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2016.07.14
10周年を迎えた「プレイタイム・パリ」と4回目の「キッド」 パリ子供服合同展2016年7月
4回目を迎える合同展「キッド(kid)」はバスチーユ・デザインセンターで産声を上げ、前回は「カプセルパリ・ウィメン(capsule Paris Women)」が開かれるタピルージュに会場変更したが、今回は「マン/ウーマン(MAN/WOMAN)」が開催されるエスパス・モンゴルフィエール(ESPACE MONTGOLFIERE)へと会場変更した。 一方20回目を迎えた子供服・マタニティーの合同展「プレイタイム(playtime)」は、10周年を記念して、会場近くのホールでバンドも入った盛大なアニバーサリーパーティーを開催した。17年春夏物を見せる両展ともに7月2~4日に開かれ、日本ブランドの出展も引き続き見られた。
4回目を迎える合同展「キッド(kid)」
プレイタイム(playtime)
海外バイヤーの来場増の流れ続く
パリ西部郊外、ヴァンセンヌの森にあるパルク・フローラル見本市会場で開かれたプレイタイムには、前回とほぼ同数の500ブランドが出展した。内訳は子供服が71 %、ギフト関連が20%、マタニティーが9%。来場者数は前年同期比7.6%減の5,782人だった。来場者が減少した原因について主催者のセバスチャン・ド・ユッテン氏は、「テロやサッカーユーロの影響、不安定な天候」などに加えて、「子供服市場の弱含み、特に小売業の売上げ減少に伴う在庫過剰がある」と付け加えた。一方で「数よりも質が大事で、今回はその面では輝いていた」とも語った。内訳ではフランス国内が43.1%、海外が前年同期の49.7%から56.9%に伸び、前回1月展に初めて海外が国内を上回った流れが続いている。フランス以外の欧州からは6.3%増で43%、アジアは2.5%増の7.1%で、特に韓国が目立った。欧州域外のトップは韓国で122人、2位が米国119人、3位は日本で79人だった。リピーターは10%増えて52.5%、初めて来場したバイヤーが45.7%だった。 バーチャルショールームの「プレイオロジー(playologie)」が本格稼働していく中、今回から紙のカタログを廃止し、新たにスマホアプリを導入。出展者リストやマップ、様々な情報提供をこのアプリへと変更した。もっとも、流石にフロアマップと出展ブランドリストだけは紙で残してあった。
既存・新規出展者ともに成果
日本からはデザイナーの縫谷未来さん一人で切り盛りしている「ヌヌフォルム(nunuforme)」が初出展し、海外進出を果たした。「国内の取引先が安定してきたので、そろそろ海外進出の必要性を感じ始めていた。まずは少ないオーダーでも海外に売って、続けていきたい」と出展を決めたそうだ。バイヤーは「日本人だから繊細」と評価してくれ、「自身のブランドの方向性を理解してもらえた」という。胸元で捻りを効かせた凝ったパターンのカットソー(小売価格・6,300円)や胸元のプリーツを摘んだカットソーと切り替えのワンピース(同8,500円)、ネックホールの位置を前目にずらして、着るとバックスタイルにボリュームが出るチュニック丈のTシャツ(同6,500円)などパターンを一捻りしたものを打ち出した。既に海外取引先となっていた台湾をはじめ、新規でクエート、サウジアラビア、米国など4ヶ国から引き合いがあり、プレイオロジーを通じて受注を確定させていく予定だ。
初回から快進撃を続け4回目の出展となった「アーチ&ライン(ARCH & LINE)」は、既存の米国、ベルギー、ロシア、アラブ諸国、シンガポールなど15ヶ国25件に加えて、新規はオーストラリア、スイス、セネガル、イタリア、フランス、タイ、ロシアなど7ヶ国10件が増え、定着した感がある。海外向けを意識して、分かりやすいカラーパレットを用意。ミントグリーン、ピンクをキーカラーにし、男児中心のイメージを女児要素もある方向へと展開させた。売りのアイテムは、定番のTシャツ、短パンに加えて、春のポケッタブル・パーカを強化した。カモフラ柄のインクジェットプリント・パーカや大人顔負けのボタニカル柄、クジラ柄のショートパンツ(いずれも小売価格・7,800円)などは反応が良かったという。
同じく4回目の出展となった「タゴ(tago)」は、以前までの高級獣毛のニットやコートなど高価格帯のラインナップに対して、エントリーラインを揃え、間口を広げたことでバイヤーの買付量が増えたという。またワンピース中心だったが、セットアップも強化した。綿・アクリル・ナイロンのざっくりした編地のワンピース(小売価格・3万4,000円)や綿にシルクの大きなリボンを前面につけたチュニック丈のカットソートップス(同2万8,000円)などが注目されたという。既存の米国、サウジアラビアに、新規で香港、韓国、ロシアを獲得し、「 小さな一歩だが、次へのモチベーションが格段に上がるので面白い」と意を強くしていた。 この他、日本ブランドでは、ナチュラル系の「フィセル(ficelle)」、哺乳瓶の「ベッタ(Betta)」なども出展していた。
アートからクチュールテクニックまでバリエーション豊富
プレイタイムはその出展者の多さから、海外の新進クリエーターブランドも数多く見つけられる。 ロンドンのアートからインスパイアされて作る「ラズベリー・プラム(Raspberry Plum)」は、セルビア人デザイナー、アレクサンドラ・スタシック(Aleksandra Stasic)がデザインする。彼女はロイヤル・カレッジ・オブ・アーツ(RCA)を卒業後、インディテックス社などを経て、自身のブランドを3年前に立ち上げた。毎シーズン、インスパイアされるアートが違うため、全く異なったコレクションを展開する。そのため「ファッショントレンドの外に居る」という立ち位置だそうだ。今季はフランスのピエロをモチーフに、バウハウスからインスパイアされたフューチャリスティックな要素も取り入れた。綿のボーダーとギンガムチェックの切り替えワンピースは、FOB(本船渡し価格)で53ユーロ、オーガンジーのショルダーで透け感のあるビスコースのワンピースは同・41ユーロ。韓国、中国には販売しているが、日本は未上陸。
「セニョリータ・レモニエズ(senorita LEMONIEZ)」は、9シーズン目のスペインブランド。以前はピッティ・イマジネ・ビンボに出展していたが、前々回からプレイタイム・パリに出展している。細かいスパンコールを刺したゴージャスなドレスは70ユーロ(FOB)、ハンドでシフォンのリーフを取り付けたドレスは120ユーロ(同)。同社は8月23~25日に開かれるプレイタイム東京にスペインから団体出展する予定で、「是非ともエージェントを見つけたい」と抱負を語った。
出展規模の拡大で定着の感
キッドは前回より11ブランドが増えて、71ブランドが出展した。有名ブランドや大人ブランドなどの招待出展系と思しきブランドが無くなったが、それでも出展者数を増やした点は、実質的に同展が定着してきたことを表している。また主催者はスタート時、「40ブランド未満の状態がベスト」と述べていたが、それも拡大方向へと変化したことを覗わせる。
日本からは引き続きノーザンスカイの男児服オリジナルブランド「イースト・アンド・ハイランダーズ(EAST AND HIGHLANDERS)」が3回目の出展。すでに米国、フランス、英国、ベルギー、スウェーデン、サウジアラビア、香港に20件ほどの取引先があり、新規でイタリア、スイス、オーストリア、台湾、中国などから6件ほどオーダーを獲得し、10件ほど増える見込みだ。特にフランス、ベルギーからのオーダーが増えたという。アイテム的にはメンズで伸びているワイドデニムの流れを意識し、ハイライズにしてワイドの要素も取り入れたデニム(小売価格・79~89ユーロ)や米国向けにカットソー、ジャージのカジュアルを強化したという。
左:スーパーサンクス(SUPER THANKS) 右:ヴォン(VON)
「スコッチ&ソーダ」の日本国内代理店をしているピクサスが日本の3ブランドの海外販売代理店として初出展した。参加したのはギミックの効いたTシャツやシャツの「スーパーサンクス(SUPER THANKS)」、Tシャツブランドの「モジャクワモジャ(MOJAKWAMOJA)」と女児色の強いユニセックスブランドの「ヴォン(VON)」。イタリア、ロシア、ウクライナ、韓国、米国から反応があり、オーダー獲得後、回収や海外発送も含めてエクスポーターとしての役割を担っていくそうだ。「フランス、イギリスなどは、シルエットは好きだが、色展開が自国に合っていないという理由で発注まで繋がらなかった」とし、「ブランドとしてはヴォンの反応が良く、海外のメディア、ブロガーにも人気だった」という。これからも継続出展していくそうだ。
日本からは2社4ブランドの出展だったが、アジア勢も出展している。
「ワンス(ONCE)」は5シーズン目の台湾ブランドで、キッドには3回目の出展となる。以前はウィメンズブランドをやっていたが、競争が激しく、自身のクリエーションを真っ直ぐに表現できるとキッズブランドを立ち上げた。毎シーズン、一つのコンセプトを立てて、コレクションを構成しているため、前シーズンはプリント物があったが、今シーズンは全く無い。今季は、ヨハネス・ナゲル(Johannes Nagel)の陶器のオブジェとティモ・ソリン(Timo Solin)のメタルのオブジェからインスパイアされ、ネイビー、グレー、白、グリーン、イエローの単色を構築的に組み合わせてデザインした。綿ニットにカラフルなナイロンシフォンの布を付けたホワイトサンドレスがFOBで52ユーロ、同じく綿でボタンホールにナイロンシフォンを縫い付けた白シャツと綿ジャージで胸元に横長ネイビーの布を載せたホワイトサンドレスがそれぞれ同38ユーロ。
キッドが存在感を示し始めたとはいえ、やはり来場者数の点でプレイタイム・パリに分があったようだ。今後キッドがどれだけ上質でクリエーティブな出展者と来場者を増やすことができるか。それに対してプレイタイム・パリがプレイオロジーやアプリをはじめとしたICTの強化で新展開が図れるのか。双方の課題がはっきりしてきたようだ。次回のプレイタイム・パリは2017年1月28~30日、同会場で開かれる。キッドは未定。
・プレイタイム
http://www.playtimeparis.com
・キッド
http://www.kid-shows.com
久保 雅裕(くぼ・まさひろ)
ファッションジャーナリスト・ファッションビジネスコンサルタント。繊研新聞社に22年間在籍。『senken h』を立ち上げ、アッシュ編集室長・パリ支局長を務めるとともに、子供服団体の事務局長、IFF・プラグインなど展示会事業も担当し、2012年に退社。 大手セレクトショップのマーケティングディレクターを経て、2013年からウェブメディア『Journal Cubocci』を運営。複数のメディアに執筆・寄稿している。杉野服飾大学特任准教授の傍ら、コンサルティングや講演活動を行っている。また別会社で、パリに出展するブランドのサポートや日本ブランドの合同ポップアップストア、国内合同展の企画なども行い、日本のクリエーター支援をライフワークとして活動している。
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