これまで多くのアパレル企業にとってECチャネルの主戦場は「ゾゾタウン」をはじめとするファッションECモールだったが、モールの手数料率上昇や低価格ブランドの拡大、クーポンの原資負担などもあり、実店舗より利益が出るはずのECチャネルの環境は様変わりしつつある。衣料品のEC化率拡大が見込まれる中、アパレル企業はEC強化の軸足を自社ECに置きつつあるが、その戦略は各社によって異なっている。自社ECが主販路な企業も含め、有力アパレル3社のEC強化策について見ていく。
EC専門店化を加速
【アーバンリサーチ】
アーバンリサーチは、4月にギフトの通販サイトをスタートするほか、秋をメドに現在はリアル店舗が運営している高感度ファッションを専門に扱う通販サイトや、家具のECについてもWEB事業部が手がけるサイトにリニューアルし、各商品カテゴリーで専門店のEC展開を加速するとともに、幅広い顧客にアプローチしやすくする。また、4月にはメディアサイトも開設し、各通販サイトへの送客機能も担っていく。
同社は、ファッション商材を中心に販売する主力の自社通販サイト「アーバンリサーチオンラインストア」を展開しているが、今期(2019年1月期)、新たに挑戦するのがギフト通販サイト「musve(ムスブ)」で、4月3日にオープンする予定だ。
同サイトは幅広い品ぞろえが特徴で、単品でも販売するが、さまざまな商品を詰め合わせたセットもジャンルごとにそろえ、「そのまま誰かに贈りたくなるような商品を提案する」(坂本満広WEB事業部部長)という。
ベーシックな商品も通年で展開するが、母の日やバレンタイン、クリスマスなど各種イベントに向けた商材を同社バイヤーの切り口で提案して差別化を図るほか、連動した特集コンテンツも充実させる。
ギフト専用サイトらしく目的別や贈り先別などで商品を探しやすくするほか、ラッピングや熨斗、メッセージカードにもこだわる。また、サイト制作や商品の手配にとどまらず、箱詰めやラッピング、送り状の添付までを内製化することで、ギフトECに必要なノウハウを蓄積するのと同時に、各フローで業務負荷やコスト、梱包資材の良し悪しなども把握し、顧客の声を吸い上げながら改善活動を積み上げていく。
新サイトの売り上げについては、スタートから丸1年で1億円以上を目指すとする。
一方、16年3月に開設した通販サイト「アーバンリサーチバイヤーズセレクト(URBS)」は、品ぞろえや在庫をアーバンリサーチ表参道ヒルズ店と統一し、同店のスタッフが受注業務や商品発送、返品対応まで行う店舗連動型の次世代ECとして展開。セレクトショップの原点である、バイヤーがセレクトした高感度なファッションアイテムだけを扱っているのも特徴だ。
サイト開設から2年が経過し、全国から注文が入るなどリアル店舗が運営するECとして一定の成果を上げているものの、表参道ヒルズ店だけで運営していることから発信力に欠ける部分もあり、今秋をメドにリニューアルに着手。「URBS」の看板はそのままにWEB事業部に運営を移す。
同事業部には長年、バイヤーを務めたスタッフなど多様な人材がいるため、専用のチームで運営に当たり、ほかでは手に入りにくい価値のある商品をセレクトしたウェブショップとして磨きをかける。
また、アーバンリサーチドアーズ南船場店が、無料のECサービス「BASE」を使って運営している家具の通販サイト「ドアーズリビングプロダクツ」も10月頃をメドにWEB事業部が運営を引き継ぎ、自社システムに切り替えてリニューアルオープンする計画だ。
サイト刷新に合わせて、同社が展開する業態「アーバンリサーチストア」や「アーバンリサーチドアーズ」の各店舗で販売している家具・インテリアを新サイトに集約して品ぞろえを広げるとともに、ウェブでは商品ごとに取り扱い店舗を表示して商品を確認したいニーズにも応えていく。
同社では、「URBS」や家具サイトを自社システムに切り替え、自社会員サービス「URクラブ」のメンバーにアプローチできる環境を整えるほか、WEB事業部がサイト運営に乗り出すことでEC展開をさらに加速する。
また、同社はメディアサイトを4月頃に開設する予定で、各通販サイトで販売する商品の情報も掲載して送客につなげるが、第三者の視点も取り入れ広く閲覧されるメディアを目指す。
オムニサービス出そろう
【アバハウス】
アバハウスインターナショナルは、消費者が実店舗とECの両チャネルをスムーズに行き来できる"オムニチャネル化"で先行している。
ネットとリアル店舗との連携強化に積極的で、オムニ戦略を進めるのに不可欠な両チャネルの顧客IDとポイントを早くから共通化しているのに加え、両チャネルで在庫を相互活用する取り組みでも全社的な機会ロス低減などの観点から成果を上げている。
店頭のEC在庫活用については、15年10月にタブレット端末を使った接客を、サイズや色違いの欠品が生じやすい靴のブランドで始動。店頭で欠品していてもEC用の在庫があればタブレットを介して店に取り寄せたり、自宅配送も可能で、支払いは店頭で行う。
タブレット接客の仕組みは昨年初めまでに全ブランドに拡大。同接客に慣れた靴ブランドを中心にEC在庫を販売する件数は順調に増えているようだ。
一方、自社通販サイト「アットシェルタ」での店頭在庫活用は16年1月にスタートした。EC用の在庫が欠品している商品であっても、実店舗に在庫があれば販売できる仕組みを構築。店頭在庫を引き当てる際はルールを設け、特定の店舗に集中しないように在庫確保のリクエストを出している。
そのため、自社ECからリクエストを受けた店舗は原則、在庫確保に協力する必要があり、対象が全ブランドに広がっていることもあって、自社EC売上高に占める店舗在庫引き当て分はスタート当初の15%程度から18~20%に拡大。セール時期は30%程度まで高まるという。
アバハウスの場合、集客したチャネルに売り上げを計上しているが、「自社ECから店舗在庫を引き当てて販売する金額と、実店舗がEC在庫を活用して販売する金額はほぼ同じ」(木村保行取締役)としており、同社が展開するオムニ施策は消費者の満足度を高めるのはもちろんのこと、リアルとネット双方の販売チャネルにとってメリットがあることも確認できた。
他のオムニ化施策については、自社ECでは商品詳細ページにある「店舗在庫を調べる」ボタンをクリックすると在庫のある店舗が表示され、簡単に試着予約ができるサービスも実施している。また、今春には自社ECで購入した商品をリアル店舗で返品できるサービスもスタートする予定で、アバハウス流のオムニサービスが出そろうことになる。
店舗での返品サービスはまず、4~5月をメドにメンズ向けファッションブランドの路面店でテストを実施し、オペレーションなどに問題がなければ順次、対象店舗を広げたい考え。店舗が行う返品処理の手間を考慮し、返品された商品は店舗在庫とする仕組みも含めて効率的な運用方法を模索していく。同サービスは試着予約と同様に実店舗への来店につながるため、顧客接点のひとつとして有効活用したい考えのようだ。
EC専用ブランド始動
【三陽商会】
三陽商会は、EC事業の主要販路である自社通販サイト「サンヨー・アイストア」で扱う商材の強化に乗り出す。EC専用ブランドのテスト販売を始めているに加え、自社ECでは他社商材を販売するモールビジネス化にも着手する。
同社では展開ブランドの多くが百貨店を主販路とし、EC市場では高価格帯に属する商品がほとんどのため、「EC事業の成長には既存ブランドだけではどこかで限界がくる」(杉澤幸毅執行役員)という危機感がある。加えて、構造改革の推進で複数ブランドを廃止しており、商品数が最盛期に比べて少なくなっていることもEC専用ブランドを開発するきっかけになったという。昨年9月に始動したEC専用ブランド「ル ジュール」は、16年に休止した婦人服ブランドをEC専用に転換したもので、商標も含めて過去の資産を活用し、大きな投資をせずにスピーディーにスタートできるメリットがあった。
また、休止前のEC化率は15%程度と他のブランドに比べて高く、EC専用に刷新してもターゲット層は従来と同じ20代半ばから30代の働く女性に設定することで、同ブランドを知る顧客を再度囲い込むことも期待している。
一方、EC専用ブランドとしてウェブビジネス部が主導権を持ち、データなどを活用しながら商品を企画するほか、EC利用者が買いやすい価格に抑える。
また、自社ECでは商品の原価率をある程度高められるため、オリジナル商品だけでなく、ターゲット層にふさわしい商品の買い付けも含め、セレクトショップのような展開も可能なことから、新生「ル ジュール」ではバッグやアクセサリー、アロマディフューザーなどもそろえる。
これまでに、ボトムスよりもニットや軽衣料が売れる傾向が確認できたほか、雑貨などの買い付けアイテムの消化率が高いことから、今春シーズンはこうした動向を商品構成に反映している。
また、自社ECでの販売に続き、昨年12月には「ゾゾタウン」にも出店。「自社とゾゾさんの売り場では顧客層が異なるため、戦い方も違ってくる」(安藤裕樹ウェブビジネス部長)とし、商品の打ち出し方や、品ぞろえ自体に変化をつけることもあり得るという。
以前の「ル ジュール」はECチャネルで数億円を売っていたことも考慮しながら、同社ではEC専用商材全体で当面は10億円規模を目指す。
自社通販サイトのモールビジネス化についても、既存顧客との親和性をベースにしながら品ぞろえを拡充することで売り場の魅力を高め、顧客満足度の向上とユーザー層の拡大を図る狙いだ。
そのためにも、50万人を超える「サンヨー・アイストア」会員に新たな商品・サービスを提供できるプラットフォームを構築する考えで、第1弾としては昨年12月に北欧を中心とした時計のセレクトショップ「ノルディックフィーリング」の商材を期間限定でテスト販売したところ、クリスマスのギフト需要に時計がマッチしたこともあって予想以上に売れた。
今期はアンケートなどで得た自社顧客の購入意欲が高い商材をテスト的に販売したり、三陽商会が展開する「マッキントッシュフィロソフィー」や「ポール・スチュアート」といったブランドでは服以外のサブライセンス商品もあることから、当該商品の販売も視野にあるという。