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2017.10.26

楽天の衣料品事業 SNS使いブランド再構築、画像認識活用し海外販売も強化

 楽天がファッション事業のブランド力強化に乗り出した。同社の仮想モール「楽天市場」には、ファッション関連では約1万4000店が出店しているほか、委託販売モデルとして、約1500ブランドが参加する「楽天ブランドアベニュー(RBA)」も展開している。競合他社が攻勢をかける中で、インフルエンサー活用やコンテンツ拡充、ナビゲーション進化、海外販売強化という4つの柱を掲げて事業全体を底上げする狙いだ。
 
 規模が右肩下がりの国内ファッション市場だが、ネット販売の占める割合は毎年拡大しており、昨年には1割に達した。楽天市場においても、ファッションは主力商材。流通総額のうち、約4分の1を占める。
 
 ただ、ファッションのネット販売において、メディアで取り上げられることが多いのは、圧倒的にスタートトゥデイが運営する「ゾゾタウン」。幅広い層からの支持を受け、取扱高を大きく伸ばしている。また、クルーズの「ショップリスト」も、若年層に浸透している。
 
 調査会社のデータでは、楽天におけるファッション関連の流通額は、ゾゾタウンにおける取扱高(2017年3月期は約2120億円)の2倍以上とされる。ただ、楽天でファッション事業を統括する、牛嶋信滋執行役員ECカンパニー衣料品事業部は「ユーザーへの認知度という点でいえば、ゾゾは衣料品に特化しているということもあり、注目を浴びているのは事実だろう」と認知度が遅れを取っていることを認める。
 

 こうした中で、同社ではブランディング戦略を進めている。同社全体でも、スペインの名門サッカーチーム・FCバルセロナとのスポンサー契約や、NBAとの協業などで、楽天ブランドそのものの認知向上を進めているが、衣料品においても「サイトの作り方やデザインの方法、見せ方を変えていくだけではなく、『楽天のファッションは面白い』ということを、SNSなどあらゆるメディアで情報を提供していく」(牛嶋信滋執行役員)とする。
 
 購買のきっかけとして重要性が高まっている、インスタグラムなどのソーシャルメディアはもちろんのこと、雑誌などの従来型メディアも活用。10月には、講談社の衣料品雑誌「ヴィヴィ」と組み、スマートフォン専用のデジタル雑誌「ビーヴィヴィ」を創刊しているが、これも「認知の構造そのものを作り直す」(同)ための一環だ。
 
 牛嶋執行役員は「女性の場合、学生のうちはお買い得で独自性のあるPBを買うことが多い一方、働くようになるとカジュアルな衣料品ブランドを好む傾向がある」と分析する。ゾゾタウンで扱っているような、カジュアルな衣料品ブランドはRBAで、さらにプライベートブランド(PB)は楽天市場に出店する各店舗で扱っているという多様性をアピールする。
 
 現在、衣料品事業では、インフルエンサー活用や外部コンテンツ拡充、ナビゲーション進化、海外販売強化という4つの柱を掲げている。まずインフルエンサーを使ったマーケティングについては、ファションジャンルの出店店舗が、インスタグラムのユーザーに商品を提供し、コーディネートをインスタグラムに投稿してもらう取り組みを実施。取り組みに参加する店舗は個別にハッシュタグを用意しており、希望者はアンバサダーになりたい店舗のハッシュタグを付加し、コーディネートをインスタグラムに投稿。店舗がエントリーにあったユーザーの中から、自社商品のイメージに合致する人をアンバサダーとして選ぶという仕組み。楽天が仲介することで、影響力の強いインスタグラム利用者と店舗を結びつけ、販促につなげる狙いだ。
 
 参加店舗は70店舗、アンバサダーは255名。店舗は参加することで認知度がアップするほか、フォロワー増加につながる効果もあるという。255名のフォロワー数は合わせて480万人となっており、牛嶋執行役員は「総フォロワー数が1000万人を超えると大きなパワーになるのではないか」とインスタグラムを使ったブランディングに期待する。
 
 外部コンテンツの拡充については、メディアとのコラボを推進。これまでも、2015年には幻冬舎のファッション誌「GINGER」と組み、スマートフォン向け無料ウェブ雑誌を創刊。10月から始めたビーヴィヴィについては、ヴィヴィが編集した楽天市場の商品をコンテンツとともに閲覧することができるほか、気に入った商品はビーヴィヴィの画面から購入することができる。一定の発信力を持つ雑誌とコラボし、楽天市場の情報をユーザーに届けることで、「楽天ファッション」の認知拡大につなげる。
 
 楽天市場における「買いやすさ」改善に向けたナビゲーション強化も続けている。「楽天ファッションスクエア」は、好みにあわせて商品が探せる専用ページで、例えば「アラウンド40・50」「ビジネススタイル」「韓国ファッション」などテーマに沿った売り場を設け、楽天市場のファッションアイテムを抜粋し掲載している。
 
 また、機能面については「イメージサーチ」のテストを開始。これは、スマホブラウザベースのサイトにおいて、レディース・メンズファッションに限定しトライアル中だ。仕組みとしては、検索画面にカメラボタンがあり、押すとカメラが自動的に立ち上がる。そこで雑誌に載ったアイテムの写真を撮影すると、楽天市場で扱うファッションアイテムの中から、良く似た商品が表示される。カラーや値段などでの絞り込みも可能だ。今後はスマホアプリやパソコンでも使えるようにするほか、ハロウィーンなど大型企画や、衣料品ジャンルの各特集、キュレーション記事など搭載ページを拡大、さらには靴やバッグ、ジュエリーやアクセサリーなどにも導入する予定。
 
 「これまでキーワードやジャンルから探していたものが、イメージで自分の好みにあった商品が見つけられる」(牛嶋執行役員)。さらに、スタイリングの写真から商品を探せるようにする。現在はトップスに反応して商品を検索しているが、スタイリングの場合、全身のアイテムに反応する必要がある。ボトムスやバッグ、靴など各アイテムを自動的に表示する機能を開発している。「より簡単にスタイリングから商品を探せるようにすることで、購入につなげていきたい」(同)。同機能はまずRBAからスタートし、楽天市場にも機能を展開していく。
 
 
 4つ目は海外販売だ。楽天の海外向け流通額は、過去5年で7倍に成長。中国や香港、台湾、アメリカ、韓国が主な出荷先となっている。楽天市場の海外版となる「楽天グローバルマーケット」のほか、近年は中国や韓国の仮想モールに出店する「海外旗艦店型」を強化している。中国では「京東」や「Kaola」に楽天が出店し、衣料品においては、中国消費者のニーズにあわせて、人気商品をセレクトして販売している。
 
 「人気商品を1円でも安く買える」という「爆買い」的なコンセプトではなく、「楽天らしい商品を届ける」のがコンセプト。楽天市場で人気のあるPB商品を前面に出し、若年女性に人気がある点をアピール、中国の女性に売り込む。実際、楽天市場でランキング上位に入る商品は、中国でも人気があるという。
 
 現在、ファッションジャンルでは約20店舗が参加。Kaola楽天店に「ミニ店舗」を設けており、楽天市場店のコンセプトをそのまま引き継いで開設できるほか、RMS(店舗管理システム)と連携しているため、受注処理も簡単。先行店舗からの評判も良く、12月12日にあるKaolaのセールに向けて、参加店舗を拡大していく。
 
 市場が縮小する中で、好調な推移を続ける楽天市場のファッション事業。RBAに関しては、「楽天スーパーポイント」が使えたり、「楽天スーパーセール」など楽天主催の大型セール時に、買い回りの対象(複数店舗で購入するとポイントの倍率アップ)になる点などが他社への優位性となる。ただ、現状のRBAはブランド力の点でゾゾタウンに劣っているのは否めず、さらにマーケットプレイスモデルもショップリストや、ファッション強化を進めるアマゾンなどライバルは多い。
 
 牛嶋執行役員も指摘するように、一層のブランド力・認知向上が課題だが、SNSを使った取り組みは一部店舗に限定される。協力するインスタグラマーの拡大や、スマホ向け雑誌の閲覧数拡大などにより、ジャンル全体を底上げするだけのムーブメントを起こせるかがカギになりそうだ。
 
 
牛嶋信滋執行役員に聞く
 
「メリットを認知してもらう」
〝楽天のファッション面白い〟と発信
 
  
 

 牛嶋信滋執行役員に戦略を聞いた。(聞き手は本紙記者・神崎郁夫、川西智之)
 
 ファッション市場の規模は右肩下がりだ。楽天のファッション事業はどうか。
 
 「確かに市場は縮小しているが、ネット販売については伸びており、当社のファッション事業も好調だ。流通高について、具体的な数字は言えないが、楽天市場の流通額のうち4分の1を占める主力事業となっている」
 
 ただ、ファッションのネット販売においては、スタートトゥデイの「ゾゾタウン」の注目度が高い。どう戦う。
 
 「調査会社のデータだが、楽天市場における衣料品関連の流通高は、ゾゾタウンにおける取扱高の2倍以上とされる。ただ、ユーザーへの認知度という点でいえば、ゾゾタウンは衣料品に特化しているということもあり、ユーザーから注目を浴びているのは事実。そのためブランディングをやり直したいと思っている。サイトの作り方やデザインの仕方、見せ方を変えていくのと同時に、『楽天のファッションは面白い』『いいものがある』ということを、SNSをはじめ、あらゆるメディアを使って情報を発信していきたい。その一つがソーシャルメディアを使ったマーケティングであり、デジタルメディアとのコラボレーションだ。ユーザーへの『認知』を作り直したいと思う」
 
 「ゾゾで扱っているブランドは楽天ブランドアベニュー(RBA)で扱っているし、ゾゾにはないプライベートブランドも楽天市場にはたくさんある。価格の安い並行輸入のブランドもある。こうした点をより世の中に認知してもらうようにしないといけない」
 
 RBAについては、特に競争が激しいジャンルを扱っている。
 
 「RBAは、楽天市場の1店舗であり、単体で戦うつもりはない。以前はスタイライフという会社があり、サイトも展開していたわけだが、現在はRBAとして取り込み、1店舗として『カジュアルなブランドも展開している』という価値をユーザーに感じてもらっているわけだ。RBAと市場の店舗を分けているわけではなく、ユーザーも両者を買い回りしている。ブランド数はゾゾに劣っているが、増やすための努力をしている」
 
 楽天市場の有名店舗がゾゾに出店するケースも増えている。
 
 「ある意味で良いことだと思っている。というのも、それで店舗のブランド力が高まってくれれば、楽天市場のユーザーはゾゾではなく楽天市場店で買ってくれるはずだ。なぜなら、楽天市場はファッションだけではなく、さまざまな商品を扱っているから。『楽天スーパーセール』のような大型セールの際、これまでゾゾでファッションアイテムを買っていたユーザーが、『楽天市場にも同じ商品がある』と再発見してくれることを期待している。楽天グループにはトラベルやゴルフなど多彩なサービスがある。『楽天で買う方が楽しい』『ポイントも貯まる』とメリットを理解してもらえれば、囲い込めるのではないか」
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