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2016.01.20

大小の改装が続く傾向に 2016年の関西流通マーケットを俯瞰する

 明けましておめでとうございます。さて、昨年2015年の関西流通マーケットは、引き続き新しい商業施設が増えて、競合が激しくなる1年だった印象が強い。既存施設の大規模改装(なんばパークスやイーマ)もあったし、イオンモールなど郊外型ショッピングセンターの出店も続いた。最もインパクトが大きかった施設は、4月2日にオープンした「ルクア イーレ」と、11月19日にオープンした「エキスポシティ」だろう。各デベロッパーにとって、フラッグシップ級の施設である。今年の商業施設開発は、昨年に比べると“おとなしい”印象だが、既存施設の推移を落ち着いて検証することができる利点もある。独断と偏見で、注目の商業施設をいくつか挙げてみた。

引き続き、話題の中心にある「ルクア」

今年も話題の中心になりそうな「ルクア イーレ」

 昨年、東京のメディアからの関心が高かった商業施設の1つが、「ルクア イーレ」だ。概要を発表する記者会見場でも、東京から出張してきた関係者が多い印象を受けた。「三越伊勢丹が実質、失敗・撤退した跡に、居抜きで出店する商業施設」という点が関心を集めたのだろうと推察する。オープン直前の内覧会でも、三越伊勢丹関係者に取材する人だかりができていた記憶がある。運営母体は「ルクア」のJR西日本SC開発で、メーンテナントとして「伊勢丹」が入居するという新しい形だ。

 

 関西圏における最も注目度の高い商圏は梅田地区、という意見に異論はないだろう。その中でも、今年4月に開業から丸1年を迎える「ルクア イーレ」が、話題の中心になることは想像に難くない。個人的にも関心がある施設で、特に前年と比較できる今春以降――2年目の推移が気になるところだ。商業施設の売上推移を見るに当たり、かねて私が重視している点が2年目以降の動向である。各マスメディアは、オープン当初は華々しく報道するが、2年目以降というと、極端に露出度が下がってしまうことが多い。あとは閉店セールで少し盛り上がるくらいが関の山だ。2年目は初年度のオープン景気の反動減が出るため、本当は3年目の推移を含めて見極めるべきではと考える。

 

 そのほか梅田の商業施設では、「イーレ」が全館規模の改装を実施して1年を迎えるし、百貨店・阪急うめだ本店も春へ向けて、レディスフロアを中心に大がかりな改装を実施している。また、阪神梅田本店の建て替え工事が本格化し始めた。工法は阪急うめだ本店の建て替え時を踏襲し、建物の半分を壊し、残った部分で営業を続けるというスタイルだ。現在は阪神梅田本店の建物の半分がない状態で、普段は見られない光景になっている。その分、梅田の導線もややこしくなって、利用者には不便なのであるが…。

昨秋、話題をさらった「エキスポシティ」

売上推移が興味深い「エキスポシティ」

 もう1つの注目の商業施設が「エキスポシティ」(EXPOCITY)だ。大阪万博跡地――エキスポランドの再開発で、三井不動産が展開する「ららぽーと」をキーテナントに、8つのエンターテインメント施設が集積する複合商業施設だ。三井不動産もこの施設を「ららぽーとのフラッグシップ」と自認する。開業間際の内覧会でも「ルクア イーレ」同様、東京メディアの関心が高かった。

 

 物販主体の「ららぽーと」と、サービス主体のエンターテインメント施設を融合させた点が最大の特徴で、典型的な時間消費型施設である。「ららぽーと」の店舗面積が約7万1,000平方メートルで、エンターテインメント施設を含めた敷地面積は約17万2,000平方メートルに上る。施設全体の年間売上高目標は600億円と控えめな数字。年間来場者数は、通常時で1,700万人を見込んでいるそうで、平均客単価は約3,500円の計算になる。

 

 同施設は開業後、初めての年末年始、そしてセールを経験している。春夏商戦は未体験、これからである。どういった売上推移をたどっていくのか、楽しみである。こちらも「ルクア イーレ」同様、2年目の動向が気になるところだ。

 

  ミナミの商圏では、今春から今夏にかけて、天王寺・阿倍野の複合商業施設「あべのキューズモール」が全体の約40%に当たる約100テナントをリニューアルする。東急不動産が開発した物件で、2011年4月に開業したショッピングセンターで、イトーヨーカドーが核テナントになっている。開業からちょうど5年が経過した時点の大改装だ。同様に、大阪から快速電車で10分足らずの距離にあるJR尼崎駅の前に商業施設「あまがさきキューズモール」も、約40%に当たる約60テナントを改装する。こちらは2009年10月の開業で、7年目に入っている。

 

  新しい施設ができると、周辺の施設が改装を実施するという動きは、東京でも関西でも同じだ。静かな水面に水滴(新規商業施設あるいは大規模改装)を1つ垂らすようなもので、その影響は周りに波及する。今年はさらに腰を落ち着けて、つぶさにキーとなる商業施設を取材して回ろうと考えている。文字通り、“ヒントは現場に落ちている”のである。今年もよろしくお願い致します。


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

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