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2025.05.04
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.106】「強エレ」をまとう 多面的なフェミニン観 2025-26年秋冬・パリ&ミラノコレクション

写真左から「ディオール」「ヴァレンティノ」「クロエ」「プラダ」
2025-26年秋冬のパリ&ミラノコレクションでは、芯の強さを秘めたエレガンスが台頭した。グラマラスやノスタルジックなどのテイストを絡ませながら、不安や不穏の時代に向き合う、複雑な女性像を立ちのぼらせている。象徴的なのはファーとレザーの多用。プロテクションや主張、装飾性を兼ねた。きらめき素材やランジェリーでフェミニニティーを薫らせる傾向も、一筋縄ではいかない多面・重層的な「女らしさ」を醸し出している。
■パリコレクション
◆ディオール(DIOR)


フリルやレースを用いて、貴族的な気品を漂わせた、クラシックでクチュールな装いをそろえた。付け外しが可能な、ひだを配した飾り襟やカフスが目を引く。妖艶な総柄レースドレスは素肌をなまめかしく透け見せる。ビスチェを重ねて重層的に仕上げた。コンパクトなミニ丈ドレスは裾を張り出し、ニーハイ・ソックスでバランスを取っている。レザーやファーに刺繍、透かしレースを交わらせ、「革・繍・透」を響き合わせた。マスキュリンとフェミニニティーを交差。ミリタリー風味も薫らせて、骨太な女性像をまとわせた。
◆ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)


鉄道旅をイメージソースに選んで、思い思いの目的地へ向かう旅客の装いを写し込んだ。全体にノスタルジックで、カントリー調を帯びる。赤を印象的に用いて、ブラウン系と交わらせた。ブランケットコートやアノラックなど、多彩なアウターでアクティブ感を盛り込んだ。トレンチコートは細身のショート丈にリモデル。スリップドレスはエフォートレス。ショルダーラインに強めの張り感を持たせ、ウエストシェイプやボリューム袖で量感を弾ませている。つやめきレザーや総柄でドラマティックな着映えに導いた。ウエストでボディーバッグを2個付け。旅に寄り添ういろいろな形のラゲージがヘリテージを物語っていた。
◆ヴァレンティノ(VALENTINO)


グラマラスでレトロな装いをたっぷり注ぎ込んで、文化寄せ鍋的なマキシマリズムを打ち出した。ファーアウターがゴージャス。ヴィンンテージ感やスキンコンシャスを融合。つやめきを帯びたボディスーツやレースタイツを多用し、ランジェリー風味を漂わせた。ミニ丈ドレス、トレンチコートを盛り込んだ。フィット感の高いティアードドレスは官能性を宿した。リボンやフリル、刺繍、プリーツでロマンティックな起伏を添えた。ビッグサングラスや大ぶりネックレスが華やぎを上乗せ。装飾主義を貫きつつも、メゾンのレガシーと折り合いを付け、ウエアラブルクチュールに整えてみせた。
◆クロエ(Chloé)


ボヘミアン・ロマンティック路線を推し進めつつ、エアリー感を高めた。レーシーなシアードレスはマキシ丈でランジェリーライク。ギャザーやフリルをふんだんにあしらっている。パワーショルダーや極太ベルトを盛り込んで、芯の強さを示した。ファーのストールにはポンポン風のしっぽを何本も垂らしている。ファーに加え、つやめいたレザーでアウターやパンツをリュクスに仕立てた。サテンの細身ドレスがしなやかに流れ落ちる。ウエスト見せを取り入れて、量感をそいだ。ショルダーバッグやひじ掛けバッグが多彩。復活した「パディントン」をはじめ、歴代のアーカイブを掘り起こして、「クロエ・ガール」らしさを濃くしている。
■ミラノコレクション
◆プラダ(PRADA)


「女らしさ」の再定義を試みた。象徴的なリトル・ブラックドレスは襟ぐりの開き加減がいろいろ。アシンメトリーを持ち込んで、無難な定番服をゆがませた。膝丈タイトスカートやミニスカートはいい意味でふてぶてしさを漂わせる。シャツはカフスがあふれている。ファーやレザーを多用。コンパクトな肩出しドレスはニーハイブーツを従えた。パジャマシャツやコートドレスがフェミニニティーを揺さぶる。奇妙なポジションのリボンや、布のしわが不穏な時代感を写し取っていた。オーバーサイズ、非対称、粗削り始末が従来の「レディーライク」に異を唱えた。
◆フェンディ(FENDI)


創業100周年の節目に、ブランドのDNAをたどり直した。毛皮工房から始まった歴史を踏まえて、リアルファーを軸に据えている。高い襟のコートがボディーを包み込んで、グラマラスでゴージャス。ファーをあしらったバッグも披露。コートやパンツのほか、ワンピースにまでファーが生かされ、奥深い質感に職人技が光る。細身のセットアップにはロングブーツを添えて、しなやかなムードに。細いベルトを締めて砂時計シルエットを描き出した。ファーやレザーにシアー服をミックス。官能性を引き出した。ハンドバッグの多彩さも歴史を物語る。アニバーサリーイヤーにふさわしいルック数がアーカイブの厚みを証明していた。
◆グッチ(GUCCI)


コンパクトなスーツやセットアップに伝統のサルトリアル技を注ぎ込んだ。全体的にシルエットはスマート。レザーや人工ファーに、ブラレットがランジェリー風味を交わらせている。1960年代調のレトロ感を漂わせた。流麗なスキンコンシャスのドレスを披露。ミニ丈や襟ぐり深めのドレスも見せた。ネオンカラーやパープルがルックを彩る。馬具由来の金具「ホースビット」のモチーフをネックレスに持ち込んだ。キャップにヘッドスカーフを重ねてレトロスポーツに整えている。デザインチームはブランドのコードをたどり直しつつ、現代的に磨き上げた。
◆ジル サンダー(JIL SANDER)


ミニマルな装いに情感を添える美学を貫いた。つややかなフリンジをどっさりあしらった漆黒のベアショルダードレスはシンプルで壮麗。メタリックシルバーのスカートは、光をまとったようにきらびやか。ベルトのダブル巻きがさりげなくパンク風味を添えた。クラッチバッグは脇に抱えてエレガンスを体現。ファーを襟や肩口に巻き、グラマラス感を添えた。真っ赤なレザー仕立てのスカート・セットアップは妖艶な雰囲気。両袖を通さないジャケット肩掛けが強さを示す。小ぶりのリボンを全面に配してドレスを華やがせている。ルーシー&ルーク・メイヤー夫妻はラストコレクションでもミニマルの先を求め続けた。
今やトレンドは見た目やアイテムではなく、キャラクターのありようへと重心が移りつつある。入り組んだレイヤードはそれ自体が複雑な女性像を物語る。ラグジュアリーとスポーティー、グラマラスとノスタルジック、ガーリーとエンパワーメントといった掛け算テイストも、ワンテーマでは済まなくなったおしゃれ事情を映し出している。パリとミラノで相次いだデザイナー交代は、「強エレ」に象徴される視点のクロスオーバーを一段と加速させていきそうだ。
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宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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