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2024.01.14

【2024秋冬ピッティ ハイライト】独自解釈で上質クラッシックをモダンに表現

Courtesy of Pitti imagine

 

 第105回ピッティ・ウオモが2024年1月9日から12日まで、フィレンツェのフォルテッツァ・ダ・バッソで開催された。気温低めではあったが、毎日晴天に恵まれ、特に初日午後から2日目を中心にかなりの盛況を見せた。ミラノメンズがピッティの最終日からほぼ本格的に始まるため、3日目後半から訪問者は減っていったのは否めないが、コロナ以降、回を追うごとに復活している様子がうかがえる。

Courtesy of Pitti imagine

 

 テーマは“PITTITIME”。このテーマに因んで、エントランス部分には数字時計、メイン会場の真ん中にはデジタル時計のインスタレーションが展示された。展示スペースは、「Fantastic Classic」、「Futuro Maschile」、「Dynamic Attitude」、「Superstyling」、「I Go Out」という5つのセクションとペットのための特別コーナー「PITTIPETS」やヴィンテージエリア「VINTAGE HUB Circular Fashion」が定着。エントランス部分の導線がシンプルになり、より移動しやすくなった。

 ピッティ協会の報告によると、出展ブランド数は835で、そのうち43%が海外からの出展。来場者は約2万人で2023年1月の第103回と比較して6%増加となり、そのう約1万6千人ではバイヤーであった。

気鋭デザイナーを迎えた数々のイベント

 

 

 

トッド スナイダー(Todd Snyder)

Courtesy of Pitti imagine

 

 主要なイベントとしては、初日9日にデザイナーショーケースにて、「トッド スナイダー(Todd Snyder)」が登場。「ウールリッチ ブラック レーベル(WOOLRICH BLACK LABEL)」のクリエイティブディレクターに就任したトッドは、レオポルダ駅にて、50体の自身のコレクションと、31体の「ウールリッチ ブラック レーベル バイ トッド スナイダー(WOOLRICH BLACK LABEL by Todd Snyder)」もお披露目した。この新コレクションでは、アウトドアやミリタリーのテイストを上質な素材でテーラードテイストを盛り込みながら表現。「ウールリッチ」を象徴するハンティングチェックも大人っぽく各所に生かされた。

 

マリアーノ(Magliano)

Courtesy of Magliano

 

 10日には、ゲストデザイナーとして招かれたルカ・マリアーノによる「マリアーノ」のショーがマンデラフォーラムにて開催された。インスピレーションは1983年にイタリアで製作した伊・ソ連合作映画「ノスタルジア」。粗削りでちょっと古めかしく、何かが少しずつずれているような独特な世界観を醸し出し、華やかな受賞式の階段を降りてくるようなセットとコントラストをなす。

 象徴的なのは、胸元や裾の部分をねじったりロールアップしたテーラードジャケット、パディングが入ったシャツとスリムなニットのレイヤード、ネコのモチーフのモヘアセーターとラメパンツのコーディネートなど。誇張したボリュームの遊びや、過剰ともいえるレイヤード、そして例によって個性的なモデルたちを揃え、多くはレジ袋を手に持っている様子は「マリアーノ」らしいリベラルな雰囲気を強調する。

 その一方で「ボルサリーノ(Borsalino)」や「キートン(KITON)」といったイタリアの伝統的ブランドとのコラボで、「マリアーノ」が持つクラシカルなモノづくりの部分も強化。クワイエットラグジュアリーの潮流を汲んだかのような(「マリアーノ」にしては)少し控えめなコレクションに仕上がっていた。

 

トッズ(TOD’S)

Courtesy of TOD’S

 

 同日には「トッズ(TOD’S)」は「アウトモビリ・ランボルギーニ」とのコラボでフットウェアコレクションをローンチ。「トッズ」ゴンミーニとスニーカーをランボルギーニカラーに呼応するイエロー、グリーン、ブルーの3色で繰り広げる。レオポルダ駅で行われたイベントでは、シューズのカラーのランボルギーニ レヴエルトも鎮座していた。

 

 11日には、スペイン発のシューズブランド「カンペール(CAMPER)」のクリエイティブディレクターを務めるアキレス・イオン・ガブリエルが、自身の名を冠したブランド「アキレス・イオン・ガブリエル(Achilles Ion Gabriel)」のデビューコレクションを発表。シワ加工が施されたテーラードスーツ、ダメージレザーのセットアップ、部分的につまんだようなニットなどのくずしを入れたスタイルや、レーザーカットが施されたランジェリードレスやキャミソールをメンズモデルが、オーバーショルダーのピンストライプスーツをウィメンズモデルが纏うなど、ジェンダーレスな部分も強調。ロングベルトやバッグのストラップに施したはと目のディテールや、存在感のあるロンググローブ、ウエスタンブーツなど小物類も個性的で、パンチの効いたストリートスタイルを繰り広げた。

 

S.S.デイリー(S.S.Daley)

Courtesy of Pitti imagine

 

 また今回のピッティのイベントのトリとして、同じく11日にゲストデザイナーのスティーブン・ストーキー・デイリーによる「S.S.デイリー」のショーがヴェッキオ宮にて行われた。

 制度化された英国の格式とそれを脱いだリラックスと放棄というバランスを探求。そのインスピレーション源は英国の寄宿学校の雰囲気から、イギリス人観光客と一緒にイタリアを訪れた男性を描いた1911年のEM フォスターの小説「パニックの物語」に至る。

 パンツをはかずにオックスフォードテールのジャケットだけを着たファーストルックに始まり、ポロ襟の付いたマキシニットケープ、ワイドパンツに合わせたオーバーボリュームのペンシルストライプジャケットなどが登場。アーガイルチェックやトレンチ、黄色のレインコートやミリタリー調のワックスコートなど、英国らしい要素を散りばめつつ、明るい色使いにイタリアらしさを加えたり、魚の絵が描かれたナイトシャツやシルクパンツなどパジャマのようなアイテムでリラックス感を漂わせる。

 またかぎ針編みのピンで作られたボタンの前立て、タッセル、フルーツの刺繍、リボンなど、キュートな装飾が各所に加えられ、ジェンダーレスな雰囲気も強調されている。

 

クワイエットラグジュアリートレンドが追い風に

 クラシックながらそのルールを少し崩し、軽めでモダンな解釈を加えるという傾向はピッティの会場でも見られた。多くのブランドがクラシックさや上質なモノづくりは守りつつ、シルエットやディテールにカジュアルなテイストを入れたり、軽さや着やすさを重視している。カジュアルなアイテムにも高級素材(混毛を含め)を使用したものも多い。メンズファッション界においてクワイエットラグジュアリーのトレンドがクラシックを再注目するきっかけになり、それに呼応する形で上質を強調しつつ、テイストはクラシックをモダンに寄せていくという試みがなされているのかもしれない。

 

  • 写真:ブルネロ クチネリ

  • 写真:ブルネロ クチネリ

 例えば「ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)」はテーラードのエッセンスを加えつつ、ディテールに変化を取り入れた自由な着こなしを提案。配色がわずかに違う素材や畝の太さが違うコーデュロイをセットアップにしたり、無地に見えるようなペイズリーを各所に入れ込んだり。またはコットンとカシミアといった、カジュアルな素材と高級な素材をミックスしたアイテムも多い。

 

  • 写真:ヘルノ

Courtesy of HERNO

 

 またトータルブランドとして充実度を増している「ヘルノ(HERNO)」は同生地のトップとボトムをセットアップでコーディネーションを提案。カシミア混の素材のバリエーションを厚くし、単品でもスーツ感覚でも着られるような自由で着回ししやすいスタイルをエレガントに演出する。

 

  • 写真:カルーゾ(CARUSO)

  • 写真:ルイジ ビアンキ マントヴァ

  • 写真:ルイジ ビアンキ マントヴァ

 テーラーブランドの大御所たちにも同様の傾向がみられ、「カルーゾ(Caruso)」は“田舎風の英国スタイル”をテーマに、暖色を多用し、クラシックではありながら軽く着やすく仕立て、「ルイジ ビアンキ マントヴァ(Luigi Bianchi Mantova)」も英BBCの人気ドラマ“ピーキー・ブラインダーズ”をテーマとし、ブリティッシュテイストながら軽めに仕上げ、オレンジやグリーンなど明るい差し色を使っている。

  • 写真:エコアルフ

  • 写真:エコアルフ

  • 写真:ポール&シャーク

 また現状を反映した動きも色濃くみられる。今や当たり前となっているサステナビリティへの意識はさらに強まった。また機能面でも温暖化を意識し、例えばアウターは重くて耐寒性の強いものから軽いものまでバリエーションを増やしたり、ベストやライニングなどを取り外し可能にするなどのディテールを備えたアイテムが増えた。

  • 写真:ウールリッチ

  • 写真:ガブリエレ・パジーニ

  • 写真:スティレ ラティーノ

 カラーパレットは秋冬シーズンらしく、アースカラーや暖色系が多いが、特にオレンジがかったトーンを使っているところが多いようだ。そこに差し色で薄めのパープルやナス色、バーガンディなどを入れ込んでいるのが目立った。

 

取材・文:田中美貴

 

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。apparel-web.comでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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