三越伊勢丹通信販売は、主力事業であるカタログ通販の収益力低下などに伴い、来年3月末で営業を終えることになった。顧客の高齢化やウェブシフトへの対応の遅れなどで売り上げが減少傾向にある中、事業構造改革にも後手を踏んだ印象で、今期(2019年3月期)のカタログ発刊は基幹の「三越カタログ」と、同誌からお薦め品を選りすぐった「ベストセレクションカタログ」、食料品の「美味通信」の3誌に絞っており、これらも来年早々に発刊を終了する。
前身となる旧三越の通販部門はピーク時の1992年度には500億円強の売上高を計上していたが、その後は百貨店業界の不振に加え、ECやテレビ通販の台頭などもあって減少に転じた。
11年4月に同通販部門を別会社化して三越伊勢丹通信販売が誕生したものの、14年4月には日本郵便の子会社で物販事業を手がける郵便局物販サービスと三越伊勢丹ホールディングスの合弁会社として「JP三越マーチャンダイジング(JPMM)」が始動。三越伊勢丹通信販売は自社媒体の商品企画やカタログ制作の機能をJPMMに移し、販売窓口として機能してきた。
最近では、主要顧客層が高齢化していることから、50~60代前半をターゲットにした衣料品カタログを発刊したり、商品カテゴリーを細分化したカタログ冊子を展開したものの、大きな成果は得られなかったようだ。
また、三越伊勢丹通信販売は、三越時代からテレビ通販にも積極的だったが、テレビ東京系の情報番組「L4YOU!」が昨年3月で終了。前身の番組「レディス4」から33年間、三越一社提供で番組を続けてきたが、数十億円規模の売り場を失っていた。
昨年4月からはアニメキャラクターが商品を紹介する通販番組「ときめきダイレクト」を始め、通販サイトに同番組のコーナーを開設するとともに、各商品の詳細ページには番組の内容を動画でも確認できるようにしてウェブの活性化も図ったがうまくいかなかった。
今期での営業終了について、親会社の三越伊勢丹ホールディングでは「紙の通販は制作費、配布コストがかさんで厳しく、"伸びしろ"に限界を感じた」(広報)とコメント。JPMMの発足で郵便局ネットワークを活用した新客開拓に乗り出したが、「想定していたほどのシナジーは得られなかった」(同)という。現時点でJPMMの存続は未定で、「日本郵政グループとの協力関係は維持し、三越カタログは休止しても良い商品、取引先は残したい」(同)としており、郵便局の紙媒体に三越カタログの品ぞろえの一部が反映される可能性はありそうだ。
三越伊勢丹ホールディングスとしては通販子会社の営業終了で紙媒体を介した通販に見切りをつけ、通販ビジネスはグループとして紙からECにスイッチする方針で、7月初旬にスタートした食料品の定期宅配事業「イセタンドア」もEC専用サービスにしている。
競合は黒字化も
総合カタログは苦戦を強いられる企業が多いが、とくに三越伊勢丹通信販売は郵政グループとの合弁で展開するため、大胆な改革に着手するのが難しかったと見られる。
競合の高島屋はクロスメディア事業部が通販を展開するが、グループとして同事業部の改革を断行し、紙媒体の季刊誌化や人員削減を実施。カタログ商品を主力サイトでも販売するなどECチャネルを有効活用していることもあり、18年2月期は同事業部として初めて黒字化を達成している。
一方、「大丸・松坂屋通信販売カタログ」を発刊する旧JFRオンラインは昨年3月にJフロントリテイリング傘下から千趣会の子会社となり、純粋な百貨店の通販カタログは来年以降、高島屋だけとなる。百貨店の紙媒体は店頭には頻繁に来店できない百貨店顧客の受け皿としての役割もあるだけに、高島屋の郡一哉クロスメディア事業部長は「買い物弱者が出ないよう、百貨店通販としての責任をこれまで以上に感じながら事業を行いたい」としている。