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2019.03.27
【2019秋冬東京 ハイライト5】平成最後の東京のファッションウィーク終了 育つ若手、続くボーダレス化
3月23日に閉幕した「アマゾン ファッション ウィーク東京2019秋冬」。2010年代の最後であると共に平成最後の東京コレクションとなった今回。デザインは自然からインスピレーションを受けたデザインなど、ナチュラルやリラックス、日常などがキーワードとなる一方で、それとは対極的とも言えるフェティッシュやフェイク、二面性などをテーマに、新しさを追求したコレクションも印象に残った。初めてメンズを見せた「タエ アシダ(TAE ASHIDA)」など、時代軸やウィメンズ、メンズなどの境目を無くした流れも続いている。
また、Amazon Fashion“AT TOKYO”が行われなかった中で東京と若手の真価が問われた今シーズン。だが、若手は着実に成長しているという見方が出来る一方で、注目を集めても数シーズンでショーを休止するブランドや支援を受けたシーズンしかショーをしないデザイナーも多く、海外で発表しているデザイナーが東京のファッションウィークをリードするという状況は変わらずだ。
「アンリアレイジ(ANREALAGE)」や「名探偵ピカチュウ」とコラボレーションした「コシェ(KOCHÉ)」、「若手デザイナー支援コンソーシアム」の1周年イベントとして経済産業省でショーを行った「ビューティフルピープル(beautiful people)」、イタリアのサルダリーニ社製のカシミヤフレークスを使用した「サルダリーニ カシミヤフレークス バイ ウジョー(SALDARINI CASHMERE FLAKES BY UJOH)」を発表した「ウジョー(UJOH)」などが話題となった。
第1回から「TOKYO FASHION AWARD」の海外審査員を務め、コレクションも見ているニック・ウースター(Nick Wooster)は印象に残ったコレクションとして「コシェ」や「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス(Children of the discordance)」などを挙げる一方で、「確実にいいコレクションを見せる“AT TOKYO”が行われなかったのは大きな変化だが、若手デザイナーにとっては見てもらうチャンスだったと思うし、メンズだけでなくウィメンズブランドも伸びると思う。大切なのは自分のブランドのマーケットはどこで、どんなポジションなのかを考えること」という。
また、アマゾンジャパンでは「“ATTOKYO”は、東京の数々のファッションシーンを誕生させたストリートから、近く新たなAmazon Fashion “AT TOKYO”をお届けする予定」としている。2020年代に向けた最初のシーズンであり、新しい年号の最初の東京コレクションとなる次回に向けて、東京のファッション・ウィークやデザイナー、若手の市場とポジションはどこなのか、何を目指すのか、アマゾンがどんな方向性を見せるのかなど、今後の展開も注目される。
コシェ(KOCHÉ)
「コシェ」はSHIBUYA TSUTAYAの屋上でコレクションを発表した。2016年に続き、2度目のアマゾン ファッション ウィーク東京となった今回。パリコレクションでは、モデルをサッカーチームのメンバーに見立てて、ドレスやサッカーユニフォーム、フラワードレス、国旗、ポールをモチーフにしたデザインなど、クチュール的なテクニックを駆使したドレスやスポーツウエアを発表したが、東京では5月に公開予定の映画「名探偵ピカチュウ」とコラボレーションしたデザインやピカチュウからインスピレーションを受けたようなデザインをプラスした。
パリでもクチュールとストリートの境界線をなくしてしまったような、独特のミックス感覚によるデザインを更に進化発展させたが、全員スタンディングで、日本人のインフルエンサーなどもモデルとして観客の間を歩くなど、ストリート的な雰囲気が更に強調されたように見えた。高度な技術とスポーツやピカチュウの自由さや人気、インパクトなどを併せ持つデザイン。貪欲なまでのわかりやすさ。一般消費者への認知度アップということでは、東京のファッションウィーク全体のレベルアップと同時に、「パリコレ学」に続く「東コレ学」のようなアピールなど、必要かもしれない、そんなことも考えさせた。
マトフ(matohu)
一瞬で消え去るショーではなく、作り手の思いや表情、もの作りを通しての出会いなどを伝えるため、前回から通常のランウェーショーではなく、映像、モデルとデザイナー自身の解説によるプレゼンテーションという形式でコレクションを見せた「マトフ」。
前回の青森・津軽地方への夏の旅に続き、今シーズンは冬の津軽地方を旅する映像を制作。そこで見た自然の美しさやそこにある伝統、技術などからインスピレーションを得たコレクションを発表した。ウールの上にウールでこぎん刺しを施し、更に縮じゅうをかけることで膨らみを持たせたコートや津軽塗のボタン、雪の上に雨が落ちた様子をジャカードで表現したというニットの長着、雪の結晶をポップに表現したワンピース。そして、ポリエステルとコットンの二重織りで氷の表面を表現した長着。
「雪の降る津軽を旅して雪の美しさとともに、そこで作られている工芸やもの作りの中に自然の美しさが如実に表れているということを感じた」と語るデザイナー。自然と技術が融合したリアルで日本的なコレクションだ。
サルダリーニ カシミヤフレークス バイ ウジョー(SALDARINI CASHMERE FLAKES BY UJOH)
「ウジョー」は動物に負担をかけない素材として注目されるイタリアのサルダリーニ社製のカシミヤフレークスを使用したアウターのカプセルコレクション「サルダリーニ カシミヤフレークス バイ ウジョー」を発表した。
サルダリーニ社の他のデザインとともに紹介されたのは異素材をドッキングしたジャケットやマフラーを巻き付けているようなクチュール的なドレープを駆使したコート、アシメトリーなど「ウジョー」らしいデザインだ。モンゴルで調達されたカシミヤをサルダリーニ社内でフレーク状に加工したカシミヤフレークス。ガチョウの羽を使用した通常のダウンと同じ機能を持ちながら、動物に負担をかけず、ステッチからはみ出すことが無いなど優れた機能を持っているという。
「中に詰めるので、自由度が高い。後ろ身頃の布でも間にカシミヤフレークスを挟み込むことでダウンと同じ効果を出すことが出来る」と説明するデザイナー。アバンギャルドとサステイナブル、機能性など様々なキーワードが共存するコレクションだ。
サルダリーニ社では「2年前に開発したが、ルイ・ヴィトンなど著名ブランドも使用している。東京のデザイナーはコム デ ギャルソン、ヨウジヤマモトなど、刺激的なスタイルを世界に先駆けて生み出すことで知られているが、日本市場は倫理的で持続可能なラグジュアリーに対して今後より敏感になると考えており、アマゾン ファッション ウィーク東京で発表することにした」としている。
ケイスケ ヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)
(c) JFW Organization
「ケイスケ ヨシダ」はミリタリーなどマニッシュで力強いデザインとフェティッシュなアイテムやフェミニンなムードが共存するコレクションを発表した。
頭に包帯のように布を巻き、戦争をイメージさせる力強いアウターや美しくシャープなジャケット、ミリタリーテーストのバッグを身につけたモデルたちは、SMのようなハイヒールを履く。また、胸部分が見えるジャケットやたくさんのロープで縛るようにボタンを巻き付けた細身のパンツもパワフルでありながらセクシー。80年代を思わせるビッグショルダーや解体し再生したデザインにもピンヒールや脚を見せるドレスなどとコーディネートしている。
80年代の象徴とも言えるアバンギャルドとボディコンシャス、当時のミュグレーを思い出させるムードなど、様々な力強さがミックスされたデザインだ。
ヒロココシノ (HIROKO KOSHINO)
先日開催した企画展「小篠弘子×ヒロココシノ アートとデザインの循環」など、デザイナーと画家の両方の顔を持ち境界線を越えようという活動を続ける「コシノヒロコ」。
リリースに「時代が変わろうとする今、私は新しい挑戦を試みようと思います」と書いた今シーズン。ピアニスト横山幸雄を招き、コレクションの場所で得た即興的インスピレーションによる生演奏とコレクションを披露するという新たな表現に挑戦。これまでになかったものを求め、ファッションと音楽、アートが混じり合うことによる新しいコレクションのあり方を提案した。
演奏のインスピレーションになるデザインは、クラシックなオートクチュールのような立体感と着物の直線が共存するヒロコらしいデザインを絵や着物のように平面化し、再び立体化したもの。一度平面にすることで、横から見ると立体感が更に強調され、コンピュータで計算し、形作られる、進化した折り紙や紙風船のようなムードも醸し出す。次回は、音楽から発想したコレクションを見せるのではと思わせるパワフルなコレクション。