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2023.10.10

【2024春夏パリ ハイライト3】ブランドのDNAを取り入れながら新しいクリエーションに挑戦するメゾン

写真左から「ディオール」「バレンシアガ」「ジバンシィ」「シャネル」

 

 第三回目のリポートは、元々オートクチュールメゾンとして出発しているパリの老舗ブランドによるコレクションを特集する。変わらずフェミニズムを追及して服に反映させる「ディオール(DIOR)」、ブランドのイメージを守りつつ新しいクリエーションを見せたクレージュ、苦境を乗り越えてクチュールブランドらしい作品を発表した「バルマン(BALMAIN)」など、それぞれがブランドのDNAを取り入れながら新しいクリエーションに挑戦する姿を見せている。

ディオール (DIOR)

「ディオール」2024春夏コレクション

 

 過去と未来と共に存在し、収束を意味する「現在」を考察したというマリア・グラツィア・キウリは、フェミニニティとフェミニズムの関係を探求し、男性中心の社会における女性の独立を主張し、その体制に異議を唱えてきた女性たちをイメージしたという。会場となったチュイルリー公園に特設されたテント内の壁面のモニターには、エレナ・ベラントーニによるビデオインスタレーション作品「NOT HER」が映し出され、性差別的な内容の広告が次々と現れた。「ディオール」のレディースは、これまで通り女性にまつわる強いメッセージを掲げている。

 

 レースを重ねたドレスには、ボクサーショーツを重ね、マスキュリニティの象徴的なアイテムであるジャケットは、ドロップショルダーの丸い襟が特徴的。それが「ディオール」のアイコンであるバージャケットだったのだが、合わせられたスカートはレース製で、深いスリットが入り、大胆な再構築がなされている。パリの地図のプリントアイテムは、今季は所々をぼやかしており、遠目から見ると有機的なモチーフに感じられた。

 

 バラのモチーフは反転されてダークな印象を与え、比翼仕立てのアシメトリーシャツに合わせられる。シャツもメンズウェアの象徴的なアイテムの一つで、1つのルックの中にマスキュリン・フェミニンの要素を配した。

 

 裂け目、傷、焦げなどが見えるが、これはアルベルト・ブッリの作品からインスパイアされたディテール。繊細なアイリッシュレース風のドレスや、ギピュールレースのドレス、バラを刺繍したメッシュドレス等、フェミニンなアイテムも後半に登場したが、ワイルドさを漂わせる黒のアイテムが多かったことから、アーティスティックかつパンキッシュな印象も与えた。

クレージュ(Courrèges)

「クレージュ」2024春夏コレクション

 

 ニコラ・ディ・フェリーチェによる「クレージュ」は、6月に発表されたメンズコレクションにおけるテーマの一つだった、ミケランジェロ・アントニオーニ監督の1970年の作品“砂丘”にイメージを求めた。また、ブランド創始者アンドレ・クレージュ作品のアイデアを随所に引用し、時代に合わせて新たな形に昇華している。

 

 シャツドレスやポロシャツドレスは、造形的なカッティングで独特のシルエットを描くが、これはボディースと一体型になっているためで、ボタンで留めることによってアシメトリーのフォルムを描いている。

 

 得意とするバイカージャケットは、ジップのベルトをラウンドさせて彫刻的なディテールを配し、パンツには斜めのラインにジップを配してアクセントを付けている。ロゴを刺し子風に立体的に表現したベル型のロングジャケットは、19世紀のミリタリージャケットのような仕上がり。

 

 スカートのようなパネルの付いたパンツに合わせられたトランスペアレントのブラは、アンドレ・クレージュ作品からの引用。またフロントに大きく開いたスリットもアンドレ・クレージュ由来のアイデアで、ディ・フェリーチェはそれをジップで開閉出来るように変換。現代の生活にフィットさせるアレンジを施している。

バルマン(BALMAIN)

「バルマン」2024春夏コレクション

 

 ショー発表の10日前に、ショー用の服50点を輸送する途中でトラックごと強奪され、数日間でほとんどのアイテムを作り直したという「バルマン」。デザイナーのオリヴィエ・ルスタンは、3年前に自宅での火事に巻き込まれるなど、アクシデントが続いているが、その度に身に起きた過酷なドラマを見事に克服してきている。BGMはビョークによる「Bachelorette」の一曲使い。

 

 今季は“バラ”をテーマに、様々なディテール、素材で縦横無尽な表現を見せた。ラテックスのバラモチーフのジャケット、パテントレザーのアップリケドレス、バラを刺繍したボディース、庭園の柵に絡むバラを表現したドレスなど、ランウェイは百花繚乱。

 

 終盤に登場した細かなクリスタルを散りばめたメタルフレームのミニドレスのシリーズは、まるでジュエリーのような仕上がり。ただ派手なだけではない、そしてキッチュという言葉では表現し尽くせない、アーティスティックな毒性を持った作品が多く見られ、それらがコレクションに新たな深みを加えていた。

 

 BGMにパティ・スミス・グループの「Because the night」が流れてフィナーレとなったが、オリヴィエ・ルスタンとモデル達はサポーターたちのために会場となったシャイヨー宮の屋外の特設ステージに登場。会場の外でも拍手喝采となったのだった。

ランバン(LANVIN)

「ランバン」2024春夏コレクション

 

 3月に発表されたコレクションをもって、クリエイティブ・ディレクターのブルーノ・シアレッリが退任。今季はデザインチームによる10作品を、8区にある邸宅内にてプレゼンテーション形式で発表した。

 

 1920〜30年代のアール・デコ期に活躍した創始者、ジャンヌ・ランバンのアーカイブから着想。元来クチュールハウスであるランバンのテイストを全面にまとわせたフォーマルなカクテルドレスは、テクニックとディテールによって新しいものに生まれ変わっている。

 

 アール・デコスタイルの様式化されたモチーフは、スパングル刺繍で表現され、スネークチェーンでレースアップに仕上げたドレスや、スネークチェーンで服自体を吊り上げるような構造に仕立てたドレスが見られた。

 

 ギピュールレースを組み合わせたモダンなテイストのシースルードレスや、ニットで表現されたドレスも新鮮。

 

 究極のフレンチシックを目指し、原点回帰をしながらも、過去と未来、伝統と革新の相反する側面を持ち合わせる、美しいバランスの作品で構成されていた。なお、新しいクリエイティブ・ディレクターは来年の3月に発表される予定。

ラバンヌ(RABANNE)

「ラバンヌ」2024春夏コレクション

 

 今年2月にブランド創始者、パコ・ラバンヌが逝去し、ジュリアン・ドッセーナがクリエイティブ・ディレクターに就任して10周年となる今年、ブランド名を「パコ ラバンヌ(PACO RABANNE)」から改めた「ラバンヌ」。7月には「ジャンポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)」のオート・クチュールコレクションにゲストデザイナーと迎えられたドッセーナが、今季提示したものは、紛れもなくクチュールのテクニックを必要とするアイテム群で、「パコ ラバンヌ」というブランド自体がオート・クチュールハウスだったことを想起させた。

 

 半立体のゴールドやシルバーのパーツとフリンジをあしらった鎖帷子のドレスでスタートし、ドレープの流れに従ってバゲットビーズを刺繍したドレス、スタッズを打ち、羽のようなスパンコールを刺繍したセットアップ、太いフリンジが揺れる有機的なニットドレスと続く。シルバーメタルを刺繍したサルエルパンツなど、全体的に砂漠の民を想起させた。

 

 今季は、1962年に発行されたパコ・ラバンヌと写真家ジャン・クレメールによる写真集の中からのショットをタンクトップにプリントし、クリスタルメッシュのドレスにコーディネート。

 

 木のパーツをリングで繋ぎ、フェザーを飾ったミニドレスや、メタルパーツをリングで繋ぎ、ロングフリンジを飾ったドレスなど、パコ・ラバンヌのクリエーションを発展させたルックに続き、鎖帷子を彫刻のようにあしらったドレスが登場。半世紀上の歴史を持つブランドに新しい側面を加えると思わせる、斬新で美しいルックの数々に息を呑んだ。

ジバンシィ(GIVENCHY)

「ジバンシィ」2024春夏コレクション

 

 パリのエレガンスを代表するブランドの一つである「ジバンシィ」のDNAを、モダンな手法で再解釈したマシュー・M・ウィリアムズによる「ジバンシィ」。これまではカジュアルでスポーティな作風を貫き、ストリートウェアからインスパイアされていたウィリアムズだが、今季はよりフェミニンで繊細な手法を用いて新しいジバンシィ像を確立していた。

 

 会場は、ルイ15世によって建立された軍学校「エコール・ミリテール」の敷地内の特設テント。ニューヨークを拠点とするガブリエル・カラトラバによるコラボレーティブ・アーキテクチャー・ラボラトリーがデザインを手掛け、白で統一された半分オープンなテント内に心地良い風が吹き抜けた。

 

 ブランド創設者ユベール・ドゥ・ジバンシィがガーデニング好きだったことから、花のモチーフがいくつかのアイテムを飾った。デボレ加工でアヤメを表現したシースルースカートやプリントモスリンのアシメトリードレス、あるいは花をハンドペイントしたグリーンのドレスなど、要所要所に花が登場。

 

 オーバーサイズのロングコートは、ホックで留める襟のデザインが特徴的。花のドレープを飾ったミリタリージャケットにロングスカートを合わせたり、フルレングスのドレスをレザーで仕立てたり、モダンなアイデアの数々にウィリアムズらしさが感じられた。独自のマスキュリン・フェミニンの手法が、「ジバンシィ」というブランドに十分に馴染んだことを確認出来たコレクションでもあった。

バレンシアガ(BALENCIAGA)

「バレンシアガ」2024春夏コレクション

 

 服作りへの敬意を払い、個人的な思考や個人的な環境をコレクションに反映させたというデムナによる「バレンシアガ」。今季は自身の周りにいる人々、デムナの夫であるBFRNDとしても知られるロイック・ゴメスや、ヴェトモンのデビュー時代からの広報であるロビン・メイソンなどがモデルとしても登場。BGMはBFRNDによるもので、テーラードジャケットの方法を仏女優のイザベル・ユペールが朗読。後半になるにつれて語気を強めるユペールの朗読は迫力満点だった。

 

 アップサイクルされた2着のコートを1着に組み合わせたファーストルックはデムナの母親がモデルを務めた。2着のトレンチを組み合わせたコートや、2着のボンバースを組み合わせたブルゾンなどの他に、ジッパーを外して長さを変えることの出来るデニムとチェックと迷彩のロングスカート、半分迷彩で半分がデニムのパンツなど、アップサイクルのアイテムが随所に見られる。

 

 デムナが得意とするオーバーサイズのジャケットは、今季はパッドや芯を入れずに形を作り、横から見ると薄いフォルムになっている。それらに合わせられたのが、パンプスやメンズシューズの形をしたクラッチバッグや、スーパーマーケットのトートバッグを思わせるレザーのバッグ、レザー製の搭乗券が挟み込まれているパースなど。あらゆる箇所にユーモアとウィットが感じられた。

 

 デムナらしい小花プリントのドレスはプリーツ素材でボリュームを出したものが見られ、その他にも型で成形したラテックスのドレスや、レースのテーブルクロスで作ったドレス、ビニールのテーブルクロスで作ったドレスなど、思わず笑みがこぼれてしまうアイテムも。最終ルックはデムナの夫であるBFRNDが、2000年代以前に作られた7着のウェディングドレスを組み合わせたアップサイクルドレスをまとって登場。ユーモアと共にアイロニーも感じさせたコレクションだった。

シャネル(CHANEL)

「シャネル」2024春夏コレクション

 

 建築家ロベール・マレ=ステヴァンスによって1923年に設計されたモダニズム様式の邸宅、南仏はイエールに程近いヴィラ・ノアイユがインスピレーション源となったヴィルジニー・ヴィアールによる「シャネル」。ヴィラの所有者である芸術家達のパトロンであったマリー=ロール・ド・ノアイユは、ココ・シャネルと親交を持っていたことからイメージを膨らませ、休暇を楽しむ人々の装いをコレクションに落とし込んでいる。

 

 マルチカラーのツイードのジャンプスーツで幕開け。サンダルをコーディネートし、どことなくリラックスした空気感を醸し出している。スイムウェアにはアール・デコ的なモチーフのツイードコートを合わせ、プリーツブラウスにもジオメトリックモチーフのスパングル刺繍のパンツをコーディネート。

 

 モダンなデニムルックと対照的に、ベルトをあしらったニットカーディガンのルックは1930年代的なイメージ。バスローブ風のジャケットやテニスウェア風のミニ丈ドレスも、バカンスを想起させる。「シャネル」のアイコンであるマリンボーダーは、今季は深いVネックのニットとして登場し、レザーのホワイトパンツと合わせられた、

 

 1920~30年代の優雅な人々の装いをイメージしながら、あらゆるオケージョンを想定してデザインされたバリエーション豊かなルックの数々。ディテールに直線的なアール・デコ的な要素が感じられたが、レトロに傾くことなくモダンにまとめていた。

今シーズンのキーワード

 

花モチーフ

左から「アレキサンダー・マックイーン」「バルマン」

 

 今季、特に目に付いたものが花のモチーフである。「ジバンシィ」では、創始者ユベール・ドゥ・ジバンシィがガーデニング好きであったことから花モチーフのアイデアを引き出し、デボレ加工で花モチーフを表現したファブリックのドレスやハンドペイントで花モチーフを描いたドレスを発表。「シャネル」も花のモチーフがコレクションの後半を彩っていた。花の中でもバラは印象的で、「バルマン」や「ディオール」、「アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)」ではメインのモチーフの1つとなっていた。

 オート・クチュールでは、コサージュやジュエリー、帽子やバッグなどにあしらわれ、クチュールを象徴するモチーフとしての花。「バルマン」、「 ディオール」、「ジバンシィ」は元来オートクチュール・ブランドであり、「アレキサンダー・マックイーン」は「ジバンシィ」との関りもあり、クチュール志向の強いブランド。クチュール的な作品を発表するブランドと花の親和性は高かったようである。

 

 

ブルー、コバルトブルー

 色については、差し色としてのコバルトブルーに近い青がいくつかのコレクションで目に付いた。ドレーピングのトップスを発表した「ザ・ロウ(THE ROW)」、オーバーサイズのジャケットやシンプルなドレスを見せた「ジバンシィ」、アップサイクルされたバイカージャケットを提案した「バレンシアガ」。冷静さや知性を表わす色として、コレクションを一旦クールダウンさせる効果をもたらしていたのかもしれない。

アシンメトリー、ワンショルダー

左から「クロエ」「ディオール」

 フォルムについては、数は多くなかったものの、アシメトリーのアイテムが印象的だった。「アレキサンダー・マックイーン」ではマグダレーナ・アバカノヴィッチに影響を受けたフリンジドレスが、「ジバンシィ」では異素材を重ねたキャミソールドレスが、「クロエ(Chloé)」でもワンショルダーのドレスが見られた。「ディオール」ではワンショルダーのメンズシャツやドレスが数多く発表され、不安定の中の安定に挑戦する強い姿勢が感じられて興味深い。

 

 

華やかなフリンジづかい

左から「ロエベ」「アレキサンダー・マックィーン」

 

 ディテールについては、フリンジがコレクションのメインルックを飾る例が多かった。「ロエベ(LOEWE)」のフリンジで構成されたドレス、「アレキサンダー・マックィーン」のゴールドフリンジのドレス。「クロエ」はニットドレスの裾をスパンコールフリンジで飾り、ジバンシィはドレスの裾にボールチェーンフリンジを巡らせた。

 コロナ禍が落ち着きを見せ、徐々に外出する機会も増えている中で、華やかに装うことを取り戻しつつある現在。今季はリアルクローズと共に、よりクチュールテイスト溢れるドレス作品が多かったような気がする。それに伴った花モチーフの出現、そしてアイテムにボリュームを与え、よりゴージャスに見せるディテールとしてのフリンジが目に付いたのかもしれない。

 

 

 

内と外のコントラスト

左から「シャネル」「バレンシアガ」

 

 その一方で、インドアを象徴するようなバスローブの存在が残像として頭に残った今季。「ザ・ロウ」ではカシミア製のバスローブが発表され、「バレンシアガ」でのアウターとしてのバスローブが色展開されている。「シャネル」でも、バスローブはジャケットに代わるものとしてコレクションに登場していた。内と外のコントラストを感じさせた今シーズンだった。

 

取材・文:清水友顕/Text by Tomoaki SHIMIZU

画像:各ブランド提供(開催順に掲載)

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