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2019.01.29
【2019春夏パリオートクチュール ハイライト】紆余曲折を経て「高級仕立て服」発表の場に回帰
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1月21日から25日までの4日間、パリ市内各所でオートクチュール(高級仕立服)コレクションが開催された。主催するクチュール組合の公式カレンダー上では、30のクチュールメゾンがショーを発表し、前シーズンと比較して4メゾン減少。これは世界的な不況によるものと、昨年11月から続く「黄色いベスト運動」の影響があったと見られている。
前シーズン、敢えてプレタポルテ(高級既製服)のショーを行った「ヴェトモン(VETEMENTS)と「アクネ ストゥディオズ(Acne Studios)」は、数日繰り上げてメンズの会期にショーを開催。クチュール組合よりクレームが付いたためと噂された。また、クチュール組合に登録せずに、独立して活動するクチュリエたちのショーが開催されてはいたが、期待の新星クチュリエの登場はなく、いつになく寂しい会期となった。
スキャパレリ(Schiaparelli)
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ベルトラン・ギヨンによる「スキャパレリ」は、オペラ座ガルニエ宮を会場にショーを発表した。コレクションタイトルは“Dreams of Star’s flowers”。ブランド創始者のクチュリエール、エルザ・スキャパレリへオマージュを捧げながらも、フレッシュでモダンなシルエットのアイテムで構成している。
「スキャパレリ」の記号ともいえる星のパッチワークのミニ丈ドレスにはショートパンツを合わせ、オーストリッチの羽を刺繡したミニ丈ドレスにはウェスタンブーツをコーディネイトし、オートクチュールとしては若々しいスタイリング。全面に羽を刺繡した球体状のドレスやエルザ・スキャパレリのポートレートを刺繡したドレス、ショッキングピンクのアイコンジャケットなど、それぞれが全く違った雰囲気を持つ。
ジャン・ポール・ゴルチエとスキャパレリで顧客担当を務めていたモデルのファリダ・ケルファが、ブラックコートをまとってランウェイを歩くと会場は沸き、最後に妊娠9ヶ月のエリン・オコナーがティアード状のチュールドレスを着用して登場すると拍手喝采となった。
アレクシ マビーユ(ALEXIS MABILLE)
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「アレクシ マビーユ」は、元々は銀行だったエスパス・ヴァンドームで最新コレクションを発表。コレクションタイトルは“Rainbow Splash”。
ピンク、グリーン、イエロー、ターコイズなど、タイトルの如く弾けるような色使いを見せた。多くのアイテムでクラシカルなスタイルを貫いているが、オートクチュールの世界ではほとんど見られないポケットをつけるなど、ディテールにモダンな味付けを施している。
今季、特に目を引いたのが、ケープのような大きなパネルの付いたロングドレス。まとめにくい造形の、難易度の高いアイテムに敢えて挑戦する姿勢を見せていた。カーペットの色も相まって、クリスチャン・ラクロワへのオマージュかと思わせるアイテムも登場。
・「アレクシ マビーユ」2019春夏オートクチュールコレクション
ジョルジオ アルマーニ プリヴェ(GIORGIO ARMANI PRIVÉ )
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18世紀初頭に建立されたエヴルー館でショーを開催した、ジョルジオ・アルマーニによる「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ」。コレクションタイトルは“Lacquer/漆”で、第二次世界大戦前夜を描いた1970年のベルナルド・ベルトルッチ監督作「暗殺の森」での、中国の漆塗といった職人技を取り上げるシーンからインスパイアされている。全体として、アジアからの影響を感じさせるコレクション。
キーカラーはレッドで、ブルー、シルバー、ブラックが妖艶なレッドを引き立てていた。冒頭のデイウェアのシリーズは、密に織られたジャカード素材のスーツが中心。コーディネートされるスパンコール刺繡のスカートやパテントレザーのビュスティエは、微妙に光を反射し、正に漆の艶を感じさせる。エキゾチックレザーの光沢も漆器を想起させ、スパンコール刺繡のドレスとの絶妙な融合を見せる。
ドレスに動きを与えるフリンジも重要な要素となっていた。刺繡を施したクリノリンのケープは独特の造形美を誇る実験的なアイテムで、アルマーニらしい作品の登場に会場は沸く。コレクションは何と86ルックで構成。それぞれが異なる空気感をまとい、そのアイデアの豊かさに招待客は驚き、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。
ゴルチエ パリ(GAULTIER PARIS)
ゴルチエ パリは、本社パーティールームにてショーを開催した。
シャルル・トレネの「ラ・メール」が流れてショーがスタートし、プリーツ素材を用いたアイテムが登場。直後に坂本龍一の「戦場のメリークリスマス」に替わり、その後も日本の歌謡曲や日本語のシャンソンが続き、今季のインスピレーション源が日本であることを確認。
各ルックには、プリーツリボンをあしらったり、プリーツのパネルをベルト部分に配したり、どこかにプリーツの要素を取り入れている。ジャケットやドレスでは、先の尖ったパゴダスリーブが目を引いた。途中アフリカ風のドレスがあったものの、和のテイストが徐々に増え、終盤にはランウェイ正面の白いカーテンに丸い大きな赤のライトが当てられ、日の丸をバックに着物の生地をあしらったドレスが登場。フィナーレでは、80年代の仏映画「Banzai」の挿入曲が流れて、「万歳!万歳!」と鳴り響く中、ゴルチエ本人が走って登場。コレクションはこれまで通り豊富なアイデアに満ちていたが、日本人にとっては気恥ずかしさと一抹の不安を招くコレクションとなった。
ヴィクター&ロルフ(Viktor&Rolf)
「ヴィクター&ロルフ」は、劇場ゲーテ・リリックを会場にショーを開催した。
薄くて繊細なチュールを主素材にした全17点のドレスは、それぞれにスローガンが付き、一体目のドレスには「No Photos Please」。スマートフォンを構える招待客を大いにひるませ、苦笑を誘った。その後も、某大国をイメージさせる鷹のアップリケと「Freedom」の文字が飾られたドレスや、麻の葉のアップリケと「Amsterdam」の文字が入ったドレスなど、ブラックジョーク的なアイテムが登場。やや背筋が凍るようなシニカルで意味深長なスローガンが付いたものも。ポップに見せながらも実は毒々しく、しかし美しく仕立てられた、これまで以上に大振りなドレスで構成されたコレクションとなっていた。
ユイマナカザト(YUIMA NAKAZATO)
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中里唯馬による「ユイマ ナカザト」は、職業博物館所有の建築物の地階のホールを会場に、プレゼンテーション形式で最新コレクションを発表。5分程度の映像を流した後に、中里本人がコレクションのコンセプトなどについて英語で説明。そして会場に展示してある服を披露するという演出。
それぞれの服はパーツごとにリベットで繋がれており、各パーツが傷ついたり磨耗しても、そこだけを取り替えることが可能。長く着用できるという利点がある。会場には新作と共に、
7月に行われるオートクチュール期間中では、宝飾ブランドが足並みを揃えて新作を発表するが、今シーズンは各ブランドが個別に招待客に新作を見せるだけで、その数も少なかった。それは毎年のことではあるにしても、ショーを発表するブランドが減ったこともあり、盛り上がりに欠けていたことは確かである。
また、トレンドとしてまとまった雰囲気があったのか、と問われると返答に困るシーズンだった。ただ、プレタポルテがよりカジュアルに、リアルクローズへ移行する中、オートクチュールは高級仕立服として残っていくのだろうと思わせた。オリヴィエ・ルスタンが、メンズコレクションでメンズとレディースを発表したが、それがリアルクローズ一辺倒。しかし、今回発表したオートクチュール・コレクションでは、これまでのバルマンの作風をより一層強めたものだった。メンズとオートクチュールを通しての象徴的なトピックである。プレタポルテとオートクチュールの両極化は、今後益々進んでいくに違いない。
取材・文 :清水友顕