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2015.10.21

コンペティターがいない“個性派”施設 10年目を迎えた大阪・梅田 「ヌー茶屋町」の魅力とは?

 大阪・茶屋町に施設を構えるファッションビル「ヌー茶屋町」。今年で開業から10周年を迎えた。隣接する別棟の「ヌー茶屋町プラス」は来年で開業から5周年を迎える。店舗面積1万4,500㎡(ヌー茶屋町が1万1,500㎡、ヌー茶屋町プラスが3,000㎡)というコンパクトな規模で、感度の高い個性派テナントを集積してきた。大小、様々な商業施設が集積する大阪・梅田地区において、グランフロント大阪やルクアがオープンしても、売り上げは下がらず、安定した推移だという。その魅力、個性の特色は何か?

特定の競合相手がいない独立独歩のファッションビル

 「ヌー茶屋町」は地下1階、地上9階の10層構造、別棟の「ヌー茶屋町プラス」は地上3階構造の商業施設だ。開業当初から、“新感覚の大人”をターゲットにしたファッションビルとして営業を続けてきた。「ヌー茶屋町プラス」は2011年4月に開業した。当初はエッジの利いた高感度の個性派テナントが多かったが、昨今のトレンドを鑑み、最近はナチュラル系のショップが多くなっている。

 

 主要な顧客層は原則、変わっておらず、20代後半から30代の女性である。特定の感度・テイストを好む特定の顧客層の幅出し――いまでは当たり前になった編集だが、ライフスタイル提案をいち早く展開した施設だった。商業施設は不易流行、トレンドの変化に合わせ、そのテナントの顔ぶれも品揃えも変化していくものだが、「ヌー茶屋町」も例外ではない。開業当初のコンセプトを踏襲し、オンワードホールディングスのセレクトショップ「オープニングセレモニー」など、高感度なテナントも入居しているが、ナチュラル系の雑貨ショップの出店も増えている。

 同施設は大阪の一大商業施設、梅田地区の中でも趣の変わった存在だ。ターミナルの大阪駅から徒歩数分を要し、同地区では決して利便性が良いわけではない。どちらかと言えば、“わざわざ立地”である。そういった個性派施設のため、来館する顧客層もおのずと、個性派ブランドを好むユーザーが多くなってくる傾向がある。

 

 一般的に商業施設は、ベンチマークする競合他社を設定しているものだが、「ヌー茶屋町」では特にそういった対象はないという。以前、同商圏内にある個性派ファッションビル「イーマ」や「ブリーゼブリーゼ」と情報交換していた時期もあったというが、現在はそういった横のつながりもないようだ。まさに“独立独歩”といった表現がぴったりする施設である。

売上推移は堅調、メーンターゲットから根強い支持集める

 売上推移は堅調である。売上高は非公表だが、2014年度(2015年3月期)の実績は、「ヌー茶屋町」が前年比106%、「ヌー茶屋町プラス」が同107%と安定した推移だ。メーンターゲットの20-30代女性から、根強い支持を集めている。取材して意外だったのは、足元商圏からの集客が多いこと。周辺地区に住むユーザーが、普段使いに利用しているケースも少なくないようだ。上層階には「タワーレコード」「イシバシ楽器」など男性客向けのテナントも出店しているため、来館客の30%は男性顧客である。

 

 商圏に関連して、これも珍しいケースだが、「ヌー茶屋町」では、特定の商圏を設定していないという。幅広い客層が訪れる梅田地区に出店する施設だからかも知れないが、むしろ入居している個性派テナントのファンが来館する、と考えた方が良いようである。

 

 従って、高感度なユーザーだけでなく、デーリーユースの顧客も一定数いることが予想できる。最近、大阪で1店舗だけ展開している高感度な古着屋を新たに誘致したそうだが、館のユーザーのテイストと合っているのか、周辺テナントと非常に馴染んでいるという。典型的な地元密着型の専門店タイプのファッションビルなのかも知れない。

販促面でも様々な工夫を凝らす

 販促面でも様々な工夫を凝らしている。4年ほど前から始めた、茶屋町周辺のほかの商業施設と協業したイベント「ウメチャ祭り」も年々、参加施設が増えている。地元キー局の地上波、MBS(東京で言うところの、TBS系列)や、近隣にある路面店舗「ロフト」、同じく路面店舗で大阪のグローバル旗艦店舗の「ユニクロ」とも、共同戦線を張っている。来年はさらに周辺企業の参画も予定されているという。

 

 こうしたイベントは集客の向上にも貢献しているそうで、期間中の売り上げも増えるそうだ。個性派雑誌との協業も展開し、好評を得ている。客数も徐々に増えているといい、今後も地道な販促活動は変わらないようだ。

 

 新規テナントのセレクト条件については、「路面店舗しか展開していないような個性派ショップ。大阪ではここにしかない、というテナントを探している」(販売促進部、藤原実花 氏)という。差別化云々と言うよりも、“オンリーワン”を目指している商業施設のようである。

 

 一般的なファッションビル、商業施設と少し趣を異にする「ヌー茶屋町」。わが道をゆくリーシングの在り方が、顧客に受け入れられている。規模は決して大きくないが、様々なテイストの施設が集積した梅田地区では、こういった個性派も存在意義があるということなのだろう。


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

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