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2016.02.18
拡大するパリ子供服合同展
パリのキッズ合同展には、新しい波風が立ち始めている。3回目を迎える合同展「kid(キッド)」が従来開催してきたバスチーユ・デザインセンターを離れ、東駅近くのタピルージュに会場変更した。これは、19回目を迎えた子供服・マタニティーの合同展「playtime(プレイタイム)」がフィレンツェで開かれる大型キッズ見本市「pitti bimbo(ピッティ・ビンボ)」と会期を一部重ねるために日程変更したことにより、会場変更を余儀なくされたのではとの見方と、そもそも出展者が増えて既存会場では収まり切らなくなったという2つの見方が出ている。16-17年秋冬物を見せる両展ともに1月24~26日に開かれ、日本ブランドの出展も引き続き見られた。
日本からの来場が37%増えたプレイタイム
パリ西部郊外、ヴァンセンヌの森にあるパルク・フローラル見本市会場で開かれたプレイタイムには、前年同期比11%増の500ブランドが出展した。内訳は子供服が71%、インテリア・育児関連が21%、マタニティーが8%。来場者数は前年同期より21人減って0.3%減の7,457人だった。内訳はフランス43%、仏国外57%で初めて海外が国内を上回った。一昨年同期比でみると来場者数が8.7%減、出展ブランド数が25%増という状況から考えるとプレイタイムの展示会としての力強さが見える一方、来場者数では頭打ちの傾向も見てとれる。同展が「プレイオロジー(playologie)」というバーチャルショールームを立ち上げ、注目している点もリアルとバーチャルのバランスを取ることで新たなソリューションを見出そうというチャレンジなのかもしれない。国外からの地域別来場者分布は、仏を除く欧州45%、アジア6%、アメリカ3%、中東2%、アフリカ1%、オセアニア1%で、欧州域内の順位はベルギー、英国、スペイン、イタリア、オランダが上位5ヶ国を占めた。一方欧州域外の順位では韓国、米国、日本、ロシア、中国が上位5ヶ国となり、前年同期比76%増となった韓国が1%増の米国を抜き去り1位となった。日本も37%増と大幅に増えたが順位は変わらなかった。日韓の大幅増は、昨年の1月展が新聞社襲撃テロ事件の直後で来場を控えた反動もあるようだ。次回は7月2~4日を予定している。
日本からは新規2社を含む6社が出展
初回から快進撃を続け3回目となる「ARCH & LINE(アーチ&ライン)」は、相変わらずセール会場のようだ。既存店でもオーダーする機会が取れず、ラインシートだけ持ち帰り、メールでのオーダーとなるなど対応に追われていた。初回15ヶ国30件だったが、今回は23ヶ国約50件との取引が成立しそうだ。新しい国ではシンガポール、UAE、ポルトガル、リトアニア、アルゼンチンなどからも引き合いがあった。人気だったアイテムは、ヘリンボーン柄のセーターフリース素材のパンツ(小売価格・5800円)や尾州で織ったキャメルのPコートとトレンチの中間のようなコート(60,000円)などで、カジュアルにトレンチを羽織るようなミックスコーデが受け入れられたという。
同じく3回目の出展となった「tago(タゴ)」は、得意のニットとのコンビアイテムを披露。アルファベットの判子でジャック・プレベールの詩をシルクスクリーンプリントしたウールにモヘア・シルクのニットとのコンビネーションが楽しい。手編みスカートにプリントTシャツを付けたワンピース(小売価格・450ユーロ)や袖がモヘアのウールコート(600ユーロ)などが目を引いた。取引先の米国・カリフォルニアのECが伸長しているそうだ。
前回出展を見送ったダッドウェイの「D fesense(ディーフェセンス)」は、サウジアラビアの既存店と英国の新規を獲得し、ほかベルギー、ロシア、スペインなど10件ほどの引き合いがあった。人気だったのはボーダーとチュチュを組み合わせたボディ(小売価格・4,900円)やハーフコート風キルティングのジャンプスーツ(12,000円)、キルティングジャケット(8,900円)とヘリンボーンパンツ(6,900円)のコーデなど。カジュアル寄りからおめかし寄りへと振ったのが奏功したという。
初出展の「Camphor(カンフル)」は「楠」の意で、下げ札にも楠を使用し、防虫にも役立つというニットを披露した。スーパーファインウールのニットには、パールトーン(撥水)加工を施し、スポイトで実演するなどしてアピール。ペンギンの唇が3Dになったセーター(小売価格・18,000円)やブランケット(20,000円)など、ユーモラスなモチーフに来場者の笑みがこぼれていた。
デザイン性のある人工皮革のランドセルで初出展したのは羅羅屋の「rara chan(ララちゃん)」。低学年から高学年へと身長が伸びた段階でベルトを付け替えられる点がウリだそうだ。一方で、38,000~60,000円という小売価格に対する抵抗感が拭えない点や容量不足という課題も見えてきたという。フランス、イタリア、スペイン、ドイツ、ロシア、レバノンから代理店の引き合いがあったそうだ。この他ズームティーの「Betta(ベッタ)」も出展していた。
リトアニアのクリエイターに注目
クリエイターのブランドを集めてスタートしたプレイタイムの特徴は、大規模化によってやや薄まりつつあるが、まだまだ小さくてユニークなクリエイターを発見できる。リトアニアからは政府の支援を受けて複数のブランドが出展していた。
「ANCHOVY(アンチョビ)」は、文字を色のグラデーションに変化させるというブランド名と同じ名前のアプリを使って、商品にプリントを施していた。このアプリで、例えば自分の名前を打ち込むと、その文字列に対応したグラデーションがメールで送られてくる。こうした無限に近いバリエーションと遊びの要素を交えた楽しい作品を並べた。リトアニアリネンを使ったアイテムは、ワンピースが40ユーロ(FOB(約5,100円))、パンツ34ユーロ(約4,400円)、シャツ48ユーロ(約6,100円)など。1年前にスタートしたばかりで、日本には未上陸だ。
「nikolia(ニコリア)」はリトアニアで生産するクリエイターブランド。雄鶏の羽根を裾にあしらったウールのワンピース(FOB・49ユーロ(約1,400円))やウエット素材のサーモンピンクのドレス(42ユーロ(約5,400円))、コットンベルベットの大型プリーツを施したミニスカート(39ユーロ(約5,000円))など大胆なデザインで振り切ったクリエイションを見せてくれる。こちらも日本未上陸だ。
キッドも出展者を拡大
アフリカ系の美容院が立ち並ぶエリアに位置するパリ最古の百貨店跡を会場にしたキッドには前年同期比67%増、前年7月展比58%増の60ブランドが出展した。「BOBO CHOSES(ボボショーズ)」「CARAMEL BABY & CHILD(キャラメルベビー&チャイルド)」といった有力ブランドがプレイタイムと二重出展していたが、一方で「HUNTER(ハンター)」「FRED PERRY(フレッドペリー)」「BARBOUR(バブアー)」「VANS(ヴァンズ)」といった大人ブランドの出展が無くなっていた。「MAD NORGAARD(マッド・ノルガード)」「SPRING COURT(スプリングコート)」などは継続出展していた。
日本からは引き続きノーザンスカイの男児服オリジナルブランド「EAST AND HIGHLANDERS(イースト・アンド・ハイランダーズ)」が2回目の出展を果たした。米国、フランスの既存店に加えて、イタリア、オランダの新規を獲得。ウール・アクリルの軽いシャツコート(小売価格・135ユーロ17,000)やミリタリージャケット(169ユーロ(約22,000円))、ストレッチフリースジャケット(155ユーロ約20,000円))とベスト(79ユーロ約10,000円)のコーデなどが人気だったという。
初回から出展している「CAVALIER(キャバリエ)」はシンガポールのブランドで、既に米国、欧州、韓国、オーストラリアなどに販売実績があるが、日本には未上陸。期近対応可能な春夏物と来秋冬物を並べており、春夏では、アクリルボールがメッシュの中に入って楽しげな綿カットソーのタンクトップ(小売価格・55ユーロ)やバックスタイルがエッフェル塔に見える綿ストレッチのオーバーオール(90ユーロ約11,000円)、ポケット位置にオーガンジーで手形をあしらったカットソードレス(77ユーロ)などユーモアのあるアイテムを披露した。
着実に出展者を増やすキッドの存在感が増す中で、良い意味での競争関係が生まれているのがパリのキッズファッションウィークの現状だ。フィレンツェとの都市間競合もある中、次回6~7月にかけてのバイヤーの動きが注目される。
久保 雅裕(くぼ・まさひろ)
ファッションジャーナリスト・ファッションビジネスコンサルタント。繊研新聞社に22年間在籍。『senken h』を立ち上げ、アッシュ編集室長・パリ支局長を務めるとともに、子供服団体の事務局長、IFF・プラグインなど展示会事業も担当し、2012年に退社。 大手セレクトショップのマーケティングディレクターを経て、2013年からウェブメディア『Journal Cubocci』を運営。複数のメディアに執筆・寄稿している。杉野服飾大学特任准教授の傍ら、コンサルティングや講演活動を行っている。また別会社で、パリに出展するブランドのサポートや日本ブランドの合同ポップアップストア、国内合同展の企画なども行い、日本のクリエーター支援をライフワークとして活動している。
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