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2018.09.13
“ダメ出し”からヒット誕生<顧客の声に向き合う>
消費者目線の商品開発を行う上で、欠かすことができない材料となるのが企業に寄せられる顧客からの声だ。中には既存のサービス・商品に対する厳しい指摘や不満といったネガティブな意見も多いだろう。しかし、そうした声を正しく消化することで、人気商品の開発ヒントにつなげることができた事例もある。通販企業にとってはサイトやSNS、アプリ、電話など様々なチャネルを通じて顧客と密接なコミュニケーションが取れる時代となっている。顧客の不満と正しく向き合う各社の手法を探った。
「シンプル家電」誕生のきっかけ
インテリアや雑貨、家電などのネット販売を手がけるジェネレーションパスでは、昨年1月にPB商品ブランド「Simplus(シンプラス)」シリーズを立ち上げ、第1弾商品としてハイビジョン液晶テレビなどを販売している。
元々同社ではメーカーから商品を仕入れて、大手仮想モールの各店舗で販売している。PB家電を開始したのは、近年はメーカーだけでなく大手量販店などでもPB開発が盛んになっているという背景もあったが、同社の場合はそのほかにも顧客からの声が大きく影響していたという。「以前に『そもそも何に使うのか分からない機能がテレビにたくさんついている』という顧客からの電話を受けた。であれば、機能を絞ったシンプルなテレビを自前で作ろうと考えるようになった」(岡本洋明社長)と振り返る。
単身者向けを意識して、液晶テレビをはじめ小型冷蔵庫や洗濯機など機能を絞った内容で次々と開発。結果的にPBシリーズの売上高は初年度で2億円を超え、今期も増収を計画するなど、新たな収益事業として確立することができた。
一般的にクレームや問い合わせの受け皿として、メールのほかサイト内で専用フォーマットを設けて受け付けるという形が多いが、同社の場合、対象商材やその内容によってはテキスト入力では相手の不満を十分に把握しきれない可能性があると考えている。そのため、自社内のスタッフで構成した電話応対のオペレーション部隊を組織。100億円超の売上高を持ち、複数のサイトを運営する同社にとって、電話での対応工数はかなりの規模になっているものの、この組織だけは今後も外注化せずに自社で運営することを考えている。対応を外注化することでマニュアル回答に頼らざるを得なくなり、積極的な応対ができなくなることが理由にあるようだ。
「クレームの内、何かのヒントになるのは数%。実際に商品化できたケースで言えばさらにその数%かもしれない。しかし、それを見つける作業はカスタマーセンターのモチベーションアップにもつながる」(同)と説明。課題を見つけるためにクレーム対応の中身も自然と顧客目線で解決を図っていく姿勢になるという。なお、問い合わせなどは50代以上のケースが多く、新規の顧客ほどその割合が高くなるようだ。
同社の場合、PB化する商品ジャンルは限定しており、PB化の予定がないジャンルの商品へのクレームに対しては仕入れ先のメーカーとも共有して、その後のメーカー側の商品改良につながるようフォローしている。
今後についてはPBの新たな商品として、コンパクトサイズの折りたたみ自転車を今年度中に発売する予定。同商品についても昨今の住宅事情に合わせて、都市部のマンションで通常サイズの自転車の置き場が限られていることなどに対する不満の声を受けて開発が始まったものだ。引き続き、顧客が抱える不満や問題点から新たなヒントをつかんでいく考え。
「ださい」の声からジーンズを改良
ユニクロでは顧客の声によって改良された商品をコーポレートサイト内の「ユニクロアップデート」というページで紹介している。
同ページで紹介された商品の一例として、「EZYデニム」がある。同商品はストレスフリーな履き心地を実現するため、ウエスト部分にリブ(伸縮性のあるゴム編み)を採用している。以前は、一目ではっきりと分かる"ゴム状"になっていたため、顧客からは「トップスをインすると、背中リブがださめ...おしい」(40代・女性)といった厳しい意見も受けていた。
そこで、今年の秋冬商品からリブをウエストの内側部分のみにして、外から見える部分はデニム状に変更。見た目のデザインを大きく修正することで、再評価を得たという。
近年、同社では顧客からの意見は実店舗での接客を通じて集めたものだけでなく、ECでの商品レビューに寄せられた内容も大きく参考にしている。「ECは顧客からのフィードバックを直接得られる場所。いかに顧客の要望を集めていくか。今は商品レビューを集める活動に力を入れている」(グローバルデジタルコマース部の松山真哉部長)と説明。ECでの商品レビューを起点とした商品開発が今後の重要テーマになっているようだ。
ユニクロアップデートについては、毎月のペースで更新しており、改良した商品の情報を一覧で掲載。「当社はベーシックな商品を毎年より良くしていく業態なので、顧客のフィードバックを反映してその成果を提示することは非常に向いている」(同)とした。
今年からはAIを通じて顧客とコミュニケーションが図れるチャット接客機能をアプリに導入しており、これまで以上にオンライン上で顧客の声を集めやすい環境ができているようだ。
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クレーム対応は一言でいえば面倒な作業であり、誰もが避けたいところ。よく「クレームは企業にとって宝の山」と言われることもあるが、実際の現場での話を聞くと宝の山とは言い難く、言いがかりに近い悪質なクレームの方が圧倒的多数を占める印象。
しかしながら、「物言う」消費者はどこにでもいる。納得いかない商品やサービスを受けた消費者ほどそうした時の口は軽くなりがちだ。今はSNSもあり、企業が気づかぬ間に自社のサービスや商品の悪評が広がってしまうということも十分にあり得る。
そうした事態に陥らぬように、顧客の本音や不満を拾うことができる受け皿を企業側が自前であらかじめ用意しておくことがまず必要だ。当然そこには、集めた声を放置せずに分析して検証する作業も一体となる。厳しい批判の声も一転、自社の成長の糧へと昇華できるような柔軟な対応力を身に付けたい。
不満は"イノベーションの種"
「不便の解消」に価値を見出す
【専門家に聞く Insight Techの伊藤友博社長】
Insight Tech(インサイトテック)では、消費者が日常で使っているサービスや商品などについて感じた「不満」投稿を受け付けており、現在、40万人近くの会員から920万件の不満データを集めている。不満内容は業種・サービス別などにテキストベースで受けており、同社ではAIを使ってそれらの内容を解析して分類。消費者の不満の声を企業のサービス改善や商品開発などにつなげていく支援事業を展開している。企業にとって不満と向き合うためのポイントやその重要性について、伊藤友博社長(=写真)に話を聞いた。
――通販企業に寄せられる不満の声としては。
「これまではサイトが使いづらい、分かりづらい、本当に信用が持てるかといった声があった。今はトレンドであったり、自分を理解してそれにきちんと応えてくれるかといった不満が離反につながっていると思う。通販に対する期待値はかなり上がっているが、そこに差別化のヒントがある」
――不満対応に当たってのポイントは。
「全ての不満を解決することは現実的には難しいので、例えば通販に対する顧客の期待が10あるとすれば、その内、どの部分を自分たちが対応できるのか、選択と集中を上手く行う作業が必要。その上で、『当社ではこういった不満の声にこのような形で改善しました』と、フィードバックを公開することが望ましい。それにより顧客の声に応えているという姿勢が伝わる。(通販は)リアルに売り場がないので、顧客とのエンゲージメントの観点からも情報の非対称性をいかに解消していくかが重要となる。
また、最近は商品開発自体に顧客の声を反映した手法が目立っている。以前は読者モデルやタレントといったイノベーターを立てて行う手法が多かったが、今後は徐々に生活者の目線で商品を作っていく時代になるだろう。ただ単に『新商品が出ました』ではなく、プロダクトの面から顧客を巻き込んでいくことが、顧客との新しいエンゲージメントの形となり、不満対応に関連する部分も出てくると思う」
――企業にとって不満の声を分析する作業は非常に手間で、大きな負担となる。
「これまではその作業を人力でやっていたことがボトルネックだった。当社のように文章を解析するAIを入れることで新しい意見の塊をある程度スピーディーに見つけることができるようになっている。今では自社で独自に集めた膨大な顧客の声(データ)を解析してほしいといったクライアントが増えている」
――これまで手がけた企業事例としては。
「例えばフランスベッドさんとの話で、家具調ベッドに関する不満を集めたことがあった。当初は『価格が高い』『場所をとる』といった不満を想定していたが、実際にはそういった声に加えて『関節照明でおしゃれにしてほしい』『タブレットが置けるしつらえが欲しい』など就寝空間の演出に関わる不満が見えてきた。そこでその声を商品開発に反映させたベッドを発売した結果、従来の同価格帯のベッドと比べて4倍のペースで売れるという成果が得られた」
――企業にとって、顧客からの不満の声とはどのような存在と言えるのか。
「今どきの言い方をするのであれば"イノベーションの種"だと思う。"種"なので、見過ごそうと思えば見過ごせるし、また、気づかないでいようとすることもできる。実際にそこまで大きな問題となるような不満内容もそう多くはないだろう。しかし、実はそれを見過ごすことによって次の時代のビジネスチャンスや次の事業成長の可能性の芽を摘んでしまっている恐れがある。いかにして不満の中から種を見つけて、芽として育てて花を咲かせられるか。そこに競争優位のヒントがあるのではないだろうか。
おそらく、商品スペック(で選ばれる)時代はもう終わっていて、今はどのような価値を提供できるかで決まってくる。『この不便をいかにして解消できるのか』というような形のマーケティングが求められている時代だと思う」