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2013.04.05

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.7】2013~14年秋冬パリ・ミラノコレクション

 2013-14年秋冬・パリコレクションでは、各ブランドの原点回帰と野心的なチャレンジが交錯した。NYが発火点となったスポーティーなテイストを融和させたリアルな着こなしがパリのNY化を加速。一方、ミラノでは伝統的に強みを持つレザーやファーとの異素材ミックスがフェティッシュなムードを引き寄せた。表面に張り感をもたらすボンディング加工を取り入れつつ、エレガントな官能性を引き立たせていた。

 

 本物志向の大人女性に向けて、格上のおしゃれを象徴する素材としてレザーを提案する取り組みが相次いだ。馬具から始まった「HÈRMES(エルメス)」は、ゆかりの深いレザーをキーマテリアルに据え、上質の革特有の質感をまとわせた。丈長のアウターをはじめ、ケープやスカートなどもレザーであつらえて気品に満ちたつやめきを寄り添わせている。

 

 創業当時から「旅」を支えてきた「Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)」も旅につきものの「ホテル」を舞台に選び、クラシカルな貴婦人ルックを提案した。古風なシルエットのコートの上から細ベルトを巻くノスタルジックな装いはミッドセンチュリーのたたずまい。その一方でパジャマやランジェリーを翻案したナイティーなスタイルも披露し、デカダン(退廃的)な気分を醸し出した。

◆パリコレクション

(左)エルメス Paris 2013AW / Photo by Jean-François José
(右)ルイ・ヴィトン Paris 2013AW / Photo by Louis Vuitton
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 Hedi Slimane(エディ・スリマン)氏が引き継いで2シーズン目の「SAINT LAURENT(サンローラン)」は、1990年代グランジ風アレンジで、アーカイブからするりと一歩抜け出た。バイカージャケットやベビードールドレスなどを、LAガール風のボヘミアン的スタイリングで味付け。グリッターや透け見え演出も持ち込んで、息抜きのナイトデートに誘った。 

 「Lanvin(ランバン)」を任されて10年の節目を迎えたAlber Elbaz(アルベール・エルバス)氏は、流麗なカッティングはそのままに、「Help」「Love」といった言葉をかたどったメタリックジュエリーや、昆虫のモチーフでエモーショナルな装いに寄せた。レザーやネオプレン素材を用いて、ボンディング加工の柔和なシルエットを打ち出したのも、エルバス下の「Lanvin」では目新しい試みだった。 

 パリで新モードのうねりを起こし続ける「CARVEN(カルヴェン)」は常よりも穏やかな表情に整え、ノーブルテイストを濃くした。ふんわりした厚手生地のビッグシルエットのコートを軸に、淡い色合いを重ねた。襟元を横に大きく開き、短いネックウエアを交差させて首周りに視線を呼び込んだ。

(左)サンローラン Paris 2013AW
(中)ランバン Paris 2013AW
(左)カルヴェン Paris 2013AW
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◆ミラノコレクション

 パリに先だって開催されたミラノコレクションでは、過剰なデコレーションは避けながらも、ディテールや素材で、グラマラスやセクシーをアピールして気分を変える動きが広がった。 

 Miuccia Prada(ミウッチャ・プラダ)氏は「PRADA(プラダ)」の13-14年秋冬コレクションでは、片方の肩をあらわにしたり、スカート裾丈を左右で違えたりして、アシンメトリー(非対称)の世界に引き込んだ。1950年代風のクラシックなフォルムのワンピースを軸に据えつつ、両方の袖先には巨大なカフスウォーマーをはめ、異形の美を現出させた。 

 構築的なフォルムに定評のあるFrida Giannini(フリーダ・ジャンニーニ)氏の「GUCCI(グッチ)」は一転、ボディーコンシャスな官能美に向かった。まばゆい刺繍を施し、胸元に深いVスリットを入れるなど、なまめかしい仕掛けも盛り込んだ。リザード(爬虫類)レザーを多用したり、フィッシュネットで肌を透け見せたりしたセクシーな演出にもデカダン(退廃)が薫った。

(左)プラダ MILANO 2013AW
(右) グッチ MILANO 2013AW / Photo by Koji Hirano
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 ファーの着こなしを多彩に提案したのは「Marni(マルニ)」。形や色は飾り立てない代わりに、両ひじ先やブーツにどっさりファーを盛って、リュクスとぬくもりをふくらませた。首に巻いて片側にだけ長く垂らすファーのネックウエアは装いにリズムを与えていた。ファーのスモールケープも流行を予感させる。 

 「Dolce & Gabbana(ドルチェ&ガッバーナ)」は引き続き、シチリア島の風土に根差すクリエーションで我が道を行った。古い教会から着想を得て、重厚な刺繍をあしらったドレスにロマンチシズムを託した。ツイードのスカートスーツでマスキュリンも差し込んでいる。繊細なレースの透けるドレスはもはやシグネチャー的存在。終盤は真っ赤にランウェイを染め上げた。

 ミラノのライジングスター、Massimo Giorgetti(マッシモ・ジョルジェッティ)氏の「MSGM(エムエスジーエム)」はガーリーと英国紳士調をねじり合わせた。カラーリッチな花柄ダッフルコートにチェック柄のセンタープレス・パンツを合わせるようなプレイフルなマリアージュをまとめ上げた。レオパード柄とフローラルモチーフ、格子柄も引き合わせ、テイストミックスに仕上げた。

 パリとミラノで共鳴したのは、1シーズン限りの「使い捨て」トレンドは打ち出さず、タイムレスに着られるような普遍的なデザインを志向する方向感だ。ブランド固有のヘリテージ(遺産)の引力も強まった。同時に、フェティッシュへの接近、小物・ジュエリーへの注力といった取り組みも進んだ。価格帯の異なる新興アパレル企業との競争を強いられる中、ハイブランドが目指すビジネスの「かたち」が輪郭をはっきりさせ始めた2013-14年秋冬のコレクションだった。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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