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2018.02.22

注目の新興モールに迫る 中国越境ECの次代の売り場は、物流、集客、強みは様々

 未だ衰えを見せない中国向けの越境EC市場。競争環境が激化する中で、最近は独自の物流スキームや集客力を武器に有力な日本ブランドの出店開拓を図る新たな越境ECプラットフォームの存在が際立っている。アリババやジンドンといった先行する大手仮想モールでの出店だけではうまく売り上げを伸ばし切れていないような日本企業にとって、果たして救世主となれるのか。注目の新設モールを中心に、その特徴や魅力を詳しく見ていく。
 
商品事前登録や物流などで強み
 

 ANAホールディングスなどが出資するACDは昨年12月より中国向けの越境ECモール「全日空海淘(ぜんにっくうはいたお)」を開始。メーカー、ベンダー企業合わせて400社以上の商品を2万SKU取り扱っている。
 
 現状、中国向け越境ECは大きく分けて2つの方式があり、中国消費者から注文が入るたびに日本からEMS(国際宅配便)などを利用して直接配送する「直送モデル」と、あらかじめ中国の保税区に商品を(大量)輸送して、現地で保管・出荷する「保税区発送モデル」がある。前者は個人間取引ならではの手軽さがある一方で、関税未納やリードタイムの長さといった課題がある。後者はリードタイムが短く、30%減税の優遇措置のメリットがある一方で、現地でかかる保管費用や急な法改正などによって生じる在庫リスクの可能性などがある。
 
 全日空海淘はこの2つのモデルとは少し異なるもので、特許を取っている独自の「商品事前登録受発注システム」を使いながら保税区モデルと同様に30%の減税が受けられるほか、ANAグループによる一貫輸送を活用しているところが特徴となっている。
 
 まず、商品登録では同システムを通じて出品商品の情報を日本国内に居ながら中国の税関に登録することが可能。現地の法令を順守しているかなどのチェックを受けて、事前に中国での販売許可を得ることができる。
 
 物流に関しては、IT制御の越境EC専用倉庫で事前の申告内容と照らし合わせながら、ピッキングや梱包処理などを実施。ANAグループの物流網を活用して日本国内から現地消費者まで商品を流通させることで安全・安心を担保している。関税についても同社が通関時に「立て替え納税」することで、未納が発生しないスキームとなる。
 
 また、保税区モデルに関しては来年から原産地証明書や放射能検査合格証など通関証明書の提出が必要になると言われているが、全日空海淘は事前登録であるため証明書が不要となっており、その影響を受けることもないようだ。
 
 そのほか、モールでの購入に当たっては本人確認のための「中国居民身分証番号」が必要になるため、顔が見える利用者だけを対象にできる。代理購入による転売トラブルなどを防ぐ仕組みができている。
 
 立ち上がり1カ月間での動きとしては、食品ではラーメンや菓子、サプリメント、日用雑貨ではシャンプーや化粧品などが好調に推移。2月からは旧暦元旦の「春節」に合わせて、中国SNSの「WeChat」と連携して、セグメントしたユーザーに向けて各種宣伝も始めている。
 
 直近の課題には、リードタイムの短縮を掲げており、現状では注文を受けてから配送までに1週間~10日間程度がかかっているが、それを半分程度にすることを目指していく。なお、2019年度中には商品数が30万SKU、モール取引高では300億円にすることを目標としている。中長期的にはアジアでの他国向けや、日本向けの輸入などでも同様の仕組みを使って横展開することも検討している。
 
SNS会員に向けてくちコミで訴求
 

 中国でSNSやEC事業を手がけるRED(小紅書)が運営する中国向け越境ECモール「RED」は、今年1月より日本企業の出店開拓強化に乗り出している。
 
 同モールの最大の特徴は同社のSNSサービスを利用している会員に向けてアプローチできるということ。元々、同社は中国で商品のくちコミ情報を記事や写真投稿でシェアし合うSNSサイトを運営しており、14年よりコスメ・スキンケア用品や日用品、インテリア、食品・健食、ファッション、デジタル家電などを取り扱う仮想モール機能を追加した。
 
 同モールのユーザーとなっているのは「Z世代」と言われる1990年代後半以降に生まれた若年層を中心とした7000万人以上。利用者はSNSに投稿された様々なブランド・商品のくちコミ記事を元にして気になる商品を検索し、そのままモールの販売ページに移って購入するような流れとなっている。著名人やインフルエンサーによる情報発信だけではなく、同世代の一消費者の視点から語られるくちコミは、購入の理由や商品特徴、使用感などをリアルに表現しており、読み手にとって大きな購入の後押しになるという。
 
 自然発生するくちコミが販促のベースとなっていることから企業の広告枠などはなく、出店料金に関しても、初期費用や月額料金などが不要で、売り上げ手数料のみとなる。大手の仮想モールのように巨額の販促費用を必要としないことから、同社では「ソーシャルネットワークからECに変化していくということは、特に中小ブランドにとって重要。いち早くローコストで中国の市場開拓に参入できる」(ミランダ・チュー代表)とそのメリットを説明している。
 
 先行している出店企業の成功事例としては、化粧品の総合サイト「@コスメ」を運営するアイスタイルや、化粧品メーカーのコーセーなどがあり、それぞれ利用者によるレビューの輪が広がりブランドファンの開拓や売り上げ拡大につながったようだ。
 
 すでに自前のSNS上で優良な見込顧客を抱えているプラットフォームであることから、参画企業にとっては集客面で大きなアドバンテージが期待でき、特に若い女性向けにマッチする商材を展開しているブランドとは高い親和性が見込めるだろう。
 
年内に流通総額で500億円規模へ
 

 新興の越境ECサービスとして急速に拡大を遂げているのが、Inagora(インアゴーラ)が手がける中国向け越境ECプラットフォーム「豌豆公主(ワンドウ)」だ。
 
 「ワンドウ」は日本商品特化型ショッピングアプリとして15年8月に開始。インアゴーラが商品情報の制作・翻訳、物流、決済、販促などを担うため、利用企業はインアゴーラの日本国内倉庫に商品を配送するだけで中国の顧客に商品を訴求できる。この手軽さが受け、「ワンドウ」では約2600ブランド・4万SKU(17年11月時点)を取り扱っている。
 
 インアゴーラでは「情報の越境」に注力しており、ブランドのストーリーやユーザーのくちコミ、商品の使い方などを発信するブランディングやセールスプロモーションも支援し、その上で中国人消費者に同プラットフォームで販売する。
 
 また、中国の大手仮想モール「JD.com」など複数の中国のプラットフォームにも「ワンドウ」として出店しているため、様々なチャネルを通じて露出を図ることができるのも強みのようだ。
 
 昨年にはKDDIと資本業務提携を締結し、今年2月からKDDIグループが運営する仮想モール「Wowma!(ワウマ)」の出店店舗向けの越境プランも開始するなど、取引を拡大している。
 
 インアゴーラは流通総額で18年に500億円、19年には1000億円、20年に1800億円を目標に掲げている。
 
 
【売り場選びのポイントは?】
 
 
モール自身の"販売者実績"も判断の材料に
 
 
 
 マーケティング支援などの立場から数年前より中国向けビジネスに携わっているある企業のトップは、開設ラッシュが続く越境ECのプラットフォームの選び方として「極論だが、中国向けの越境ECに関してはプラットフォーム自身がアマゾンのように販売者としても参画し、売り場の強みや弱みを十分に理解した上で自らの成功例を示しているようなところがいいのでは」と語る。
 
 同社は過去に中国の現地政府と官民一体で行う越境ECプラットフォームの運営を支援していたが、当初予定していた集客スキームが実現できず、計画自体が白紙になる事態に巻き込まれたことがあった。「結果的に、(中国の)官が主体となって行ったマーケティングが失敗だった」と分析しており、両者のアイデアや運用手段を官民一体でうまくまとめ上げきれず、当初参画予定だった大手企業も出資を見合わせたことが白紙の決定打になったという。
 
 その苦い経験から、国をまたいだビジネスは一民間企業の手だけではコントロールできないような想定外の事態が起こる可能性があると分析。プラットフォーム側も何らかの形でプレイヤーとしてのリスクも背負いつつ、先んじて自らの成功事例を出店者に提示しながら事業の健全性を証明する姿勢が求められるというのだ。
 
 出店企業側としても、先行する他の出店企業がどんな商材をどういったタイミングで売り出してどれだけの販促費用をかけて成功したのかを詳しく確認する基本的な作業は欠かせない。また、世界的ブランドとしてすでに認知され、中国に現地法人も抱えているような大企業の成功事例が果たして自社の参考になるのかもよく見極めたいところだ。共感できる成功事例もないままに、プラットフォーム側が提案する"赤字覚悟の販促"などを鵜呑みにすることは非常に危険と言えるだろう。
 
 そのほかにも海外消費者ならではの商品返品率の高さや越境ECに関わる突然の法規制の動きなど、日本とはまた毛色の違ったトラブルが出てくることも予想される。中国のEC市場自体が拡大傾向にあることは間違いないが、あらゆる問題に即応できるビジョンを持った確かな売り場選びを行うことを心掛けたい。
 
 
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