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2024.12.16
atmos/原宿店を刷新、創業の地で新たな「スニーカーコミュニティー」醸成へ
2000年に原宿で立ち上がり、ファッションとしてのスニーカーブームを牽引してきた「atmos(アトモス)」。資本金300万円でスタートした個店ながら、名立たるブランドとのコラボレーションにも先駆けて取り組み、飛躍を続けた。アメリカのスニーカー小売り大手フットロッカーがアトモスをM&A(企業の合併・買収)したのは21年のこと。買収額は実に約400億円に上った。国内はもとより、グルーバル市場へ向けた新たな展開が注目される。創業25年を迎える来年へ向け、23年からは表参道、千駄ヶ谷、心斎橋の旗艦店を刷新。地域や日本の文化に根差した店舗ごとの空間作りを進め、今年10月31日には原宿の1号店をリニューアルオープンさせた。スニーカーをアートに見立てた00年開店時の「スニーカーウォール」をオマージュし、現代にアップデートした空間だ。創業の地で、「世界中からスニーカーファンが集まるコミュニティー」を新たに醸成していく。
店舗ごとに異なるコンセプトを体現したストアへ
フットロッカーの傘下に入った「アトモス」は、運営母体をそれまでのテクストトレーディングカンパニーからフットロッカーアトモスジャパンへと変更。現在は次代へ向けた新たな基盤作りとして既存店を見直し、店舗ごとに異なるコンセプトによるリブランディングを進めている。2023年4月には旗艦店の表参道店を「LIMINAL TOKYO」をコンセプトとしたスニーカーブティックへ、24年3月には千駄ヶ谷店を日本の伝統的な文化とスニーカーカルチャーを融合したコミュニティー的なコンセプトストアへ、西日本の旗艦店と位置づける心斎橋店は表参道店と共通する空間イメージを持たせ、スケルトン空間にアトモスを象徴する「atmos blue material(アトモスブルーマテリアル)」を融合した。次いで路面店のリニューアルに取り組み、その端緒を切ったのが原宿の1号店だ。
原宿店が誕生したのは00年のこと。有名な話だが、それ以前の1997年に設立されたテクストトレーディングカンパニーは、アトモスの前身となる伝説的なショップを運営していた。「NIKE(ナイキ)」などアメリカから並行輸入したスニーカーを軸とするセレクトショップ「チャプター」だ。裏原宿エリアに出店するや、たちまち人気を呼んだ。この実績からナイキの正規販売代理店となった00年に屋号を「アトモス」に変え、現在の原宿店がある原宿通り沿いに移転。ナイキの別注モデルを皮切りに、当時はチェーンストアなどの大手小売りにしかできなかった著名ブランドとの協業を個店ながら次々と実現し、セレクト業態でありながら独自の品揃えでスニーカーシーンを牽引した。
「全てが原宿から始まった」と、原宿店の出店時からアトモスのMDに携わるフットロッカーアトモスジャパンのシニアディレクター阿久津拓郎さん。原宿店は売り場面積も66㎡と他の店舗と比べ小さいが、「僕らの原点であり、思い入れのある場所。新しい店舗は、スニーカーをアートに見立てて1点1点をしっかりと見せていた当時のVMDへのオマージュ」という。00年代にはコーポレートカラーであるブルーを塗った木製のボックス型シェルフを連ね、その一つひとつに1足ずつスニーカーを配置し、アート作品を鑑賞するように店内を巡る空間を生み出した。今回のリニューアルでも基本構造は同様で、異なるのは壁も棚も床もモルタルにし、ザラついた質感と重厚感を表現しているところ。奥行きの深い空間の両壁面にボックス型シェルフが設えられ、160を超えるスニーカーが各ボックスに1足ずつディスプレイされている。各ボックスの上部に仕込まれた照明が、プロダクトそのものを際立たせる。
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リニューアルした原宿店の売り場
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スニーカーをアートのように陳列した「スニーカーウォール」
「スニーカーウォール」と呼ぶ棚は4面で構成。エントランスを入って右手には新作やプッシュするアイテムを集積し、ブランドのプロモーション動画などを紹介するモニターを棚上に据えた。続く店奥まで広がるウォールには、主力とするナイキのインラインや別注のアイテムが充実。柔らかな光を放つアトモスブルーのロゴのネオンサインがあるレジの前を通り、店内をUターンすると「HOKA(ホカ)」や「On(オン)」、「adidas Originals(アディダス オリジナルス)」、「SALOMON(サロモン)」、「MERRELL(メレル)」など多様なブランドが並ぶウォール、さらにエントランス方面へ向かうと「New Balance(ニューバランス)」を中心としたウォールが展開される。右手のウォールに並ぶスニーカーはトゥが店奥へ、左手にディスプレイされたスニーカーはトゥがエントランス側を向き、順路のよう。売り場のセンターにはアトモスのオリジナルを中心にアパレルのプロダクトが並ぶ。
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新作や押しの商品を提案するエントランス側のウォール
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ナイキを中心としたウォール
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売り場の突き当たり、レジ後ろでブルーに光るロゴのネオンサイン
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オリジナルのアパレル。「アトモスハラジュク」のTシャツは原宿店限定で、実店舗のみで購入できる
ギミックに注目、別注や限定モデルが充実
リニューアル後、よく動いているのは「Air Max SNDR(エアマックスサンダー)」。ナイキがスニーカーに初めてジッパーを搭載し、98年に発売した「Air Sunder Max(エアサンダーマックス)」を進化させ、改名した。アッパーは二重構造で、内側でシューレースを結び、外側のシュラウドをジッパーで開閉する。その型破りなスタイルはそのままに、アッパーをウェットスーツなどに使われる伸縮性の高いネオプレーン素材へとアップデート。トゥからヒールにかけてのグラデーション、通気性と反射性を備えたサイドパネルなどのデザインも独特で、ヒール部にはマックスエアクッション、前足部にはナイキエアを搭載した。ジッパーを開くとシュータンには「6453」の数字が縦に並ぶ。世界中にあるナイキのオフィスの電話番号の下4桁の数字で、スマートフォンのキーパッドで「N-I-K-E」を入力するときのキー(6=N、4=I、5=K、3=E)でもある。
「98年の発売当時は日本では手に入らなくて、まだ20代だった僕たちは探し回っていたんです。そのエアサンダーマックスが25年後の今、復刻され、今度は僕たちが若い世代に伝えていく役割を担う。当時を知らない人たちに新しい見せ方で提案し、エアマックスを盛り上げていきたい」と阿久津さんは話す。
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「エアマックスサンダー」
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ジッパーを開けると現れる「6453」
エアマックスシリーズの中にはフットロッカーと縁の深いモデルもある。「AIR MAX PLUS(エアマックスプラス)」は、98年の発売当初はフットロッカーの別注モデルとしてリリースされたもの。他のエアマックスモデルと異なる大きな特徴は、半球状のプラスチック樹脂材による「チューンドエア」だ。この半球が衝撃を吸収し、安定した歩行をサポートする。原宿店ではアトモスとナイキ直営店限定のモデルを扱う。
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かつてフットロッカーの別注モデルだった「エアマックスプラス」
03年に発売された「SHOX(ショックス)」も人気だ。ナイキはナイキエアで足が着地したときの衝撃を吸収する機能を追求してきたが、ショックスで実現したのは吸収した衝撃を反発力に変換することだった。ソールに高反発素材を使った円柱状のスプリングコラムを並べ、機能をさらけ出したデザインも衝撃的だった。だが、「当時は全く売れなかった」という。理由は複合的にあるのだろうが、まだコーディネートのイメージが湧かなったのかもしれない。20年が経ってショックスが生んだスタイルがファッショントレンドと同期し、その機能も改めて評価されている。
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今、改めて人気の「ショックス」
96年の発売以来、ロングセラーを続けているのは「AIR RIFT(エアリフト)」。サンダルとスニーカーのハイブリッドスタイル、つま先部分が分かれたデザインが大きな特徴だ。裸足で走るケニアのランナーと日本の足袋にインスピレーションを得て開発され、様々な素材やカラーで展開されてきた。今季は新たに投入したレザーのブラックバージョンが当たっているという。
アシックスの「GEL-KAYANO(ゲルカヤノ)」もロングセラー。閃光をイメージした流線的なデザインに高機能なスペックを搭載したランニングシューズシリーズから、今季は08年発売の「GEL-KAYANO14(ゲルカヤノ14)」をベースに別注した。暗闇で光る「夜光茸」をテーマに、シューズの随所に蓄光を施し、細部までギミックの効いたコラボモデルに仕上げた。
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ブラックレザーの「エアリフト」
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夜光茸をテーマにデザインされた「ゲルカヤノ14」
今年11月に投入したプーマ、アトモス、神宮前のスペシャルティーコーヒーショップ「BAGGAGE COFFEE(バゲージコーヒー)」とのトリプルコラボによる「PUMA PALERMO ATMOS BAGGAGE BLUE HORIZON(プーマ パレルモ アトモス バゲージブルー ホライズン)」も注目だ。パレルモはインドアスポーツ用に作られたモデルで、81~82年の1年間だけ生産された。70年代後半に英国のフットボールサポーターのスタイルに取り入れられていたシューズが由来。今回はフットボールに精通するバゲージコーヒーのオーナー竹内隆平氏と共に、東京のフットボールカルチャーをテーマに復刻した。アトモスとバゲージコーヒーのコーポレートカラーであるブルーを基調に、このモデルの特徴であるアッパーサイドのタブをめくるとゴールドで刻印したバゲージコーヒーの看板犬「ペレ」が現れる。
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プーマ、バゲージコーヒーとの3者コラボによる「パレルモ」
世界中のスニーカーファンのコミュニティーを目指す
アトモスは現在、国内に32店舗、アジア圏に12店舗を展開。アメリカでの出店や運営は本国管轄となり、ニューヨーク、ワシントン、フィラデルフィアにあった3店舗は昨年退店した。ジャパン社はアジア圏での店舗運営を担う。インドネシア、マレーシア、フィリピンに店舗があり、「海外に関しては店舗数を増やしているところ」。日本国内では路面店、ファッションビル、百貨店に出店しているが、創業25年を迎える来年をめどに既存店のリニューアルに力を注ぐ。
「国内では東京五輪までに40店舗を目指し、36店舗まで出店できたのですが、コロナ禍で閉じたところもあり現在の店舗数になっています。コロナ禍が空けて消費意欲が戻り、訪日外国人客も急増している中で、新規出店よりも、まずは既存店を1店1店、立地に合ったストアへとリフィットさせていく」と阿久津さん。スニーカーブームは収束したといわれるが、中古市場は依然熱く、メーカーの商品開発や価格設定にも影響を与えるようになったとされる。その中で「メーカーのプロダクトだけでなく、メーカーと作り込んだ別注も通じて個性を発信し、スニーカーの新しいイメージを創っていくことが僕らの役割」という。その発信拠点となる新たな店作りの先に見据えるのは、「アトモスに行けば欲しかったスニーカーと出会えると思ってもらえる、世界中のスニーカーファンのコミュニティー」だ。
これまでもスニーカーフリークのコミュニティー的役割を果たしてきたのが原宿店。原点である原宿店のリニューアルは、アトモスが生まれた時代と今という時間をつなげ、「これから」の多様なコミュニティー構築へ向かう象徴的な取り組みといえる。
ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。
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