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2015.01.09

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.22】2015春夏ファッションの6大トレンド

 2015年春夏シーズンの主要コレクションでは、広い意味でロマンティックな気分が深まった。全体にハッピートーンの楽天的ムードが濃くなり、70年代ルックなどノスタルジックなレトロ志向も強まった。デコラティブとまではいかないものの、大胆なプリントやデザインで遊ぶ感覚が勢いを増した。一方、伸びやかでリッチなスポーティーリュクスや、気取り・気負いを遠ざけるエフォートレスの両テイストもさらに定着してきた。主な6トレンドを通して新たな方向感を浮き上がらせてみよう。

◆70s(セブンティーズ)ビート

(左から)VALENTINO 、 EMILIO PUCCI

(左から)ETRO 、 Chloe

 ヒッピームーブメントに象徴される米国西海岸1970年代の熱気が戻ってくる。キーマテリアルはデニム。ブリーチやダメージドも復活の兆し。「ラブ&ピース」を唱えたフラワーチルドレンのアイコンだったチューリップハット、アイレット(鳩目)ベルトにも光が当たる。フリンジは服に加え、バッグからもたっぷり垂らすのが、来季の傾向だ。西海岸ロックのムードも70年代テイストを印象づける。サイケデリック模様やレインボーカラーは当時の楽観までよみがえらせる。素材ではスエードが脚光を浴びそう。裾フレアのバギーパンツも、挑発的だった当時の怒れる若者スタイルを映す。ボヘミアンな雰囲気が再び盛り上がる。エプロンドレスやマキシ丈スカートはシンボリックなアイテム。ビーズや刺繍などのディテールもボーホー感を深くする。ポンチョやタイダイはフォークロア色を添える。靴はレースアップ(編み上げ)サンダルにフォーカスが集まる。

◆スポーツユース

(左から)ALEXANDER WANG、 Proenza Schouler

(左から)MARNI 、 JIL SANDER

 前シーズンから続く、スポーツテイストとフェミニンの融合はさらに進む。新たな方向感は若々しくガーリー。タンクトップ・ミニワンピースやシャツドレスのように、フレッシュでキュートなムードが濃くなり、アスレティック感は薄めになっていく。フィット&フレアのシルエットを軸にテニスルックやマリン、ビーチなどの風情を帯びる。ブルゾン、パーカといったキーアイテムに、ポロシャツ、ガウチョ・ワイドパンツ、ブラトップなどが加わって、都会的でクリーンな装いを組み上げる。素材はストレッチ生地やメッシュ、ネオプレンなどが用いられる。ディテールではドローストリングス、ジップ、カットワーク、シューレースなどがアクティブ感を増幅する。

◆エアリーエフォートレス

(左から)MICHAEL KORS 、 LOEWE

(左から)LANVIN 、 STELLA McCARTNEY

 くつろぎ感や落ち着きを醸し出すエフォートレスのスタイリングも勢いが衰えない。ただ、来季は風や空気と戯れるエアリーな風情が強まる。シフォンやチュールといった透け感の高いシアー生地を用いて、着姿に透明感を寄り添わせる着こなしが支持を集めそうだ。スリット越しの肌見せはヌーディーな雰囲気を招き入れる。フェミニンやエレガントの濃度が上がるのも、新エフォートレスの変化ポイント。流れ落ちるような縦長フォルムが主役になる。シャツはここでもキープレーヤー。色は生成りやベージュ系が穏やかさを際立たせる。小花モチーフ、レース、ギャザーなどのディテールも静かなレディーのたたずまいを生む。

◆ライトミリタリー

(左から)GUCCI、PRADA

(左から)rag & bone、Acne Studios

 カモフラージュ柄のブームを呼んだミリタリーの流れは15年春夏でも加速。ただし、本気の軍装には向かわず、むしろ本来のタフさをそぐ方向に振れる。エポレット(肩飾り)や金ボタン、フラップポケットなどのミリタリーアイコンをソフト顔に変形させてあしらう「ゆるミリ」のアレンジがコーディネートの自由度を上げる。夏アウターの浸透を追い風に、トレンチコートも春夏アイテムに仲間入り。実用重視という基本線でミリタリーと通じるところの多いワークウエアもさらに活気づく。カーゴパンツはゴツ感をやわらげたショートパンツのような形で取り入れが進む。色はミリタリーらしいカーキ、オリーブ、ネイビーが台頭。全身をミリタリーやワークウエアに染めるのは避け、マリンやスクールガールといった愛らしいムードと重ね合わせるミックススタイリングが打ち出されている。

◆ボールドプレイフル

(左から)MISSONI 、 VERSACE

(左から)BALMAIN 、 GIVENCHY

 楽観を漂わせる「プレイフル」のテイストはさらに大胆さを増す。シーズンレスの潮流を映す夏レイヤード(重ね着)が浸透。アシンメトリー(左右非対称)が着姿に動きを持ち込む。幾何学的なグラフィック模様を大ぶりにあしらったデザインは、「アートをまとう」の発展形とも映る。ストライプ(ボーダー)やチェック柄、フラワーモチーフなども朗らかな気分を上乗せする。クチュールライクな細部の工夫は主張を強めていく。パッチワークやアップリケ、刺繍といったニードルワークが装いに表情をもたらす。紳士シャツ風カフスや切りっぱなし処理などの凝った細工もいたずらっぽい気分を忍び込ませる。

◆ディスカバリージャパン

(左から)ALEXANDER MCQUEEN 、 SAINT LAURENT

 日本から着想したシルエットや柄が世界規模で注目を浴びた。純粋に「和」を再現したのではなく、西洋から「発見」したような、エキゾチックで不思議な雰囲気をデフォルメしたジャポニズムの感覚だ。着物風に前を打ち合わせるカシュクールを、バスローブ風サマーアウターに用いた例が目立つ。着物や柔道着の帯をアレンジしたベルトも提案されている。和モチーフ、家紋、小紋柄をプリントで生かす例が相次いだ。藍染めや草木染めも取り入れられている。オリエンタルな見栄えを好んでか、漢字やカタカナも迎えられた。着物ライクな襟ディテールを配したり、筒袖風のストレート袖を仕立てたりと、和の装いを洋服に写し取る試みが目立つ。

 

 14年春夏までは主旋律だったマスキュリンなテイストはフロントロウから退き、スポーティーやミリタリーに吸収された感がある。継続トレンドのスポーティー、エフォートレスは趣を少しずつ変えて裾野を広げつつある。そういったロングトレンド化の中にあって、久々の復活を果たす70年代ルックは期待の新顔と言える。過剰に飾り立てはしないものの、以前よりメッセージ性が前に出て、センシュアリティー(官能性)を色濃くした15年春夏の装いはおしゃれに自分らしい主張を込めたい女性に共感を得ると見えた。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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