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2019.06.28
【2020春夏パリメンズ ハイライト】エレガンス復権後のパリメンズ 強まるクラッシック回帰、モダニティ、ジェンダーレス
2019年6月18日から23日までの6日間、パリで209年春夏メンズコレクションが開催された。今季は若いデザイナーの登場が皆無で、「ランバン」以外は新しいアーティスティック・ディレクターを迎えてのショーがほとんど無く、やや寂しいシーズンとなった。話題となったのが、「ケンゾー」で約8年に渡りアーティスティック・ディレクターを務め、様々なアイコニックアイテムを生み出してきたキャロル・リムとウンベルト・レオンによる最後のコレクション。最終日のショーでは、寂しさと同時に大きな感動を呼んだ。それぞれのブランドのコレクションに目を向けてみると、前シーズンからのアイデアにマイナーチェンジを施すケースと、大幅な転換を見せる場合とに分かれたが、大きな流れとしてはカジュアル&スポーティなブランドでも、テーラードなどのクラシック回帰の要素を加えているのが特徴的だった。
ウンベルト&キャロルによる最後の「ケンゾー」ショー、商業主義へのアンチテーゼを訴えた「ラフシモンズ」
◆ケンゾー(KENZO)
「ケンゾー」におけるキャロル・リムとウンベルト・レオンによる最後のコレクションは、アコーホテルのアリーナを約7000人の招待客が埋めて行われた。これまでに環境、特に海を意識したコレクションを発表してきた彼らが、最後のコレクションで選んだテーマが“日本の海女”。モデルが被っているスカーフは、海女からインスパイアされたもの。海女を人魚ととらえたプリントのセットアップや、絣(かすり)風のプリントブルゾン、漁用の網を思わせるニットなど、海の要素を散りばめた。メンズの発表後は、ビヨンセの妹、ソランジュ・ノウルズの歌唱を挟んでレディースコレクションを発表。最後にリムとレオンが登場すると、子供たちや家族が駆け寄り、感動的なフィナーレとなった。
◆ラフシモンズ(RAF SIMONS)
先頃カルバン・クラインを離れた「ラフシモンズ」も、今シーズン話題となったデザイナーの一人。ショー会場はパリ郊外のノワジー・ル・グラン市にある大学内の体育館。アメリカを意識した曲やアナウンスが流れる中、星条旗をアーティスティックにあしらったプリントTシャツや、スマイルマークを逆さまにしてカットしたブーツなど、アメリカを象徴的にあしらったアイテムで構成。RS-LAB(ラフ・シモンズ実験室)のタグの付いた白衣風のコートも印象的。実験的な姿勢を崩さないとする強い意志を感じさせ、今回の一件について皮肉を込めていたようだった。
◆アンダーカバー(UNDERCOVER)
高橋盾による「アンダーカバー」は、「アンダーカバー」らしさを残しながらも、これまでのイメージを、良い意味で覆す内容で注目を集めた。今シーズンの多くのルックが、テーラードでまとめられ、非常にエレガントな印象。しかし、プリーツで蜘蛛の巣を表現したり、ドラキュラのシルエットをアップリケしたり。「アンダーカバー」らしいモチーフのセンスは健在。中盤からシンディ・シャーマンによる写真作品をコンピュータジャカードやアップリケで表現したシャツやブルゾン、ジャケットなどが多数登場し、見る者を圧倒。アンダーカバー流のエレガンスを見事に描いて見せていた。
「エルメス」「ディオール」「セリーヌ」「ドリス ヴァン ノッテン」・・・トップメゾンが究める世界観とは
◆エルメス(HERMÈS)
ヴェロニク・ニシャニアンによる「エルメス」は、ゴブラン地区に位置するモビリエ・ナショナルでショーを開催。“軽やかさ”をキーワードに、春夏らしいカラーパレットのストライプやチェックを用いた清涼感を放つアイテムと、エルメスらしいレザーなど異素材をレイヤードすることで、美しいコントラストを見せている。パンツもワイドパンツが中心で、リゾートを思わせるリラックスした雰囲気に合ったものが選ばれた。特に目を引いたのが、最後に登場したスカーフプリントのシルクジャケットやシャツ。前両身頃、背面、両袖、全て違うモチーフで構成され、オーバーダイのタイプも見られた。
◆ディオール(Dior)
キム・ジョーンズによる「ディオール」は、アラブ世界研究所で最新コレクションを発表。今季は、考古学をモチーフに作品を発表するアーティスト、ダニエル・アーシャムとのコラボレーションという形を取り、構想に1年を費やしたという。サテンのショールをあしらった、美しいテーラードで幕開け。トワル・ドゥ・ジュイ風のモチーフを京都の職人が手描きしたジャンプスーツや、グラデーションの染を施したプリーツをあしらったブルゾン、アーシャムの作品を思わせる、ひび割れたようなニットプルなど、目を引くアイテムばかり。ジョン・ガリアーノ時代の新聞モチーフのアイテムやサドルバッグも、グラデーションを施してアーシャム風に。「ディオール」の象徴的な花、スズランを象ったYOONによるアクセサリー、リモワとのコラボレーションバッグ、半透明のスニーカーなど、どこを切り取っても、1つのコンセプトで貫かれ、強い世界観を構築していた。
◆ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)
18区の倉庫スペースを会場にショーを行った「ドリス ヴァン ノッテン」は、メンズウェアの原型に変化を加えて遊ぶ、というコンセプトのもと、ビジネスウェア、カントリーウェスタンなどのスタイルをマッシュアップ。「ケレル」や「蜘蛛女のキス」など、映画からもインスパイアされ、特にケネス・アンガー監督作とされる「ピンク・ナルシサス」からは、サイケデリックな色合いを引き出し、華やかさを加えている。また蜷川実花が2017年に発表したアートジン「NEW NOIR 2」からセレクトされた作品もプリントに使用。オーソドックスなメンズアイテムに花があしらわれ、男性的な強さの中に女性性を秘めたコレクションとなっていた。
◆セリーヌ(CELINE)
モダニティ、眩いカラーバレット、レトロ感・・・エレガンス復権後のパリに見るキーワード
◆アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)
ジョニー・ヨハンソンによる「アクネ ストゥディオズ」は、フランス公共ラジオ局のホールにてショーを開催。今季は美術学生の装いをイメージし、適度なあか抜けなさとレトロ感を巧みに取り込み、これまで通りのクラフトの要素を散りばめながら、モダンで新鮮なスタイルを提案している。
反射板のようなアセテート素材をはめ込んだジャケットや、半透明のスニーカーで透け感を出し、紙の芯に糸を巻き付けたものを編んだ素材によるコートや、カットリボンを編んだシャツなどで、アクネらしい創意工夫を演出。しかし、着る者を選ぶようなどぎつさは無く、絶妙なバランス感覚を見せていた。
◆ベルルッティ(Berluti)
クリス・ヴァン・アッシュがアーティスティック・ディレクターに就任して2回目となるコレクションは、リュクサンブール公園内の特設テントで開催された。先シーズンでも色鮮やかなスーツが見られたが、今季は更に春夏らしい眩い限りのカラーパレットを見せている。レディースも同時に発表され、アイテムによってはフェザーの刺繍が施されているが、シルエットとしてはレディースもメンズも大きな差異が無いのが特徴。カリグラフィをエンボスで表現し、シューズと同じくグラデーションを描くパティーヌの技法を用いたレザーのスーツや、ロゴを配したモーターサイクルパンツは今後定番化しそうだ。
◆ダンヒル(DUNHILL)
マーク・ウェストンによる「ダンヒル」は、パリ装飾美術館で最新コレクションを発表。クラシシズムの破壊を目指したというが、当然ながら単純な破壊行為ではなく、オーバーサイズであってもシルエットの美しさを追求し、「ダンヒル」らしいエレガンスを感じさせた。イエローやカーキの差し色以外はモノクロームで統一し、決してポップなトーンではなかったが、モダンな印象を与えるカッティングと素材使いにより、コレクション全体がフレッシュで若々しいものになっていた。
◆サカイ(sacai)
片方のツバが大きく広がった、ややフェミニンな印象のハットを合わせたモデルでスタートした阿部千登勢による「サカイ」。伝統的なメンズ素材を用いながら、ジャケットやシャツを再構築してそれぞれをミックスし、凝ったアイテム・スタイリングを見せた。ジャケットやコート類はゆったりしたシルエットでまとめ、カーキのミリタリーコートはAラインで、レディースとしても着用できそう。ミリタリーに合わせられたトロピカル模様、アロハシャツに見られたパイナップル、タイダイのチェックなど、それぞれのルックにモチーフを加えることで遊びの妙味を見せた。
個性派デザイナーが魅せる新ルックの数々
◆トム ブラウン(THOM BROWNE)
ボ・ザール(国立高等美術学校)のホールでショーを開催した「トム ブラウン」は、これまで通りのアーティスティックな手法で招待客を魅了した。会場に入ると、ボール型のシューズを履き、スーツ型のコートを着せられたモデルたちがランウェイに並び、ショーが開始するとバレエダンサーたちがコートを脱がし、シアサッカー素材のスーツが表れた。そして、シアサッカー製の摩訶不思議なスーツが次々と登場。Erasureの「A Little Respect」が流れて感動的なフィナーレを迎えた。
◆ファセッタズム(FACETASM)
落合宏理による「ファセッタズム」は、北マレ地区のギャラリーでショーを開催。これまで通りのストリートスタイルのアイテムにフリンジやレースをあしらい、装飾的な仕上がり。男女のモデルに全く同じ白のウィッグを被せ、ジェンダーレスな雰囲気でショーを見せていたことも印象的。今季は特にリーバイスとのコラボレーションによる501、トラッカージャケット、そしてウエスタンシャツをミックスして発表した。
◆タカヒロミヤシタザソロイスト.(TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.)
パリ医大のホールを舞台に開催した、宮下貴裕による「タカヒロミヤシタザソロイスト.」のショー。ジョッキースタイルで幕開けし、アクセサリーやスカートなどによりフェミニンな印象にまとめている。それぞれのアイテムは、凝ったディテールにより装飾的。後半にはミッキーマウスのプロフィールをアップリケしたジャケットや、ミッキーマウス・モチーフのジャカード素材をあしらったジャケットなどが登場。ミッキーマウスは唐突な印象を与えるも、コレクション全体に不思議なフィット感を与えていた。
◆ヨシオ クボ(yoshiokubo)
撮影:Shohei Kondo
木更津の海岸で撮影したというモデルのウォーキング映像をVRで視聴し、マネキンに着せられている服を実際に眺める、という新しい演出で見せた「ヨシオ クボ」。母親が風呂敷代わりに使用していた大漁旗が、今シーズンの大きなインスピレーション源となっている。漁師が着用するつなぎや、鹿児島の専門業者にオーダーしたろうけつ染めの大漁旗ストール、海女のスカーフからイメージしたヘッドピース、風呂敷から着想を得た結び目のブルゾン、そして会場のセーヌ河岸の船、全てに繋がりを持たせ、一つの強い世界観を提示するプレゼンテーションとなっていた。
◆ジェイエムウエストン(J.M. WESTON)
フランス共和国親衛隊の宿舎を舞台に、プレゼンテーションを行ったのは、オリヴィエ・サイアールがディレクションする「J.M.ウェストン」。新作のブーツを履いた騎馬隊のパフォーマンスに続き、太鼓隊の演技を披露。そしてこの日のスペシャルゲストであるシーラ・Eを迎えて、パーカッション、ドラミングをレクチャー。太鼓隊とのコラボレーションで見所を作り、会場は大いに沸いた。
強まるジェンダーレス
今季目立っていたのが、テーラードを前面に据えるブランドが多かったことである。しかし、これまでの男性性を強調するような手法とは違っていた。ファッションにおけるジェンダーレスが意識されるようになってから随分と経つが、今季は特にそれを強く感じさせるシーズンだった。これまで男女の境目を意識せずに創作をしてきたJWアンダーソンによるロエベも、今回はあえて男女の違いを意識させないテーラードを主軸にしたという。メンズとレディースの両方を発表するブランドは、ウィッグでジェンダーの違い目立たなくさせたり、女性的な男性モデルと男性的な女性モデルを交えたり。「男性らしさとは?女性らしさとは?」と考えさせられるも、今回のメンズコレクションを見終えて、それにこだわるのは然程意味のないことである、と思わされたのだった。このジェンダーレスの傾向は、今後ますます強まりそうだ。