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2018.01.11

アマゾン、参考価格〝サバ読み〟 割引率、不当な吊り上げで処分

 

 消費者庁は12月27日、不当な二重価格表示を行っていたとしてアマゾンジャパンに景品表示法に基づく「有利誤認」で措置命令を下した。実態の伴わない「参考価格」を表示し、割引率を不当に吊り上げていた。アマゾンは数億点もの商品を扱い、国内の年間流通総額が2兆円を超える通販業界の巨人。だが、販売現場では今回の処分以外にも根拠があいまいな「参考価格」の問題が指摘されている。
 
 
 「アマゾンの『参考価格』のシステムが妥当かといえば出品者からみても不信感がある」。アマゾンに出品するある事業者は、今回の事態が起こるべくして起こった問題とみる。これまでも実態のない「参考価格」を悪用した販売が横行してきたとみているためだ。まず、「参考価格」が表示される仕組みを振り返りたい。
 
 アマゾンでは、通常の販売価格とは別に「参考価格」が表示される商品がある。その際、同時に割引率も表示される。
 
 「参考価格」は、アマゾンが委託した仕入れ先や出品者が管理画面から任意に入力できる仕組み。メーカー希望小売価格などが一般的だが、アマゾンが出品者に示す「参考価格」のルールに沿って入力できる。アマゾンを含め、複数の出品者が「参考価格」を入力することが想定されるが、ユーザーが確認できるのは販売価格が競合他社より安いなど諸条件を満たし、トップに表示される、いわゆる"カートをとる"という状態となった出品者が表示する参考価格のみになる(アマゾンはトップ表示の基準について非公開)。
 
 一方、出品者の管理画面から見ると、「『販売価格』と『セール価格』の入力欄がある」(出品する事業者)という。少し分かりにくいが、「セール価格」を入力すると、「販売価格」として入力した価格を比較対象に「参考価格」が表示される。「販売価格」のみを入力した場合、サイト上で割引率は示されず、「価格」のみが表示される。
 
セールで不当に高い割引率も
 
 ただ、アマゾンに出品する事業者の中には、この仕組みをマーケティングにうまく利用する事業者もいるという。前出の事業者が話す。
 
 「例えば、2カ月後にセールをやりたいと考えた事業者が、事前にあえて『販売価格』を吊り上げて入力しておく。セールになったら『セール価格』を入力すれば、セールが始まった時に『参考価格』に対して"半額以下"など不当に高い割引率で表示できる」。
 
 ほかにも「出品者は賞味期限切れが近い商品の在庫を早く処分したいと考える。このため競合品と比較して、安価な販売価格を入力し、『参考価格』とともにトップ表示させることで自社の商品を購入されやすくして売りにつなげる」(別の事業者)といった事業者もいる。
 
根拠あいまい自らルール抵触
 
 今回、不当表示と判断された商品の場合、製造事業者はアマゾンと直接の取引関係になく、表示への関与を否定している(プラスは本紙掲載までに未確認)。その上で、アマゾンのサイト上で表示されていた参考価格について、ブレーキオイルの製造元である和光ケミカルは「対象の商品は3564円(税込)。価格はホームページやカタログ記載のもの以外出していない」と回答。参考価格は「4640円」、割引率は「23%」と表示されていたが、実際の販売価格とメーカー希望小売価格との差は数円だった。参考価格の根拠も分からない。
 
 甘酒の製造元である篠崎も「実際のメーカー希望小売価格は713円(税込)」と話す。参考価格は「3780円」、割引率は「75%」と表示されていたが、「昨今の甘酒人気で一時期、製造が追いつかず、転売屋が横行した。その過程で便乗値上げがあり、4000円近い市場価格になっていたことはある。それをアマゾンの入力の方が戦略的に参考価格としたのでは。定価でなく(こちらとしては)不本意。参考価格に明確な定義があるわけでもなく誤認を招く」と話す。
 
 アマゾンは、出品者に示す参考価格のポリシーの中で、「広く小売業者に告知している価格」であることを求め、メーカーカタログやパンフレット、ウェブサイトなど参考価格の根拠となる価格が印字された資料を入手し、保管することを求めている。同時に「最新の価格」であることなどを求め、過去の販売価格は表示できないとしている。だが、実際は自ら行っていた表示がそのルールに抵触していた。
 

 
アマゾン、不服申し立てに含み
 
 「参考価格」は、ユーザーだけでなく、事業者からみても実態を捉えにくいものだ。
 
 二重価格表示を行う際に比較対象に用いられることのある「当店通常価格」の場合、相当期間、通常価格で販売した実績が必要になる。景表法上のガイドラインも示され、ルールから逸脱すれば処分対象になる。
 
 「メーカー希望小売価格」もメーカーが広く告知している必要がある。仮にメーカーが市場価格より不当に吊り上げていた場合は独占禁止法で指導対象になり、これまでも是正が図られてきた経緯がある。一方、定義があいまいでこうした制約を受けにくいのがこれらに該当しない「参考価格」だ。
 アマゾンの違反にも「市場の売価を相当調べた上で設定した参考価格ならば理解できるが、メーカーから聞いたみたいな数字であればいくらでもサバ読みでき、実態が伴わない。どういう理屈か知らないが、よほどプレミアがついた商品でなければメーカー希望小売価格より高いこともあり得えない」(行政関係筋)との指摘がある。
 
 
 アマゾンは今回の事態に陥った理由に「消費者庁と見解の相違がある」としており、「命令書の内容を慎重に検討して対応を決定する」と、処分不服の申し立てに含みをもたせている。
 
 一方の消費者庁は、5商品以外にも対象となる商品がある可能性に触れているが、「数億点の商品があり、正確な参考価格が表示されるよう継続的に監視している。入力した仕入れ先、販売事業者に根拠の確認や参考価格の削除の措置をとることがある」(アマゾン)としている。
 
 だが、アマゾン自身が言うように、自社通販サイトで扱う商品数は数億点に上る。販売者の側面を持つアマゾンが現状のシステムのまま、これら商品の表示を管理するのは容易ではない。現時点でアマゾンは明確な再発防止策を示しておらず、今後の動向が注目される。 
 
 
「参考価格」で有利誤認
 
同様の問題ある可能性指摘も
 
            【アマゾンの処分概要】
 
 

 アマゾンに対する処分に際し、消費者庁は、ほかにも同様の表示が行われている可能性を示唆している。違法認定されたのは5商品。ただ、同様の不当表示がある可能性は残されている。アマゾンは「見解の相違がある」としているが、数億点に及ぶ商品表示の管理を行っていくのは容易ではない。
 
 違反認定されたのは、クリアフォルダー3商品とブレーキオイル、甘酒の5商品(=画像)。事務用品等製造のプラスが製造する「プラス クリアホルダー(100枚入り)」の場合、参考価格が「9720円」のところ「1000円(90%オフ)」で販売。同様に自動車用エンジンオイル等を製造する和光ケミカルの「ブレーキフルード」は、参考価格「4640円」を「3558円(23%オフ)」、酒類製造の篠崎の「国菊甘酒」は、参考価格「3780円」を「956円(75%オフ)」で販売していた。
 

 だが実際、クリアフォルダーは、製造事業者が社内の商品管理上、便宜的に定めた価格であり、ブレーキオイル、甘酒はメーカー希望小売価格より高く任意に設定された価格だった。甘酒は、メーカー希望小売価格6本分にあたる価格を表示していた。
 
 表示期間は、最長でクリアフォルダーの約2年半(14年10月~昨年5月)、ブレーキオイルは16年9月~昨年6月末、甘酒は昨年6月から同年7月まで表示していた。
 

 不当な二重価格表示は通報で発覚するケースが多い。今回、消費者庁は、処分対象とした商品以外にも不当表示がある可能性に触れているが、扱う商品数は数億点。消費者庁が主体的に監視するのは膨大な労力がいる。今回も年間を通じてさまざまな不当表示事案を扱う必要がある中、行政効率と処分効果を考え、違法が明らかな表示に絞り迅速に処分したとみられる。アマゾンは、定期的に監視を行っているとするが、膨大な商品数を自ら監視するのは容易ではない。今後もアマゾンの二重価格表示の問題は尾を引きそうだ。
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