PICK UP

2024.10.30

消費減退のあおりをもろに受けた上海ファッションウィーク 上海トレードショー・コレクティブショールーム 2025春夏レポート

 上海時装周組委会が主催する「上海ファッションウィーク(以下SFW)2025春夏」が2024年10月9日から開催され、新天地や外灘(バンド)の北部にあたるロックバンド地区など市内各所でのショーとプレゼンテーションの他に、3つのトレードショーと12の主要コレクティブショールーム、さらには小さなコレクティブショールームや単独ショールームが14日まで開かれた。

 

 前シーズンと比べても、中国国内の景気減速が進んだという印象を受けての開催だったが、ファッションのトレードビジネスにも大きな影を落としている。日本から様々なトレードショーやコレクティブショールームに参加した日本ブランドの声を届ける。

 

 SFW公式トレードショーの「モード上海」及びそれに付帯する形で組織されたコレクティブショールームは、前回の「IM上海」から「イーフェンセンター」の高層ビル内へと移転して開かれた。1階と16階にはモード上海と「HCHショールーム」や小規模ショールームの集積が入り、17階には「ブライダルモーダ」「XYショールーム」、18階には「アルターショールーム」と日本ブランドを集積した「シンショールーム(XIN SHOWROOM)」、19階には「DFOショールーム」、「クローゼットショールーム(CLOSET SHOWROOM)」、20階には「ツドーショールーム(TUDOO SHOWROOM)」が集った。

 

 前回は、徐々に上に行くに従って狭くなる四角錐形の構造となっており、中央のエレベーターホールを囲む形で展示スペースが用意される為、上層階ほど幅が狭くなっていく難点があったが、今回はそれが解消され、ほぼ長方形の見やすい構造となった。

 

  • イーフェンセンター

 ウェストバンドアートセンターで開かれたトレードショーの「オンタイムショー」も前回の高層ビルから地上の大型ホールへと戻り、見やすさが格段に向上した。

 

  • オンタイムショー

 「レーベルフッド(LABEL HOOD)」は、ロックバンド地区にあるレンガ造りの瀟洒な建物でショーやプレゼンテーションを行ったほか、22ブランドを有する「LABショールーム」も開いた。

 

  • レーベルフッド

  • レーベルフッド・アウトドアマーケット

 大型トレードショーの「ショールーム上海(時堂)」も前回と同じ上海展覧中心で開催し、香港の「ハイプビースト(HYPE BEAST)」が主宰するコレクティブショールームの「ハイプルーム(HYPE ROOM)」や「チューブショールーム(TUBE SHOWROOM)」も前回と同じCパークで開かれた。

 

イーフェンセンターに集約

 モード上海のグランドフロアを大きく使った「HCHショールーム」には「サポートサーフェス(support surface)」が出展した。中国の主要都市に卸先を開拓しているという。

 

  • 「サポートサーフェス」

 モード上海に参加する「羽翼ショールーム」は、前回その半分ほどを「ディウカ(divka)」が占めたが、今回は「アントレース(UNTRACE)」「ピアッカセッテ(ph7+)」、ショールームオリジナルの「オトナツバサ(OTONATSUBASA)」も参加して充実したラインナップとなった。

 

  • 「アントレース」

  • 「ピアッカセッテ」

  • 「オトナツバサ」

 「ディウカ」はパリ、ニューヨークでの展示会参加も長く継続してきて、今シーズンは好調だったが、中国に関しては厳しい結果になったという。「体感的には前回の1/10ほどの来場」で、既存店も数件来たが、オーダーに結びついたところは僅かだったそうだ。理由としては「在庫過多で、予算が確保できない」「出張する経費も厳しい」という声も聞いたという。今後については、見直し含めて検討するという。

 

  • 羽翼ショールーム

  • 「ディウカ」

 「XYショールーム」には、「08サーカス(08sircus)」と「タナカ(TANAKA)」が初出展した。同ショールームは、2018年からミラノとパリにバイイングオフィスを持ち、2つの中国ブランドとイタリア、フランス、ジョージアのブランドも並べた。60~70口座を有し、40~50口座の新規を迎えて、20%増の受注を予想しているという。

 

  • 「08サーカス」

  • 「タナカ」

  • 長方形で見通しの良くなったシンショールーム

  • 長方形で見通しの良くなったシンショールーム

  • 長方形で見通しの良くなったシンショールーム

  • 長方形で見通しの良くなったシンショールーム

 「シンショールーム」には、中国ブランドと合わせて41ブランドが出展し、日本からは40ブランドが参加。前回から一般社団法人東京ファッションデザイナー協議会(CFD TOKYO)の助成金を得て参加しているブランドが27社から31社に、31ブランドから34ブランドに増えて、さらにスケールアップした。

 

  • 「ミッシェル(71 MICHAEL)」(CFD)

  • 「エヌケージーダブリュー(NKGW)」(CFD)

  • 「アシードンクラウド(ASEEDONCLOUD)」(CFD)

  • 「アトリエピエロ(ATELIER PIERROT)」(CFD)

  • 「イン-プロセス トーキョー(IN-PROCESS Tokyo)」(CFD)

  • 「エシオ(ESIÓ)」(CFD)

  • 「エムアンドキョウコ(M.&KYOKO)」(CFD)

  • 「ナーディーズ(THE NERDYS)」(CFD)

  • 「サバイ(saby)」(CFD)

  • 「ザファクトリーメイド(THE FACTORY MADE)」(CFD)

  • 「ジュンオカモト(JUN OKAMOTO)」(CFD)

  • 「チドリ(CHIDORI)」(CFD)

  • 「ディスカバード(DISCOVERED)」(CFD)

  • 「テッペイフルヤマ(TEPPEI FURUYAMA)」(CFD)

  • キリンの協賛を得て、ドリンクを提供

 シンショールームを主催するオープンクローズの幸田康利社長は、「街を歩いてみると一年前と比べて、平日でも出歩いている人は多いと感じた。しかし、全体的に中国の景気減速の影響は顕著で、出展者数、来場者数ともかなり減少している。シンショールームの来場者数は、会場の広さとブランドの多さから薄く感じられるかもしれないが、実数としては予想外に多かった。新規バイヤーも10社ほど訪れたが、商品価格の高さから、受注につながるかは未定だ」と先行き不透明感を滲ませた。

 

  • 「ナオキトミヅカ(naokitomizuka)」(CFD)

  • 「ノマット(Nomàt)」(CFD)

  • 「ノントーキョー(NON TOKYO)」(CFD)

  • 「ブレス/ジュンナカヤマ(BREATH/JUN / NAKAYAMA)」(CFD)

  • 「ペイエン(PEIEN)」(CFD)

  • 「ベースマーク(BASE MARK)」(CFD)

  • 「ボウウェン ジャン(BOWEN ZHANG)」(CFD)

  • 「ボディソング(BODYSONG.)」(CFD)

  • 「ミューラル(MURRAL)」(CFD)

  • 「ラ・コラプション(LA CORRUPTION)」(CFD)

  • 「リコール(RequaL≡)」(CFD)

  • 「ローランダー(LOWRUNDER)」(CFD)

 一方で「中国は日本の10倍の人口を持ち、100万人都市が日本の12に対して90以上あり、これらの都市には、日本のデザイナーブランドを求めている店があると考えており、まだまだチャンスは豊富にある。次回で上海FWへの継続出展も10年目を迎える。中国で成功するブランドをできるだけ多く生み出していきたい」と意気込みを語った。

 

  • 「メグミウラ ワードローブ(MEGMIURA WARDROBE)」(CFD)

 「前回より評判が良かったように思う」と前向きの発言をした「メグミウラ ワードローブ」。
 「バイヤーが500人も来たそうなので、多かったと思うし、質はあまり変化ないように感じたが、景気が良くないせいもあり、結果が気になる」という。また日本でもしっかり実績のあるブランドが、中国でも同じように評判が良いと感じたそうで、さらに「秋冬だから数字がいい、春夏は伸びないということもなさそう」と感じており、「シーズンどちらかがあまり良くなくても、継続的に出展することを勧める」という。トレンドや景気の変化が目まぐるしく、バイヤーの好みも変わりやすいように思ったそうだ。

 

  • 「ユウミアリア(YuumiARIA)」(CFD)

 2回目の出展となった「ユウミアリア」は、前回と比べ試着やピックアップなど洋服を手に取る機会が増えたように感じ、ブースも前回より見やすく会場が広かった点も高評価だったようだ。「バイヤーは前回よりも少なかった印象だが、以前も来ていたバイヤーも見かけ、しっかりと洋服を見ている印象」だったという。そういったことから「バイヤーの質は落ちていない」ように感じたそうだ。以前はラインシートなども限られた人しか見ていなかったが、今回は見ている人が確実に多かったという。

 

 さらにブランドの区切りが前回より分かりやすかったことから、一つ一つのブランドをきちんと見ている人が多かったように感じたそうだ。一方で「ブランドを通してやりたいとこや伝えたいことを、もっと強く洋服に落とし込み、コーディネートで楽しむ洋服というより、一点一点個性を出したアイテムを強化したものづくりが求められている」とも感じたそうだ。

 

  • 「コンダクター(el conductorH)」(CFD)

 東京コレクションにも参加したことのあるメンズブランド「コンダクター」は、意外なものに興味を持たれるという印象を持ったそうだ。「海外受けしそう」「中国で人気になりそう」と第三者から言われて、自分自身もそのような自信があったものよりも、意外なアイテムの評価が高かったのが想定外だった。初めての海外出展で、とりあえず市場調査としての目的も含んでの出展ではあったが、初回から複数の店舗が決まるなど反応があった点は良かった。「中国だから」ということはあまりなく、「価格の高い商品は日本同様難しく、いきなり大量のオーダーが入るということも恐らくまれ。幻想を抱き過ぎず、日本国内と同じように丁寧に営業をおこなっていく必要がある」と感じたそうだ。

 

  • 「スズサン(suzusan)」(CFD)

  • SFDAとCFDの調印式で発表する「スズサン」の井上彩花さん

 「スズサン」は会場奥の配置だったが、ポップな色柄の多いコレクションだったこともあり、ブースに通りかかるバイヤーの目に触れる機会は多かったようだ。バイヤー自らが試着して、鏡の前で写真を撮る様子を多く見かけ、「日本の展示会と雰囲気が異なる」という印象を抱いたそうだ。また今回、上海ファッションデザイナー協会(SFDA)とCFDの協力協定調印式の中で、ブランドについてプレゼンする機会を得て、他の参加ブランドから「ブランドのことをよく知る機会になった」と好意的な感想をもらえたことは、有意義な経験になったという。「海外展開に向けて、ブランドごとに戦略は違えども同じ課題に直面することもある。そういう壁を協力して乗り越えていくというところも、CFDを通じて他のブランドとつながる強みで、次回はもっと他のブランドについて知る機会があると、良いと思った」と団体を活用することの意義について感じたそうだ。

 

  • 「エズミ(EZUMi)」(CFD)

 過去、羽翼ショールームに出展していた「エズミ」は、同社の服を着たバイヤーや既存取引先に会うことができ、反応やピックもある程度あったようだ。特に「今年3月、オンタイムでの視察を行ない、現地の雰囲気に合わせてコレクションを構成したのが良かった」と振り返る。一方で「もっと見た目でデザインの強さがわかりやすい型を増やした方が反応は良くなるだろう」とも感じたそうだ。現地の友人の話では「最近は不景気だ」と言っており、来場者数も少なくなっていると感じたそうで、「今後はローカライズ化、現地化をする必要があるし、その上で新たな提案が出来れば人目を引いて売上にもつながるだろう」と展望を語った。

 

  • 「エンハーモニック・タヴァーン(Enharmonic TAVERN)」(CFD)

 初出展となった「エンハーモニック・タヴァーン」は、「カルチャーとしてコレクションを打ち出しているところからの反応は良かった」が、「不況だからなのか、黒のアイテムのピックをするバイヤーが多かった」という。一方で「日本だけで展示会を行っていると絶対に見てもらえない出会いがあり、それが大きな魅力の一つだ」と語る。

 

 市場全体としては、「今はナチュラルな雰囲気のものがミドルレンジのマーケットでは受けている」と印象を持ったそうだ。今後は「自社の世界観を理解してくれるショールームといかに接点を持つかがポイントだ」と話しつつ、小红书(RED)のブランド公式での登録、活用は必須と感じているそうだ。

 

  • 「アミューブラット(armublatt)」

 初出展となった「アミューブラット」は、ピックされるアイテムが偏っており、日本ではワンピースが人気だが、上海では全く人気がなく、Tシャツなどの着やすいアイテムを増やした方が良いと感じたそうだ。また持参したビジュアルのスタイリングがエッジが効きすぎていたせいか、「このアイテムはどんなスタイリングに合うのか」「どのアイテムとスタイリングすれば良いのか」と何度も聞かれ、「もう少しリアルなスタイリング画像を用意すれば良かった」とも述べた。さらに「中国では鮮やかな色を好む傾向にあり、モノトーンの洋服は売れない」と聞いていたが、上海では日本同様にモノトーンやダークトーンの洋服を着た人が多く、モノトーンだと売れないという認識は違っていたと感じたそうだ。価格面では、内外価格差1.6倍となるため、日本製だけでその付加価値があるのかも考えさせられ、多くのバイヤーが高いと言っていた点が印象に残ったそうだ。

 

 今後は、言葉が通じない分、視覚で一目見てわかるようリアルなモデル、リアルなスタイリング画像を準備するとともに、REDでブランドアカウントを作り、インスタグラムと同じレベルで更新していく必要性を感じているという。

 

  • オンタイムショーのヤングタレントブース

 西岸(ウェストバンド)芸術センターのオープンスペースと近くの高層ビルで開催した前回とは打って変わって、すべてが地上の大型ホールに戻ったオンタイムショーは、いつもの雰囲気を取り戻したようだ。ただし、出展者数、来場者数の減少は、他展同様否めない。中二階の主催者がセールスまで行う「ルームルーム」には、インターナショナルデザイナーの綺麗なブースが入り、セレクションの強さを見せつけていたが、景気後退感の中、これらアッパーブランドが現状維持できるかが問われる。

 

  • ショールームキャッツ

 日本ブランドのセールス、PR、マーケティングを行う常連の「ショールームキャッツ」は、オンタイムに10回目の出展となった。前回に続き「ネイプ(NAPE_)」「ウィザード(WIZZARD)」、それに加えて「ラッド ミュージシャン(LAD MUSICIAN)」も出展させた。またオンライン上も含めると「KMT デザイン(KMT DESIGN)」「セモー(semoh)」「メアグラーティア(meagratia)」「フランキーグロウ(frankygrow)」といったブランドもラインナップしている。

 

  • 「ラッド ミュージシャン」

  • 「ネイプ」

 「ウィザード」は「円安は追い風」としつつも、日本製は内外価格差1.5倍となってしまうため、ほぼ中国製にシフトしているという。ドロップシップが進められれば、その効果が発揮できそうだと考えている。「コロナ禍以前と比べると新規は取りにくくなっているが、個店は、それほど変わらない」と現状維持には自信を見せた。

 

  • 「ウィザード」

 外灘(バンド)近くの古く風情のある館で開催している「セピアショールーム」内に日本ブランドを扱う蘇州のショールーム「ウェンアイラブユー」が「イェンス(Jens)」を出展させたが、やはり景気減速の影響が少なからずあったそうだ。

 

 同ショールームは、ほぼ同じ時期に本拠の蘇州でもショールームを開いており、「バイオレットルーム(VIOLETTE ROOM)」「ヌヌフォルム(nunuforme)」「エルフィンフォルク(eLfinFolk)」「オルタ デザインズ(OLTA DESIGNS)」「ネイクス(nakes)」のセールスを行ったという。

 

  • ウェンアイラブユーの「イェンス」

 延安西路駅東側のCパーク内で香港メディアの「ハイプビースト」が開いた「ハイプルーム」には前回に引き続き「インターナショナルギャラリービームス(International Gallery BEAMS)」が出展した。メディア関係者やインフルエンサーなどの来場が目立った。

 

  • 「インターナショナルギャラリービームス」

  • 攻めたデザインもある「インターナショナルギャラリービームス」

 上海展覧センターで行われたトレードショーの「ショールーム上海(時堂)」は、約70ブランドと前回に比べ、ほぼ半減してしまったようだ。

 

 日本からは、引き続き「コネストショールーム」がバッグ雑貨の「チコラッテ(Chicolatte)」、レースを使ったウェアの「レイ ザ レース チェンバー(REI THE LACES CHAMBER)」など7ブランドを出展させ、向かい側には、東都製靴工業協同組合から委託された同ショールームの運営による「トウキョウシューメイカーズ(Tokyo Shoe Makers)」ブースが「ユードット(U-DOT)」など4ブランドを出展させた。

 

 コネストは、2015年からショールーム時堂に出展を続けており、コロナ禍以前の19年のピーク時には40ブランドを出展サポートしていたそうだ。「投資傾向が減少し、高揚感が無くなってきているが、3級都市などの地方都市にはもう少し伸び代がある」と感じているという。現在は40~50口座あるが、いずれのバイヤーも商品をしっかり吟味するようになってきたそうだ。

 

  • コネストショールーム

  • トウキョウシューメイカーズの「ユードット」

 「チコラッテ」は、ポリエステルのスカーフを福祉作業所でリメイクして作ったバッグ・小物ブランドで10周年を機に初の中国進出を果たした。普段は在庫を持ってECやポップアップストアでの販売を行っているが、受注形式だとアソートになる。「お客に確認してからオーダーしたいというバイヤーが多く、なかなかアソートでの受注が難しい」と感じているそうだ。

 

  • 「チコラッテ」

 「レイ ザ レース チェンバー」は、手仕事のレースでワンピースやドレスを中心に展開する。通常のラインは、ワンピースで5万円程度だが、高級レースを使ったアイボリーコレクションは、10万円程となる。コネストを通じての参加は8回目で、コロナ以降では3回目の出展となる。卸が85%を占めるが、中国、香港、台湾、韓国など東アジアを中心に海外が6割を占めるという。今回は「バイヤーが少なく、ここに来てみて中国の景気が本当に良くないのだ」と実感しているそうだ。

 

  • 「レイ ザ レース チェンバー」

 「ここへ来て、やはり」と思った出展者は多かったのではないだろうか。それは、日本から来るブランドだけでなく、現地のブランドも同じく実感しているに違いない。現地に居るからこそ早々に出展を控えて、別の道を探り始めたブランドも多くいるのかもしれない。それがすべてのトレードショーでの出展者の減少という形で現れ、REDなどSNSを通じてのPR販促や販売チャネルの転換なども一つの方策として取り組まれてきていることだろう。
一方で、3級都市への伸び代や人口規模のスケールメリットを指摘する声も聞かれた。東アジアというサイズ感と気候の近さ、さらには距離の近さも生かせる点は、欧米と比べてもアドバンテージと言える。もう一つは、デザインコンシャスな土壌が国内より強い点もデザイナーブランドにとっては、狙いどころだろう。

 

 ただ「日本と違って中国のバイヤーはショッピング感覚で買い付けているようなイメージ。店に来る顧客のことをイメージして買い付けるようなバイヤーはほとんど居なかった」「ほとんどが個人買いのような、そもそもバイヤーと呼べるのかも怪しいところが多かった」といった声も多く聞かれた。発展のスピードが速く、一気に花開いたセレクトショップ市場だが、その稚拙さゆえに、顧客化や接客サービスの進化も儘ならないうちに不動産バブルが弾けた恰好なのだろう。中国の市民社会の成熟化に向けたスピードも日本とは比べものにならないほど速いはずだ。そう考えると早晩、3級都市でも日本と同レベルのセレクトショップが育ち、品揃えの差別化に向けて切磋琢磨が始まることだろう。

 

 日本のデザイナーブランドにとって、国内需要の縮小による海外販路開拓の必要性には一点の曇りもないが、自身のブランドがどのマーケットに合っているのかを冷静に見極めつつ、世界の政治・経済環境の変化や貿易システムの変更も視野に入れ、それぞれテストしながら、見極めていく必要がありそうだ。

 

 

 

写真/久保雅裕、ショールームキャッツ提供

文/久保雅裕(ファッションジャーナリスト)

 

久保雅裕

アナログフィルター「ジュルナル・クボッチ」編集長/東京ファッションデザイナー協議会(CFD TOKYO)代表理事・議長

 

 ファッションジャーナリスト・ファッションビジネスコンサルタント。繊研新聞社に22年間在籍。「senken h」を立ち上げ、アッシュ編集室長・パリ支局長を務めるとともに、子供服団体の事務局長、IFF・プラグインなど展示会事業も担当し、2012年に退社。

 大手セレクトショップのマーケティングディレクターを経て、2013年からウェブメディア「Journal Cubocci」を運営。2017年からSMART USENにて「ジュルナルクボッチのファッショントークサロン」ラジオパーソナリティー、2018年から「毎日ファッション大賞」推薦委員、2019年からUSEN「encoremode」コントリビューティングエディターに就任。2022年7月、CFD TOKYO代表理事・議長に就任。この他、共同通信やFashionsnap.comなどにも執筆・寄稿している。

 コンサルティングや講演活動の他、別会社でパリに出展するブランドのサポートや日本ブランドの合同ポップアップストアの開催、合同展「SOLEIL TOKYO」も主催するなどしてきた。日本のクリエーター支援をライフワークとして活動している。

メールマガジン登録