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2012.12.25

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.4】東京 2013春夏コレクション

 パリやミラノでジャポニズムが打ち出された2013年春夏。「本家」とも言える東京コレクションでは、日本古来の美意識や伝統的な職人技へのリスペクトを示す作品が相次いだ。ただ、それらを素のまま持ち込むのではなく、各ブランド流にアレンジしてモダナイズしてみせていた。和柄や着物ディテールを拝借するような表面的お化粧にとどまらない取り組みには、日本人としても自負が感じられた。

 

  「matohu(まとふ)」は「見立て」をテーマに選んで、ありきたりの生地ではない素材を使って、服を仕立てた。物を使い捨てにしないという日本的な美徳も織り込んだ哲学的アプローチ。手の込んだレイヤードは前シーズンのテーマ「かさね」から継承された。シグネチャーアイテムの「長着(ながぎ)」に様々な柄を響き合わせた。

 

 フーテンの寅さんをイメージアイコンに迎えた「beautiful people(ビューティフル ピープル)」は昭和の残り香を漂わせた。寅さん愛用の履き物「雪駄(せった)」を全モデルに履かせ、腹掛けや股引(ももひき)までトランスフォームして披露した。鼈甲(べっこう)や千代紙など日本の繊細なものづくりを連想させるモチーフを取り込んで、「Made in Japan」への郷愁を呼び覚ました。

 「西洋人が着物に袖を通したイメージ」を形にしたのは「SOMARTA(ソマルタ)」。アールヌーヴォーと浮世絵の縁(えにし)に想いを馳せつつ、柔和で官能的な植物の曲線で作品群を包み込んだ。浮世絵に影響を受けたとされるアールヌーヴォーを経由することによって、西洋の視点で日本の曲線美をとらえ直すことに成功していた。帯と帯留めを変形したようなベルトにも伝統工芸への畏敬が込められていた。

 欧米の洋服に比べて平面的、2次元的だと言われる日本の「洋服」。たたんで平らになる着物に由来するフラットさは日本発の洋服の特質でもあるが、「ANREALAGE(アンリアレイジ)」はそこを逆手に取った。「BONE」をテーマに掲げ、クリノリンやパニエのような「骨」で過剰にふくらみを持たせつつ、その「骨」をあえて外にさらした。レースのように透けるサマーコートや、何万目にも及ぶ手間をかけたソックスにも、日本の職人気質が薫った。

 

 気鋭デザイナーを表彰する「第3回 DHLデザイナーアワード」に選出された「ATSUSHI NAKASHIMA(アツシ ナカシマ)」は「crossed culture」をテーマに、和と未来ムードを融合。着物ライクなスリーブドレスにハーネス(安全ベルト)を巻き、甲冑風のコルセットにメタリックなレギンスで合わせるような越境のマリアージュを試みた。

 日本の服飾美へのまなざしが熱気を帯びる一方、グローバルトレンドに同調するような動きも目立った。「G.V.G.V.(ジーヴィージーヴィー)」は白黒バイカラーやメタリックカラーを打ち出したり、パリやニューヨークを席巻した「オプアート」の新トレンドに肩を並べた。スイムウエア、ビスチェ、フューチャリスティックなどのムーブメントも詰め込んで、ネクストトレンドのショーケースとも呼べそうなモード濃度を生んだ。

 

 「mintdesigns(ミントデザインズ)」もオプアートとSFムードを作品に落とし込んだ。折り紙や万華鏡のようなプリントがあしらわれ、幻想的でミステリアスなムードを醸し出した。椅子がいっぱいプリントされたドレスのような謎めいたモチーフや、未来感覚の光沢を放つ素材などがちょっと不思議なダークサイドに誘う演出。目の錯覚を起こすようないたずらっぽい仕掛けが装いの奥行きを深くした。

 前回までの六本木を離れ、渋谷ヒカリエがメイン会場となったこともあってか、業界に閉じない発信力が増幅されたように見えた。アジアの歌姫、安室奈美恵さんがオープニングに登場した「FACETASM(ファセッタズム)」はニュース番組でも取り上げられた。「WC(ダブル シー)」「American Apparel(アメリカン アパレル)」の参加は新風を吹き込んだ。創業デザイナーの岩谷俊和氏が「DRESSCAMP(ドレスキャンプ)」に復帰したことも話題を集めた。

 演出手法に新しい切り口も提案された。マネキンを使った「motonari ono(モトナリオノ)」、渋谷・宮下公園でドラマティックなショーを開いた「writtenafterwards(リトゥンアフターワーズ)」などは、従来のランウェイショーやインスタレーションの枠を踏み越えてみせた。音楽と切り離せないアプローチを重ねる「NOZOMI ISHIGURO HAUTE COUTURE(ノゾミ イシグロ オートクチュール)」「NOZOMI ISHIGURO tambourine(ノゾミ イシグロ タンバリン)」はストリートクチュールの作風と劇的な音楽構成が見事に調和していた。

 

 かつては「原宿ポップ」と呼ばれるような弾けたトーンが目立った東京コレクションだが、昨今は大人っぽい作品を送り出すブランドが主流になっている。ファストファッションの対抗軸を意識してか、手仕事を重んじた、容易にコピーできない質感の一点物を柱に据える傾向も強まってきた。半面、東京らしいストリート風モードは深みを増し続けている。世界的なミニマルの潮流とも微妙に距離を置いて、クチュール色を濃くする東コレは我が道を行くかのようだ。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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