NEWS

2018.03.22

【2018秋冬東京ファッションウィーク3日目】17シーズン続いたストーリーを完結したマトフ、次世代の東京ウィメンズファッションを担う若手デザイナーたちが登場

 2018年3月21日、季節外れの激しい雪となった2018秋冬アマゾン ファッション ウィーク東京(以下、AFWT)3日目。マトフが、17シーズン続いたストーリーを完結したショーを開催。また、若手の注目ブランド、ケイスケ ヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)、ヨウヘイ オオノ(YOHEI OHNO)、LVMHヤング ファッション デザイナー プライズのセミファイナリストであるアキコアオキ(AKIKOAOKI)などが登場。そして、キディル(KIDILL)やヴィヴィアンノ スー(VIVIANO SUE)、昨シーズンAFWT初参加ながら貫禄を見せつけたエンハンス(ENHANCE)、インドネシア出身で現在はアントワープを拠点に活動しているデザイナー ヘヴン タヌディレージャ のブランド、ヘヴン タヌディレージャ アントワープ(HEAVEN TANUDIREDJA ANTWERP)もランウェイを開催した。

 

マトフ(matohu)

 マトフ(matohu)2018秋冬コレクションは、「なごり」と題し、終わっていくものを慈しむ気持ちを込めた。2010年から17シーズン続いた、「日本の眼」という大きなテーマを基につくり上げてきたストーリーが、今シーズンで完結した。

 “マトフ”のフィルターを通し、日本の歴史や伝統、工芸、技術、そして日常にも潜んでいる美意識をコレクションにのせて伝えてきた。先シーズンの鮮やかな色彩とパターンは、そのストーリーを締めくくる華やかなフィナーレだったのだという。そして今シーズンはその”なごり”を惜しむコレクションなのだ。秋冬のシックな色合い、木の実や枯葉をモチーフにした装飾やパターン、ツイードやヘリンボンなどの温かい素材。どこか物憂げな、だけど繊細で美しい、そんな日本の秋冬の美しさを表現した。「日本の眼」のストーリーは終わっていくけれど、何かが終わるイコール何かが始まるということ。フィナーレでモデルたちが桜の枝を持って登場したのは、その始まりを予感させる演出であった。

 この17シーズン続いた「日本の眼」は、今後展覧会を行う予定だという。そしてその準備と同時進行で、新しいストーリーもつくっていく。今後は、その発表方法もランウェイにこだわらず、映像やウェブなど、見せ方にも新しいアイデアを取り込みたいと語っていた。東京のファッションウィークを牽引してきたブランドが、今後どんな展開を見せてくれるのか、期待が高まる。

「マトフ」2018秋冬コレクション

ヴィヴィアンノ スー(VIVIANO SUE)

 ヴィヴィアンノ スー(VIVIANO SUE)は、「Melange Etrange(奇妙な混合)」をテーマに、艶やかな輝きを纏ったエレガントなコレクションを紡ぎ上げた。

 80年代のB級SF映画をインスピレーションに、日本、中国、西洋の素材や要素をミックスさせ、モノトーンの印象が強い同ブランドとしては珍しく、様々な色をコレクションに取り込んだ。80年代から見た未来を表現するため、あえてくすんだような色使いもしているが、ラメやサテンの煌めきがコレクションに華を添えている。

 また、今シーズンはインビテーションに「VIVIANO SUE x TADASHI HARADA」と書かれていたように、ヘア&メーキャップアーティストの原田忠士氏がヘアメイクをすべて担当した。最初は侍の髷のように結われていた髪が、ショー後半では花火のように咲き誇る。その演出のため、全てのモデルが2回ずつ登場した。

 そしてフィナーレではヴィヴィアンノ スーのミューズだという中島美嘉が、同氏のイメージに合わせてデザインされたというドレスを纏い登場。黒と黄色のコントラスト、幾重にも重なるレースが織り成す、満開の花のようなラグジュアリなドレスと圧倒的な存在感で見る者を魅了した。

「ヴィヴィアンノ スー」2018秋冬コレクション

ケイスケ ヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)

 意識的に大人のエレガントなデザインを心がけたというケイスケ ヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)は、自身の得意とする制服のディテールやユースの雰囲気を封印し、自立した強く美しい女性像を表現した。

 ショルダーを大きく強調したジャケットやドレスは、ヘムに向かってラッフルやスリットを施し、だんだんとシルエットを変形させていく。そしてアウターのボタン部分が大きくうねっていたり、ボタンがあるべきところになく、ベルトでしばって留めるディテールであったり、テキスタイルが身体に巻きつくようなアイテムなど、大人の女性が持つ空虚感や成長する過程でもがいている様子を抽象的に表現している。

 印象的なフルーツや野菜などのプリントは、成熟しても新鮮味を持っていたいという意志を表しているのだという。ラグジュアリーなシルクの服にフルーツのラバープリントを貼ることによって生まれるコントラストでコレクションに遊び心を加えている。

 「シーズンを重ねていくこと、単独でショーをすること、すべてが自身の成長につながっている。成長することは大人になること。大人になる過程での感情やまどろみを表現したかった」とデザイナー、吉田圭佑は語った。

「ケイスケ ヨシダ」2018秋冬コレクション

キディル(KIDILL)

 渋谷と恵比寿の間の山手線沿いにあるイベントスペースでコレクションを発表したキディル(KIDILL)。廃墟のようなスペースに、2つのエリアを設けた。1つの部屋では、紙袋を被ったモデルが並ぶ。もう1つの部屋は、赤く照らされ、様々なお面を被ったモデルたちがプレゼテーションを行った。

 これらの演出やコレクションは、ロンドンの3大パンクの一つとして知られるザ・ダムド(The Damned)に着想を得ている。今季のメンズトレンドであるブリティッシュ・パンクをベースに、キディルらしいアートグラフィックが目をひく。スプレーで書いたような文字、ポスター風プリント、ボーカルのデイブ・バニアンの顔を大きくフロントにあしらったニットなどが登場。また、ピンクやブルーのテーラリングも美しい。

 同色・同柄で合わせたり、ブラックで抑えたりするなどして、得意のスーパーレイヤードを大人っぽく仕上げたのも今季の特徴だ

「キディル」2018秋冬コレクション

エンハンス(ENHANCE)

 エンハンス(ENHANCE)は、ブランドのミューズであるファッションの最前線で活躍していた荒木節子女史をイメージし、今シーズンも格好いい女性の強さを引き出すコレクションをつくり上げた。今シーズン印象的なのはフラワーモチーフ。強さの中にある女性らしさを模索した時にたどり着いたのが”花”だったという。デニムやレザーでひとつひとつ手作りされた花は、スカーフやスカートといったアイテムとなり、アバンギャルドな表現の中で優しさを演出していた。

「エンハンス」2018秋冬コレクション

アキコアオキ(AKIKOAOKI)

 東京の若手デザイナーの中でも注目度が高いアキコアオキ(AKIKOAOKI)。プレゼンテーション形式での発表は、「スタイリングされてない、一着一着のアイテムをしっかりと見て欲しかった。アキコアオキのスタイリングができていく過程を見せようと思った」から。

 今シーズン、アキコアオキが表現したかったのは、群衆から立ち上るひとりの人間性。今はトレンドとして多様性が叫ばれているが、狭い世界で規制の中で生きている人のユニフォームを、ポジティブに捉えられるようなコレクションにしたかったのだという。

 ベースとなるのはメンズのテーラリング。ジャケットやシャツなどのベーシックなアイテムを解体し、自由な発想で再構築していく。ノースリーブや背中が大きく開いたジャケット、ランダムなプリーツとアシンメトリーなシルエットのスカート、そしてそのセットアップとしてスタイリングされるビスチェ。色味や素材に奇をてらわない分、その独特なシルエットやパーツの組み合わせ方が強調される。

 印象的なハンドペイント風のプリントは、ストリートのスプレーアートをイメージ。ストリートをジャックする感覚で、”制服をジャック”し、その閉塞感を打ち破った。

ヨウヘイ オオノ(YOHEI OHNO)

 インダストリアルな表現でフューチャリスティックなコレクションを展開してきたヨウヘイ オオノ(YOHEI OHNO)。今シーズンはぐっとリアルに、身近に感じられるコレクションを紡ぎ上げた。

 まずインスタレーションで発表すると決めてからテーマを考え始めた今回は、ランウェイのように楽しいだけではなく、より人の生活に寄り添ったものを作りたいと思ったのだという。素材も、コーデュロイやツイードなど、あたたかみのある、人間味を感じられるものを用いた。ただ、肩や腕周りを強調したシルエットや、ハイウエストなどのディテールで、新しい試みの中にもブランドらしさを残していた。

リョウタムラカミ(RYOTAMURAKAMI)

 同日には、経済産業省・資源エネルギー庁が立ち上げた「SAVE THE ENERGY PROJECT」で、省エネに取り組む企業とコラボレーションしたリョウタムラカミ(RYOTAMURAKAMI)やパーミニット(PERMINUTE)もランウェイショーを行った。

 リョウタムラカミ(RYOTAMURAKAMI)は「大阪のおばちゃんとガーリー」をテーマに、大阪のおばちゃんたちの自由な着こなしやネオンが鮮やかな大阪の町並みにインスピレーションにしたパワーに溢れたコレクションを発表。「SAVE THE ENERGY PROJECT」では、ユニークな編み地を創り出し、小ロット生産にも対応可能な「株式会社サトー」とコラボレーションし、ブランドのアイデンティティでもあるニットを製作した。

パーミニット(PERMINUTE)

 デザイナー半澤慶樹によって2016年に立ち上げられたパーミニット(PERMINUTE)。2度目のランウェイとなった今シーズンは、「インパクトを重視した先シーズンよりも、もっと日常に寄り添う服を作りたいという想いを込めた」と半澤は語った。しかし、パーミニットらしいエッジの効いたカッティングや小物使いも、より洗練された形で表現されていた。「SAVE THE ENERGY PROJECT」では、和歌山の75年以上も続く老舗ファクトリー「株式会社エイガールズ」とコラボレーションした。

文:山根由実
撮影:土屋航(matohu/VIVIANO SUE/KEISUKEYOSHIDA/KIDILL)
   山根由実(AKIKOAOKI/YOHEI OHNO/RYOTAMURAKAMI/PERMINUTE)
編集:アパレルウェブ編集部

メールマガジン登録