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2017.03.10

【ロンドンファッションウィークまとめ】今、会場で起きていること

 2017年2月に行われたロンドンファッションウィーク(LFW)2017AWシーズン。ニューヨークやミラノ、そしてパリを合わせた4大コレクションのひとつとして位置付けられるイベントです。ご存知の通りレディスファッションをメインに行い、メンズは10シーズン前から単独のロンドンファッションウィークメンズ(以前までの名称はロンドンコレクションズメン)として開催されています。他の都市のファッションウィークとは違い、若手ブランドの参加やストリートスタイル、クリエィティブなデザインが特徴です。

 

 今、現地では何が起こっているのでしょうか。取材を行った中で目にしたロンドンファッションの今と今後を検証してみましょう。

ロンドンファッションウィークにてコレクション発表したトーガ(TOGA)。日本から継続的にロンドンファッションウィークに参加する唯一のブランドです。

ビッグブランドが入れ替わる「発表の場ロンドン」

 ロンドンファッションウィークの公式プログラムに記載されるランウェイショーやプレゼンテーションなどは、毎シーズン80ブランド前後。これら全てが5日間のスケジュールで発表されます。 

 

 パリやミラノ、そしてニューヨークとは違い、ストリートスタイルや若手ブランドの割合が高いLFW。今回LFW側が公式発表しているプログラムを過去10シーズンと見比べ、参加するブランドの移り変わりをチェックしました。その中で目立った変化のひとつが、比較的知名度が高いラグジュアリーと位置づけされるビッグブランドの入れ替わりが頻繁に起こっていることです。

 

 具体的な例を挙げると、ポール スミス(Paul Smith)が、2016年9月に開催されたロンドンファッションウィークを最後に不参加。アレキサンダー マックイーン(Alexander McQueen)は2016年2月のロンドンファッションウィーク以降、参加していません。さらに、イタリアブランドであるモスキーノ(Moschino)はレディス、メンズ共に単発でロンドンファッションウィークに参加していますが、続けて行うシーズンはありません。これらのブランドは、ロンドンを後にし、パリやミラノをコレクション発表の場としています。

 

 さらに、ヴィヴィアン ウエストウッド(Vivienne Westwood)はレッドレーベルとしてロンドンで発表していましたが、レーベルを統合したり、メンズとレディスを同じタイミングで発表するなど、様々な変化の後、ミラノやロンドンでコレクションを発表しています。最新のシーズンでは、ロンドンファッションウィークメンズのスケジュールでコレクションを発表するなど、シーズンごとに違ったアプローチを試みています。

 

 その点、レーベルの統合や、メンズとレディスをまとめて発表する方針に変えても、常にロンドンでコレクションを発表しているブランドがバーバリー(Burberry)です。ビッグブランドの多数がパリやミラノへ発表の場を移行、ロンドンに回帰するなどの変化をするなか、ロンドンで発表し続けるバーバリー(Burberry)は、LFWの顔となり、最も注目されるブランドとして地位を築いています。

バーバリー(Burberry)のショー会場。他のロンドンコレクション参加ブランドとは比にならないほどのセレブや有名人が足を運んだ会場。ロンドンファッションウィークのメインブランドとしての高い注目度を誇っています。

若手ブランドが育ち、根付く。「ニュウゲン」というデザイナー支援

ニュウゲン(NEWGEN)による支援を受けるセイディ ウィリアムス(SADIE WILLIAMS)。シャイニーな色合いと、トリコロールなカラーリングの組み合わせが特徴的です。

 若手ブランドの割合が高いLFWの特徴は、偶然生まれたものではありません。ブランドを始めたばかりのデザイナーを支援する活動がロンドンでは積極的に行われています。その代表とされるのが、「ニュウゲン(NEWGEN)」と呼ばれる取り組みです。

 

 英国を代表するファストファッションブランドのトップショップ(TOPSHOP)がスポンサーとなり、コンペ形式で選出。選ばれたブランドは、ロンドンファッションウィークでランウェイショーやプレゼンテーションを行う費用の支援を受けることができ、スタートアップに必要なPRやセールスのきっかけを掴むことができます。さらに、ファッション雑誌のヴォーグ(Vogue)による支援などもあり、他のコレクションよりも若手にチャンスがある発表の場でもあります。

 

 セールスに成功した支援ブランドは、支援が終了した後も、LFWの常連となり、そのままロンドンを拠点としてデザイナー活動を続けていくことになります。ニュウゲンの支援を受けた代表的なブランドとして、クリストファー ケイン(Christopher Kane)、J. W. アンダーソン(J.W.Anderson)、ハウス オブ ホランド(House of Holland)などがあります。今現在もLFWに参加し続けているブランドです。

ニュウゲン卒業生のひとり、ハウス オブ ホランド(House of Holland)。現在もロンドンを拠点にコレクションを発表している人気ブランドです。

ロンドンファッションウィークメンズとの関係性

 LFWの1カ月前、2017年1月に行われたロンドンファッションウィークメンズ。今回で10シーズン目の節目を迎えたコレクションです。5年前のスタート当初は、他の展示会やファッションウィークへの悪影響が一部で懸念されており、ブランドの争奪戦となることが予想されていましたが、シーズンを重ねるに連れて規模も拡大しています。

 

 そして今シーズン、初めて会場をメンズ、レディス共に同じ場所にて行うなど、効率的な部分でも協力体制を取った両コレクション。レディスからメンズへと発表の場を移すブランドや、メンズのショーでレディスアイテムも同時に発表してしまうブランドなども増え、ブランド側への選択肢が増えた形となりました。世界的に見ても、拡大傾向にあるメンズファッションのマーケットをロンドンから発信できるメリットがあります。今後も、メンズとレディスそれぞれの良さを引き出しながら、相互作用を模索し発展していくことが予想されます。

今シーズンはロンドンファッションウィークメンズにて、メンズとレディス両方のコレクションを発表したヴィヴィアンウエストウッド(Vivienne Westwood)。

広がりを見せるのか?BUY NOWの取り組み

 前回の春夏シーズンでは、バーバリー(Burberry)がショーを開催後、すぐにオンラインで商品を購入できる取り組みを行ったことが話題となりました。「SEE NOW, BUY NOW」という新しいセールス方法です。

 

 今回バーバリーのショーは、「SEE NOW, BUY NOW」に加え、一部のアイテムをショー開催に先行して公開・予約可能とするなど、発表前から購入できるスタイルも採用しました。ただ、ロンドンベースで他のブランドをチェックしても、「SEE NOW, BUY NOW」を行っているのは、トップショップユニーク(TOPSHOP Unique)のみ。ロンドンファッションウィークメンズではバブアー(Barbour)など5ブランドが試みる程度に収まっています。

 

 さらに前シーズン、レディスメインのロンドンファッションウィークで、全アイテムをメンズで、しかも即売可能なショーを行ったオリバースペンサー(Oliver Spencer)。今回のコレクションでは同じ試みは行われず、メンズコレクションでのショーのみの通常スタイルに戻っていました。

 

 新しい買い物のしかたとして話題を呼んだ「SEE NOW, BUY NOW」というセールス方法は、緩やかな広がりを見せつつも、ロンドンでは少し新鮮さを感じなくなっているイメージです。

「SEE NOW, BUY NOW」を行ったブランドのひとつ、トップショップユニーク(TOPSHOP Unique)。セレブや英国内の有名人はトップショップユニーク(TOPSHOP Unique)のコーディネートで会場入り。ファンサービスにも応えていました。ジャスティン・ビーバーとの交際で話題になったソフィア・リッチー(左)とスーパーモデルのエリン・オコナーの姿も。

日本の大手バイヤーから多数のラブコール「ル キルト(Le Kilt)」

60年代の雰囲気を英国産のアイテムに落とし込んだル キルトのコレクション。ビンテージアイテムのようなノスタルジック感がブランドの特徴です。

 若手ブランドが多く集まるLFWの中で、特に日本への好調なセールスが目立つブランドがあります。それがル キルト(Le Kilt)です。ロンドンコレクションに参加するブランドと言えば、鮮やかなプリントデザインやストリートに近いスタイル、またはラグジュアリー志向が強いのですが、ル キルトはトラディショナルなキルトをメインにしていることが特徴的。独自の60年代スタイルをベースにデザインを展開する2014年スタートのブランドです。

 

 今回はプレゼンテーション形式で発表したル キルト。デザイナーのサマンサ・マコーチ(Samantha McCoach)氏に話を伺うことができました。

 

―英国外での取り扱いを見ると日本へのセールスが好調です。何かセールスを行う際にアプローチに工夫をしましたか?

 

サマンサ:日本に向けて特別なセールスやアプローチを行ったわけではありません。日本のバイヤーからの反応が良かったことは狙い通りと言うよりも、結果的にセールスに繋がっただけ。ロンドンでコレクションを発表した後、パリの展示会で日本のバイヤーに見てもらう機会があり、「これいいね」と良い反応をもらいました。なので、特別なことは何もしていません。

 

―今回のコレクションデザインで、日本のバイヤーを意識したことはありますか?

 

サマンサ:日本のマーケットが好むようなデザインは特に意識はしていません。ただ、ル キルトというブランドは、伝統的なキルト作りの技術や品質、そして比較的小規模なコミュニティーの中で生産を行っています。イギリスらしくストーリー性がありトラディショナルな部分や、キルトというクラシックなアイテムが支持されているように感じています。

 

―前シーズンはジョージ コックス(George Cox)とのコラボレーションシューズが好評でした。今後のコラボや新しい試みを教えてください。

 

サマンサ :今シーズンも引き続きジョージ コックスとのコラボレーションシューズを発表しています。また、マッキントッシュの協力で実現したアウターをコレクションにミックスさせたり、インディゴ染めのデニムも今回初めてデザインしました。これらはもちろん、イギリス国内で生産しています。

 

 まだ日本は訪れたことがないと言うサマンサ氏。最後に「今年こそ日本に行ってみたい」と語っていました。日本での取り扱いは、伊勢丹や阪急をはじめ、ビームス、ベイクルーズ、トゥモローランド、ビショップなどの百貨店やセレクトショップと幅広いことが特徴です。ロンドンを拠点とする話題性のある若手ブランドのひとつとして目が離せない存在です。

ル キルトのメインアイテムがキルトスカート。スコットランドの小さな工場で生産されています。

メディアのウェブ化が顕著に そして強まるムービー志向

 LFWを取材するにあたり、世界中から集まるのがメディアを代表するフォトグラファー達。現地ロンドンを始め、ヨーロッパをメインに様々なファッション媒体の関係者が最新コレクションを撮影するために訪れます。ここに集まるフォトグラファーを見て分かる明らかな変化、それは、紙媒体からウェブマガジンなどのネット媒体へと主力が変化していることです。残念ながら、来場者数や参加媒体などが分かる資料は非公開。LFWに集まる関係者の詳細を手にすることはできませんでしたが、その変化は目に見えて感じられます。さらに、雑誌メディアであってもウェブと併用して取材している媒体もあり、フォトグラファーとして集まるメディアは「オンライン化」が避けられない状態となっています。

 

 さらに、ウェブマガジンが増えることで起こる次なる変化。それが「ムービーを主体とした撮影」です。今までは写真が主な取材材料だったのが、前シーズンと今シーズンで一気に動画撮影を行うメディアが増えた印象です。

 

 YouTubeに始まりSNS(ソーシャルネットワーク)での動画共有が当たり前となった今、動画は、ウェブマガジン各社にとって会場の臨場感を伝える手段として、特別なものではなくなりました。専門的な部分にフォーカスすると、デジタルカメラでハイビジョン動画や4K動画が撮影できるようになるなど、動画撮影のハードルが下がったことも人気の理由だと考えられます。

 

 ファッション業界の中では、「ネットに強い」というイメージがあり、オンラインでのPRにも積極的なロンドンコレクション。公式サイトでも、数シーズン前からショーの様子をライブ中継するなど、ランウェイショーを伝えるメディアの動画志向は強まりつつあります。

取材方法として動画を取り入れるメディアが増加。オンラインで動画が気軽に視聴されるようになったことや、機材の低価格化なども要因のひとつです。


 

 

高嶋 一行(たかしま・かずゆき)
ファッションライター

 

ロンドンのELEY KISHIMOTOにてデザインアシスタントを経験後、日本では海外ブランドのセールス・PRエージェント会社に勤務。 現在はイギリスに戻り、英国を中心としたファッション記事を執筆中。 現在、ファミリーセールやサンプルセールの情報サイト「tokyosamplesale.com」(毎日更新)も運営している。

 

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