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2025.03.06

【2025秋冬ミラノ ハイライト2】自由で開放された新しい女性像

写真左から「プラダ」「ドルチェ&ガッバーナ」「エムエム6 メゾン マルジェラ」「エトロ」

 

 2025年2月25日から3月3日に開催された2025秋冬ミラノ・ウィメンズ・ファッションウィーク。今シーズンは、アニバーサリーイヤーだったり、クリエイティブディレクターが不在だったりと、それぞれ理由は違えど、ブランドの原点回帰やアーカイブからの連想をコレクションに落とし込んでいるブランドも多く、トレンドを定めにくいところではあるのだが、キーワードとしてよく出ていたのが、本能、直感、粗野、原始的、野性的、自由、開放・・・等々。それをどう形にするかはブランド次第だが、直接的にファー(エコファー、シアリングのファー風加工)やレザー、ローゲージニットやモヘアなどの素材が多くみられた。

 

 一方、抽象的にこれらのキーワードを解釈し、ルールに関係なく本能や直感のままに振舞うという意味を込めてか、はずし&くずし礼賛の傾向もある。例えばあえて伝統の象徴である英国調に崩しを入れたり、メンズスーツ素材をフェミニンなアイテムに仕立ててマスキュリン&フェミニンをミックスしたり、カジュアルなアウターにシックまたはビジュー使いの煌びやかなドレスを合わせるなど、違ったテイストを共存させるスタイリングなど。どのブランドも、自由で開放された新しい女性像を提案しているのは確かだ。

 

 さて、ハイライト第二弾では、ファッションウィーク中後半にコレクションを発表したブランドをレポートする。

 

プラダ(PRADA)

Courtesy of PRADA

 

 お馴染みのプラダ財団の会場に今回作られたセットは、メンズでも使われたインダストリアルな鉄骨構造による3階建てのランウェイ。床にはキャサリン・マーティンのデザインによる、アールデコ調の柔らかなカーペットが敷かれ、異なるマテリアルのコントラストを醸し出している。

 

 テーマは“RAW GLAMOUR(生のグラムール)”。「今日、女性らしさとは何を意味するか?」という問いかけから、ミウッチャ・プラダとラフ・シモンズは「典型的な女性らしさや美の概念についての一般的な認識を問い」「また、こうした認識がどのように変化し続けているかについても問いを投げかけ」たのだか。そんなコレクションでは、あえて粗野な表現をすることで、女性らしさを再定義する。

 

 彼らが「サヴァージュフィニッシュ」と呼ぶ、裾や胸元の生地を切りっぱなしにするディテールが、50~60年代前半のテイストのミニドレスを始めとした多くのアイテムに採用される。足元にもアッパー部分で革を繋いで処理をしない状態のポインテッドトゥのハイヒールを合わせる。レザーアイテムを中心にわざと汚れたようなエイジド加工もなされているが、これは新品の美しすぎるモノに対する抵抗を示している。

 

 ドレスやコートのドレープは重ねて畳んだ状態で押しつぶしたようなシワ加工がなされており、ボトムスのウエスト部分は、ギャザーを寄せてざっくり縫ったような仕立てで、体のラインを強調しないデザインだ。カシミアのタンクトップやベアトップのドレスが一部登場するものの、肌の露出は少なく、体を見せるよりあえて隠すことで官能性を強調しているかのようだ。

 

 シャツはボタンは付けず、ボタンホールをひもでつなぎ合わせて着用する仕組みで、先シーズンに続き、襟にはワイヤーを入れて動きが出るように仕上げた。「プラダ」お馴染みのパジャマシャツもさりげなく登場した。

 

 1月に発表メンズコレクションのテーマに通ずるような原始的なムードのシアリングも各所に使われるが、ウィメンズではビニールを被せて毛をつぶすことでプリントのように見えたものも登場。アールデコ調のネックレスはすでに洋服に縫い付けられた状態になっていて、アクセサリーについての新提案もなされる。また厚手のウールなどメンズウェアに使われるような生地をフェミニンなアイテムに仕上げるなど意外な素材使いも見られた。

 

 メンズコレクションでも「本能の探求」や「原始的な衝動」をファッションに落とし込んでいたが、その探求はウィメンズでも続いているようだ。そして先シーズンで謳っていた「着こなしの自由」という考えも根底にあるのかもしれない。混とんとした時代に皆が新しい女性像を模索する中、「プラダ」がそれを牽引する。

 

ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)

©DOLCE&GABBANA

 

 今シーズンのテーマは“クール・ガールズ”。街角のクールな女の子たちからインスピレーションを得て、本能のままに好きなアイテムを組み合わせ、独自のスタイリングで着こなすスタイルを表現する。コレクションでは個々のアイテムよりも、全体のスタイリングや着こなし方やコーディネートに重きを置いた。

 

 オーバーボリュームのアウターにフォーカスし、フィールドジャケット、シアリングを施したレザージャケット、ファーのロングコートやダッフルコート、レオパード柄のマキシロングコート、ローゲージのニットカーディガン、砂時計フォルムのマキシコートなどが様々に登場。そこにはランジェリードレスやブラトップ、透け感のあるコルセットなどのトップと、カーゴパンツやブロークンデニム、ミニスカートなどのボトムを合わせる。スローガンやイラストがプリントされたTシャツドレスや、クロップトTシャツなども登場。そんな足元にはワークブーツにニーハイソックス、ハイソックスにサンダルを合わせている。

 

 そしてイブニングウェアでは、チュールなど透け感のある素材に、刺繍やフリンジ、スパンコールやクリスタルをあしらったゴージャスなミニドレスが多数登場する。

 

 今回のショーではマネスキンのヴィクトリア・デ・アンジェリスがDJを担当。会場の前でパフォーマンスを繰り広げ、そんな様子がランウェイのスクリーンにも大きく映し出された。そしてショーのフィナーレにはモデルたちは全員外に出て、会場前のトラムの線路上に設置された特設舞台に勢揃い。来場セレブリティの出待ちをしているファンたちや一般人を巻き込んでお祭り騒ぎとなった。

 

 ショーの前にスクリーンに映し出された「Being a cool girl means stay true to yourself(クール・ガールになるということは、自分に忠実でいること)」というフレーズが、このコレクションを物語る。ガールズパワーが炸裂するパワフルなコレクションは、本能に従った自由な着こなしが提案される今シーズンのムードにマッチしていた。

 

マックスマーラ(Max Mara)

Courtesy of Max Mara

 

 今シーズンも「パラッツォ・デル・ギアッチョ」というイベント会場でショーを開催。歴史上の先駆的な女性をインスピレーション源とすることが多い「マックスマーラ」が、今回スポットライトを当てるのは、19世紀のイギリスを代表する作家、ブロンテ姉妹の作品の主人公たち。シャーロット・ブロンテの「ジェーン・エア」に登場する、冷静にすべての状況に立ち向かい、自己制御を徹底してきたものの、次第にその情熱を抑えきれなくなる、理性と感情が交錯するヒロイン像。そしてそこにエミリー・ブロンテの作品「嵐が丘」のヒロインである自由奔放な情熱に生きるキャサリン・アーンショーのイメージを加え、“Untamed Heroine(情熱を秘めたヒロイン)”というテーマでコレクションを繰り広げる。

 

 「マックスマーラ」お得意のコート類が充実しており、ウエストで引き締め裾を広げたマキシロングコートに始まり、テディコートやロングジレ、ロングケープ、フロックコート、ポケット付きのパーカ、そこにモヘアのカーディガン、フィールドジャケットやテーラードジャケットも加わる。キルティングやニットを部分的に施したアウターもあり、ブロンテ姉妹およびイアン・グリフィスの出身である英国風カントリーのイメージも添えた。

 

 シルエットは全体的に縦に長く、スカートはスリットの入ったシガレットフォルムや裾の部分にリブが施されたものが登場。またはタンクトップやミニマルなタートルニットにスプリットフロントのボリューミースカートやワイドなパンツを合わせている。

 

 カラーパレットはベリーレッド、モスグリーン、そして「マックスマーラ」が特別に使用する色名で、ブロンテ姉妹の故郷ヨークシャーの風景を連想させる「カシャ」というサンドベージュなどを、ワントーンまたはトーンオントーンで使っているのが特徴だ。

 

 「マックスマーラ」が今シーズン着目した、冷静で理性的に生きてきたヒロインが心の声に導かれて新たな一歩を踏み出す姿は、本能や直感に重きを置く今シーズンのキーワードにも通ずるものがある。

 

エムエム6 メゾン マルジェラ(MM6 Maison Margiela)

Courtesy of MM6 Maison Margiela

 

 前シーズンに続き、スポーツ競技場として作られ、現在はイベントスペースにもなっている「ラ・ペロータ」という施設でショーを行った「エムエム6 メゾン マルジェラ」。うっすらとスモークがたかれたランウェイを、モデルたちは時に来場客たちを挑発したり凝視しているかのようなパフォーマンスをしながら、ゆっくりと歩いていく。

 

 「エムエム6 メゾン マルジェラ」が取り組む試みのひとつに「プロセスを明らかにすること」があるが、今回はアイテムがどのように使われるかの方法を示唆し、ニーズやシーンに応じたアイテムのシステムとしてのワードローブを作り上げるという取り組みにフォーカスする。

 

 トレンチコートやテーラードコート、パンツスーツ、ポロシャツ、コラムドレス、ジップアップキャミオヌール、Tシャツ、スカートといった定番的なワードローブを拡大したり縮小したりすることで新しいものを生み出しているのが特徴だ。例えば、バックに裏地のような生地でパネルパディングを足すことで拡張したコートや、サイドやバックのファブリックをつまむようにして縮めて縫いしろを作って縮小したデニムやトラウザーズ。

 

 またはボリューミーなトレンチコートやドレスを透け感のあるセカンドスキンドレスの内側に押しこめたり、ミニマルなポロシャツに中綿を入れたりと、大きいものを小さく閉じ込め、小さいものを膨らますようなひねりも見られる。

 

 多くのアウターやテーラードジャケットは肩を誇張して構成され、ベーシックなガーメントに大胆なテイストを与えている。

 

 小物類は、スクエアトゥのブーツ、ハイヒールのパンプス、フェイクストッキングのパンプス、スナップハンドルのついた大ぶりのバッグや、また先日ゲストデザイナーとして参加したピッティ・ウオモのショーで発表した「アニェル(Agnelle)」とのコラボのモジュラーグローブがここでも登場。モデル全員が着用していたサイクロプスサングラスと共に、コレクションに個性を加えた。

 

エトロ(ETRO)

Courtesy of ETRO

 

 今シーズンも「ザ・モール」というイベント会場にてショーを開催。ランウェイは、簾のようなカーテンで縦に半分に仕切られ、そこにはアート・コレクティブ「ヌメロ・クロマティコ」による神話上の動物、絶滅した獣、そして実在する動物たちを描いた「動物寓話集(ベスティアリウム)」が描かれている。これは「創造の起源を探り、その謎に迫り、道の始まりを見出そうとする、遠い起源からつながる一本の線」を暗喩しているのだとか。

 

 今シーズンのテーマは“エトロマグマ(ETRO MAGMA)”。「生命が芽吹く前の、まだ形を持たない、原初的な世界をさまよいながら、素材そのものからコレクションを創造」したのだとか。そんなプリミティブな要素は、ウールファーのマキシコートや、ボリュームの春ファーハット、セットアップやジレに使われた裾や袖、ラペル部分などのほつれたようなディテール、各所に登場するフリンジ、そして鎧のように体を覆うメタルのアクセサリーやメタルスカートなどに見られる。トライバルモチーフをあしらったデニムのパンツやロングコートもあり、オーバーサイズのニットやケープなどにも原始的な暖かさが漂う。

 

 「エトロ」お得意のプリントはグレーズやラバーコーティング、刺繍などを重ね合わせて、様々な表情で登場。韓国人アーティスト、マリア・ジョンとのコラボレーションによる、4つの限定プリントが披露された。

 

 メンズコレクションもウィメンズと同じ素材やテイストが共有され、パンチの効いたウールアーのアイテムやデニム、ニットなどに加え、ボリューム感のあるクラシックなテーラードスーツが多くみられた。

 

 原始的、無垢、野生・・・はシーズンのキーワードだが、元々エスニックやノマドのテイストを得意としてきた「エトロ」だけに、トレンドをほどよくつかみつつ、ブランドらしいこなれたコレクションとなっている。

 

スポーツマックス(SPORTMAX)

Courtesy of SPORTMAX

 

 ロトンダ・デッラ・ベサーナという、現在はチルドレンミュージアムとして使われている建物でショーを行った「スポーツマックス」。今回のコレクションは、“Hyper-reinvention(過剰な再創造)”をテーマに、日常を非凡へと変えるデザインを提案。職人、デザイナー、仲間、母親、友人など、ブランドに携わるすべての女性たちからのアイデアが込められているとか。

 

 コレクションでは、ブランドのアイコン的なテーマや素材にフォーカスする。まずはダブルウールの再解釈。一見テーラードテイストのジャケットはトレーン状になった部分を首に巻き付けるようにコーディネーションし、インフィニティを連想させる連続的なラインを描き、ロングコートはフリンジ付きのストールを合わせる。インフィニティのテイストはサテンのミニドレスやニットドレスにもみられる。さらに「スポーツマックス」の重要なアイテムであるデニムはテーラードテイストのスーツやルーズなベルトをあしらったパンツとして登場。同ブランドらしい構築的なデザインは、砂時計フォルムのジャケットやドレスで表現されている。そして今シーズンらしいフェイクファーのボリューミーなコートやパイソン柄のコートやスカート、バッグも揃う。またドレスのディテールやバッグに使われた長めのフリンジが各所に登場し、コーディネートに躍動感を加えている。

 

 シンプルでありながらも仕立ての技術やひねりのあるデザインで、攻め過ぎることなく個性はしっかり発揮する、革新的なラグジュアリーを体現した。

 

トッズ(TOD’S)

Courtesy of TOD’S

 

 かつてよく使用していたPAC(現代美術館)にて久々にショーを行った「トッズ」。ショーの前には、アーティストのネリー・アガシが「トッズ」のために特別に制作した、レザーの端切れをリサイクルしたドレスを着用し、職人技と手仕事のノウハウの象徴である針を手にしていたカーラ・ブルーニがたたずんでいる。ちなみにこのドレスは長さ10m、広さ4mにもなり、使われたリサイクルレザーのピースは全長約2.5㎞にも及ぶ。まさに同社が提唱する「アーティザナル・インテリジェンス/職人知能」を強調する作品だ。

 

 そんなパフォーマンスが物語るように、今シーズンのテーマは“アート・オブ・クラフツマンシップ”。職人技もさることながら、今回は素材が主役になっており、それをアーティストたちの刺激的なイメージでコレクションとして作り上げた。マッテオ・タンブリーニは、「アルベルト・ブッリ、ルチオ・フォンタナ、カルラ・アッカルディなどの芸術家たちが作品において素材をどう扱ったかが、生地を変身させるためのアイデア源になっている」と言う。例えば、ドレスやコートに使われたアルパカ風のシアリングは、アッカルディの作品にインスピレーションを得た円形のデザインで梳かれており、革のクラストとポニースキンの間のパッチは、ブッリのスタイルからの連想だ。そしてフォンタナからは構築的な仕立てによるカットとシルエットのアプローチのインスピレーションを得たとか。

 

 シルエットは細長くテーパードしたものがメイン。アウターが充実し、ダブルフェイスカシミアのオーバーサイズコート、 レザーをインサートしたピーコート、レザーをはじめ様々な素材で作ったトレンチ、ボリューミーなシアリングコートやマキシケープなどが揃う。

 

 素材にこだわるシーズンだけに「トッズ」には珍しいエアリーで透け感のあるスカートもあり、またニット類にも注力して自社工場で開発したエスクルーシブなものを開発。特にメランジやフリンジなどに職人技が際立つ。

 

 1月のメンズコレクションでは、メイントピックとなっていた「パシュミ―」を使ったスエードやナッパのトレンチコートやボンバージャケットも登場する。

 

 小物類では、メタルバンドが特徴のバレッタのモカシンやライディングブーツ、マキシサイズとスモールサイズの「ディーアイ バッグ フォリオ」、そして「ウェーブ バッグ」はペブル部分をなくして軽量化されて復活。斜めのラインが特徴的な「サッカ タンク」が新登場した。

 

フェラガモ(Ferragamo)

Courtesy of Ferragamo

 

 中心地から少し離れたイベント会場でショーを行った「フェラガモ」。前回のコレクションでは、バレエにフォーカスしたが、今回はモダンダンス、特にドイツの「タンツテアター(表現主義ダンスの中から出現する特定のスタイルのダンス)」のワードローブと日常のドレスのエレガントながら軽やかな雰囲気、自由な振り付けや束縛のない表現をイメージしている。出発点として、「タンツテアター」復興の象徴的存在のドイツの伝説的コレオグラファー兼ダンサーがインスピレーション源となっているとか。

 

 コレクションには、モダンダンスにおいて特に重要な時期であった1920年代のドイツ表現主義舞踏とその復興運動が起こった1980年代が投影されている。マクシミリアン・デイヴィスは、2024秋冬コレクションでも1920年代にフォーカスしたが、「1920年代は激動の時代の中であり、人々は抗いながらも自分たちのための空間を作り出そうとした自由な瞬間」であると言い、また1970~80年代の「タンツテアター」の復興運動は「新たな解放の瞬間」で、彼の「日常的なものに少しだけ不穏な感じを与え」「期待通りに、違和感を創り出す」というアイデアに通ずると考える。

 

 ジャージーコートとジャンプスーツに、2つのハグバッグを前面に合わせたコーディネートを始め、テーラードジャケットやドレスなど動きを妨げない快適な素材や、レギンスとジャケットやフーディのコーディネートがダンスウエアのイメージに通ずる。

 

 その一方でフェイクファーとウールがウエスト部分で切り返しになったドレスや、アストラカン風のコートなどゴージャスなアイテムから、ヘリンボーンなどのメンズスーツの生地を使用したマキシコートやスーツなど、マスキュリンとフェミニンのミックスも見られる。昔のはがきから引用したモノクロのパームツリーのプリントにさりげなくマクシミリアンのルーツ、カリブのイメージを添えている。

 

 ドロップウエストのレースのアップリケが施されたシルクスリップなどの20年代のムードを、ベルトで体に貼りつくようなサテンのトレンチコート、やわらかなカシミアと対照的な光沢あるレザーの組み合わせ、フェザーのドレスなどに愛と憧れ、自由とコントロール、ロマンスと情熱の間の感情的な対話が表現する1980年代の復興運動の雰囲気を物語る。また1980年代の「フェラガモ」のキャンペーンやアーカイブシューズに使用された花を、アーモンドトウのパンプスや、サンダルのストラップなど靴のディテールに反映した。ランウェイを覆いつくしていた、バラの花びらはこのアーカイブの花からの連想だ。「フェラガモ」の豊か過ぎるアーカイブの中から、王道ではない要素を抽出しつつ、「フェラガモ」らしく現代風に昇華するマクシミリアンのうまさが今回も光っていた。

 

エルマンノ シェルヴィーノ(Ermanno Scervino)

Courtesy of Ermanno Scervino

 

 今回も「ザ・モール」というイベント会場でショーを行った「エルマンノ シェルヴィーノ」。今シーズンのテーマは「FEMININE IDENTITY(フェミニンアイデンティティ)」。「Femininity(女性らしさ)とは、自己を主張し、自由を取り戻すこと」と考え、コレクションでは、「自分らしい物語を作り上げる女性の為のワードローブ」を繰り広げた。

 

 メンズスーツ生地のようなヘリンボーンや千鳥格子で作った、砂時計フォルムのフェミニンなコートや、ブラトップとパンツのセットアップなどが登場する。さらにテーラードスーツにコルセット、テーラードジャケットにレースのスカートを合わせたコーディネートも見られる。

 

 またレースやビーズ刺繡をあしらったランジェリードレスやチュールドレスを、シアリングが施されたボンバーを合わせたり、ボリューミーなローゲージニットを羽織るスタイリングで、マスキュリンとフェミニンをミックスする。刺繍では特に「プント ソッレヴァート」という立体的な技法のものが印象的に使われ、職人技を物語る。

 

 「エルマンノ シェルヴィーノ」の刺繍は単なる装飾ではなく、メゾンの魂を表現する重要な要素であり、真のラグジュアリーは、職人技によって生まれるものだというメッセージが込められているのだとか。トレンドがどう変わろうと、その究極の美しさが変わることはない。

 

取材・文:田中美貴

画像:各ブランド提供

>>>2025秋冬ミラノコレクション

 

 

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。apparel-web.comでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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