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2025.07.04
【2025春夏パリメンズ ハイライト2】 前衛と共生を紡ぐデザイナーたち

写真左から「キコ・コスタディノフ」「ダブレット」「ヨウジヤマモト プールオム」「リック・オウエンス」
パリ・メンズコレクション、2回目のハイライト記事では、各デザイナーの作風を推し進め、一つのジャンルを開拓して独自のイメージを創り上げているブランド、もしくはそのさなかにある気鋭のブランドを集めて紹介する。
ヨウジヤマモト プールオム(Yohji Yamamoto POUR HOMME)


届いた招待状は、日本では何かと話題になっている米用の紙袋。「ヨウジヤマモト プールオム」は、これまで通りパリ中心のショールームにてショーを開催した。
黒で統一することなく、夏らしいターコイズブルーや爽やかなブルー、あるいはパープルを織り交ぜ、年々暑くなる夏を意識してか、全体的に軽やかさを漂わせるアイテムでコレクションを構成。例えレイヤードであっても、ニットはフィッシュネットのように透け感があり、シャツ類は風をはらむほどのゆったりとしたシルエット。
アイテムによっては、地球環境についてのメッセージやステファヌ・マラルメの詩の一節、ヴィクトル・ユーゴーの言葉などが白いフォントでプリントされ、山本耀司の哲学や趣向を伝えるスローガンとなっている。BGMは、山本耀司本人の演奏によるルイ・アームストロング「What a wonderful world」やオアシス「Don’t look back in anger」などのカバー。
ステンドグラスのモチーフは、教会に入った時のひんやりとした空気を感じさせ、サンゴやクラゲ、海の中のようなモチーフは、そのまま清涼感を伝える。最終2ルックのモデルには、海藻のようなヘッドドレスとクラゲのようなヘッドドレスがコーディネートされ、ランウェイのブルーと相まって奥深い海の世界を印象付けた。
リック・オウエンス(Rick Owens)


Courtesy of Rick Owens/Photo by OWENSCORP
ガリエラ宮(パリモード美術館)にて回顧展「Temple of love」を開催している「リック・オウエンス」。展覧会に呼応する形で“Temple”と題したコレクションを、ガリエラ宮の向かいのパレ・ドゥ・トーキョーの噴水広場にて発表した。
今季はNYCのエレクトロニック・ロックのデュオ、スーサイドとのコラボレーションアイテムを同時に発表。光沢のあるジャージーのブルゾンや、脇がオープンのジャージー製スウェット、兵庫県産のレザーを用いたライダースなどには、オリジナルタグがあしらわれている。
ヴィクトール・クラヴェリーとのコラボレーションによるレザーニットアイテムや、ドラキュラカラーのジャケットなどはフォルムを変えて登場し、シンプルなレザージャケットにはスタッズが打たれ、新たな表情が生まれている。
リック・オウエンスの誕生日を記した占星術ボードをプリントしたシルクスカーフや墨染を施したスエードのシャツジャケット、フリンジを飾ったパンツなど、目新しいアイテムがコレクションを彩るが、今季は特に、ベルトで表現したスポーティなストライプアイテムがこのブランドにとって一つの挑戦だったそう。リック・オウエンス本人は、ストライプを好まないが、周囲の望む声に応える形で敢えて登場させたという。サポーター思いの側面を感じさせる興味深いエピソードであった。
メゾン ミハラヤスヒロ(Maison MIHARA YASUHIRO)


Courtesy of Maison MIHARA YASUHIRO
15区にある自動車のショールーム跡地でショーを行った三原康裕による「メゾン ミハラヤスヒロ」。“Ordinary People”と題したコレクションは、普通の人々の奥底にある二面性を表現。1990年代末に自らが制作した、デニムジャケットとMA-1を前後でドッキングしたアウターを想起し、衣服同士の無意味な結合にファッションと人間の関係性の本質を見出して原点回帰したという。
BGMはペン2本と自らの身体を操ってビートを奏でるアーティスト、レニー・シモによるライブ演奏。LEDモニターにて全方位にプロジェクションされた。
無意味な結合は4本袖のコートやブルゾンなどで表現され、シャツ類は、長袖/ノースリーブ、長袖/半袖といったバリエーションでの着用が可能。
アイテムによっては、ディレクシア(読み書き障害)のグラフィティアーティスト、ナヴィンダー・ナングラによる「fasshion weak」と書かれたユニークなワッペンが飾られる。バナナヒールのハイヒールやアヒルの玩具ヒールのハイヒール、ハイヒールとポテトチップスのパッケージが結合したバッグなど、アクセサリー類も目を引く。前後左右、隈なく見てこそ、各ルックの深さを感じ取ることができる、多面性を内包する複雑な味わいを持つコレクションとなっていた。
ダブレット(doublet)


井野将之による「ダブレット」は、パリ20区のサン・ブレイズ地区の住民用の畑を会場にショーを行った。コレクションタイトルは日本語の“いただきます”。
動物や植物の命を頂戴して自らの命を繋ぐ。それらに感謝の意を表するための日本語「いただきます」。井野は、物作りに携わる様々な人々の情熱に敬意を表し、生地を使わせて頂く、帽子やシューズを作って頂くという意識を持ち、服を作る立場の人間として、協業出来ることこそが贅沢(ラグジュアリー)であると感じたという。また金目鯛漁で廃棄される魚網をリサイクルするメーカーと出会い、廃棄される卵殻膜から生まれた素材をあしらい、無駄になってしまう食品を利用して作ったものを素材として使うことの贅沢さも痛感したという。
今季は、特に食を通じて持続可能性を探るアメリカのスカイハイファームとのコラボレーションも実現させ、ロゴマークのブローチが登場。
熟したバナナのブルゾンや、長靴を逆さまにしたシューズ、ニンジンの輪切りのニットタンクトップ、サラダのようなブルゾン、苔の生えたジーンズや泥で汚れたようなプリントのジャケット、キジマタカユキによって制作されたといいう目玉焼き型ハット、ひっくり返すと牛の顔が頭に位置するニットプル、干物など作るための干し編みを思わせるニットドレスなど、農業や食に関連するアイテムが混然一体。
美しい仕立てのジャケットも、ポケットのフラップは金目鯛がプリントされている。ごくシンプルなレザージャケットでも、実は製品化の難しいジビエレザーをあしらっており、散弾銃の穴なども持ち味として生かしたという。
「ダブレット」のコードは相変わらず守られ、アグレッシブかつユーモラスではあるのだが、物作りをする人々への熱い思いが全編に渡って滲み出ている。感謝することの大切さを伝える、ポジティブなエネルギーに満ちたコレクションとなった。
キコ・コスタディノフ(KIKO KOSTADINOV)


架空の島にある小さな町での一日の流れを、一つのコレクションで描いた「キコ・コスタディノフ」。トレンドや常識に縛られない場所で、仕事をして家に帰り、めかし込んで夜の街に繰り出すという人々の暑い夏の日を表現した。
特に素材にこだわり、今季は様々なものが複雑に組み合わされている。ツイル、メッシュ、レザー、絣を思わせるコットン。また沖縄の読谷焼からインスパイアされたというオーバーダイ加工のジャージーなど、染付けについても様々な技術を駆使。イタリアの織物メーカーと開発をしたという、シアサッカー風ウールやフリンジ付きジャカードなど、独自性と特別感を持つ素材もあしらった。
ショーでは、日の出から日没までを表現し、時間帯に合わせたルックが登場。昼に向かってフォーマルになり、夜になると遊びを感じさせるカジュアルなアイテムに変化。
一見シンプルなジャケットも、複数の素材があしらわれ、複雑なカッティングが施されている。肩にギャザーを寄せたものや、ボタンを斜めに配したダブルジャケットなど、ストイックな雰囲気の中に遊びを加える。手の込んだ物作りのスタイルは、このブランドらしさであるが、今季はそれをより一層推し進めている印象を与えた。
ジュン ジー(JUUN.J)


“BOY-ISH”と題し、若さゆえに、ファッションについて不器用に向き合ったことで生まれる不均衡=失敗を、敢えて肯定的に捉えた「ジュン ジー」。
ウエストを極端にシェイプしたパワーショルダーのジャケットには、バギーパンツが合わせられるが、片側に全く同じパンツが二重に取り付けられている。その後は、ルックが進むにつれて柄違い、素材違いのパンツが付くようになり、ピンストライプのドレスルックにはデニムパンツが付き、不思議なバランス感を見せた。
バギーなデニムパンツには、そのままデニムパンツが付けられるが、トップ部分はタンクスタイルにして上下でコントラストを出しつつ、バランスを取っている。前身頃が倒れて二重になっているボトムのシリーズでは、めくれた部分がデニムになっているスカートとデニム製ビュスティエが合わせられ、同じくめくれた部分がデニムになっているバギーパンツには、細身のGジャンが合わせられる。二重身頃のショーツには、逆にオーバーシルエットのボンバースやレザーブルゾンを合わせて、トップ部分により大きなアイテムをぶつける。
上下のコントラスト、アンバランスの中のバランスが厳格に守られ、終始一貫性のあるクリエーションを見せていた。
マリーン セル(Marine Serre)


プロダクトに集中して見て欲しいという思いから、プレゼンテーションを開催し、どのような意図で服を作ったのか、自らコレクションについて説明をした「マリーン セル」。
今季もアップサイクルされた素材をふんだんに用いて、既に存在するものを生まれ変わらせる姿勢を貫いている。
アイコンであるムーン(三日月)をあしらったアイテムは、依然としてコレクションの主軸となっている。ムーン型にオープンになった、その部分だけ日焼けするロングドレスや、ムーン型のブラトップ、ムーンモチーフのデニムのセットアップなどが見られた。特に印象的だったのがテニスウェアドレス。マリーン・セル本人は、ローラン・ギャロスを目指すテニス選手であったことに由来しているという。またムーンモチーフをフィッシュネットレースで表現したドレスは、ブラとショーツが一体型で、これはゆっくりと服を着ている時間の無い女性のためのアイテム。
ウェスタンブーツから着想したブルゾンには、チューリップをあしらって、地球温暖化を象徴としている。アップサイクルされたマルチカラープリントのファブリックは、プリーツを掛けてメンズシャツに仕立てられた。ボーイ・ガールスカウト風シャツにあしらわれたワッペンもヴィンテージのアップサイクル。
1970年代風のフレアパンツであっても、ウエスト部分はシェイプされ、ジャケットもボディコンシャス。メンズ、レディース共にシャープなシルエットで統一していた。
アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)


ナード(オタク)な学生をイメージした、ジョニー・ヨハンソンによる「アクネ ストゥディオズ」。今季も、パリのショールームにてプレゼンテーション形式でコレクションを発表した。
だらしない学生の装いをイメージしながらも、仕上がったルックはそれぞれ「アクネ ストゥディオズ」らしい、先進性と革新性を漂わせるものばかり。箔加工に見えるが、実はプリントによるトロンプルイユのジーンズや、ダメージ加工を施したGジャン、故意に毛羽立たせたニットカーディガンなど、視覚に訴えるアイテムが目を引く。ペイント加工を施したセットアップは近未来的な印象を与えるも、70年代風のヴィンテージ風ルックもあり、レトロとフューチャリスティックを行き来し、時折漂うDIY感がこのブランドらしい。
学生が着る物というイメージが付いてしまっているオンブルチェックのファブリックには、敢えて和柄を合わせてジャパニーズプリントに仕上げ、シャツジャケットを作成。またバーガンディカラーのニットポロには、「アクネストゥディオズ」のカタカナを刺繍。7月の青山の大規模な旗艦店オープンを控え、日本を意識したクリエーションを見せていた。
ピーター・ウー (peter wu)


2000年代の兄のファッションからインスパイアされたという、今季で3シーズン目を迎えた「ピーター・ウー」。パリでは2回目となるプレゼンテーション発表をサン・ジェルマン・デ・プレの会場にて行った。
ロサンゼルス生まれのピーター・ウーは、台北で育ち、アメリカのブラウン大学で美術を学んだ後、セントラル・セント・マーチンズでファッションを学び、「ランバン(LANVIN)」や「ルメール(LEMAIRE)」で経験を積んでいる。
チェックのシャツ、ボンバースなど、手軽さが優先される学生の装い、カレッジスタイルで統一。フード付きコットンスウェットにはダメージ加工を施し、シャツなどにPの文字を手刺繍。カジュアルなアイテムに、一手間加える物作りを見せている。
母親から受け取ったポストカードの文字をプリントしたTシャツには、洗いを掛けたシンプルなブルゾンを合わせ、ゆったりとしたパンツをコーディネート。だらしないイメージさえある学生の着こなしを、よりスタイリッシュに表現した。
取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)
画像:各ブランド提供