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2025.10.03
【2026春夏ミラノハイライト2】VUCA時代に広がる自由と開放、そして調和

写真左から「アンテプリマ」「マックスマーラ」「エトロ」「フェラガモ」
2025年9月23日から9月29日に開催された2026春夏ミラノ・ウイメンズ・ファッションウイーク。今シーズンは、クリエイティブ・ディレクターの交代劇により、新体制でのデビューコレクションを発表するブランドが多かった。その一方で、50年間変わることなく確固たるスタイルを築いてきた「モード界の帝王」ジョルジオ・アルマーニが逝去し、これによってファッションの一つの時代が幕を閉じた。
今後の目まぐるしいファッションの変化が予兆される中、どのブランドもこれからの方向性を探っているのが現状で、多くがアーカイブを見直しながら新しいブランド像を提案した。また情報に溢れ、猛スピードで物事が移り変わる現代社会、そして長引く戦争や不況、深刻な社会情勢・・・と何をとっても不確定で不安だらけの現状において、全体的に、自由や開放、そして調和というキーワードが見られた。それは規定概念に捕らわれない着こなしや素材使いで見せる意外性、エアリーでシアー感のある素材による軽さの強調、様々なレイヤードにおけるハーモニーとバランス、そしてカラフルな色使いなどに現れる。また自然に癒しを求めるかのように、花や海洋生物のモチーフも多用されていた。混沌とした現代において、せめてファッションは明るく、軽く、そして自分らしく好きに装う、というのが今のムードなのかもしれない。
さて、ハイライト第2弾では、ミラノの大御所ブランド達のコレクションをレポートする。
マックスマーラ(Max Mara)


「マックスマーラ」は先シーズンに続き、「パラッツォ・デル・ギアッチョ」というイベント会場でショーを開催。テーマは“Rococo Modern(ロココ モダン)”。これまでもしばしば歴史上の先駆的な女性をインスピレーション源としてきた「マックスマーラ」だが、今回はブルボン朝ルイ15世の愛妾として 宮廷で実権を振るい、文化や芸術も庇護したポンパドゥール夫人にスポットライトを当てた。
“Rococo”はフランス語の“rocaille(岩や貝殻装飾)”に由来し、非対称と自然をモチーフにしているが、ポンパドゥール夫人も愛した、自然界の要素を活かしたロマンティックなディテールがコレクションに投影される。
「マックスマーラ」らしいトレンチコートやペンシルスカートの肩やウエスト部分にはガーゼで巻貝のようならせん状の装飾が施され、オーガンザのスカートは花弁のようなカット&フォールドピースで構成されている。ロココ時代の淡いパステル調を彷彿させるベージュやオフホワイト、グレージュ、セージグリーンなどの色調の中に、ジャケットの合わせ部分やドレスのベルト、露出したウエスト部分などの各所に施されたブラックのエラスティックベルトがモダンな要素を加えている。
テーラードジャケットやフラワーモチーフのドレスにチュールを重ねて、優しく立体的な雰囲気を演出したアイテムも。遊び心や軽さの中に優雅さと力強さを差し込み、上品かつパワフルに生きたポンパドゥール夫人のスタイルを、「マックスマーラ」らしく現代女性のためにモダンに昇華した。
エトロ(ETRO)


今シーズンは「テウリエ軍事学校」にて、ラ・ニーニャというイタリア人女性歌手のライブパフォーマンスと共にショーを行った「エトロ」。ナポリ方言で歌うラ・ニーニャの民族的かつ儀式的なリズムとコレクションのノマドでフォークロアな雰囲気がマッチする。
全体的に強烈な原色を多用し、ブロケードやメタリックジャカード、スパンコールなどで彩られる。そして「エトロ」らしいペイズリーを始め、フラワー、ボタニカルなどの様々なプリントが繰り広げられる。そんな中にレースやエアリー素材などの透け感のある素材も混じる。
フリンジやフリルが各所に使われ、動きのあるフォルムを生み出す。フリンジはレザーのバイカージャケットやスエードコートから、スカート、ショーツ、バッグに至るまで各所に。そしてフリルはロングスカートやドレスの裾に大胆に施されていたり、トップスやスカートがレイヤードフリルになっていたり。そんな中にトラックジャケットやニットベスト、デニムなどスポーティな要素を差し込んだルックも。
液体金属の渦巻きのようなジュエリー、レーザーカットレザーのつば広ハットやビーズのスカーフなどアクセサリーも強烈だ。
これまでもマルコ・デ・ヴィンチェンツォはブランドのアーカイブからのインスピレーションを大事にしてきてはいたが、今回のコレクションではこれまでにはないほどに往年の「エトロ」のボヘミアンな雰囲気へ回帰したようだった。そしてそれはより自由で開放的、そしてエネルギッシュに表現されている。
スポーツマックス(SPORTMAX)


フリゴリフェリ・ミラネージという、旧製氷工場兼冷蔵倉庫の建物でショーを行った「スポーツマックス」。この会場の修復ラボに長年置かれていた一本のアンティーク望遠鏡が今回のコレクションのスタートとなった。望遠鏡が象徴する「外に目を向ける本能」についての考察が、広い視野の必要性、喜びや軽やかさへの希求、そして静かな逃避というキーワードとしてコレクションにつながっている。
テーラードジャケットやトレンチなどの建築的なシルエットに、カッティングやスリットを施すことで、余白や脱拘束感を生み、素肌をのぞかせることでセンシュアルなニュアンスを添える。ハードなレザージャケットやクラシックなテーラードアイテムに、軽さを強調するオーガンザなどのシアー感のあるボトムスを合わせたり、ジャケットやトラウザーなど本来はかっちりしたアイテムをエアリーな素材で作っているものもある。
フラワーモチーフが各所にあしらわれ、透明な素材のレイヤーを重ねることで動きに合わせて揺らめく視覚効果のあるコーディネートも。フラワープリントはアームカバーやバッグ、シューズなどにも多数登場し、バッグにはレザーで花モチーフの装飾がなされた。
実用性や機能性に、優しくロマンティックな美しさを兼ね備えた、現代的な女性像を表現した。
トッズ(TODS)


今シーズンも「PAC(現代美術館)」にてショーを行った「トッズ」。会場の入り口には職人たちがずらりと並んで作業するデモンストレーションが繰り広げられている。
今シーズンのテーマは“リーヴ ユア マーク”。「アイコンシューズ『ゴンミーニ』のシグネチャーとなる要素をコレクション全体のテーマに据え、卓越したクオリティを物語る確かな印として、あらゆるウェアやアクセサリーにその痕跡を残す」というもの。
だが、実際のところ、ウェアのコレクションで最も目を引くのは卓越したレザー使いだ。レザーのインレイによってストライプを作り、大判のスカーフを巻き付けたように後ろで結ぶセットアップや、薄いレザーで細いストライプやパイピングを施したシャツやコート、高温のオーブンで加工することで独特のシワ感をだしたスエードコートなど、卓越したレザーの仕上げが繰り広げられる。
新作シューズのステッチと同様の装飾がなされたレザージャケットや、内側の布帛の部分をチラ見せしてレイヤードのように見えるレザードレスやスカートなど、遊び心のきいたアイテムも登場する。そして、ナイロンパーカのようなミニドレスやテーラードジャケットにナイロントップスを合わせたスポーティなルックも入れ込んだ。
小物類では、太めのステッチを施したミュールタイプのローファーやペブルの形の穴をモチーフにしたオープントゥの「ゴンミーニ」、ダブルレイヤーや繊細なインレイ細工のバージョンの「ディーアイ バッグ フォリオ」、太めのステッチが施された「ウェーブ バッグ」などが登場した。
フェラガモ(Ferragamo)


今シーズンは自社グループが経営する「ポートレートミラノホテル」の中庭にてショーを行った「フェラガモ」。マクシミリアン・デイヴィスがしばしばインスピレーションソースとする、「フェラガモ」創業当時の1920年代にフォーカスした。今シーズンは、当時活躍したサイレント映画のスター、ローラ・トッドの1925年の写真に着目。それは「フェラガモ」の顧客だった彼女が頭の先からつま先までレオパード柄で装っているもので、そこからジャズ・エイジにおける「アフリカーナ」ムーブメントを象徴するエキゾチックなプリントや素材への探求をスタートさせた。レオパード柄に加え、コウイカの柄をモチーフにしたプリントが各所に使われている。
禁酒時代のスピークイージーバーで装っていたようなレトロ感あふれるビッグシェイプのメンズスーツから、レースをあしらったスリップドレス、ドロップウエストや低めのバックラインのドレスなど当時を象徴するようなアイテムが揃う。
同様にフリンジ使いも各所に効かせて躍動感をプラスする。タキシードのウエストに巻くスカーフサッシュや、パッチワークのチュニックドレスのパネルとしてネクタイが使われていたり、スエードやパテントレザーのドレスを始め各所に使われている留め具やプリントにガンチーニのモチーフが使われるなど、ディテールに遊び心が漂う。
シューズには彫刻的な「S」ヒールのパンプスや、「キモ」の進化形となるケージ状のレザーパンプスなど、アーカイブから引用して進化させたモデルが揃った。バッグはアイコンの「ハグ」が、パテントレザーや編み込みレザー、型押しクロコ、ヌバックスエードといった多彩な素材で登場した。
「この時代、女性たちは新しい女性像を創造していました。それは自由を謳歌することであり、自らを取り戻す行為でもありました。人々が自分たちのための空間を作り、社会規範に反抗していた時代でした」とマクシミリアン・デイヴィスは言う。狂騒の時代と呼ばれた20年代を、別の意味でカオスな現代に重ねたかのように、自由と開放のメッセージをワードローブに落とし込んだ。
エルマンノ シェルヴィーノ(Ermanno Scervino)


「エルマンノ シェルヴィーノ」は「パラッツォ・デル・ギアッチョ」というイベント会場でショーを開催。今シーズンは、ドミニク・サンダやヴェルーシュカのような存在感のある女性像をイメージソースに、光の中で軽やかに佇む多様な女性の姿を表現した。
まばゆい光とくっきりとした影が織りなすコントラストを、レースやクロシェのような透け感のある素材を使用し、カットアウトやコード刺繍、クリスタルなどのディテールで、輝きや流れるような動きを出している。
また「アイリスペタル」という伝統的な重ね技法を施した、立体的な形を構築するハリ感のあるシフォンを使ったロング丈やショート丈のテーラードスーツ、ダブルブレストやサファリジャケット、トレンチコートなど、クラシックにひねりを加えたスタイルも登場。軽く繊細なナッパレザーには不規則なプリーツ加工を施して動きを出した。サテンのネグリジェにクロシェ編みのカーディガン、レースのドレスに、タッセル付きのスエードジャケットといったコントラストのきいたレイヤードも目を引く。
アナカプリのリゾートと都市生活の両極を描いたコレクションでは、カラーパレットもブラックからサンド、チョーク色から、ライトブルー、オレンジへと移り変わる。「エルマンノ シェルヴィーノ」らしいエレガンスはそのままに、いつもよりも実用的で日常的に着こなせるアイテムが揃った。
アンテプリマ(ANTEPRIMA)


「テウリエ軍事学校」にてコレクションを発表した「アンテプリマ」。今シーズンは日本人コンテンポラリーアーティスト、岩崎貴宏の世界観からのインスピレーション。会場にも岩崎の作品からの連想で、工事現場のような鉄塔が組まれ、水たまりのある砂利道がランウェイになっている。「壊滅と再生を経験した街」である自身の故郷、広島を背景に、儚さと再生の意識を内包した作品を制作してきた岩崎の視点を通じ、“儚さが強さへ。朽ちるものから、永遠の美を生む”というコンセプトでコレクションを繰り広げた。
岩崎のミニチュア塔や寺院の作品からインスパイアされた、鉄塔を描いたシアートップスや幾何学模様のような繊細な縫い目があしらわれたドレスが登場。透け感のある素材と建築的な構造、異素材の組み合わせや色の切り替えなどの、レイヤードやミックスにより、現代的で芸術的なスタイルを生み出す。またリサイクル繊維、再生ナイロン、ポリエステルの使用、そしてゼロウェイスト技術を駆使する職人とのコラボレーションが行われており、岩崎の哲学である「再生と再解釈」に共鳴する。
ショーのフィナーレには荻野いづみとともに岩崎孝弘も登場。このコレクションに多大なる影響を与えたアーティストを称えていた。
ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)


Courtesy of BRUNELLO CUCINELLI
今シーズンもミラノショールーム「カーザクチネリ」にて展示会を開催した「ブルネロ クチネリ」。今シーズンは“ELEMENTS RESONANCE(要素の共鳴)”というテーマを掲げ、存在の根源となる4元素=大地、空気、水、火を基調としつつ、そこにブランドの持つルーツを絡め併せながら、共鳴し調和するコレクションを繰り広げた。
まず大地を表すのは、ブランドの本拠地、ウンブリアの自然にインスパイアされた、サンド、エクリュ、ホワイトクレートなどのニュートラルカラー。また木の皮をイメージしたヘリンボーンの装飾も各所に見られる。
次に空気を表すのは、エアリー感のあるネット編みのニットやシアー感のあるレースやガーゼ、オーガンザを使ったブラウスやスカートなど、軽やかでクリーンなアイテム。
そして水を表すのは、魚の鱗のように生地を重ねたドレスや海底の貝殻が折り重なったようなドレス。スパンコールとルーレックスでキラキラ輝く、手作業で66時間かけて作られたものも登場。
最後に火を表すのは、レンガ色やバーガンディの色使い。自然の持つ美しさにこだわり、「ブルネロ クチネリ」らしいクラフツマンシップを武器に、マスキュリン&フェミニン、スポーツ&シック、フォーマル&インフォーマル、ソフトとハードなどの異なるエッセンスを組み合わせて表現した。
ヘルノ(HERNO)


Courtesy of HERNO
ミラノショールームにて展示会を行った「ヘルノ」。今シーズンは母と娘が2世代で共有できるようなワードローブを提案した。シティウェアからカジュアルまで幅広く揃え、着る人やコーディネートの仕方によって表情を変えるバリエーション豊富なコレクションで、複数の女性像を表現する。
吸湿性の高いトロピカルウール(サマーウール)のジャケットやコート、リネンに薄い綿を入れたパイピングのコート、メッシュ使いの夏らしいコートなど、「ヘルノ」が得意とするアウターから、裏側のパイピングを折り返してみせるディテールのトラウザー、ボタニカルプリントが施されたバレルパンツ、デニムキュロットとジャケットのセットアップなど、カジュアルで若々しいアイテムまで様々に揃う。
母が昔着ていた服を娘が拝借したり、自分ではなかなか買わないような、娘の持っている最新コレクションに母親がちょっと挑戦してみたり・・・そんな要求をかなえてくれる、時や年齢を問わず着る機会に応じて必要とされる服。ワンシーズンで終わるのではなく、タイムレスで上質なアイテムを生み出し続けている「ヘルノ」だからこそできる提案だ。
取材・文:田中美貴
画像:各ブランド提供
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田中 美貴 大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。apparel-web.comでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。 |