ウェブサイトを通じて家具や家電、衣料品などの物品を貸し出す「ECレンタルサービス」が盛り上がりを見せている。大手通販のディノス・セシールも昨秋から家具レンタルで参入するなど市場の拡大も続いているようだ。中でも注目されるプレイヤーの各サービスの現状や狙いなどについてみていく。
家具購入時の選択肢へ、優良通販客獲得も――ディノス・セシールの「フレクト」
「『ディノスで買おうかな?』という"家具購入時の選択肢"にもう一度、入りたい」。ディノス・セシールは昨年10月から、家具・インテリアのレンタルサービス「flect(フレクト)」を開始した。
「フレクト」は東京・神奈川・埼玉・千葉・茨城・栃木・群馬の1都6県の在住者向けにディノス事業で販売する一部の新品の家具を対象に、同社通販サイト内に設けた専用ページから利用者が希望する対象商品の販売価格が合計10万円以上から貸し出すもの。なお、通常の通販では徴収する送料や有料サービスの開梱設置料、組立サービス料は徴収しない(※キャンペーン期間のみだが当面継続予定)。申込時に利用者から申込金(商品価格の15%分)と、初回の月額利用料(同3・5%分)を徴収する仕組み。レンタル期間は最大36カ月だが、月額利用料を徴収するのは24カ月間のみ(※レンタル中に2カ月前までに専用サイトで手続きすれば途中解約にも応じる。ただ、申込金は返却しない)。2年の有料レンタル期間超過後の1年間の無料レンタル期間中に利用者には追加料金なしにレンタル中の商品を「購入」するか、初回に徴収した申込金(商品返却送料などを差し引いた分)を返した上で、商品を「返却」するかどちらかを選択できる仕組みだ。なお、購入した場合、通常購入する価格の99%(申込金15%と2年間の月額利用料84%の合計)となり、実質1%分、割り引いて販売することになる。
通販企業である同社が家具レンタルサービスに参入した最大の狙いは"同社の家具利用のきっかけ作り"にあるという。「以前は『家具と言えばディノス』と言われるほどお客様の認知も受けていた。ただ、現状では多くのお客様にとって家具の購入先は一部の家具量販店となり、価格が高いことが1つのネックとなり当社は選択肢にすら入らなくなった」(リビング本部 家具・収納部家具レンタル事業ユニットの結城健ユニットマネージャー)とした上で「家具は今でも当社を代表する主力商材であり、品質にも自信がある。何とかもう一度、"選択肢"に入りたい」(同)とレンタルという形で初期費用を抑えて敷居を下げ、新規客を呼び込み、「まずは利用をして頂くことが優先。使って頂ければ良さを実感して頂けるはず」(同)とし、家具自体の訴求力アップや家具購入につなげる狙いだ。
事業開始から約半年現在の利用状況については「中古ではなく新品のレンタルのため、中古では嫌な人も多い直接、肌に触れるようなソファやベッドなどの人気が高い。また、テレビ台やリビング収納などもよくレンタルされている。お客様の年齢層は当初は30代が中心と思っていたが、20~70代と幅広い」(同)とし、30代から50代が中心ではあるものの、高齢者が住み替えや"終活"などを踏まえて利用するケースもあるようだ。
具体的な売り上げやレンタル者数などは明らかにしていないが「ほぼ想定通り。また、1月下旬から2週間、テレビCMを放映した効果でウェブサイトのアクセス数が10倍になるなど高いニーズがあることは分かっており、手ごたえを感じている」(同)という。
また、レンタルサービスの利用者(※利用には「ディノス」の顧客登録が条件)に対して、ディノス事業の通販で販売する商品も訴求しているが「この事業の利用者の約半数がこれまでリーチできていなかった新たなお客様で、(一般的な顧客に比べて商品購入の)購入単価が高い」(結城氏)と通販の優良顧客の獲得にもつながっているようだ。
今後は商品数やエリアの拡大、使い勝手の向上を図り、利用者数を増やしていく考え。商品数はスタート時点では約200点だったが、1月末には350点、3月中旬には470点まで拡充した。レンタル申込時に即配送可能な商品を厳選しつつ、年内までに1000点以上まで増やす。エリアに関しては現状、関東圏のみだが、徐々に広げ、中部や関西のエリアにも対応していきたい考え。また、近く「フレクト」のウェブサイトに利用者の部屋の間取りに合わせてレンタル可能な家具のイメージを配置できる「3Dシミュレーター」を導入する。加えて、単品ごとのレンタル受付だけでなく、「和モダン風」や「ヨーロピアン風」などテイストごとに複数の家具をセットで提案するセットレンタルも行いたい考えで、レンタル時の利便性向上をさらに図る取り組みも行う。
また、事務所用やモデルルーム用家具、民泊住宅用など一定の需要がありそうな法人向けの家具レンタルについても対応していきたい考えでさらに利用者獲得を図っていく。同社では3年後に同事業で年間30億円の売上高を見込んでいる。
「不安の解消」に注力――レンティオ
レンティオでは、15年から家電のレンタルサイト「レンティオ」を始めた。創業当初は「SEOには自信があったので、360度撮影が可能なカメラ『シータ』やアクションカメラ『GoPro(ゴープロ)』は、検索からかなりレンタル需要を取り込んだ」(三輪謙二朗社長)というが、現在は規模も大きくなったことから、一眼レフカメラやビデオカメラなども取り扱っている。
レンタルの場合、ユーザーにとって分かりにくいのは返却方法だ。「佐川急便を使っているサイトだと配達員に家まで来てもらわなければならないが、当社はレンタル料金は高くなってもヤマト運輸を使っているので、コンビニエンスストアから返却することができる」(三輪社長)。送り状も同封しているので箱に貼るだけで商品が返せる。また、返却方法などを記した利用ガイドや同梱品リスト、さらには箱を閉じるためのテープも同封し、利便性を高めている。
メインユーザーは若年層女性で、注文の80%はスマートフォンから。そのため「利用しやすさ」には特に気を配っている。サイトにはチャット機能を設けており、返答までのレスポンスを短くしている。「明日10時まで届けて欲しい」といった要望にも柔軟に対応。三輪社長は「チャットで相談したユーザーは借りてくれる確率が高い」と手応えを語る。
配送するダンボール箱にも気を配っており、例えばゴープロであれば専用の箱を作っている。創業当初は箱も使い回しをしていたが、「箱が汚いと会社へのユーザーの印象が悪くなることが分かった」(三輪社長)という。こうした工夫でユーザーの不安を解消することに注力している。
高額商品も扱う家電レンタルの場合、課題は盗難などの悪質ユーザー対策だ。「サイトでの動きもチェックして、どんな注文だと不正の可能性が高いのかが分かってきた」(同)。また、高額商品についてはクレジットカード決済に限定している。
さらには、レンタルした商品の販売や、メーカーから無償で提供を受けた商品のレンタルも考慮。三輪社長は「メーカーに手数料を支払うケースもあれば、支払わないケースも考えられる。知名度が低い商品の場合、とにかくユーザーに使ってもらい、使い勝手をフィードバックしてもらいたいと考えるメーカーもあるようで、そういったニーズに応えられるサービスに育てたい」と語る。
「アースミュージック&エコロジー」など複数のアパレルブランドを開するストライプインターナショナルでは衣料品レンタルサービス「メチャカリ」を展開している。同サービスは専用アプリを通じて提供。月額5800円で同社のブランドの新品の衣料品3点を借りることが可能で、何度でも借り換えができる。
同社がメチャカリを開始したのは2015年9月。会社設立からおよそ20年が経過し、顧客の年齢層が上がっている中で、アパレルにテクノロジーを取り入れた取り組みを模索していた。同社メチャカリ部の澤田昌紀部長は立ち上げ時を振り返って「アプリを使った若年層の獲得が狙いだった」と説明する。
実際にサービスを開始してみると、2つの"誤算"があった。1つは若年層の利用を見込みサービス料を抑えたにも関わらず、ふたを開けてみるとメインの利用者は20代後半で、同社の顧客層とほぼ同じだった。
もう1つはポジティブな誤算。メチャカリ利用者のうち店舗やネット販売の既存顧客は3割程度で、7割は新規客。「ある程度のカニバリは避けられないと思っていたが、結果的にたまたま新規が多くなった」(澤田氏)と、同社でも予想外だった。レンタル事業が新規開拓という成果につながっているようだ。
洋服のレンタルサービスは他社も手がけているが、メチャカリの強みの1つが「新品」を扱っていること。投入時期も店頭に並ぶタイミングと同じであるため、トレンドを反映したアイテムそろうことになる。そんな季節ごとの旬なアイテムはコーディネートで提案する。利用者がレンタル品を着こなす際の参考にできるため、コーデでの見せ方は好評だという。
ユーザーが着用後に送り返した商品は自社通販サイトなどを通じて古着として割引価格で販売。なお、60日間借り続けると、そのアイテムは利用者が私物化できる。
有料会員は9000人
同社は昨年9月にアプリを刷新。プランも従来の「ベーシックプラン」(月額5800円)に加え、4点借りることができる「スタンダードプラン」(同7800円)と5点借りることができる「プレミアムプラン」(同9800)を追加した。
アプリは現在、65万ダウンロードされており、アクティブな有料会員は9000人。「間もなく1万人も見えてきており、手ごたえは感じている」(同)とのことで、昨年10月にCMを放映した影響もあって利用者は増加している。今年か来年には黒字化も見えているよう。
一方、課題はリアル店舗やECなど各売り場とのシナジーの創出。レンタル後の商品を通販サイトで販売するというサイクルは構築しているものの、本格的な連携はこれからのようだ。「まずはメチャカリとして一人立ちすることが目標」(同)と、事業の黒字化を目指す。
今後はレコメンドやAI(人工知能)を使い、ユーザーの服選びをサポートするような仕組みも導入する予定で、年内にもAIによるパーソナライゼーションを始める計画。
澤田氏はメチャカリを通じて「サブスクリプション(定期購入)やアプリの知見が貯まってきた」とし、そのノウハウを社内で横展開することも視野に入れている。