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2023.02.19
【2023秋冬NYコレ ハイライト1】ダイバーシティの中から浮き上がるセックス・ポジティブの波
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写真左から「アレキサンダー ワン」「ヘロンプレストン」「コーチ」「マイケルコース」
ニューヨークでは、ニューヨークファッションウィーク(NYFW)が2023年2月10日から15日までの期間で行われた。
かつてはNYFWの会場にテントが張られて数多くのブランドが集結したものだが、今季はわずかなブランドのみが会場での参加をして、多くのブランドが外の会場で、それぞれショーや展示会を打った。
すっかりコロナ明けしたニューヨークでは、また装うことの喜びが目についた。人は装う時に、他人の目を必要とする。それがコロナ禍でなくなっていた3年間の空白を埋めるように、明るい色彩やアグレッシブな装飾が出てきている。
全体を見ると、ますますダイバーシティが進み、メンズとレディスを同時に発表するブランドも少なくなく、ジェンダーニュートラルを打ち出すデザイナーは増えている。また今季はミドルエイジのモデルの起用も増えて、年齢のダイバーシティも進んだといえる。
もうひとつの特徴が、セックス・ポジティブの空気だ。アウターとしてのランジェリーや、ブラトップのトレンドはすでに数シーズン続いているが、さらに官能的でセクシーなスタイルを打ち出すコレクションが目についた。
そこには異性の関心を引きたいというより、自分を打ち出したい欲望と、女性がより自由にタブーなく、セクシャリティを追求したいという、セックス・ポジティブなフェミニズムを感じる。「トリー バーチ(Tory Burch)」は今季「不完全の美」を謳ったが、不完全でありながらも、多様性ある自分を愛そうとする時代なのかもしれない。
アレキサンダー ワン(Alexander Wang)
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「アレキサンダー ワン」が4年ぶりにNYのランウェイに復活した。NYファッションウィークの公式開幕2日前という日程で、会場はチャイナタウンを選んだ。今季は「キューピッドのドア」と題して、23年プリフォール、および秋冬コレクションにあたるウィメンズとメンズウェアを披露した。
会場はダスティピンクのベルベッドのカーテンに覆われ、赤いライトが秘密クラブを思わせる。ファーストルックは、ビッグなフェイクファーのコートに、ブラトップ、パイソン柄のトラウザーは思い切りローライズで腰履きして、攻撃的なセクシーさを感じさせた。
ジャケットはビッグショルダーであり、オーバーオールやペンシルスカートなどのクラシックなアイテムが、パイソン柄レザーやゼブラ柄でミックスされ、アグレッシブに味つけされる。
中盤はセンシャルなシルクドレスが目を奪い、スリップドレスやランジェリードレス、そしてボーイフレンドのシャツを素肌にまとったようなシャツドレスと、官能的だ。
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メンズウェアは、90年代のアスレチックなシルエットやスポーツウェアからインスピレーションを受け、フェミニンな素材やテクスチャーをミックスしたルックを提案した。グリッタースプレーを施したフリース素材のスウェットや、鮮やかなスネークスキン素材のクロップドベストなど、素肌を露出したスタイリングで、エッジを効かせたアイテムが登場した。
フィナーレでは、イブニングウェアのシルエットにシルクのフリンジがあしらわれ、センシュアルにランウェイを飾った。新しいシグネチャーバッグ「ドーム」は、コレクション全体のアクセサリーとして登場した。
エリア(AREA)
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国連が目の前に見えるガラス張りの会場に、ハエのインスタレーションをして観客を驚かせたのが、「エリア」だ。
ハエの羽音はランウェイの音楽にも使われて、ファーストルックで登場したのが、フューシャとパープルのバナナで飾られたドレスだ。つぎつぎとバナナモチーフのドレスや、スイカの着ぐるみのようなルックも登場する。肌の露出度は高く、セックスと豊穣のイメージ、それにむらがるハエの群れという演出が見える。ヘッドピースも含めて、非常に凝った作りで、立体的に羽を飾ったドレスはクチュールのように美しい。
仮装のようなショーピースはセレブが使うオケージョンドレスになりそうだが、総レースのオールインワンや、ブラトップとマイクロミニの組み合わせは商品化されそうだ。シューズは「セルジオ ロッシ(Sergio Rossi)」との2023春夏コラボレーションのコレクションが登場して、オーストリッチの羽をほどこしたパンプスが、官能性と華やかさを添えた。
アディアム(ADEAM)
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「アディアム」を手がける前田華子は、今回のインスピレーションを、かつて愛読したマンガ「NANA」から得たという。同じく10代の頃に聞いたポップ・パンクバンドの「グリーン・デイ」や「ブリンク182」も大きな影響だったと語る。
そのテーマ通り、ロックのテイストが通底音として流れ、大ぶりなラッフルをほどこしたドレスや、どこかゴスの香りがするブラックのパフスリーブのロングドレス、レースやチュールがあしらわれたゴージャスなドレスが披露される。ロマンチックでありながら、モデルはノーズピアスをしていて、そのロックな風情がクールだ。そしてタータンチェックやレザーのモチーフにはパンクのテイストが香る。
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そして中盤に、会場が暗転してサプライズで登場したのが、アメリカで活躍するギタリスト、MIYAVIだ。華麗なギターのパフォーマンスを披露して、喝采を浴びた。続いて登場したのが、ジェンダーニュートラルなラインの「アディアム イチ(ADEAM ICHI)」イチだ。男女モデルがランウェイを歩き、オーバーサイズのシルエットに、ネルシャツやカーゴパンツ、穴あきのセーター、ネルシャツなどグランジのテイストを感じさせた。
ヘロン・プレストン(HERON PRESTON)
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NYFWで初のコレクション発表となった「ヘロン・プレストン」。カナルストリート駅近くの会場は、多くの若者が集まりゲストが中に入るにも一苦労する状況に。そのような群衆エネルギーに包まれた中、登場したファーストルックは、グラマラスな女性モデルが身につける、シアーな全身タイツ。今シーズンに浮き出てきたセックス・ポジティブを印象づける幕開けだ。
その後に続くルックも、同ブランドのこれまでのコレクションと比べると艶やリュクスさを感じさせるものが多い。ブラトップや肌見せ、ボディコンシャスなシルエットなどセックス・ポジティブな要素を入れ込んだ。ファーやレザーも多く取り入れてお得意のワークなストリートルックを格上げした。
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もちろんこれまでの強みである、ユーティリティ要素は現在。スタジャンやMA-1、レザーのフライトジャケット、ファイヤーマンジャケットなどを捻ったアイテムが多く登場。トレンドであるビッグジャケットの他、膨らみ技術で巨大化したジャケットなどテーラリングを新解釈したルックも目をひいた。
ヴィヴィアン タム(VIVIENNE TAM)
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「ヴィヴィアン タム」は、香港の Web3 テクノロジーインキュベーターであるサイバーポートと香港経済貿易局の支援を受けて“ウィーヴィング・イントゥ・ザ・メタバース(メタバースに織りこまれて)”と題するレディスとメンズのランウェイショーを行った。
ランウェイの背景には仮想世界の香港が描かれて、そこから直接モデルたちが歩いて出て来るように演出されている。
前シーズンに引きつづき、NFT/PFPのアイコンが、ワッペンや刺繍などになって数多く飾られていて、さらに中国最古の言語である甲骨文字と12星座のシンボルを、さまざまなWeb3や NFTと結びつけて表現してみせた。色彩パレットは深みのあるジュエルトーンを中心に、複雑にミックスされている。
レディスでは、ローライズのミニスカートに、クロップド丈のトップスで、ミッドリフを見せて、サイハイソックス、そしてボリュームあるレッグウォーマーで、Y2Kなスタイルが目を引いた。メンズではスロウチーなジーンズに、オーバーサイズのワークジャケットが多く提案された。
Web3、ブロックチェーン、ゲーム世界、没入型体験といった仮想空間世代と、現実のファッションをつなげる世界を提示してみせた。
コーチ(COACH)
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「コーチ」は、パーク・アヴェニュー・アーモリーでランウェイショーを開催。アメリカンブランドの代表的存在である「コーチ」らしくアメリカンヘリテージなアイテムを多く採用。それらをクロップド丈ジャケットにしたり、スーパーマンやビッグアップなどのモチーフをビンテージ風に加工し装着したりするなど新たな世代に向けて提案した。
また、リユースやビンテージなどサステナブルなアプローチも目立つ。役目を終えた「コーチバッグ」をアッパーに再利用したレザースニーカーを発表。ログウッド (アカミノキ)、サフラワー (ベニバナ)、マリーゴールドなどの植物で天然染めしたカラフルなシルクシフォンのスリップドレスのシリーズを仕立て、パターンカットで出た端切れを装飾に使い、廃棄物を最小限に抑えた取り組みも見せた。他にもビンテージピースを再利用したジュエリーも登場した。
トリー バーチ(Tory Burch)
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「トリー バーチ」は今季、トラディショナルなワードローブを、未完成な感じを狙って再構築したという。切りっぱなしの裾やデニム、あるいはバッグから落ちかけるように見えるロゴマーク、ほつれたようなボタン、安全ピンで留めた巻きスカート、まくりあげた形に作られたセーターの袖など、「不完全の美」を強調してみせた。
「自信というのは、悪びれずに自分自身であることから生まれます」とトリー・バーチはデザイナーノートで語り、どのピースも自分らしく組み合わせられることを目指したという。
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前回から続くリーン・アンド・ロングのシルエットを保ち、テーラードされたインバネスコートやアシメントリーなファーをつけたピーコートは美しいシルエットを誇る。色彩パレットはベージュ、グレー、ブラックなどのニュートラルカラーがメインだが、エメラルドグリーンなどの色鮮やかな色彩も投入した。
なによりアイキャッチなピースは、サテンのコルセットのトップスだろう。下着をアウターとする挑戦的なトレンドを、いかに品よく、大人の女性が取りいれられるか、トリーらしい持ち味で披露してみせた。
コリン・ロカシオ(COLIN LOCASCIO)
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「コリン・ロカシオ」はNYFWの本会場であるスプリングスタジオでランウェイを披露した。コリン・ロカシオはベラ・ハディッドやカルディBの服を製作してきたデザイナーで、「ケンダルアンドカイリー(Kendall+Kylie)」のデザイナーも務めている。
今季のコレクションは、コリンの幼少期の記憶や幸福の感覚に根ざしていて、それをパッチワークのように組みあわせたものだという。
そのテーマ通りに、カラフルなフェイクファーのコートやプリントのメッシュ素材のボディスーツやドレス、オーストリッチの羽を飾りつけたフェイクファーのジャケット、立体的な花のアップリケを施したドレスなど、オモチャ箱をひっくり返したような、かわいらしさとユーモアのあるルックが登場した。カラフルなキャンディトーンで、色彩的にも幸福感が溢れていた。
トム ブラウン(THOM BROWNE)
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2023年1月1日にCFDA(Council of Fashion Designers of America/アメリカファッション協議会)の会長に就任したトム・ブラウンは、ハドソンヤーズの会場で大掛かりなショーを行った。
今シーズンは、サン・テグジュペリの小説「星の王子様」を彷彿させる演出や進行でコレクションを発表した。砂漠に不時着したかのような飛行機、小惑星などをセットした会場に現れたのは、まさに同小説の表紙イラストでお馴染みの王子のヘアスタイルをしたモデルと、飛行士姿もモデルだ。この二人を囲むように、モデルたちが登場しコレクションを見せた。
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コレクションは大きく3つのストーリーに分かれている。最初のストーリーは、ワンピースを纏った宇宙人のようなルック。未知の植物、小惑星、ランプ・・・白い一枚布には各ルック様々なイラストが描いた。
次のストーリーは、「トム ブラウン」お得意のテーラリング。ファンシーツィード、ジャカード、捻ったリボンのような装飾のジャケットが描くのは、肩をいからせたビッグシルエット。ベスト、ネクタイ、クロップドパンツ、スカートなどと柄の組み合わせを遊んだ。
最後のストーリーはリメイク的手法で構築したルック。フェミニンなドレスやチュールとマスキュリンはテーラードルックをアシンメトリーにドッキングしたり、「トム ブラウン」のシグネチャーであるグレーのスーツをバルーンドレスに変換したかのようなルックが目についた。
マイケル・コース(MICHAEL KORS)
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「マイケル・コース」はハイライン近くの会場で、ウィメンズとメンズの2023秋冬コレクションを発表した。
70年代のグロリア・スタイナムやジェーン・フォンダなど、強くて、確固とした自信を持つ女性たちがインスピレーション源だという。フロントローにもグロリア・スタイナムや、キャサリン・ホークルNY州知事らが並び、ケイト・ハドソンやケイティ・ホームズ、TWICEのダヒョンらが華やかに並んだ。
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コレクションは「マイケル・コース」らしいオーセンティックなスタイルに、適度に肌を見せるセクシーさ、そしてマイクロミニや、スラッシュをいれたロングスカートの組み合わせで、今の空気を取りいれてみせた。テーラードされたコート、パンツスーツ、マントやケープジャケットが際だっており、素材はカシミアを多用して、心地よさそうだ。色彩パレットはキャメルやグレーといったナチュラルカラーが多く、ラズベリーなどの色が差しこまれる。
アクセサリーとしては、存在感ある太めのベルトが欠かせない。キイピースとしては、フリンジのように刻んだスカートで、ロング丈であっても、足が見えるセクシーさを提案した。フリンジのモチーフは、フリンジを施したドレスにも見られ、メンズでも、フリンジを施した大判のストールが登場した。メンズも美しいテーラードのコートが存在感を放つ。
パンデミック後に、あらためてジェットセッターたちがラグジュリアスに装う日々が戻ってきたことを感じさせるコレクションとなった。
取材・文:黒部エリ、アパレルウェブ編集部
画像:各ブランド提供