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2024.06.03
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.98】 ハイブリッドからダブルミーニングへ 「ネオ日常」が到来 2024-25年秋冬ファッションの6大トレンド
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写真左から「ルイ・ヴィトン」「シャネル」「ステラ マッカートニー」「ミュウミュウ」
2024-25年秋冬コレクションでは相反するメッセージを同居させた「ダブルミーニング」が広がった。クラシカルで静かな雰囲気とパンク、ゴシックな気分といった裏腹・真逆のテイストが互いを引き立て合う「複雑系」の趣向だ。一方で社交界級クチュールにスポーツやユーティリティーを交わらせる切り口も登場。ありきたりの装いに飽き足らない欲張りなおしゃれマインドに応える新たな試みが相次いでいる。ミニマルを乗り越えて、普段使いクチュールのような「ネオ日常」を目指すクリエーションが勢いを増し始めた。
◆クワイエット・エキセントリック(Quiet Eccentric)
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写真左から「ルイ・ヴィトン(Courtesy of Louis Vuitton)」、「ドリス ヴァン ノッテン(Courtesy of Dries Van Noten/Photo by Imaxtree)」
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ロングトレンドの軸は今なおミニマルだ。飾り気を遠ざけたシンプル仕様だが、揺り戻しが起きている。色・柄やシルエットには抑制を利かせつつ、ディテールや素材感でエスプリやユーモアをささやく。前シーズンに勢いづいたクワイエットラグジュアリーの物足りなさを埋め合わせるような形で遊び心を注入。エキセントリックなまでにアイキャッチーな仕掛けを凝らしている。全体の上品さは壊さないで、襟や袖、裾などのディテールに動感を盛り込む。まばゆいスパンゴールやメタリックアイテムもゴージャス感を添える。ブレーキとアクセルを同時に踏むようなダブルミーニングの装いだ。
◆ルックバック・70s&ウエスタン(Lookback 70s & Western)
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時代を超えて長く着られる服を求める「タイムレス」の広がりを受けて、どこかノスタルジックな装いがよみがえってきた。古着・ヴィンテージの浸透も追い風になっている。主なイメージソースは1970年代。レトロ感を帯びたルックがアンチ・デジタルの意識を印象付ける。一方、西部開拓時代を連想させるウエスタンがリバイバル。ウエスタンブーツやフリンジが大自然と折り合いを付けて暮らしていた時代への憧れを示す。タイムレス方面ではケープやロンググローブといった、貴婦人の面影を宿すアイテムも復古。女性の権利主張が勢いづいた時代に通じる強めムードのスタイリングはネオ・ウーマンリブ意識を呼び覚ます。
◆コンフリクト・コントラスト(Conflict Contrast)
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これまでは異なるテイストや素材を同居させる「ハイブリッド」が支持を得ていたが、その先に位置付けられるのは、コンフリクト(衝突)を面白がるかのようなマッチングだ。たとえば、人工ファーとシアー素材のような、季節感も風合いも異なるマテリアルをぶつける合わせ方。あえてノイズを引き起こすような形でコントラストを際立たせる演出だ。正統派イメージの強いテーラードジャケットに、ボトムスを忘れてしまったかのように錯覚させるボトムレスを組み合わせるようなコンビネーションが意外感を引き出す。おしゃれを面白がるプレイフルなたくらみだ。
◆スポーツプレッピー(Sports Preppy)
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オーソドックスな装いへの回帰が続く。スタンダードやベーシックが求められる流れから、トラッドを崩したプレッピーの再評価も進む。ただ、プレッピーをダイレクトに復古するのではなく、スポーツテイストとのマリアージュが試されている。スポーツユニフォームを組み入れる「ブロークコア(Blokecore)」の台頭もあって、カレッジスポーツ気分を持ち込むアレンジも広がった。もともとプレッピーは大学生年代の装いであり、スポーツとはなじませやすい。トラッド系の強みである「きちんと感」と、スポーツ系の持ち味である「軽やかさ」を兼ね備えた、ジェンダーレスにまといやすい着方だ。
◆プラウド&インディペンデント(Proud & Independent)
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「地球沸騰」の時代を迎え、秋冬の装いもヌーディーになってきた。春夏との違いはさらに薄れ、素肌見せやミニ丈ボトムス、シアー素材などが当たり前に。ボディーラインにぴったり沿う薄手で、セカンドスキンのように体の線をくっきり描くアイテムも秋冬ルックに組み込まれ始めた。重たく見えがちな冬ルックを軽やかでしなやかに見せる意味でも効果的だ。自立した芯の強い女性像を印象付ける提案が相次ぐ。新顔のボディーコンシャスは官能的な雰囲気よりも凜々しくインディペンデントなキャラクターを押し出す。「着るエンパワーメント」にも通じる、自分に誇りを持ち自分のために装うプラウドファッションだ。
◆ゴシック・ファンタジー(Gothic Fantasy)
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ダークでミステリアスなムードが立ちこめ始めた。クラシックなたたずまいのアイテムに、うっすらと不気味さや妖しげ感を漂わせる仕掛けだ。ナラティブ(ストーリー性)が重んじられる傾向を背景に、物語を宿す服も提案されている。歴史や生死などの哲学的テーマを考えさせられたコロナ禍を経て、ファッションもゴシックなムードに誘う。体を包み込むマントやコートはプロテクション(防護)を求める意識も示す。現実逃避を図るかのようなファンタジーテイストも打ち出されている。不気味さや不穏ムードを宿しながらも、シルエットはエレガント。キーディテールはリボンやヴェール。フォーマルや優美さの内に秘めるアンニュイを薫らせる。
全体に目立ったのは、ノーマルと反骨を巧みに折り合わせるアプローチだ。パンクやゴシックの反抗心などが取り入れられ、オーソドックスでミニマルなシルエットに変容をもたらす。クチュールをデイリーに取り入れた「特別な日常」が新たなうねりになっている。
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宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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