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2025.09.08

【2026春夏東京 ハイライト1】フィジカルに絞り込んだファッションウィーク メンズではぶれない提案が中心

写真左から「ヨシオクボ」「ファンダメンタル」「アンセルム」「オリミ」

 

 2025年9月1日から6日まで2026春夏シーズンの「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO以下、Rakuten FWT)」が開催された。前身となる「ファッション戦略会議」を2005年に発足後、今回のシーズンで20周年を迎えたファッションウィーク東京。コロナ禍以降、オンラインでの発表も積極的に行われていたが、今シーズンは参加の23ブランドがリアルでのランウェイショーやプレゼンテーションを行った。

 

 メンズについては、海外セールスにタイミングを合わせて7月にショーを行ったブランドも多かったため、Rakuten FWT内での発表ブランド数は少なかった。しかしながら各ブランドがファッションウィークという話題性をいかしつつ、ショーの演出にこだわったり、多くの観客を招待できる広い会場を使ったりするなど、ブランドらしさは保ちつつ、コレクションの魅せ方にこだわったブランドが多く見られた。

 

ヨシオクボ(yoshiokubo)

Courtesy of Japan Fashion Week Organization

 

 吉本新喜劇とのコラボレーションや遊園地でのランウェイショーで観客を楽しませてきた「ヨシオクボ」。今回は2024年パリオリンピックで追加種目となり注目を集めたブレイキンとの融合を見せた。

 

 RFWTの公式会場である渋谷ヒカリエのホールを会場に、世界最高峰の1 on 1ブレイキンバトル「レッドブル ビーシーワン(Red Bull BC One)」とコラボレーションでダンスバトルが繰り広げられた。パリオリンピックで4位に入賞したShigekixこと半井重幸さんも登場し、会場を沸かせた。ダンサーたちが着用しているアイテムも小物以外すべて「ヨシオクボ」の新作コレクションで、デザイナーの久保嘉男が「自分がダンサー用の服を作るならどうなるか?」という問いから始まり、動きやすいように股部分にゆとりをもたせたり、激しく動いたときにできる服のドレープ感を表現したり、ブランドらしいユーティリティにさらにダンスの要素をプラスした。

 

 また、ダンサーが着用するスポンサーのロゴに着想を得た手刺繍のロゴシャツや、デザイナーの久保が昔アメリカに住んでいたときにかっこいいと思ったアメリカの看板をイメージした刺繍アイテムなど、手の込んだ職人による手仕事のアイテムが印象的。コレクションの中でもとりわけ目を引いたアロハのセットアップもジャガードで表現されている。これは、「みんなを圧倒するようなハンドメイドのものを作りたい」というデザイナーの熱い想いが込められている。

 

アンセルム(ANCELLM)

Courtesy of Japan Fashion Week Organization

 

 デザイナーの山近和也が手がける「アンセルム」。2021春夏コレクションからスタートした。デザイナーの出身地である岡山を拠点にしながら職人によるものづくりを大切にする同ブランドは、今回ファッションウィーク初参加ながら注目を集めていた。

 

 シーズンテーマは設けないものの、「視点を変えた経年変化の提案」をブランドコンセプトに、新しいものでも経年変化をしたような風合い、そして経年変化を楽しめるようなアイテムが特徴的。今シーズンは世の中のムードも意識して色を取り入れつつ、コレクション全体でのグラデーションを表現したという。ブランドらしい、ダメージ加工のデニムやタンクトップ、切りっぱなしのシャツなど古着を想起させるアイテムに、艶っぽいコートや小物、整然としたプリーツのセットアップ、レースのように細かいニットアイテムなどを合わせて、相反するもの同士の組み合わせが生み出す良質な化学反応を見せつけた。

 

 ブランドのシグネチャーであるデニムの加工を洋服にも流用できないか?と思ったことから実験的な試みにもチャレンジし続けている。今シーズンはレザージャケットにガラスコーティングを施したり、さらに洗いをかけたりと、常識ではやらない加工をしたことで、古着のようでもありながら偶発的な美しさとインパクトを生み出していた。

 

 今回は初めてのランウェイショーということで「なるべく近くで360度服をしっかり見てもらいたい」と、客席とランウェイを近い距離で配置した。ブランドが間もなく5周年という節目で、海外を含めてさらに展開を広げたいという意思表示の意味もあったという初めてのランウェイショーは、東京メンズの未来を担うブランドの期待感が膨らむものであった。

 

オリミ(ORIMI)

Courtesy of ORIMI

 

 初参加にして楽天ファッションウィークのトリを飾った「オリミ」。「異端者のための上質な服」をコンセプトに、既存の構造を解体し独自の新しいバランスを再構築するアプローチで知られる。今シーズンは“ここではないどこか”、“日常と地続きの非日常”を暗喩した“ELSEWHERE”というテーマを掲げた。快適で正しい服が求められる時代において、あえてそこにエラーやノイズを挿入することで、個性や違和感を肯定する。デザイナーの折見健太は、「自分の中の東京への帰属意識と孤立感が同居する感情が新たなプロポーションの探求へとつながった」と言う。

 

 それは、フロントボタンの位置を歪め、肩を強調したジャケット、ジャケットとパンツを合体させたジャンプスーツ、クラシックなメンズ生地で作られたフーディ、トップスに一体化されたネクタイなど、テーラードの崩しに現れる。股上が極端に深いものや、ラッピングや切りっぱなしなどの個性的なディテールを利かせたパンツも登場。またフリルシャツやジャケットなどの裾にワイヤーを縫い込むことで、波打つような動きを持たせたアイテムが多く登場し、不規則なシェイプを生み出す。ベルトを重ね付けしたり、パンツの裾にストラップを巻き付け、ディテールにもゆがみを加えたスタイリングも目を引いた。

 

ヒュンメルオー(HUMMEL 00)

  • プレゼンテーション会場(編集部撮影)

  • 人体のオブジェを設置(編集部撮影)

  • コレクションピースは空中陳列で見せた(編集部撮影)

Courtesy of HUMMEL 00

 

 先シーズン、デザイナーの森川正規が就任して初のお披露目となった「ヒュンメルオー」。今シーズンはプレゼンテーション形式での発表を行った。前回は「今後のブランドを示すイントロダクション的なアプローチ」としてブランドの確固たるバックグラウンドであるフットボールへの敬意を表現したが、今期は“Human Anatomy(人体解剖学)”をテーマに掲げ、新たなモダンスポーツウェア構築の試みを見せた。

 

 「スポーツブランドだけど、機能性だけではなく見た目やアイテムの構造の面白さを表現できたら」と、関節の切り替えや筋繊維をイメージしたパイピングを施したり、深い股上や大胆なポケットで大げさな立体感を演出したりするなど、機能性は保ちつつも遊び心をプラスした。先シーズンは強調されたバンブルビーのロゴは、今シーズンはアイテムの生地に馴染むような刺繍で表現され、「わかりやすいアイコニックなものよりも、フューチャリスティックにブランドの精神性を示すようなコレクションにしたかった」というデザイナーの意図を感じられた。

 

ファンダメンタル(FDMTL)

Courtesy of FDMTL

 

 今回が3回目のショーとなる「ファンダメンタル」。昨年20周年を迎え、また2回のショーを経て、「これまで自分を『服屋』と呼んでいたが、『ファッションデザイナー』と名乗ることにした」と語る津吉学が、改めて「自分は何者なのか」を問う自らの様子を“Echo of [ ]([ ]のこだま)”というテーマでコレクションに投影した。[ ]という部分の空白を残したのは、「観客の皆さんに自分たちの何かを入れて解釈して欲しい」という思いからだとか。

 

 そんな“こだま”が共鳴しあう様子は、川谷絵音も参加するバンド、ichikoroによる生演奏との競演にも表れている。コレクションは「ファンダメンタル」らしくインディゴに焦点を当て、トーンの違う洗いや染め、ステッチやパッチワークなど様々な表情で繰り広げた。さらに藍のサテンや、デザイナー本人がコレクションしているぼろを転写したメッシュのアイテムなど、蒼を基調とした創造性が広がる。さらにパンツやスカートになるジャケット、ジャケットになるパンツなどのマルチユーズなアイテムや、ポケットや袖をデフォルメしてひねりを利かせたデザインに新しい提案が。後半で登場した激しいダメージ加工がなされたシリーズは、クラフトを得意としてきた「ファンダメンタル」の新しい可能性を示唆している。

 

エムエスエムエル(MSML)

Courtesy of MSML

 

 六本木ヒルズ・アリーナにて2回目のショーを発表した「エムエスエムエル」。今シーズンは“トーキョー ローリン(Tokyo Rollin’)”というテーマで、静けさと速度、光と影など相対するものが交錯する街・東京を自分たちなりに解釈し、モードの洗練さとストリートのインパクトという両極を表現。また、「『ローリン』には転がるように縛られずに自由に形を変え、漂いながらも確かな存在を示すという姿勢と、これからもブランドを前進させていくという意思表明の両方の意味が込められている」と言う。

 

 それを象徴するのは、ロールアップすると袖や裾からバンダナ柄が見えるシャツとパンツ。整然とした表通りから路地に入るとカオスが広がる東京の街にイメージを重ねた。またアシンメトリーにドッキングした2色のチェック柄のシャツや、ジャンプスーツの下にドレスシャツを合わせたコーディネートにも二面性が見られる。スローガンの書かれたTシャツやパンツなどパンチのきいたストリートテイストの一方で、透け感のあるシャツやメッシュをメンズモデルにも着せたジェンダーレスなルックも登場。バラのプリントを施した丸襟の白シャツやビジューをあしらったデニムジャケット、各所に使われるスカーフ使いなどにモード的なディテールが加えられている。

ミツル オカザキ(MITSURU OKAZAKI)

Courtesy of Japan Fashion Week Organization

 

 北参道のギャラリースペースでランウェイショーを行った「ミツル オカザキ」。今シーズンは、デザイナーの岡﨑満がブラジル人作家パウロ・コエーリョによる小説「アルケミスト」を読んで得たインスピレーションを、“少年の夢”というテーマにのせてコレクションを紡ぎあげた。

 

 ジャケットやパンツにランダムに開けられた円形の穴や裂かれたようなディテールは、金具やジッパーなどで閉じられている。それは、少年が試練を経て成長した姿や心に空いた穴を埋めながら進んでいく姿を表現しているという。修復はされているものの完全に塞ぎきれていない儚さが少年の繊細さを思わせるディテールとなっている。シャツの襟のようなアクセサリーやラフに巻いたネクタイ、安全ピンを大量に使った装飾なども、どこか少年の不安定さを感じさせる。また、印象的なラクダのプリントは、物語の中で出てくるエジプトの砂漠をイメージし、モチーフとしてコレクションに加えられた。また、艶やかなシャツのようなブルゾンにはラクダが細やかな刺繍で入れられている。

 

 今回1年ぶりの開催となったランウェイショーだが、デザイナーの岡﨑は「今後も1年に1回のペースで発表の場をもてれば」と、このペースでの発表を望むコメントを残した。

 

ユェチ・チ(YUEQI QI)

Courtesy of YUEQI QI

 

 デザイナーのユェチ・チが手がける「ユェチ・チ」は、東京・鶯谷の「ダンスホール新世紀」を会場に、ダンスホールの舞台をいかしたランウェイショーを開催した。

 

 今シーズンは、昼と夜の長さがほぼ等しくなる時を意味する“EQUINOX”をテーマに、光と影、強さと儚さといった相反するものの共存や調和を表現した。インスピレーションソースとなったのは、イタリアのマリオ・バーヴァ監督による1964年の映画「血と黒いレース」。

 

 制服のようなセーラーカラーのブラウス、スポーツウェアのようなトップスやショートパンツ、パジャマを想起させるようなストライプの生地など、ピュアでクリーンなアイテムにレースや透け感、肌見せなどのセンシュアルな要素を組み合わせることで独特のダークファンタジーを表現した。どこかゴシック的な毒々しい印象を受ける中にも、猫やエンジェルウィングのモチーフを使用するなど可愛らしさも忘れていない。

 

 ラストルックで登場した赤いレザーのクラフト感溢れるドレスは圧巻で、手作業で仕立てられたというこのアイテムにはデザイナーの並々ならぬ愛が感じられた。

 

リュウノスケオカザキ(RYUNOSUKEOKAZAKI)

  • プレゼンテーション会場(編集部撮影)

  • プレゼンテーション会場(編集部撮影)

Corutesy of RYUNOSUKEOKAZAKI

 

 デザイナー岡﨑龍之祐による、「リュウノスケオカザキ(RYUNOSUKEOKAZAKI)」がオフスケジュールで新コレクション「004」を展示会形式で発表。

 

 「LVMH Young Fashion Designers Prize 2022」のファイナリストに選出されたほか、米経済誌「フォーブス(Forbes)」が発表した「Forbes 30 Under 30 Asia 2023」にも選ばれるなど、国際的にも高い評価を受けてきた同ブランド。これまでもニューヨーク・メトロポリタン美術館(The Met)やD+MUSEUM、東京藝術大学美術館にその作品が収蔵されてきたが、今回、新作のドレスが2025年9月からロンドン・ヴィクトリア&アルバート博物館で展示されることに決まった。ハリのある素材で描き出す立体的な構築美は、デザイナー岡﨑の内から湧き出るインスピレーションによって紡がれている。今回は「ロンドンでの展示に先んじて東京で披露したい」というデザイナーの想いから実現した特別な展示会となった。

 

取材・文:apparel-web.com編集部、田中美貴FDMTL、MSML、ORIMI)

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