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2017.01.18
百貨店と専門店を融合した新食品フロア――大阪・梅田の複合商業施設「ルクア」の新たな挑戦
JR西日本SC開発が管理・運営する大阪・梅田の複合商業施設「ルクア」。東館と一昨年春に開業した「ルクア イーレ」の2館で構成する駅ビル施設である。今秋から来春にかけて、2館体制になって以降、最大規模の改装を実施する。「ルクア イーレ」の地階(地下1階および2階)の2フロアが対象だが、その目的は何だろうか?
イートイン×物販の“個性派”食品売り場へ
「ルクア イーレ」は2015年春、旧“JR大阪三越伊勢丹”の建物を居抜き改装してオープンした施設だ。間取りや建物内設備を流用し、専門店と百貨店が融合した新しい形の商業施設を作った。当時、旧売り場をほぼそのまま引き継いだのが、地階2階のデパ地下部分だった。屋号が「ルクア イーレ」に替わり、地下1階は「isetan」(伊勢丹)のシューズやバッグ、アクセサリー売り場に姿を変えたが、地下2階のデパ地下部分は変わらず営業を続けてきた。
食品売り場を維持する選択をした理由は、構造上、食品売り場の改装には手間や時間がかかり、投資額も高くなる傾向があるためだ(回収にも時間がかかる)。オープン後の顧客動向を見極めてからの改装でも修正が間に合うという面もある(客層は地上階からの流入が中心)。1年半が経過し、客層もほぼ把握できたタイミングで、大規模な改装を決めた。デパ地下自体の売り上げはそれほど落ち込んでいなかったそうだが、フロアを再構築してさらに効率性を高めようと決断した。
地下2階はデパ地下のほか、JR西日本SC開発が運営する飲食店街「バルチカ」がある。イートインがメーンで、好調な推移である。JR西日本SC開発の山口正人代表取締役社長は、「従来のデパ地下の延長線上ではない、新しい“食”のフロアを作りたいと考えた。ファッションフロア同様、百貨店と専門店の融合による新しいコンセプトの売り場だ」と説明する。好調な「バルチカ」を拡大する方向性で、そこに食物販を絡めつつ、イートインの色合いを強める計画だという。地下2階のデパ地下の終了後も、「バルチカ」は営業を続ける。
地下2階への出店交渉を兼ねて関連企業を取材したところ、前述の新しい食のフロアに対する共感が得られ、「手応えを感じた」(山口社長)という。「『isetan』と専門店のミックスでフロアを構成する。『バルチカ』ももう少しジャンルを広げられる余地があるし、何が“最適解”なのかを探りたい」(同)。この改装により、大阪駅周辺のデパ地下と住み分けできると考えている。
飲食関連テナントで言えば、カフェの充実も継続した課題だ。昨秋、「ルクア イーレ」5階のファッションフロアの一角に、カフェ「スラッピーケークス」を導入した。周辺はアパレルテナントばかりだが、依然カフェの需要は高いという。特に「休日のカフェの混み具合を見ると、顧客の方にはたいへん申し訳ないと思う。効率面も考えないといけないので、みだりに数を増やすわけにもいかない。地階2階も然りで、知恵を絞っているところだ」(山口社長)。
地下1階はファッション切り口の新しい試み
地下1階は現在の「isetan」のシューズ・バッグ売り場に替わり、SPA業態のファッションブランドを軸にした新しい切り口の試みに取り組む。ブランド名はまだ公表できないというが、斬新なアイデアを練っているらしい。また、ブライダルなどアクセサリーブランドを集積した「イセタン アクセサリーズ」売り場は、「ルクア イーレ」の4階に移設する。同フロアには伊勢丹の自主編集売り場「イセタン クローゼット」(レディス、雑貨、ジーンズ)があり、さらにその集積度が高まることになる。カフェの「サラベス」、生活雑貨の「ナチュラルキッチン アンド」は営業を続ける。
東館および「ルクア イーレ」の地下1階は、隣接する「グランフロント大阪」と地下道で連絡している。大阪・梅田は地下街天国で、導線の80%が地下だと言われるが、この地下1階に対する期待も高かった。しかし実際は、来館者の利用はあまり多くなかったようだ。JR大阪駅と「グランフロント大阪」と「ルクア」が連絡する“主”導線が2階にある影響もある。「目的買いのテナントが向いているのでは」(山口社長)と分析している。
地下2階は1月26日、地下1階は同月29日で一時、営業を終了する。「イセタン アクセサリーズ」は今年2月に4階へ移転予定。ちなみに6階の「オールドネイビー」は、1月22日に閉店予定。跡地にはファッション系を主体に数ブランドが出店する計画だ。
「ルクア」全体の年末年始商戦は好調だった。1年目のオープン景気で、昨年は前年同期比割れが続いていたそうだが、昨年12月度は104.9%とプラスに転じた。年明けのセールも前年比を上回っているという(第1週の実績)。どの時点で前年比を超えられるかが焦点だったと言うが、オープン後2年目の後半で成長基調に乗り始めたようだ。改装オープンは今秋以降で、2017年春夏シーズンは地階の大部分が閉まった状態の商売を余儀なくされる。春夏シーズンをどう乗り切るかが大事だという。1月下旬には、通常のファッションゾーンの改装も計画しているため、売上額そのものは下がることになる。3年目のシーズンへ向けて、ルクアの新しい挑戦が始まる。
■ ルクア http://www.lucua.jp/
■ ルクア イーレ http://www.lucua.jp/lucua1100/
■ ルクア大阪内 isetan http://osaka.wjr-isetan.co.jp/lucua1100/index.html
■ バルチカ http://www.lucua.jp/floorguide/floor_b2.html
■ グランフロント大阪 https://www.grandfront-osaka.jp/
樋口 尚平
ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。
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