不公正な取引方法」にあたる可能性があったものだ。ただ、これは課徴金の対象外。つまり、「正式に審査を進め立証し、仮に命令を出しても改善するだけで終わる」(同)というものだ。改善されれば命令を行う意味合いは薄れる。一方、立証し措置命令を行うには相当期間の時間を要する。そうであれば「行政効率の観点から相手方が改善し公正競争の阻害要因が解消されたことをもって審査を終了する政策判断が働く場合はある」(同)というわけだ。
 
 一方、「優越的地位の濫用」は、課徴金の対象。海外の「コミットメント(確約)手続き」を先取りし、改善を受けて審査を終了する可能性もゼロではない。これには「立証できないために審査終了ということはあるかもしれない。ただ、確約手続きは未来のことで断言できないがないと思う」(同)と現実味は薄い。そして公取委が「優越的地位の濫用」の疑いで立ち入り検査を実施したケースで違法認定に至らなかった例は「知る限りない」というのがこれまでの通例だ。今回、米国法人ではなく、日本法人が対象で適用に向けた障害もない。
 
                  ◇
 
 
 2009年、「優越的地位の濫用」に課徴金が導入されて以降、違反行為として「協賛金負担の要請」などが適用された例はある。だが、事後的に割引を補填する行為が違法認定されたケースはこれまでない。
 
 一方、審判制度が廃止されて約3年、「優越的地位の濫用」が適用された例はない。ただ、「課徴金導入以降、処分を受けた5社の事例を受け、(流通業界で)相当危機感を持って改善されてきた」と見る行政関係もいる。
 
 認定には、アマゾンとの取引額など依存度や、取引変更の可能性など「優越的地位」の確認、「正常な商慣習に照らして不当」の確認が必要になる。その上で前段の「濫用行為」が行われたかが判断される。公権力を行使する上で1社に対する特殊な事例でないかなど"行為の広がり"が判断に影響を及ぼすことはあるものの、立ち入り検査を行っている以上、過去の事例から違法認定される可能性は小さくない。
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