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2024.04.12

「2024パリ国際ランジェリー展レポート」ランジェリーがかなえてくれる現実と現実逃避

画像:製品フォーラムはいつものトレンドテーマ別ではなく、2024秋冬シーズンの注目製品を並べた Photo by Salon International de la Lingerie et Interfilière Paris 2024

 

 

 

 「皮膚に最も近い衣服」といわれるランジェリー(インナーウエア)。そのトレンドをリードする「パリ国際ランジェリー展」(素材展「アンテルフィリエール・パリ」を併設)が、2024年1月20日から22日までの3日間、パリのポルトドヴェルサイユ見本市会場ホール3で開催された。周辺のホールでは、同展の主催者、WSNによる「フーズネクスト」や「ビジョルカ」が同時期に開かれ、回遊性が促されている。

 

 コロナ後のリアル開催としては2年目になる今回だが、出展者は製品250ブランド、素材170社、来場者は106か国から16,000人という、ほぼ前年並みの規模となった。引き続きEXPOSEDエリアを中心に、若いデザイナーの独立系ブランドの新規出展が目立つ。

 

 近年の主要テーマであるサスティナブル、多様性にもとづくボディポジティブやジェンダーフリーについては、それらをスローガンとして掲げる時代は過ぎ、ブランディングや物づくりの基本となる当たり前のものとして定着している。プラスサイズのモデルも珍しいものではなくなった。

 

 世界で戦争や災害、経済問題が頻発している、この不安の時代において、世界のランジェリーはどのように変化しているのだろうか。以下、ポイントをまとめてみた。

 

■「サスティナブル」の定着で、改めて天然素材に注目

 

 モダールなどのパルプ由来の再生繊維、オーガニックコットン、リサイクル素材やリサイクルレースと、地球環境問題に配慮した持続可能な素材開発は続いているが、今回、改めて見直されていたのが天然素材である。コットンやシルクに限らず、今回特に注目されていたのが亜麻を原料としたリネンで、原料の栽培から製品化まで、すべての工程をヨーロッパ内でできるのが強みだ。2020年にスタートしたベルギーブランド「タクト(TA-CT)」は、リネンが環境と人に優しい素材であることに着目し、肌に直接着けるインナーウエアに最適の機能性を備えたリネンニットで、レディスとメンズ両方のアイテムを展開している。

 

 また、ポリアミドも従来の石油由来ではなく、植物の種子から抽出されたヒマシ油から得られる、植物由来のポリアミドが登場している。黒一色のモダンなスタイルが目を引いた「ニセ(NISSE)」は、フランスの女性起業家が自らの出産体験を機に、人間の健康や環境に有害なものは使わないランジェリーを作りたいという思いから、この素材を選んだという。生地はイタリア製、製品の縫製はフランス国内の工房と提携している。

 

オーガニックカラーが映えるリネンニットの「タクト(TA-CT)」Courtesy of TA-CT

日本から出展した「アロマティック(AROMATIQUE)」(タカギ)は、イタリアのプレミアムシルクヤーンを使用したアコーディオンリブシルクを紹介 Courtesy of AROMATIQUE

女性のエンパワーメントをランジェリーで表現した「ニセ(NISSE)」 Courtesy of NISSE

■「SKIMS」快進撃の影響受け、シェイプウエアに脚光

 

 今回の話題としてクローズアップされていたのが、シェイプウエア(ガードルなどの体型補整機能の強いファンデーション)である。ヨーロッパ市場における同分野のパイオニアとして、2009年から展開を続けてきたワコール(ヨーロッパ現地法人)は、ふくよかで曲線的な体型を対象に、メリハリのある砂時計シルエットを想定した新しいシェイプウエアシリーズ「シェイプレボリューション」を発表。肌に優しくフィットする素材に、ボンディング加工やメディカルシリコンでより機能性を高めたものとなっている。

 

 コロナ禍を経た体型変化の悩みに応える側面も背景にはあるが、一番の契機となったのが、アメリカの超有名セレブ、キム・カーダシアンがプロデュースを手がける「スキムズ(SKIMS)」の快進撃。2021年からギャラリーラファイエットがフランスにおける独占販売を行っているが、ランジェリー売場でブランド売上トップの業績を上げたことで業界にも激震が走ったというわけだ。

 

 一方で、ランジェリーには現実逃避や非日常性を求める「セダクション」の流れもあるわけだが、フランスを代表するランジェリーチェーンの「エタム(Etam)」も、曲線的な体型をつくるシェイプウエアのカテゴリーを強く打ち出しているようで、「シェイプウエア」熱は当分おさまりそうにない。

 

(写真左)「ワコール(WACOAL)」(ヨーロッパ現地法人)ではシェイプウエアを大幅リニューアル。背中がV状にくれたロングガードルは、背中が大きく開いたドレスにも対応する Courtesy of WACOAL
(写真右)シェイプウエアとは異なるが、幅広いサイズに対応したシャンテルの新ブランドは、バストも脇もしっかりホールドし、安定感にすぐれている「シャンテル パルプ(CHANTELLE PULP)」 Courtesy of I.P.F

■スキンコンシャスなシア―素材で「ウエアラブル」

 

 会場のブランド方々を取材する中でよく聞かれた言葉に「ウエアラブル」がある。一般には「身に着けることのできるデバイス」といった意味で使われるが、ここでいっているのは「アウターとして外に見せて着ることができるランジェリー」という意味。従来は「プレタポルテ」とか「レディトゥウエア」感覚とか表現していたところがいつのまにかこうなった。

 

 しかも以前のようなカジュアルなコーディネートを想定したものではなく、レースなど透けるシア―な素材を多用したセクシーでモダンなスタイルが多い。これは、有名セレブの装いに見られるように、からだを露出させるスキンコンシャスやネイキッドといった、昨今のファッショントレンドを反映したものといえる。まるでランジェリーのような服、そのトレンドに改めてランジェリーの方も影響を受けているのだ。自分自身にすっかり自信をつけた女性たちが、堂々と自分のからだを誇示するようになったというわけだろう。

 

 また、「ウエアラブル」の一環として、今回はランジェリーのジュエリー化も目についた。ブラジャーの胸元や背中のポイントに付いたメタリックなオーナメントはより大きくなり、ジュエリーからインスピレーションを得たような凝ったチャームやチェーンがランジェリーを昇華させる。中には独立したネックレスとして楽しめるものもある。

 

(写真左)レースやシア―素材を巧みに組み合わせたボディスーツは、まさにウエアラブル「シモーヌペレール(SIMONE PERELE)」Courtesy of SIMONE PERELE

(写真右)ジュエリー感覚のワンポイントチャーム Photo by Salon International de la Lingerie et Interfilière Paris 2024

 

ブランドミックスによるファッションショーが連日3種類。日本から初出展のブランド「スールトーキョー(SOEUR TOKYO)」も登場した。
Photo by Salon International de la Lingerie et Interfilière Paris 2024

■パジャマやラウンジウエアの着用シーンが広がる

 

 コロナ禍のライフスタイルを契機に、一躍クローズアップされたラウンジウエアやホームウエア。特にパジャマの人気は続いており、伝統的なコットンをはじめ、シルク、ベロアニット、さらに表はサテン素材でも肌にあたる内側に起毛素材を使って着心地の良さを追求したものもある。寝る時、家の中だけではなく、リゾートウエアや街着として、幅広いシーンで着用できるようなものにシルエットも進化しており、シャツとパンツ、それぞれ単品で着こなしができるようなものも少なくない。着やすく暖かいニット素材のラウンジウエアも、秋冬シーズンには欠かせない。

 

 また、ブラジャーなどファンデーションが主力のメーカーも、こぞってスリップやキモノローブをラインナップ。アンダードレスというより、ヨーロッパにおいては眠る時のナイトウエアとしての着用がポピュラーなスリップだが、選択肢が増えている。「コージークチュール(居心地のよいクチュール)」ともいうべき、この分野の贅沢感に我々日本人ももっと目を向けたいと思う。

 

創立140周年の「ハンロ(HANRO)」は、パリを舞台にした限定アニバーサリーコレクションを展開 Courtesy of HANRO

フランスらしいエレガントさを基本にした「ルシャ(LE CHAT)」は、着やすく洗練された素材が充実している Courtesy of LE CHAT

■場外イベント「ALTER EGO」に込められていたもの

 

 番外編として、同展会期中に別会場で開かれたPromincor(フランスランジェリー協会、フランスモード協会:DEFL)のランジェリーイベント「オルターエゴ(ALTER EGO:もう一人の自分、分身)」にも触れてみたい。これは同産業の発展をめざして、コルセットからスタートした歴史あるフランスのランジェリーブランドの魅力を伝えるのが狙いで、今回は既に4回目。8社10ブランドが参加した。

 

 フランスのランジェリーらしい「フェミニニティ(女性らしさ)」をベースにしながらも、毎回、コンテンポラリーなパフォーマンスが観られるが、今回は特に夏のオリンピック開催にちなみ、新種目であるブレイキンの要素を取り入れるなど、体の躍動するスポーツを意識し、次世代のエネルギーを強く印象づけるものになっていた。

 

 全部で5章から成るストーリー展開には、今の世界の現実や私たちの内面にある葛藤が反映されており、舞台をつくるクリエイターたちの深いメッセージを感じる。ランジェリーこそは何世紀にもわたる女性のさまざまな進化と解放の歴史であること、そしてまさにもう一人の自分の発見であることを再確認させてくれた。

 

パリの街中にあるサーカス劇場(CIRQUE D’HIVER)で、ランジェリーイベントを開催 Photo by Naoko Takeda

速いテンポのダンスパフォーマンスで次の新しい世代を印象づける  Courtesy of ALTER EGO LINGERIE FRANÇAISE

武田尚子(たけだなおこ)
ジャーナリスト・コーディネイター

ボディファッション業界専門誌記者を経て、1988年にフリーランスとして独立。
ファッション・ライフスタイルトータルかつ文化的な視点から、インナーウエアの国 内外の動向を見続けている。
執筆をはじめ、セミナー講師やアドバイザー業務も。
特に世界のインナーウエアトレンドの発信拠点「パリ国際ランジェリー展」の取材を 1987年から始め、年2回の定期的な海外取材は35年以上に及ぶ(2020年のコロナ禍で 一時中断したが、2022年から復活)。
著書:『鴨居羊子とその時代・下着を変えた女』(平凡社)、『もう一つの衣服、ホームウエア ― 家で着るアパレル史』(みすず書房)

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