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2021.05.20
コロナ禍の顧客接点、SNS・試着店などで新境地
コロナ禍でEC需要が拡大する中、顧客とのコミュニケーションにはこれまで以上に注意を払うことが求められている。飽和するウェブ上での情報発信のやり方を見直すことはもちろん、オフラインでの販促には目的別に合わせた効果的な手法の選択が必要だ。不自由な時代だからこそ、新しく自由な発想による顧客アプローチの形は欠かせない。変化する顧客とのコミュニケーション戦略について、通販各社の取り組みに迫った。
インフルエンサーと拡散
ヒラキ
靴の製造・販売を手がけているヒラキでは、2021年3月期に販促商品としてワンコイン(税別500円以下)で展開したレディースカジュアルシューズの「ふわりっと」(税別価格499円)がヒット商品となり、シリーズ累計で40万足を超える販売を達成した。背景にはSNSによるくちコミ拡散があり、従来とはまた違ったウェブ販促の展開につながっている。
同商品は昨年春に発売し、夏にも秋モデルとして新作7色を投入した女性向けのカジュアルバレエシューズ。ワンコインでありながら、サイズの微調整ができるフィッテイングパッドや滑りにくいアウトソールの採用など、履き心地や機能性で訴求した商品となっている。
最初に火がついたのは発売間もない昨年の3月末ごろ。ファッション関係者の目に留まり、ワンコインながらも履き心地の良さがあるという内容をツイッターでつぶやかれたところ大きな反響があったという。同社から意図して仕掛けたつぶやきではなかったものの、販売拡大の大きな後押しとなり、SNSマーケティングを本格化するきっかけになったとする。
元々、リスティングやバナーといったウェブ広告も行っていたが、近年は広告単価が上昇傾向にもあり、費用対効果の見直しにも迫られていた。昨年度からは徐々にそういった広告は控えるようになり、今期に入ってからは、SNSマーケティングに大幅にシフトしている。正式にユーチューバーやインフルエンサーにオファーを行い、同社の顧客層にマッチする子育て世代の女性を起用して、商品を提供。親子で履いている様子の画像・動画などをネットにあげてもらい、消費者目線での生の声を拡散するようにしている。
「テレビCMも行っているが今はくちコミを広げているところ。突然大きくは跳ねないがコツコツ進めると新しいネット消費者にヒラキの認知が広がる」(同社)と説明する。同社の場合、低価格商品が中心で、送料無料となるにはまとめ買いが必須なため、以前はカタログ通販向きのビジネスモデルだと想定していた。しかしながら、ネット経由の認知が広がることで、ECで靴をまとめ買いする若い新しい世代にも出会うことができ、マーケティング手法にも変化がでたようだ。
なお、関連して昨年12月には公式アプリの提供も開始している。限定クーポンの配布やまとめ買いしやすい導線設計、セール情報の配信などを取り入れており、提供から約3カ月間で16万ダウンロードを記録。初期投資はかかったものの、顧客と直接コミュニケーションを取る手段として効果を挙げている。
試着専用店舗で顧客開拓
コヒナとWWS
ファッションのD2Cブランドはコロナ禍で試着専用店舗の開設などに乗り出し、新客開拓や既存顧客との接点を強化している。155センチ以下の小柄女性に向けたD2Cアパレルブランド「COHINA(コヒナ)」を展開するnewn(ニューン)は、コロナ禍でも順調に売り上げを伸ばしている。
顧客接点の場としてはインスタグラムを重視する。インスタライブを毎日配信しているのも特徴で、普段はOLや主婦をしている一般の小柄女性10人程度が”ライバー”として活躍。コロナ禍でも毎日配信を続け、5月10日にはライブ配信が連続700日となった。
昨年からはマス向けのプロモーションにも着手。9月に東京ガールズコレクションに出演し、ライバーもランウェイに立った。11月には新潟県限定で初のテレビCMを放映したほか、20年冬シーズンには女優でモデルの高橋愛さん、21年夏シーズンは女優やタレントして活躍する山本舞香さんをモデルに起用したルックブックを公開するなど、認知拡大に向けて露出を強化している。
今年5月14日には、東京・表参道に試着専用店舗を開設。これまでポップアップストアは開催してきたが、実際に商品を見てみたいという消費者が多いことや、ポップアップでは開催期間中に来店できない既存顧客も少なくないため、8月末まで当該店を開く。
在庫を持たない試着店舗とすることでバックスペースや店舗自体の面積も抑えて家賃を圧縮できるなど出店リスクを最小限にした。コロナ禍もあって店頭のスタッフ数も抑えてミニマムな機能を持たせた。ライブ配信に出演する一部のライバーも店頭に立ち、服をキレイに着こなすコツなども伝える。
9月以降については、試着店舗の利用状況も検証し、試着店舗に限らず店舗展開を検討していくという。
一方、作業着スーツ発祥のボーダレスウェアブランド「WWS(ダブリューダブリューエス)」を手がけるオアシススタイルウェアもコロナ禍で好業績を続けている。同社は自社ECが主力販路で、ECで商品を売るための戦略のひとつにタッチポイントとしてのリアル店舗がある。
商品の機能性を実際に体感したいという消費者の声や、潜在顧客とのタッチポイントの場として都内や兵庫、福岡に直営店を設けてきたほか、期間限定店も出店してきたが、敷地面積によって限られた商品数した展開できず、顧客が要望する商品が用意できないこともあったという。
そこで、4月28日には初のショールームストアを東京・新宿三丁目に開設。現在展開している全商品、全サイズ、全カラーをそろえる。ショールーム型の販売体制を採用することで店頭の過剰な在庫保持を避けるとともに、空いたスペースを活用して写真撮影やライブ動画を配信するスタジオ機能や、法人との商談スペースなどマルチに活用できる空間として運営する。また、新商品を発売前に見られるようにすることで付加価値を高める。
なお、「WWS」は主力のジャケットやパンツの素材が独自開発した1種類の生地を使用していることもあり、サイズ感が分かればECでも購入しやすいという特徴もある。
オイシックス・ラ・大地
新サービスは「サクッとOisix」で、昨年4月に開始。品ぞろえは450~500アイテムで、通常の10分の1に厳選した。調理時間が短いアイテムを中心に絞り込み、人気のミールキット「KitOisix」のほか、カット済み野菜をはじめ、電子レンジや湯せんで加熱調理する半調理済みのおかずを展開している。
通販サイトもシンプルにし商品を選びやすくした。常時4500アイテムの品ぞろえがあったため、「商品が多く選ぶのに時間がかかる」、「買い物時間をもっと短くしたい」などの声が一部の顧客からあがっていたという。
コロナ禍で宅配需要が急増したため、昨年4月に配送キャパシティがひっ迫。一時的に新規客獲得をストップしなければならなかった。少ない品ぞろえに絞ることで、物流拠点内の稼働スペースや作業効率の見直しを実施した。
配送キャパシティの増強後は、新規客の獲得を段階的に再開。ウェブ広告以外のチャネル開拓を目指した新たな試みとして、関西や東海において地域限定でテレビCMを投下した。幅広いターゲットに向けて認知拡大を狙ったもので、「想定のコストで獲得できることを確認した」(髙島宏平社長)と評価する。ネット広告と比べると1人あたりの獲得コストは高いものの、効果が上がれば投資できる可能性が見えたという。