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2025.06.15
【NRF APAC 2025】印「ミントラ」のCEOが語る Z世代戦略

写真右:「ミントラ」のナンディタ・シンハCEO
「ミントラ(Myntra)」のナンディタ・シンハCEOが、2025年6月4日に開催された「NRF 2025: リテールズ・ビッグショー・アジア・パシフィック(APAC)」2日目のセッションに登壇した。
「ミントラ」は、インドのEC「フリップカート(Flipkar)」傘下のファッションECで、約62億ドル(2023-24年度)の年商を誇る。インドを代表するファッションECである同社が提供するZ世代特化型サービス「フォワード(FWD)」が脚光を浴びている。Z世代の行動特性にテクノロジーと即時性で応え、従来とは異なるユーザー体験を創出している点が評価されている。
インドのオンラインファッション市場は急拡大中だ。現在の市場規模は約1,300億ドルで、その約8割をファッションが占める。一方でオンライン浸透率はわずか13%にとどまり、伸びしろは大きい。
司会を務めた世界三大コンサルティング会社「ベイン・アンド・カンパニー インド」のマネージング・パートナー、シャヤム・ウンニクリシュナン氏は、冒頭で「インドのオンラインファッションは年10〜12%の成長を続けています。5年後には市場規模が400〜450億ドルに達するでしょう」と強調した。
Z世代専用ラインFWDの成長
オンライン化を牽引するのはZ世代である。「ミントラ」によると、現在オンラインファッションユーザーの約3分の1にあたる6,000〜7,000万人がZ世代で、その成長率は他世代を大きく上回る。「ミントラ」が立ち上げたZ世代専用ライン「ミントラ フォワード(Myntra FWD、以下FWD)」は、このニーズに応えるための戦略的プロジェクトだ。
シンハCEOは「Z世代は“トレンドファースト”かつ“バリューファースト”です。ブランドよりSNSで話題のアイテムを選び、価格が手頃でなければ購入しません。従来のミントラだけでは彼らのスピード感に応えきれないと判断しました」とサービス誕生の背景を振り返る。

トレンドマシンが心臓部
「FWD」の最大の特徴は、圧倒的な商品投入量だ。常時約20万SKUを掲載し、毎週4,000SKUを追加する。「在庫リスクは?」という問いに対し、シンハCEOは「月間2,000万ユーザーの検索・閲覧・購入データをAIがリアルタイムで解析し、トレンドの立ち上がりと終息を秒単位で把握します。外部のトレンド予測機関やクリエイターからのシグナルも加味し、在庫を瞬時に調整する“トレンドマシン”が心臓部です」と答える。
データ活用はサプライチェーンにも及び、従来9か月を要していた商品サイクルを13週間に短縮。将来的には15日以内の市場投入を目指すという。
Z世代にリーチする鍵は「共感」と「共創」だ。ミントラは10万人超のインフルエンサーと提携し、月30万件以上のUGC(ユーザー生成コンテンツ)を創出。さらに一般ユーザーが投稿者となる「Ultimate Glam Clan」プログラムを設けた。
「Z世代は有名人より“自分に近い存在”の声を信頼します。ローカルインフルエンサーが地域文化を反映したコンテンツを発信すると、エンゲージメントが一気に高まるのです」とシンハCEOは説明した。
ミレニアルとZ世代で異なるトレンドをどう捉えるか
ミレニアル世代も依然として大きな収益源だ。シンハCEOは、「ブランド志向のミレニアルには“House of Brands”、トレンド志向のZ世代には“House of Trends”。AIが閲覧シグナルを解析し、最適なハイウェイへ自動で誘導します」と、ユーザー導線を二つの「ハイウェイ」に分けたと説明する。
このパーソナライゼーションを支えるのが、サイズ推奨アルゴリズム、バーチャル試着、AIスタイリスト「Fashion GPT」、会話型アシスタント「Maya」などのツール群だ。
30分配送「Myntra Now」でQコマースをファッションに適用
Z世代の「今すぐ買いたい」に応える最終兵器がクイックコマース(Qコマース)サービス「Myntra Now」だ。バンガロールでの実証を経てムンバイ、デリーへ展開し、30分以内の配送を実現している。「各エリアの需要データを活用し、1〜1.2万SKUをローカル在庫化しています。旅行シーズンや婚礼シーズンに合わせて在庫を入れ替えれば、売上が200〜500%跳ね上がることもあります」という。
食品分野から始まったQコマースは、いまやファッションでも不可欠だ。シンハCEOは今後について「O2O連携を強化し、さらにスピードとカバー範囲を広げていきます」と語った。
「テクノロジーを知らずして、Z世代には届かない」。今回のカンファレンスでシンハCEOが示したのは、まさにそんな時代の到来だ。ユーザーが“つながる・参加する・即時に得る”ことを求める今、ファッションECも従来の総花的な品揃えでは通用しない。
トレンド、データ、スピード、そして共感。 日本とはECでの成長余地、Z世代の人口が大きく異なるが、この4つをいかに同時に叶えるかが、グローバルサウスにおいて重要であることを説いたカンファレンスであった。
画像:NRF 2025 APAC 提供