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2017.05.10

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.41】2017~18年秋冬パリ・ミラノコレクション

 2017-18年秋冬シーズンのパリ、ミラノ両コレクションはテイストミックスやビッグボリューム、フェミニン色・ディテールが「女らしさ」の幅を広げた。多様性を重んじる傾向や、性別にとらわれないジェンダーレスの流れも勢いを増している。短期的な「トレンド」を提案するよりも、ブランドやデザイナーの「特質、オリジン」を押し出す意識が強まって、ヨーロッパモードは新たなステージに駆け上がりつつあるようだ。

ミラノコレクション

 「錬金術師の庭」をテーマに選んだアレッサンドロ・ミケーレ氏は「統一感」を重んじるというモードの常識をファニーに揺さぶった。「グッチ(GUCCI)」としては初めてメンズとウィメンズを同じランウェイで発表。これまでのジェンダーレス志向からさらに「ジャンルレス」にまで踏み込んで、カオス(混沌)に導いている。マニッシュなスーツにカラフル花柄を組み込んだ。古風なシノワズリー(中国趣味)パターンや、英国調のチェック模様など、古今東西の柄・モチーフをかき集めたかのようで、ミケーレ流のスーパーミックスを披露した。

 

 パンクとヒッピー、ルネッサンス、ヴィンテージが交錯し、色とモチーフが躍るカーニバルのような過剰感に包まれる。でも、お得意のギークでレトロな雰囲気は健在。シュールレアルでありながら、どこかヒューマン。きらめくボディースーツはグラマラス。「GUCCI」のロゴ入りのヘアバンドのアイキャッチー。ステッキの握りは猫の頭をかたどった。日本の紙傘も登場した。

 メッセージ性を打ち出す傾向が強まる中、「プラダ(PRADA)」はあえてやわらかいトーンを押し出した。ふわふわのファーやフェザーを通して穏やかなたおやかさを語りかけた。アウターの肩や裾にフェザーをあしらい、ブーツもファーのふんわりした量感で華やがせた。アルパカやシープスキンなど、見るからにソフトな風合いのマテリアルを使って、ルックに落ち着きをもたらしている。懐かしげな質感のコーデュロイも多用。手編みと見えるニット物は気持ちまでぬくもらせる。

 

 刺繍やパッチワーク、フリンジ、ビーズなどの手仕事感が高い。カーディガンにもビジューを施している。ランジェリー風味も取り入れていて、編み物のブラトップをパンツに合わせて登場させた。ただ、誘惑的なセクシー寄りではなく、ノスタルジーや母性を帯びたムード。小ぶりのケープもクラシックなたたずまい。襟と裾にボリュームをこしらえて、着姿を弾ませている。カラーパレットはいつにも増して豊かで、真っ赤なフェミニンドレスも披露した

 目先のトレンドを意識しないスタンスを象徴する存在となった感がある「ドルチェ&ガッバーナ(Dolce & Gabbana)」。故郷のシチリアに根差したクリエーションと、生命賛歌のような祝祭的装飾は今回も感動的なランウェイに結実した。家族や愛といった根源的な価値観を物語っていたのは、モデルになった人たちの顔ぶれ。赤ちゃんを抱いた親モデルをはじめ、ミレニアルズ(1980~2000年生まれ)の女優やファッションアイコンなどが親子、カップル、きょうだいなどの絆でつながった相手と一緒に登場。国籍や世代を超えて朗らかにランウェイを歩いた。

 

 モデルにとどまらず、クリエーションもダイバーシティー(多様性)にあふれていた。ジーンズからタキシードまで、アイテムの提案は幅広い。さらにバリエーションに富んでいたのは、モチーフの種類。レオパードをはじめとするアニマル柄のほか、宇宙飛行士のイラスト、手描きのグラフィティ(落書き)なども盛り込まれた。ジャスティン・ビーバーの顔をプリントしたTシャツもお目見え。「ファッションは楽しい」というメッセージを表現していた。持ち味のゴージャス感は金糸をふんだんに用いたブロケード刺繍や、王女風のティアラ、イエローのスリーピースなどに写し込まれていた。

 女っぽさを情熱的に歌い上げるデザインが勢いづいた今回のミラノ。ファーやレザーに強みを持つ「フェンディ(FENDI)」が全モデルに履かせたキーアイテムはパテントレザーの鮮烈レッドが目に飛び込んでくるサイハイブーツだった。伝統的なヘリンボーン柄やツイード生地などとのコントラストが際立って、クラシックとセンシュアルが交差。マニッシュとフェミニンが響き合う装いに仕上げていた。コートは袖先のカフス部分にどっさりファーをあしらい、ボリュームに起伏をもたらしている。特大の襟にもファーを配して、リュクスを薫らせている。

 

 シルエットが若返った。ウエストがシェイプされた「X」字形のフォルムが繰り返し現れた。スクエアショルダーがジャケットやスーツをシャープに引き立てている。アウターは袖丈をやや短めにして、意外なシルエットに整えた。ウエストマーク効果を織り込んで、ベルトにはアイコニックなブランドロゴの「ダブルF」をあしらい、ウエストに視線を引き込んだ。フレッシュな着映えのショートトップスも投入。構築的なショルダーラインと、挑発的なレッドブーツが自然なスレンダー感を引き出していた。

パリコレクション

 「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のデムナ・ヴァザリア氏は3シーズン目に入っても、驚きのボルテージを落とさない。ファーストルックから披露したアシンメトリー(左右非対称)のアウターは片方の肩に取り付けたボタンの位置が異常なほどに高く、布が引きつれてちぐはぐな着映え。斜め方向から強風にあおられたかのように、合わせが正面からずれ、フォルムがゆがんでいる。この不自然なドレープが見る者の視覚を動揺させる。今回のパリで盛り上がったコンセプチュアル(哲学的)なデザインを象徴する1着だった。

 

 スーツケースほどもある特大サイズのバッグ「バザールバッグ」は常識的なバランスを打ち消すかのよう。その一方で、片手で握り込むポーチサイズのクラッチバッグも提案。自動車のサイドミラーが姿を変えたそうで、ボリュームを含めた「変形」はデムナ流の持ち芸になってきた。しかし、奇想に走っているわけではなく、老舗メゾンのクチュール技術が大胆なアイデアをノーブルに成り立たせている。創業デザイナーのクリストバル・バレンシアガ譲りのドレス遺産もモダンにツイスト。ディテールに遊び心を宿して再解釈してみせた。

 ファーストシーズンはフェミニスト宣言を発したマリア・グラツィア・キウリ氏は「ディオール(DIOR)」で初の女性クリエイティブ・ディレクターに迎えられて2シーズン目の今回、ランウェイを「青」で染め上げた。ネイビーブルーは創業者のクリスチャン・ディオールが黒と同じ価値を認め、深く愛した色。キウリ氏はインディゴやミッドナイトなど、様々なブルーを注ぎ込んでミステリアスな装いに誘った。性別や年齢をまたぐ性格を持つ点を生かして、気品を備えたジェンダーレス&エイジレスの着映えに仕上げている。

 

 モデル全員にレザーのベレー帽をかぶらせたことが示す通り、隠し味はミリタリーだ。青はデニムが象徴するようにワークウエアの色でもあり、ユニフォームの性格を帯びる。デニム生地で仕立てたスーツはこういった「ブルーらしさ」を際立たせる。裾を折り返ししたジーンズはトップメゾンのコレクションにストリート感を持ち込んだ。一方、タフタやベルベットなどの生地であつらえたドレスは夜会の風情。夜空をまとったかのような装いに星座の刺繍が映えていた。

 レザーの名門ブランドをパリ・モードの真ん中に押し上げたジョナサン・アンダーソン氏は「ロエベ(LOEWE)」ならではのクラフトマンシップに敬意を表しつつ、ややコンセプチュアルでアートフルな実験に挑んだようだ。アイルランド出身で英国に学んだデザイナーはブリティッシュテイストのチェック柄をキーモチーフに据えて、ヨーロッパとアメリカの服飾文化を巧みにねじり合わせた。英国発祥のチェスターコート、東欧由来のポルカドット、ブランドの母国スペインのレザー加工技術などをミックス。たっぷりのひだを寄せたレザースカートのように、革で仕立てているのに、重たく見えない装いを生み出した。

 

 ガーリーな着映えのワンピースを何種類も用意した。オフショルダーやパフスリーブなどのディテールが初々しくコケット。ドレスにラッフルやパッチワークなどのハンドメイド感が漂うディテールを配して穏やかに仕上げている。随所に添えられたレザーアイテムが質感を際立たせ、ムードを深くした。スライスした食パンのイラストが描かれたトートバッグは茶目っ気たっぷり。ブランドのロゴもさりげなく写し込んだ。バッグにプレイフル気分をまとわせるのは、今回のパリ、ミラノで目立った傾向だった。

 過剰とミックスはヨーロッパモードの合い言葉のようになってきた。「サンローラン(Saint Laurent)」就任から2シーズン目となったアンソニー・ヴァカレロ氏は、今回からメンズとウィメンズのソーが統合されたこともあってか、優美さと力強さを兼ね備えたクリエーションを披露した。ベルベットで仕立てたミッドナイトブルーのワンピースはロマンティックな気分を醸し出す。きらびやかなストーンを配したドレスは80年代のムードを呼び覚ますかのよう。ワンショルダーやノースリーブオフショルダーのシルエットは程よい官能美を目に飛び込ませる。足元ではロングブーツがつややかに主張している。

 

 フェティッシュやロック感を印象づけていたのは、レザーのミニドレス。踏み込んだ肌見せがテイストの若返り志向を感じさせる。肩を張ったスーツ、まばゆいシャイニー演出は80年代のざわめきを思い起こさせる。リッチ系だけで全身を固めるのではなく、ブルージーンズを取り入れるスタイリングも提案している。スモーキング・ジャケットやシースルー演出を再解釈して創業者イヴ・サン=ローランにオマージュを捧げることも忘れてはいない。

 

 パリとミラノで目立つのは、老舗ブランドの強みであるクラフトマンシップと素材クオリティーを生かして、「トレンド」以外の魅力をアピールする取り組みだ。さらに、俊英デザイナーを迎え入れて、モードの枠組みを書き換えるチャレンジも続く。表面的な「流行」で興味を呼び込むのではなく、時代の空気になじむ「哲学」や「ものづくり」で共感を誘う試みは来シーズン以降も広がりそうだ。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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