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2024.03.08
【2024秋冬パリ ハイライト1】圧倒的な存在感を示すビッグメゾン、新デザイナーによる初ショー・・・今シーズンのパリの見所をラウンドアップ
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写真左から「ディオール」「シャネル」「クロエ」「アレキサンダー・マックイーン」
2024年2月26日から3月5日までの9日間に渡り、2024秋冬レディースコレクションが開催され、パリ市内各所でショーが行われた。主催するオート・クチュール組合の公式カレンダー上では、ファッションスクールIFMによる初日1つ目のショーを含めて108のブランドがコレクションを発表。前シーズンよりも1ブランド増えている。その中でもフィジカルなショーを発表したブランドが70で、こちらも昨年の67から微増。カレンダー上のブランド総数に対して6~7割のブランドが実際にショーを行う、という傾向は定着してきたようである。
いくつかのブランドで、新しいデザイナーが着任して話題となった今季。特に注目を集めたのが「アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)」だった。サラ・バートンに代わってショーン・マクギアーがクリエイティブディレクターに就任したが、サラ・バートンのようにマックイーンの下でのキャリアの無い、全くの第三者によるコレクションは大いに期待が掛かった。その他にもシェミナ・カマリを迎えた「クロエ(Chloé)」、ペラギア・コロトロスによる「ラコステ(LACOSTE)」など、新鮮味の感じられるシーズンとなった。第一回目のリポートでは、そんな話題を振りまいたブランドを中心に特集したい。
ディオール (DIOR)
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1967年に誕生したプレタポルテ(高級既製服)のコレクション「ミス ディオール」へのオマージュを捧げたマリア・グラツィア・キウリによる「ディオール」。「ミス ディオール」は、当時の主任デザイナーであったマルク・ボアンから彼のアシスタントのフィリッペ・ギブルジェに託されたラインで、日常生活に適した実用的な服が多く生み出された。
ランウェイにはインド人アーティストのシャクンタラ・クルカーニの籐製作品が展示され、これはマルク・ボアンにインスピレーションを与えていたイタリア人アーティスト、ガブリエラ・クレスピの籐製作品と呼応。
ショーはベージュのギャバジンのシリーズでスタート。トレンチコートやマニッシュなスーツが続き、手描きのような「MISS DIOR」の文字がスローガンのようにプリントされたコートも登場。
ドレスやコートのシルエットは、1960年代を想起させるAラインが多く、装飾を削ぎ落したすっきりとしたデザインのルックでまとめている。格子柄や「MISS DIOR」の文字をあしらったモノグラムモチーフがシャツやブルゾンなどを彩り、後半にはムッシュ・ディオールの愛したアニマルモチーフのアイテムも見られた。ただ、ベージュやネイビー、ブラウンなど落ち着いたトーンでまとめているため、それが例え総刺繍のドレスであっても、全体としての印象はとてもシック。日常着としてのプレタポルテをオート・クチュールメゾンがどう表現するのか、そのバランス感覚の妙を見せた今季だった。
ザ・ロウ(THE ROW)
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Courtesy of The Row/Photographed by Jamie Hawkesworth
ノートと鉛筆を配布し、一切の撮影を禁じてショーを行ったメアリー・ケイト・オルセンとアシュレー・オルセンによる「ザ・ロウ」。昨今のSNSによる拡散とは距離を置き、見る者に服への集中を促す姿勢は称賛すべきであるのだが、それよりも、単にコレクションについて自信があったことの表れだったのかもしれない、と思わされる程の完成度の高いコレクションだった。
これまで通り、日常着をよりグレードの高い素材で形作っているが、アイテムによってはクチュール的なテクニックを用いて、誇張はしないがさり気なく豪奢な作品でコレクションを構成している。
今季は特にボリュームのあるシルエットを強調。ペチコート風のスカートを合わせたドレスのようなトレンチコートや、ピエロパンツを合わせたロングコートなど、ボトムに広がりや重みを配したルックが目を引いた。端をまつらず、敢えて未完成の雰囲気を残すローエッジのアイテムも多く見られ、ライニングを取り外せるローエッジのジャケットが登場。チュールをリボン状にカットして手で織ったドレスも、ストラップ部分からリボンが飛び出した状態のままになっていた。チュールリボンに羽をミックスして手織りしたドレスは、一見してファーのようで、クチュール的なテクニックを示した作品。プリーツのドレスやコートも見られ、洋の東西の折衷をイメージ。
ラストルックは、カシミアシルクのセーターとカシミア100%のパンツというカジュアルなセットアップ。上質な日常着を提案する、このブランドらしいステートメントとなっていた。
クロエ(Chloé)
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新任デザイナーのシェミナ・カマリを迎えた「クロエ」。ブランド創始者ギャビー・アギョンのクリエーションをリスペクトし、1970年代を自由でナチュラル、そしてフェミニニティを象徴する時代と捉え、シースルーの要素をふんだんに配して、よりセンシュアルな側面を強調していた。
ドイツ出身のシェミナ・カマリは、セント・マーティンを卒業後、フィービー・ファイロとクレア・ワイト・ケラー、それぞれが「クロエ」に在籍した時代にアシスタントして活躍し、直近ではアンソニー・ヴァカレロによる「サンローラン(SAINT LAURENT)」でウィメンズを担当していた。
コレクションを通して、レースやモスリンをあしらったシースルーアイテムで構成し、アクセントに「Chloé」の文字を配したベルトをコーディネート。ファーコートにはレースのジャンプスーツを、ビニールコーティング素材のケープにはマイクロミニのニットドレスを合わせて、フェミニンなイメージに挑発的な要素を加えている。
1960年代後半の学生運動を経て、女性が社会進出を果たし、自由に振舞えるようになった1970年代への憧憬を、新しい「クロエ」像として落とし込んでいた。
ロエベ(LOEWE)
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ヴァンセンヌ城内の特設テントにてショーを開催した、ジョナサン・アンダーソンによる「ロエベ」。会場内にはアルバート・ヨークの作品18点を展示し、ヨークの作品をイメージさせるグリーン一色。イギリスの階級社会を見つめ直し、その遺産を新しく解釈し、クリエーションに昇華した今季。上流階級の邸宅に見られる調度品や壁紙、タペストリーなどからモチーフを引用し、これまで通り新しいシルエットを追求している。
カブやアスパラガスのモチーフのバッグや、カブモチーフのドレスが登場したが、これは邸宅内に置かれている陶磁器製のカブやアスパラガスの置物からインスパイアされたもの。また犬モチーフのドレスも、陶磁器製のフィギュリンからの着想。フローラルモチーフはタペストリーのモチーフをイメージ。1月に発表されたメンズコレクションでも見られたが、今季もキャビアのような小さな丸い粒のビーズをビッシリと刺繍したアイテムが随所に散りばめられた。ドレスやパンツ、スウェットなどはもちろんのこと、ハンドバッグやクラッチ、ブーツなどにもあしらわれている。
由緒あるパブリックスクール、イートン校の学生のイメージを現代風にアレンジしたルックには、大きなスタッズを打ち、メンズコートにはクルミの木を彫った襟を合わせている。最終ルックのメンズコートは、やはりキャビアビーズがビッシリと刺繍されていた。
アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)
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新任デザイナー、ショーン・マクギアーによる「アレキサンダー・マックイーン」は、食品卸売市場跡の広大なスペースに、無数のパラシュートを配してショーを行った。
ショーン・マクギアーはアイルランド出身で、セント・マーティンを卒業後、「ユニクロ(UNIQLO)」や「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」などでキャリアを積み、2020年より「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」に入社し、ウィメンズコレクションを手掛けていた。
強い肩のラインやボリュームで遊んだエキセントリックなドレスなど、マクギアーが解釈するマックイーンのエッセンスを随所に散りばめながらも、よりパーソナルな側面を強調。自身の父親が車の整備士だったことから、クラッシュした車のランプを刺繍したドレスや、車のボンネットを想起させるメタル製の鎧のようなドレスなどが登場。
コレクションを通して身体を包み込む要素を強調。カバーの付いたブーツや顔を覆うようなドレスなど、見せたいけれども隠したい、という二面性を表現しているという。1990年代のアレキサンダー・マックイーンのアウトローで反逆的なクリエーションについてはリスペクトをしつつも、極端な作風は避けたいとする姿勢も示した。しかし、特別感溢れる作品が揃い、コレクションピースがほとんどという点も彼の二面性であろうか。2回目のコレクションへの期待が高まる。
シャネル(CHANEL)
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ヴィルジニー・ヴィアールによる「シャネル」は、ドーヴィルの海岸に設置されている遊歩道「レ・プランシュ」を再現してショーを開催した。ドーヴィルは、ガブリエル・シャネルのキャリアの最初期、1912年に初めて帽子店を出店した街。全ての起点であった。その後は先鋭的なクリエーションが次々と生みだされ、現在に至ってもその先進性と革新性は全く失われていない。
冒頭ではマスキュリンなスーツ類が登場。大きなつばの帽子を合わせて、マスキュリン・フェミニンのバランスが保たれている。今季のカラーパレットは、淡いピンクやペールブルーといったパステル系の中間色が多く見られたが、これは常に表情を変えるドーヴィルの空をイメージしたという。
1920年代のアール・デコ期を思わせる直線的なシルエットが特徴的なアイテムが前半に、後半には1970年代を思わせるグラマラスなイブニングアイテムが多く見られ、ルックによって合わせられるベージュのシープスキンのサイハイブーツが目を引いた。これは、クロード・ルルーシュ監督による1966年作「男と女」でガブリエル・シャネルの友人でもあったアヌーク・エーメが着用していたコートからインスパイアされたもの。映画の要素は、35ミリフィルムと映画のチケットのプリントパターンに現れ、モスリンのドレスとなってランウェイを彩った。これは毎年開催されるドーヴィル・アメリカ映画祭とリンクしている。
ガブリエル・シャネルがクリエーションの出発点として選んだ街のイメージを、様々な側面から見つめ直し、重層的に解釈してコレクションとして具現化した今季。クラシック・モダン、マスキュリン・フェミニンの絶妙なバランスを打ち出しながら、美しいカラーリングで彩り、引用された素材全てが見事に融合するコレクションとなっていた。
ラコステ(LACOSTE)
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クリエイティブ・デザイン・ディレクターとして新しく着任したペラジア・コロトロスによる「ラコステ」。記念すべき第一回目のショーは、創始者でテニスプレーヤーのルネ・ラコステの戦場でもあったローラン・ギャロスでショーを開催した。ちなみにルネ・ラコステの世界的活躍が、ローラン・ギャロス・スタジアムの建設と全仏オープンの誕生に繋がったとされている。
ペラジア・コロトロスはNYのパーソンズを卒業後、「セオリー(Theory)」や「カルバン クライン(CALVIN KLEIN)」でキャリアを積み、「ザ ノース フェイス(THE NORTH FACE)」を経て「アディダス(adidas)」に入社。ファレル・ウィリアムスとのコラボレーション事業を担当していた。
テニスコートにバベルの塔のような盛り土を設置し、モデル達が上り下りしてウォーキング。グリーンのワニを想起させるグリーンのブランケットやブーツ、ドレスやメンズスカートが冒頭に登場。テイラードジャケットやシンプルなワンピースには、ラケットを収めることの出来るトラベルバッグや、スポーティなハンドバッグをコーディネート。ルネ・ラコステ全盛期の1920~30年代をイメージした。
起毛素材によるグリーンのガウンコートやプリーツのプリントドレスなど、他のスポーツウェアブランドにはないモードなアイテムが多く見られた。黄色のワニモチーフのコートやモノクロの風景をプリントしたブルゾン、ラケットのイラストをプリントしたコートなどにもアーティスティックな表現が随所に散りばめられている。最後まで見る者の目を楽しませる、コロトロスの力量を示したコレクションとなった。
取材・文:清水友顕/Text by Tomoaki SHIMIZU
画像:各ブランド提供(開催順に掲載)